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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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四十七話 ギルド戦線

―――――3月18日 モハナト冒険者ギルド―――――― 


 しばし、革命当日の朝のナービ、レダンについて語ります。

 今日どう動くか、という理由でギルド長室に集まった彼らは、感慨を得るかのように、感傷に浸るかのように黙々と座ってました。


「………」

「今日、本当にあのモハナト公を殺せるのか……?」


 しばらく経った頃、レダンは口どころか全身を震わせながら、不安と歓喜が入り混じってた声で呟きました。

 



 レダン、正式に言えばレダン・ヒューズ・リカンは今年75歳の――この世界の常識からいえば――長生きな老人です。

 生まれは農業都市クヌです。彼が誕生した神暦1308年。その街は財政難に陥っていました。

 理由としては、当時の王イト33世が、神暦1300年から1305年に起こった「世界大戦争」で失われた騎士団の武器や防具を直ちに取り戻そう、として終戦の翌年に王国閣議で立案した「10ヵ年補填計画」により、国から街に対しての税がそれまでの4、5倍まで膨れ上がったからです。

 特に、ベストロジアの穀物庫とまで呼ばれていたクヌでは、ただえさえ多かった税金が5倍にもなり、街の住人の生活は一気に貧相になりました。 

 貴族すら農民と共に畑仕事をするほどの重い義務を課せられている、そんな時代の庶民家にレダンは生まれたのです。

 庶民家が当時の財政難の中でわざわざ子供を産んだ理由、それは大体察しがつくでしょう。レダンは2歳の頃に当時モハナトを主として活動していた奴隷商に売り払われました。 

 モハナトに移り、いざ奴隷商が隠し持っている店に品物として並べられたレダンには、幸か不幸かすぐに買い手が見つかりました。

 それが、神暦1383年時点から見て3代前のモハナト公爵、男が多いモハナト家では珍しい女性君主が彼を購入したのです。

 名をイシス・リカン・モハナトといいます。

 イシスは後世のモハナトでも、有能で美麗な領主だった、と語られるほど優秀で策略、計略を駆使して国から課せられる税金の増加を以前のたったの2倍に抑えるという事業をやってのけました。

 しかし、昨日、一週間後にこれをする、と言ったかと思いきや、今日、いや、一週間後よりも5日後の方がいいだろうと言う。とすぐに計画を変更することが彼女の難点で、そういう意味では鷹揚(おうよう)さを見せつけなければならない君主ではなく参謀に向いている性格でした。

 ともかく、幸いなことにモハナト家で教育を受け、レダンは使用人、それもイシスの側近として働き始めます。

 公爵お付きの色白男子、と内外問わず呼ばれていたレダンは、奴隷という身分の自分をここまで育ててくれた、とイシスの器に感激しました。それ故に、彼女の役に立とうと努力し、精一杯にその役職を勤めました。

 モハナトが「冒険者の街」と呼ばれ始めたのには、イシスがその有能さを持って、モハナトを東ベストロジアで一二を争うほど巨大の街にした影響が大きいです。

 ともかく、レダンはイシスを尊敬していましたし、イシスはレダンのことを気に入っていました。


 さて、レダンが14歳になった時、彼にとって人生の道を定めることとなってしまった重大な事件が起こりました。

 「イシス・モハナト公爵刺殺事件」です。

 イシスは良くレダンだけを連れて街に赴くことがありました。

 ある日、いつもの様に街を2人で歩いていて、目的地へのショートカットをするために裏路地に入った時、十数人の武装集団にいきなり襲いかかられたのです。

 その戦いは凄惨極まりない、と評価するしかありません。イシスもレダンも魔法や剣術を学んだことはありましたが、あくまで教養としてであり、そんな彼らが戦闘のプロが集まっている集団に勝てるはずがありませんでした。

