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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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四十九話 作戦会議

 さて、視点はツヅルに戻ります。

 ツヅルは現在、18日午前8時に、長い苔色の髪をいつも通りフードで隠しているシャルインを連れて、ギルドで行われる予定の作戦会議に向かおうと宿屋を出たところでした。


「こんなに街が狼狽してる光景は見たことないなぁ」

「全くです。はた迷惑ですね」

「うん。というか、……ツヅルくんがこれ、起こしたんでしょ?」


 ギルド正面の通りまでまだ一キロ程の距離があるのにも関わらず、突然の革命騒ぎに戸惑っている街の様子はありありと見ることができました。

 普通、この時間の街には商店や土木工事など様々な仕事姿が見られるのですが、現在はその光景を見る影はありませんでした。大通りから裏路地まで騒々しいのが分かります。

 そんなことよりもツヅルは、耳元で呟かれたシャルインの言葉の後半に跳び上がるほど驚きました。

 ビクビクとしながら、シャルインの方に目を向けると、彼女は微笑んだまま、


「流石に、リーフちゃんと魔族の件がここまで大々的に欺瞞を見せつけてるんだから誰でも気付くよ。……まぁ、あの大広間の虐殺は計画の一部じゃないってことは分かってる。もし、君があれを主導してたのならリーフちゃんがあんなことになってるはずないしね」


と皮肉とも取れるような発言をぶつけてきました。

 確かに、と考えてみると、スラマイナにもそれを気付いているかのような言動があったことに気付きました。


(革命に夢中で周りが見えてなかったな)


 心の中で反省した彼は再びシャルインを見つめました。

 どうにも、反感を買っているらしい。

 言葉の節々に毒が混ざっており、彼がその頭脳を見せ付ける度に余所余所しい他人行儀な態度になっていることに、ツヅルは気付いていました。

 その理由は想像しても答えが出ないものでしょう。

 何もしていないのに、並々ならぬ憎悪の感情をぶつけられるのは、彼にとっても心境ただならぬ所がありますが、原因が分からないのですから仕方がありません。

 そんな風に考えて、彼は再び喧しい街の中をシャルインと共に歩いて行きました。

 シャルインが偶に向けてくる意図の読めない言葉に気付きながらも、案外、対人関係には臆病なツヅルはそれを聞くことができませんでした。




 ギルド前の賑わいは想像していたよりも遥かに大きいものでした。

 もう既に冒険者への招集呼び掛けが完了しているようです。

 そこにはもちろん、遠征部隊もいるので、ギルド前の大通りには全員武器を持ちしきりにモハナト公爵の断罪を叫んでいる1500人弱もの人間が革命の炎に身を焦がしていました。


「ひゃー! 凄いね!」


 これを見たシャルインはおどけた様子で驚きますが、その声は冒険者たちの咆哮にかき消され、ツヅルの耳に届きません。

 さて、この人一人通るもの難しそうな渋滞をどうやってすり抜けようか、とその軍勢から少し離れた場所で黙々と彼は考えていました。生憎、ギルドへと行くには道路を通らねばなりません。

 悩んでいると、後ろから声が掛かりました。


「あんたが、トヴァーリくん?」


 その声でツヅルが振り返ってみると、少年には不健全な戦士の格好をしている頭に狐耳を持つ女性の獣人がいました。サーベルが腰に携えていることから、冒険者てあるということが容易に想像つきました。

 そんな彼女は少々疑いをはらませた眼光をこちらに向けながら、ツヅルの返答を待っていました。


「はい。僕はツヅル・トヴァーリです」


 簡潔にそう答えると狐の彼女は目を輝かせて、


「ナービたちが待ってるわ。一緒に来てもらえる?」


と言いました。

 この人が僕を僻地に連れ込んでどうこうする理由も見当たらないから、という理由で彼はその言葉に何も疑いも持たずに頷きます。がしかし、エルフであるために好奇の目に晒されてきたシャルインはそうではないらしく「貴方は誰?」と警戒しながら狐の女性に聞きました。


