表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
1.5章
57/80

ネリーのテクテク冒険記

1.5章では1章と2章の間で起こった出来事を語ります。

「ツヅル! 自分も連れて行って!」

「だめだ」


 宿屋のエントランスにて。ネリーの懇願を額に汗を浮かべているツヅルは食い気味に切り捨てます。

 夏になりました。溶けるようにも、茹でられているかのようにも思えるほどの蒸し暑さを満喫できるベストロジア王国の夏を初めて経験したツヅルはもう既に死にかけでした。

 宿屋「ゼルミー」は床や壁を断熱性のある木材で造っていたので、中は快適です。

 しかし、メアはサラの残した100万レーを魔法薬の研究と武器の作製に全額投資し、ツシータは宵越しの銭は持たないとでも言いたげな生活振りを送っており、夏を過ごすための資金を残しておらず、冒険者という職業が好きなリーフは無駄に張り切っていたことが災いしました。

 ツヅルはそういう少女たちに引きずられてこんな真夏日に討伐依頼を受けることになったのです。


「というか、僕もネリーと一緒にここで涼みたいんだが」

「ダメだ! メアが飢え死にしてもいいのか!?」

「そうよ! ツヅルがいなかったら、このパーティーがまとまらないじゃない」

「……お前らはそれでいいのか?」


 そんな会話を繰り広げながら、ツヅルたち4人は外に向かいました。

 ネリーは8歳なので年齢が足りず、冒険者になれないので、宿屋で一人残されることになったのです。


「はぁ……。全く」


 やれやれ、という手振りと共にネリーはため息を吐きました。これはツヅルがよくやる癖を真似たものです。

 これからどうしようか。ネリーは頭を回転させます。


「シュラさん! どうしたら良いと思う?」


 しかし、何も思いつかなかったので、受付からジッとこちらの様子を眺めていた受付嬢のシュラに聞きました。


(わたくし)、ですか?」


 突然声を掛けられたシュラはその煤竹色の髪を揺らしてもしまうほどに驚いたようでした。

 ネリーは頷きます。


「そうですね……。この時期は霊が還ってくる、なんて噂もあるくらいですから、アルバリ侯爵が自費で造った墓地に墓参りなんてどうでしょうか」


 おお、とネリーはその言葉に感嘆の声をあげました。

 面白そうではありませんでしたが、ネリーにとってはこのまま何もしないでいる方が面白くなかったので、その墓地に行くことに決めました。




「暑いよぉ……!」


 メア力作の革の水筒に入れてある水を一口のんだネリーは項垂れました。いつか、ツヅルに買ってもらったマントを付けています。彼女は何故かいかなる場合でも外出するときにはそれを付けていました。