「私は『湖の剣』のフスト・オーリオ。さっき、副団長のナービ・ラガイスに、が黒と赤という独特な色をしたマントを着ている10歳くらいの少年を連れてきて欲しい、と頼まれたから探していただけよ」


 狐の女性、フストがそう自己紹介すると、シャルインは渋々ながらに納得したようです。

 そうして、2人共同行に同意したのを確認したフストは、ついてきてと呟き、静かな暗殺者のような歩調で歩き始めました。


「今、遠征部隊隊長のクラリス・アーキュリー様とレダン・ヒューズ・リカン会長、そしてナービは冒険者ギルドのギルド長室に入るわ。でもギルドの入り口は現在冒険者で封鎖されているに等しい状況だから、裏口に案内するわ」


 ギルド区と呼ばれている南ブロックの地理を記述すると、最南端に馬車で街に入るための南門があり、そこから1キロ程真っ直ぐ北に向かった所に冒険者ギルドがあります。

 ギルド大通りと呼ばれている、現在武装した冒険者たちで埋め尽くされている通りの東側にギルドがあり、西側にツヅルたちがいるのです。

 なので、ツヅルたちはランニングペースの走行で南門側に向かい、反対側に抜けれる場所を探すことから始めることにしました。

 意外にも見つけるまでの時間はそう長くはありませんでした。

 そんなこんなで反対側に移り、そのために南に向かった分だけ北に向かわないといけないこの状況に苛立ちを隠せないフストに若干怯え、北へと行く度に大きくなってくる冒険者たちの声に耳を抑える羽目になりながらも、10分後ギルドへと辿り着きました。

 何度か通ったことのある裏口、主に従業員用の扉に、ツヅルとは違い、汗が滲んでいないければ息も乱れていないフストは手を掛けます。


「やっと着いたぁー」


 10歳のツヅルと同じ程度の体力しかないシャルインは脱力した様子でゆらゆらと揺られながらそう呟きました。

 そして、ギルド内にもいる大量の冒険者の脇をすり抜け、二階に上がったツヅルたちはギルド長室に入ります。


「………」


 遂に悲願が果たせる、と半分放心しているレダン、心を落ち着けてようとしているのか目を閉じて黙想しているナービ、妙に神妙な面持ちをしているクラリス、いつもの穏やかな顔付きではなく真剣な表情のアールナ、その他初対面の人間が入室してきたツヅルに目を向けました。

 もし、客観的にこの光景を見たら、まだ年端もいかぬ少年であるツヅルの登場に違和感を覚えるもの仕方がないでしょう。

 今、ここにいるのは曲がりなりにもモハナト内でそこそこ名前が知られている人間ばかりです。全く知名度ではない少年が入ってきたのを見た、彼の名前すら知らない青緑の髪の幼い容姿の青年と眠たげなつり目の女性――恐らくどちらも騎士でしょう――は目を点にしました。


「おお、来たか」 

「じゃあ、始めよう」


 レダンがツヅルの来訪に感激し、ナービは早速モハナト全体の地図と中央区の家一軒一軒の詳細が分かる地図の2枚を広げます。


「久しいな、ツヅル。……君がまさかこんなことをしでかすとは、夢にも思わなかった」


 一応納得はしたのだけれども、本人が目の前に現れて改めて驚いたかのような、複雑な表情をしたクラリスはひとり言のように呟きました。


「隊長……、本当にこの少年が?」


 クラリスの隣りに座っている気の弱そうな青年の騎士が小声で聞きます。

 彼女が堂々と頷くのを見ると、その騎士は信じられないような目つきでツヅルを見つめました。


「さて、そろそろ本題に入ろうか」


 皆が簡単な自己紹介を終わらせると、ナービは立ち上がって今回の会議の目的であるモハナト革命戦をどのようにして運行するか、ということについて語り始めました。


「まず彼我の戦力から確認したい。我々、革命陣営は度重なる工作により一部の貴族や商人の財力、権力と、そして約1000人程の冒険者を利用する権限を得た。これに更にクラリス・アーキュリー率いるモハナト遠征部隊500人が加わるから、数は1500。

 これに対してモハナト陣営は西ベストロジアの街であるビラジ、通称『傭兵の街』で活動していた傭兵団の一個大隊で、その数500」


 詳細はともかく、革命陣営の方が有利だということを知らない人間はこの場にはいなかったので、このナービの発言には誰も何の反応も見せません。

 皆を一瞥(いちべつ)して、彼は話を続けます。


「次に武器や防具、兵器について。まず、冒険者のそれらは考えるだけ無駄なので除外して、……アーキュリー様、お願いします」

「ああ、遠征部隊は街を襲ってくる魔物や盗賊団の排除、街の治安維持を任されている組織のため、正直な話、装備の類は正規軍――戦争が起こったらすぐに駆り出される部隊――に比べて一世代は遅れている。 

 部隊編成は前衛用の長い槍(パイク)と盾を装備し、重たく魔法耐性が一切ない前世代的な鋼の鎧を纏っている重装歩兵100人。片手剣を装備した胸部甲冑のみの比較的軽装な歩兵が300人。後衛用で第三世代型魔法杖と短剣を装備した魔法兵が100人。騎兵や弓兵などはいない」


 第三世代型魔法杖とはその言葉からも察せられるように、魔術師が燃料代わりに使用する杖の第三世代型のことです。

 魔法杖は神暦1100年頃から改良され続けたため、現在では第四世代まで存在し、魔力石の魔力を装備者の魔力に変換する時間や、杖も重さなどが世代を重ねるごとに短く、軽くなっています。

 余談ですが、メアが作った杖槍は第一世代型と呼ばれている初期の魔法杖で、燃費が悪いことで知られていました。


「……では、傭兵団の分かっている範囲だけを語ると、まず、陸軍430空軍70と分かれている。

 陸軍は、重装歩兵300魔法兵130で、いずれも最新鋭に近い武器を装備している。次に、空軍は軽装で移動が早い魔法杖を持った爆撃兵が40、空中戦(ドッグファイト)用の鎧を身に着けスピアを装備した装甲空兵とサーベルを装備した軽装の対空空兵が合わせて30らしい」


 クラリスの遠征部隊とモハナト公爵の傭兵団だけの戦力差を見たら、もちろん、運用方法によりますが間違いなく前者のほうが上でした。

 しかし、遠征部隊は攻守どちらにも目を向けなければなりませんが、傭兵団の編成は完全に防衛用にすることができるので、革命陣営が遠征部隊だけだったのならばモハナト公爵は屋敷防衛戦において大いに有利になったことでしょう。


「現在、革命陣営は――モハナト公爵が密かに逃げ出さないよう、ということで街の外で巡回している見張員などの特例を除いて――全ての兵力を中央区南から約5キロ離れたギルド付近に集めている。対して、モハナト陣営は重騎兵20魔法騎士10空軍10を予備兵力としてモハナト家の屋敷の前に留めており、他の460人は中央区の東西南北にある大通りで115人ずつ防衛に当たらせているようだ」


 以上で説明が終わったのかナービは着席しました。


「それでは各自意見を述べて欲しい」


 ここからが本番だ、と言わんばかりにレダンが部屋にいる全員にそう告げました。


「はい!」


 勢い良く手を上げたのはザリという名前らしいの騎士です。


「中央区を包囲して、降伏しないと飢え死ぬぞ、と脅すとかは如何でしょう! 兵の犠牲は少なくなりますし!」


 彼は曇りのない眼差しで言い出しました。


「長期戦になると、逆に冒険者達が飢え死にますよ。士気も下がりますし。まぁ、雇われただけで忠誠も忠義もない傭兵なら逃げてくれるかもしれませんが、モハナト革命はクラリスさんを英雄にするための戦いなので、少し頷き難いですね。別に、動物や魔物の死体を投石機かなんかで屋敷や傭兵が集まっている所に投げ込んで疫病を蔓延させた所で突撃する、みたいな手なら納得しますけど」

「ザリちゃん。モハナト公爵は傭兵団を使って他の街を戦争しようとしていたんだから、兵站的な意味で食料は充実している可能性の方が高いよ。それに中央区には商店街ほどではないにしろ色んな食料店があるから、むしろそんなことしたら向こうから遠征部隊の方に爆撃兵や魔法騎士で攻勢を掛けてくる可能性の方が高いと思う。短期決戦を狙ったほうがいいわ」