 現在、彼女は住宅街の大通りを歩いていました。他の通行人も、全身の水が抜けきってしまうかのような汗で身を纏っていました。

 ネリーの黒髪も茶色に見えるほどの日光に辟易としながら、舗装されている石畳を歩いていると、


「あれ、あの子は……」


 茶髪の青年と、


「ん? ナービ、どうしたの?」


 涼しそうな胸と局部以外隠していない過激な革の服を着ている狐の獣人の女性とすれ違いました。


「ちょっと、君」

「なんだ……! 宗教の勧誘は灼熱の太陽をひっくり返してから言ってくれぇ!」


 いよいよ暑さに耐えきれなくなったのか、青年に話し掛けられたネリーはそう叫びました。


「いや、そうじゃない。君、ツヅルという少年を知っている?」


 急にその名が出たので、ネリーは驚いて、青年の方を向きます。

 彼はその反応を見て、知っているのか、と頷きました。


「どうしてだ?」

「黒髪黒目の人間なんてこの街に何人もいないからね。兄妹かな、と思っただけだよ」

「そうか……」


 兄弟ではない、と反論したかったのですが、ネリーは疲れていてそれどころではありませんでした。


「私たちは今から商会に行くんだが付いてくる? 涼しいと思うよ」

「ちょっと、ナービ!」

「まぁまぁ。ツヅルくんの兄妹を見殺しにした、なんてことになったら、この街に居られなくなるからね」

「……いいのか?」


 墓参りという目的はどこに行ったのでしょうか。予想以上の暑さに、ネリーは潤んだ瞳で狐の獣人の女性を見つめました。


「……し、しょうがないわね!」




 折れた獣人の女性、フストと青年、――なんと驚くべきことにギルド長らしい――ナービと共に10分ほど歩くと、件の商会に着きました。

 名はブラーノ商会といい、今回はギルド一階の武器屋で扱う武器の購入のためだそうです。

 様々な品物を乗せた荷馬車の列を通り過ぎ、綺麗に掃除されている1階の受付で部屋の位置を教えてもらい、途中聞こえてくる商談の声に耳を傾けながらも、ネリーたちは3階の特に大きな商談を扱う用の部屋に辿り着きました。

 3階まで来ると、聞こえてくるのは商人同士の商談ではない上品な会話でした。

 時折、あまり良いものとは言い難い布の服を着ているネリーに侮蔑の視線を向けて来たのも気のせいではないでしょう。

 この3階まで来れるような商人にとって、貧乏な民衆というのは自分のたちの富を奪う敵でしかないのです。

 気品のある木のコーティングされている扉の前まで来ると、近くに立っていた黒色のきちんとした革製の服着た男性が、


「こちらの御仁は?」

 

とネリーを見ながら、ナービに向かって言いました。


「モハナト革命時に革命軍の作戦参謀を勤めていた方の妹君です」


 妙に固い態度でナービは返します。

 

「そうですか……」


 その男はそう薄く反応すると、扉を開けました。すると、


「おお~。よく来たっすね!」


 部屋の中から、そんなこの場には合わない軽い口調の女性の声が聞こえてきました。普段は周りの空気を読もうともしないネリーでも思わず驚きます。


「あれ? その女の子は誰っすか?」


 その女性、まだ10代の若々しさを残している瑞々しい容姿に、所々外にハネているくすんだ金髪を持ち、着心地の良さそうで高そうな灰色の布の服を着ている女性はネリーの方を見ました。


「おはよう! 自分はネリー・アーテルだ!」


 一度は驚かされたものの、しかし、変人度はネリーも負けていません。この明らかに身分の高いそうな人に向かって堂々と自己紹介をしました。


「ちょ、ちょっと、ネリーちゃん!?」

 

 当然、フストが止めに入ります。


「あはは、いいんすよ。親のコネでの副会長っすから」


 その女性はカラカラと笑うと、自己紹介に移りました。


「あたしはこのブラーノ商会の会長、ラミロス・ブラーノの娘で副会長を任されてるトラレル・ブラーノっす。気軽にトラレルって呼んでくれっす」


 ネリーが頷くと、彼らは部屋に入りました。

 部屋は赤色のカーペットやフカフカの4人掛けのソファーなど豪華でしたが、貴族の屋敷のように宝石や自画像などは飾られていないようです。

 ネリーら3人はトラレルに促されて、そのソファーに座りました。


「じゃあ、うちも時間がたんまりとあるわけでもないので、早速始めさせて貰いますね」 


 途端にトラレルの表情が商人のものになりました。


「さて、今回はどのようなご用件っすか?」

「はい。実はギルドの武器屋で扱う武器を幾らか買いたいなと思いまして」

「そうっすか。具体的にはいかほど?」

「主要武器をそれぞれ500個ずつです」


 主要武器とは剣や斧などの冒険者に人気のある武器のことです。ネリーは商談の様子をボーっと眺めていました。


「じゃあ、そうっすね……」


 トラレルはあらかじめ用意しておいたらしい資料を取り出し、ナービに見せました。


「ここに書いてある25点11万5300レーを500セット。しめて……、ええと」

「5765万だ!」


 暗算に戸惑っているトラレルを見て、頭の中に電卓があるネリーはそう告げました。


「ああ、そっすね。ありがとう、お礼としてこれあげるっすよ!」


 驚きながらも、トラレルはポケットの中からキラキラと輝く何かを取り出しました。ネリーは受け取ります。


「なんだこれ?」 

「それは魔力を注入すると光る魔法石っすよ~」

「おお~!」


 ネリーはその薄い青色に輝く石の綺麗さに感激しました。


「……じゃあ、5765万レーを3日後。それでどうすか?」


 ごほん、と咳払いをして、気を取り戻したトラレルはさり気なくくすんだ金髪を撫でました。


「……そうですね」

 

 ナービは少し考えました。もちろん、金額ではありません。代金として何を差し出すかを悩んでいたのです。

 ギルドは商会ではありません。書類上の資産は数百億を超しているものの、現金となるとそこまで多くはないのです。

 

「ギルド前の大通りの店舗一つの経営権でどうですか?」


 ナービはトラレルの目を見つめながらそう言いました。

 どういうことかというと、国には国境というものがあるのと同じように、ギルドにはギルドの、商会には商会の領域があるのです。

 ギルド街と称される南ブロックでは教会や商会、ましてや貴族の営業する店など2、3店あれば多い方でしょう。

 そこの営業権、ということは事実上土地代である数百万を遥かに超した5千万レー以上の価値があるはずです。


「いいっすね。ここ100年くらいで、商売は物の売買じゃなくて特権に移り変わっていってるっすからね。権利で生まれる利益は、商売で生まれる利益なんて目じゃないほどっす。でもいいんすか? 今までギルド長が守ってきた土地をあたしたちに渡して?」

「ええ」

「……ならいいっすけど」

 

 どうやら、商談は成立したようでした。

 その後、特に面白いことは起こらずに、ただ書類にナービがサインをしただけでネリーはトラレルと別れることになりました。

 



「ネリーちゃん。じゃね~」


 ネリーは手を振り返しました。いつまでも一緒にいるわけにはいきません。中央区の交差点近くでナービ、フストと別れると、再び歩き始めました。

 もうすぐ正午となる頃合いです。いよいよ暑さは本格的になってきています。


「暑いー!」


 今さっき、ナービから貰った1000レーを昼食代につぎ込んだネリーは歩き始めたものの、どこに行こうかと迷いました。

 もう、墓地に行くという目的は完全に忘れ去られていました。


「なんだ、この暑さ……!」


 そして、ネリーの言葉に反響するかのように通行人の嘆きも響き渡ります。

 見てみると、小豆色の髪の隈の出来ているつり目が特徴的な女性がのそりのそりと歩いていました。

 

「ん?」


 自分を見ている少女の存在に気がついたのか、彼女もネリーの方を見ます。


「黒髪……」

「ツヅルなら知っているぞ!」

 

 先程と同じ会話を繰り返すのも嫌だったので、先手を取りました。彼女は「ツヅル……」と呟いた後、何か納得したかのようにネリーの方に近づいてきます。


「へぇー。ツヅルくんにこんな可愛い妹がいたんだ」


 否定しようと思いましたが、まぁ実質妹のようなものか、という考えと暑さによって、ネリーは口を開きませんでした。


「こんなところで何しているの?」

「することがないんだ……」

「じゃあ、うち、来る?」


 彼女はブンブンと首を縦に振りました。宿屋に帰るにしても、何処かに行くにしても、この猛暑の中歩き続けるのは苦痛以外の何者でもありません。

 女性はそっかと頷くとネリーの手を引っ張ってきました。

 中央区はやはりブルーノ商会があった商店街とは赴きが異なります。後者は商会や商店が並んでいて人も多く、活気のある街という雰囲気を醸し出しているのですが、前者は小奇麗で汚い身なりの者が少ないので、まさに政治の中心と思わせる雰囲気でした。

 しばらく、手を引かれていくと、やがて中央区の中心。そう、アーキュリー伯爵邸の前で彼女は止まりました。


「え? ここなのか?」


 さすがのネリーも驚きます。


「うん。あっ、良い忘れてた。私はカルワナ・アガリィっていうんだ」


 


「で、この子を連れてきたと」

「うん」

「まぁ、下にいかなければ構わないが」


 ただ真夏日に街を散歩していただけで何故かネリーは大きな商会の副会長と街の領主になりました。

 クラリスとは初対面なので、どのように扱われる心配だったネリーですが、さすが革命で領主になったのに特に問題なく統治できている彼女です。優秀な君主のように鷹揚さを見せつけてくれました。