 しかし、その作戦はツヅル、カルワナという参謀2人に反論されました。

 流石に、頭脳担当が反対している作戦を行いたい、というギャンブラーはこの部屋の中にはいませんでした。ということで、それは却下されます。


「ツヅルは何か意見あるのか?」


 彼を信用しているレダンはそう聞きました。実を言うと、彼の作戦もまだ完成していませんでしたが、ツヅルは頷きます。


「この革命戦は市街戦と攻城戦の二つに分けるべきです。まず、中央区の入り口となる大通りの傭兵をモハナト公爵邸の敷地の中まで撤退させるのを市街戦。そこから、屋敷に攻勢を仕掛けてからモハナト公爵を処刑するまでを攻城戦とします。この二つは別個にして考えていきましょう」


 ツヅルはさらに続けます。


「市街戦から考えていきます。まず、戦略目標はモハナト家屋敷の350メートル前方にある広場の奪取だとします。舞台は当然街の中なので伏兵などをおいてもよほどの少人数でなければ直ぐにバレるでしょう。なので、南側から中央突破して電撃的に進むのが定石です。まず……」

「ちょっと待って!」


 作戦の詳細を語ろうとしたところに、異議ありと口を挟んだのはカルワナという遠征部隊の参謀長でした。


「なんです?」

「そんなことしたら、東北西のモハナト軍にこちらが包囲されるわ! 相手の方が数が少ないから殲滅されることはないと思うけど……」


 その最もな指摘にツヅルは、


「大丈夫です。聞いて下さい」


と短く答えて再び話し始めます。


「1500人を三つに部隊に分けます。まずひとつ目が、数は多ければ多いほうがいいですが、最低50人以上のほどの臨時航空部隊。これの隊長はナービさんにお願いします。

 二つ目は、ザリさんかカルワナさん、或いは2人に遠征部隊の500人を率いて貰います。そして、三つめはその二つの部隊以外の冒険者部隊で、クラリスさんに命令を下して貰います」

「中央突破なのに三つの部隊?」


 今まで喋らなかったシャルインが発言に矛盾を感じたのか、首を傾げながら質問します。


「はい。ギルド前の大通りを見てもらえば分かると思いますが、1500人が同時に進軍するにはこの街は狭すぎます。なので、大人数でも指示が通じる様に訓練されたであろう騎士の部隊と、そうでなくとも少人数であるから指示が通りやすい、しかも戦術的に有効な航空部隊を摘出した訳です」


 平坦ながらに無愛想ではない声で考えを伝えると、シャルインは口を閉じました。


「それぞれの部隊の役割ですが、まず航空部隊は初撃の時に出撃してもらいます」

「中央区南で戦わせるのか? しかし、それは優秀な魔術師を無駄にする結果になると思うのだが」


 クラリスは反論します。ですが、ツヅルは首を振って、


「いえ、航空部隊には中央区南を通り過ぎて、予備兵力(・・・・)と戦ってもらいます」

「……!? 何を……」

「まぁ、一気に語りましょう。航空部隊はクラリスさん率いる冒険者部隊が中央区南のモハナト軍に大攻勢を掛けるのと同時に、モハナト家屋敷の前にいる予備兵力を爆撃などで殲滅してもらいます。相手としてもこちらに空軍がいないのを知って、まさか空軍がある軍に空から攻撃を掛けてくるはずがないだろう、と慢心しているでしょうし、単純に戦力的にも優勢だと思うので勝利はできるでしょう」


 こいつはいきなり何を言い出すんだ、とこの部屋の全員が自分のことを見ているのを感じながらも、ツヅルは再び気合を入れ直して続きを語ります。


「勝利できたら、航空部隊は屋敷の近くで待機していてください。そこで、中央区の中央が攻撃されていると気づいた敵の司令官は、東北西の内、一つの方角のモハナト軍を中央へと向けてくるはずです。なので、その一つが北軍か西軍のどちらかだったら東軍に簡単な援護爆撃を、東だったら攻撃しようとは思わずに逃げてきて下さい。