「ありがとう!」

「いや、問題ない。それよりも、君は本当にツヅルの妹なのか? 彼はこの街の近くの泉で見つかったんだが」

「ううん。違う! 自分も孤児院出身だから!」


 この世界では一つの街に兄妹ではない2人の黒髪黒目の人間が現れることは滅多にないと考えてもいいほど、黒髪の遺伝子が少ないです。なのに、ツヅルは出身どころか、今までどの街にも存在しないことになっていて、ネリーは親が分からず孤児です。

 

「天文学的な確率じゃない?」


 カルワナもその事実に驚いているように見えます。


「……それに驚くのもいいが、カルワナ。遠征部隊との会議はどうした?」

「あ……! 行ってきます!」


 クラリスに指摘された彼女は飛ぶように、部屋を出ていきました。

 この部屋はよくある貴族のように豪華な部屋ではなく、仕事をするための椅子や机と書類や資料を入れるための本棚しかありませんでした。

 といっても、その書物の量は凄まじいもので、部屋の半分が本棚に埋まっていました。


「すまないな。しばらく、その本棚にあるものでも呼んで、ゆっくりしていってくれ。」


 クラリスはそう告げて仕事に戻りました。彼女の机には山と比喩してもいいほどの紙が置かれています。

 ネリーはその言葉に頷くと本棚に入っている本を眺めました。

 『火属性魔法の世界史』『クレミオナ・ダガ・イト~~不死王の人生~~』『ベストロジア王国闇黒の十年間』『初等魔法学概論』『魔王討伐手記』『ズウィード帝国半世紀革命』、と歴史、魔法学系の本が数多くあるようです。

 彼女はこの中でも最も興味を持った『初等魔法学概論』を取り出しました。

 著者欄には「クルーラル・メラルト」と書いてあります。この人物のことはネリーもそこそこ知っていました。

 8世紀初頭に生まれ、その数十年の人生で魔法学関係で有史以来最多の功績をあげた人物で、魔法の開祖と呼ばれている人でもあります。

 曰く、


『魔法とは。ラビンス統一戦争にて初めて用いられた新兵器について最近よく聞かれる。

 この世界は、神暦0年にギ・ラークによって魔王と精霊王が討伐されるまでは代々精霊族が当主を務めるロザイア家によって、数万年間治められていた。

 そこから200年ほど人間の時代が訪れていたが、しかし結局のところ、身体能力面において人間は獣人の劣化版である。神暦206年、獣人の英雄、ユーミル率いる獣人軍によって、人間の国家は完膚なきまでに叩きのめされた。

 そして、神暦8世紀現在。再び人間の時代が訪れたことは分かるだろう。そう、魔法によってだ。

 アルトーク大陸での人獣大戦、アカイック大陸でのシスイヨ帝国包囲戦、クロシー大陸での蜂起戦争は全て魔法がなければ人間側が勝てなかった戦いだ。

 恐らく、これから数百、いや、数千年は人類にとって魔法の研究は絶対となるであろう。

 しかし、当然だが、基礎ができなくては研究などできはしない。よって、私はこの人生で築き上げた魔法についての知識を「初等魔法学概論」「高等魔法学概論」「理論魔法学」の三冊に纏め、全世界の魔法を志すものに捧げる』


と、はしがきに書かれています。

 ネリーはしばし、吸い寄せられたかのようにその本を読み耽りました。

 魔法陣の色とは違う属性の魔法を放つ技術である疑似魔法、16個以上の魔法陣を干渉させると起こる魔力膨張反応、魔力が水に溶ける原理など様々な事柄が載っていました。


「随分、難しい本を読んでいるな」


 ネリーがその声に気付いて、顔を上げてみるとあの書類の山を片付けたのか、くたびれた顔のクラリスがいました。どうやら、数時間読んでいたようで、窓の外はもう茜色に染まっています。


「私は騎士学校を出た身だからその本を読んだことがあるが、明らかに『初等』は詐欺だろう?」


 クラリスは微笑みながら言います。


「騎士学校では、その『初等』を4年間でやりきるんだ」

「じゃあ、残り2つはどうするんだ?」

「実は、この世にそれを理解している者がいないんだ。現在、魔法学の権威とされているジェネジオ・フラスでも『高等』は半分。『理論』はまだ講義15項の内、3項しか理解できていないらしい」


 ネリーは素直に感嘆の声を上げました。確かに、彼女の頭脳を持ってしても「初等」を1ページをめくるのに10分掛かる有様でした。


「魔法学は面白いか?」

「うん!」


 ネリーは勢い良く頷きます。


「じゃあ、その本をやろう。今日はもう遅いから帰ったほうがいい」


 クラリスにそう促されてネリーは「初等」を持ったまま、アーキュリー伯爵邸を出ました。

 まだジリジリとした暑さは残っていましたが、昼よりはマシでした。


(どこに行こう?)

 

 現在、午後5時程度です。ツヅルたちはまだ帰ってこないでしょう。宿屋に帰って、「初等」を読み漁るのもいいかもしれませんが、彼女としてはまだ街を探検したい気分でした。


「そうだ! ルシルシのところにいこう!」


 精霊族研究会のことです。夏という季節に際し、外出が億劫になってからは一度も行ってないことをネリーは思い出しました。




 ネリーの鈍足でも中央区から20分は掛からない位置の研究会に着きました。


「おはよう!」

「……どうぞ」


 いつも出入り口に立っている門番に挨拶をして、扉を開けます。

 何でもツシータが野暮用で1人で行った時は「スラマイナ会長に確認が取れるまで待ってください」と言われたそうですが、何故かネリーもツヅルと同様に受け入れられていました。

 ネリーは慣れた足取りで地下室まで行きました。


「おはよう!」


 勢い良く扉を開けます。


「おう!? ……なんや、ネリーちゃんか」

「……ネルか」

「ルシルシ、『テルル』と!」

「ルシラと呼べ!」

「まぁまぁ、こんなところで騒いでもしゃあない」

「あれ、この子誰でしたっけ? ツヅルさんの妹?」


 ルシラとスラマイナ、それにグラベールがいました。全員、外套は脱ぎ去っていました。どうやら、外があまりにも暑いので、地下室に避難してきたようです。

 

「どうしたんや?」

「遊びに来た!」

「そかそか」


 意外と面倒見の良いスラマイナはネリーと相性が良いようです。まるで長年連れ添った姉妹のような雰囲気でした。


「ん? その人はだれだ?」


 ネリーはグラベールの方を見て、首を傾げました。シャルインやファルとは知り合いなのですが、運悪く彼女と知り合う機会はなかったのです。


「わ、わたくしはグラベール・アルストリメといいます」


 妙に挙動不審な態度で彼女は自己紹介をしました。


「自分はネリー・アーテルだ! テルル、と呼んでくれ!」


 対して、ネリーは自慢げにそう言いました。


「で、何しよか?」


 スラマイナはうんうんと唸りながら、暇を潰すための遊びを考えました。ネリーが来るまでは魔法雑談に花を咲かせていたようです。


「そういえば、その本はなんだ?」


 彼女が大事そうに抱えていた『初等』が目に入ったのか、ルシラは聞きました。


「『初等魔法学概論』だ!」

「……中々、難しめの本だな」

「あ、わたくしそれ読んだことあります! あれですよね、疑似魔女っ!」

「それただの魔女もどきじゃないか?」

「か、かんだだけですよ」

「違う違う、グラベール。こういう時はな、……」

「会長はちゃんと遊び考えて下さい」

「なんでや! 私だってツッコミ入れてほしいときだってあるんや!」

「思春期みたいなよく分からなさですね……」

「四寸……」

「グラベール! いい加減にしないとまたその癖っ毛グシャグシャにするぞ!」

「はい!」


 何だかよく分からない状況になってしまいました。ルシラはずっと3人を相手していたので、一通り会話が終了すると燃え尽きていました。


「はぁ……。何で『初等』の話をしていたら、グラベールの髪が爆発するんだ……」

「ルシラさんがやったんじゃないですか!」


と、そんな会話をしている時、誰かが上から降りてくる音が聞こえてきます。


「会長? どうしたの? あっ、ネリーちゃんだ!」

「シャル(ねぇ)、おはよう!」

「おはようー、ネリー」

 