 ここで、遠征部隊が関係してきます。遠征部隊は初撃の中央区南会戦の時、南モハナト軍と戦っている冒険者部隊の数百メートル東側に待機します。そして、航空部隊が予備兵力との戦いに勝利した直後――ナービさんは誰か、航空部隊の1人を本陣へと報告させに来てください――遠征部隊は中央区東側の大通りへと進軍します。つまりは迂回ですね。敵が東軍を中央区のモハナト公爵邸に向けたら、東は空っぽなので素通りできますし、他の軍の場合でも航空部隊の援護爆撃があれば勝利の確率は上がるでしょう」

「どうして東側なんだ?」

「もし、中央に向けてくるのが北軍だった時、中央に来るのに、伏兵がおける薄暗いスラム街の近くを通る時計回りよりも時計回りの方が安全であり、敵もそう考えるからです」


 質問に答えたツヅルは、この計画に驚いているカルワナやクラリス、その他の人を見渡しながら続けます。


「最後に冒険者軍は猪突猛進していれば大丈夫です。まぁ、あまり訓練されていない冒険者が集団になったら、突撃以外の命令は聞きそうにないですからね。こうして、東軍と南軍と予備兵力殲滅で、モハナト軍の戦力の約半数を打ち倒すことができました。

 あ、東軍に関しては、敵司令官が予備兵がいなくなったのでもぬけの殻状態のモハナト公爵邸前に軍を送ってくるとき、北西を送ってこれば先程も述べた通り、遠征部隊と援護爆撃で一掃。東軍を送った場合は中央付近で冒険者部隊と遠征部隊が共に追い詰めて包囲殲滅戦に持ち込めれば終了です。

 残された西軍と北軍が革命陣営よりも早くモハナト家屋敷の前にある広場を取れるはずもないので、市街戦はこれで終了となります」


 ツヅルは一気に喋ったので喉が若干疲れたのか少し咳払いをしました。


「次は攻城戦、つまりはいかにして屋敷に籠っているモハナト公爵を引っ捕らえるか、ということですが……」

「ち、ちょっと待って! 貴方の作戦では西軍と北軍が攻城戦開始時に残ることになるんだけど、それはどうするの?」


 まさか市街戦の説明がそれだけだと思わなかったのか、少し狼狽した様子のカルワナが疑問をぶつけてきました。


「流石に彼らも1000人以上残っている――計算上ですが――こちらの軍にその五分の一倍の兵力でこちらに挑んでくるはずもないでしょう。なので、彼らが怖気づいている間に攻城戦を無事完遂して、君らの将であるモハナト公爵を処刑した、といえば、恐らく降伏してくれますよ。あくまで傭兵ですからね。尤も、さすがに無防備なのは怖いので数百人を防衛に……、まぁ、その数は指揮官であるクラリスさんが決めて下さい」


 支払い能力のない客のために命を懸けるような傭兵など存在しないでしょう。ましてや、「傭兵の街」などと呼ばれている街で活動していた傭兵が、降伏しない、なんて予測を立てるのは非現実的です。

 それに、今回の革命陣営の英雄であるクラリスが降伏した兵を虐殺する訳にもいきません。そんなことをしたら間違いなく支持率は低迷し、領主どころか遠征部隊隊長としての地位を揺るがすことになる可能性だって十分に存在しうるからです。

 敵もそれが分かっている、ツヅルはその相手の思考を利用して、「無駄な戦いは避けるべき」という古代から説かれてきた教えに従うためにあえて市街戦の作戦では西軍、北軍を放置したのです。


「……そういうわけなので、攻城戦は速やかに終了させないといけません。さて、この作戦で重要になってくる要素は、モハナト公爵を殺害するのではなく捕らえることが必要だということです。今回、冒険者やその他の領民が求めているのは悪の断罪であり、それは熱狂的な支持を誇っているクラリスさんが行わなければなりません。つまりは、モハナト公爵は『戦死』ではなく『刑死』としなくてはならないのです」