 シャルインとファルでした。地下室の騒がしさを感じてやってきたようです。


「それにしても、シャル姉、か。姉なんてキャラじゃないだろうに」


 ファルは冷笑しました。


「は? あたし、凄いよ? 可愛さに姉成分が満遍なく降り掛かって出来たのがあたしだって言ってもおかしくないくらいの姉だよ?」

「姉になると、胸がしぼむのか?」

「し、しぼんでないし! むしろこれからだし!」


 シャルインはn次式をn-1回微分したかのように平坦な胸を抑えます。


「そういえば、わたくし、最近成長しました!」

「グラベールこらあ! 髪で花火つくったろうか!」

「あっ、痛いっ! 痛いです! 痛みによる脳内物質で更に成長しちゃう気がしないこともないのですが、どう思われますか!?」

「しらんわ!」


 シャルインに対してのみサドっ気が働くのか、グラベールは入念に彼女を言葉でいじめていました。


「そういえば、ネリーはなんで『初等』を持っているんだ? 欲しくて買える本でもないだろう?」


 そんな彼女ら3人を無視して、ルシラたちは別の会話に入りました。日常茶飯事なのでしょう。


「クラリっちゃんに貰った!」

「クラリっ……、もしかしてアーキュリー伯爵のことか?」

「そうだ! 後、これはさっきトラレルンに貰った!」


 ネリーは数時間前トラレルから渡された光る魔法石をポケットの中から出しました。


「トラレルンって?」


 どこかで聞いたことある名前だな、と首をひねりながら、スラマイナは聞きます。


「えっと、……確か、ブルーノ商会というところの副会長だ!」

「ブルーノ、か」

「どうしたんだ?」

「いや、ちょっとした因縁があるんよ、あそことは。……それにしても、アーキュリー伯爵とブルーノ商会の副会長に今日一日であってきたんか」

「……そう考えると、もしかして今のネルって騎士爵とかよりも権力あるんじゃないか?」


 ルシラは若干驚きながら、そう呟きます。


「これ、私らも恩を売っといたほうが良いんちゃうか? ……ネリーちゃん、ほらこれ」


 スラマイナは部屋の隅から赤黒く塗られた弓矢を一本取り出し、ネリーに渡します。


「なんだこれ! 赤い!」

「せやろせやろ。実はそれ、魔法が仕組まれとってな。生物の血を吸い込む効果があるんや。だから、5秒以内に抜かないと貧血で死んでしまうから注意してな」

「お、おお~」 

 

 さすがのネリーもこれは素直に喜ぶことができませんでした。

 やはり、研究会は愉快なところでネリーは時間も忘れて1時間ほど会話に浸りました。しかし、そろそろツヅルが帰ってくる時間だということに気付くと、直ぐ様立ち上がってスラマイナたちに挨拶をし、宿屋へと帰りました。




 もう帰ってくると、空は雲ひとつ見えないほど暗くなっていました。夏に探検するのも悪くないな、とそんな空を眺めながらネリーは思いました。

 扉を開けて、涼しいエントランスに入ると、汗を流しているツヅルが彼女を見ます。


「おはよう!」

「ネリーか、どこに行ってたんだ?」


 ツヅルは今すぐに死にそうな苦しい微笑みを浮かべました。相当疲れたのでしょう。


「これ貰った!」


 ネリーは『初等』と光る魔法石と赤黒い弓矢を彼に見せました。


「………」


 しかし、それで行き先を割り当てられるほどツヅルは頭が良くありません。


「ショッピングモールにでも行ったのか?」


 そう答えるしかありませんでした。

 その時、ネリーの腹が鳴ったので、彼女はツヅルと共に食堂に向かいました。因みに、ツシータたちは暑さで今現在部屋で死んでいるようです。

 結局、「おはよう!」は一度も突っ込んでもられなかったな。ネリーは思いました。

二週間ばかりウィークリーです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