 その言葉にギルド長室にいる全員が頷いたのを見て、続けます。


「攻城戦での敵は、敵兵士よりも、跳ね橋や水路や高い壁、塹壕や見張り台など、まるで要塞としか言いようがないモハナト公爵の屋敷です。もうモハナト軍には公爵が『護衛団』と名付けている50人程しかいない使用人の一部しか残っていません。だから、戦闘という意味では市街戦よりも激しい戦いにならないでしょう。攻城戦には基本的に守備側の5倍の数の兵士がいてやっと優勢なので、今回も必ず攻撃の際は少し多めの300人程度を目安としてください」


 この世界の攻城戦、というものを語ると長くなるので割愛しますが端的にいうと、人間の魔法がまだ確立されていなかったクルーラル・メラルト誕生前には頻繁に行われていました。

 そして、魔法という絶対火力が現れてから数百年はめっきり城そのものが姿を消しましたが、しかし、神暦1150年頃に魔力石をうまく使用した魔法耐性のある壁や武器を作成できたことにより、再び城という建築物に存在意義が復帰し、攻城戦が行われるようになったらしいです。


「攻城(やぐら)、はさすがにないでしょうから、そうですね……」


 ツヅルの言葉はここで詰まってしまいます。

 攻城戦、と堂々と名付けたは良いもののツヅルにはその戦闘に対する知識が余りありませんでした。


「どうしたんだ?」 


 市街戦を語るときには饒舌だった彼の切れ味の悪い喋りを見て、疑問に思ったクラリスは聞きました。

 どう答えようか、と迷いました。いくら、彼でも新たに攻城戦の理論を書くのは至難の業です。

 仕方がないので、ツヅルはこの今までの生活を思い出しました。どこかにヒントが隠されている場合があるかもしれません。

 瞬間、彼の脳裏に、最初敵軍の情報を聞いた時から疑問に思っていたとあることの解の予測が浮かび上がりました。

 それは何故、南に革命陣営の全軍が存在することが分かっているのに、モハナト公爵は東西南北の傭兵の数は均一にしたのか、ということです。 

 革命軍がその統率の難易度から南から進軍することは必至であり、必然といっても過言ではありません。それなのにも関わらず、中央区南の軍は最も襲撃を受ける可能性が低い北軍とまるで同数なのです。 

 北から数百人の部隊が来るかもしれないと臆病な公爵が恐れたから、という説明で納得し、一度はその疑問を捨て置いたツヅルはここに至って、その霞の掛かった違和感が晴れてくるのを感じました。


「……? ツヅル、本当にどうした?」


 目を少しばかり見開き、珍しく微笑みではないはっきりとした笑みを浮かべている彼を見て、心配そうな表情でクラリスは近づいていきます。


「モハナト公爵の屋敷はいつ建築されたものなんですか?」


 ツヅルはすっと顔を無表情に戻して、そう聞きます。


「えっ!? ……確か、モハナト初代公爵の時からだったと思う。尤も、最初はあの要塞のような設備は簡易的なもので今あるものよりも全然小さかったそうだ。何でも、要塞が出来て数ヶ月経ってから、モハナト初代公爵が増築したらしい。後は、屋敷に存在する全ての壁を魔法耐性のある壁に取り替えた時程度しか大きな工事をしていないから、その構造は初代の頃から変わっていないはずだ」

「そうですか。じゃあ、最後に……、あの要塞のような屋敷が戦いの舞台となったことはありますか?」

「……一度、モハナトに来る際に歴史は一通り調べたはずなんだが、覚えていないな」


 その質問に対してクラリスは頭を傾げながらも数秒間思い出そうとしていましたが、どうやら目的のものは見つからなかったようです。

 彼は落胆しつつも、クラリスにお礼を言い、再び考え込もうとした直後、


「……全く、ない」


というレダンの声が聞こえました。

 レダンの方を向くと、彼は目を見開き口を半開きにして、ツヅルを凝視しながら唖然としていました。

 

「モハナト家はあれだけ暗殺が起きたというのに、その屋敷内では一つの殺人も起こっていない……!?」


 ツヅルは待ちわびていた答えを受け取ってしっかりと頷きました。

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