 結果、イシスは首を剣で突き抜かれて死亡、レダンも全治1ヶ月は下らない大怪我をしました。

 当然、レダンは自分を救ってくれた人物を死なせたことに激しい後悔を覚えると同時に、その武装集団に燃え尽きることのないであろう憤怒を感じます。

 そういう感情からの自然の論理として、領主殺害という罪を負った男たちに復讐を決意しました。

 そして、怪我を完治させたレダンが新しい領主――イシスには子孫がいなかったため、彼女の弟の――モハナト先々代公爵に挨拶に行きました。

 この公爵という地位を利用して犯人を探ってやる、そう決意したからの行動です。

 しかし、いざ公爵の部屋に入ると、開幕早々、


「君を反逆の罪で拘束する」


 そう宣告されてしまいした。

 その時の先代公の嫌らしい笑みをレダンは今でも覚えています。


 その後、以前は共に働いていた使用人たちが追ってくるのを、鈍い運動神経を精一杯に用いて必死に逃げたレダンは先代のギルド長のジラー・ヒューズという男性に囲われました。

 イシスは、国、ギルド、商会、教会の四大勢力が権力と金を貪っているこの世界では珍しくギルド長と友好を保っていました。

 レダンも含めた3人で食事会を開いたり、気まぐれで時折雑談をしに行ったりしたこともあります。

 ともかく、ジラーの計らいによりギルドでコソコソと隠れながら暮らしていたレダンは、先代公の嫌らしい笑みに含まれている真意について考えます。 

 その答えはモハナトという街の歴史を調べてみれば、すぐに分かりました。

 ツヅルがいつか読んだ本に書いてある通り、モハナト家という東ベストロジア有数の公爵家の歴史は、最大8家にまで分裂したことのあるララティー家――現在のフォート家――よりも血に塗れていました。

 

「イシス様の死も公爵の仕業だ」


 レダンはこの歴史を見て、そう確信しました。


 ジラーという男はレダンを匿った当時40代前半でしたが、様々な死線を潜ってきたであろう貫禄と余生を過ごす老人のように常に微笑を保っていることから、冒険者から慕われていました。

 10代の子供冒険者からは爺ちゃんと呼ばれていて、大人から、よう親父と何気なしに声を掛けられる。そんなギルド長にレダンは懐いていました。

 彼はイシスのようにモハナトの歴史に名を残すような功績はありませんが、「世界大戦争」のクロマト戦線においてベストロジア王国の最初の戦いである「ステイリー沖海戦」から騎士として参加し、しかし死ぬことはなく五体満足で終戦まで生き残ったという稀有な存在です。

 そんな存在にレダンはイシスに捧げた親愛には及ばずとも、親友に向けるものに近い友情を持っていました。


「私はイシスを愛していた」


 しかし、そんな怒りに震えたジラーを見るまではレダンも彼のことをのほほんとしている好好爺程度にしか思っていなかったでしょう。


「君はイシスをあの公爵に殺されたことを怒っているか……!?」


 数年後レダンが18歳になった時、遂に満を持したかのようにジラーは彼にそんな質問をしました。

 ギルドで隠れ身になっていたレダンも当時の憤怒は未だ忘れていなかったので、頷きます。

 ツヅルという正体不明の少年が起こしたモハナト革命は、実は2回目でした。

 神暦1383年よりも前に、一度だけこのモハナトを瓦解させようと舵を切った、いえ正確には切ろうとした者たちがいたのです。

 それが、彼らイシス殺害に憤怒したレダンとジラーでした。

 「打倒モハナト」そんな決意したのは神暦1329年でしたが、決行できるような準備が整うまでにそれから26年の時を費やしました。

 そして、神暦1345年、いよいよ革命を起こそうと資金や武器の調達を秘密裏に行った彼らですが、それは現実にはなりませんでした。

 モハナト公死亡、そんなニュースがレダンとジラーの耳に入りました。

 いざ、仇が死ぬと案外虚しいもので彼らはその情報を得てから、武器も金も放ったらかしにして自分たちの手で憎い公爵を殺せなかった後悔も相乗し、抜け殻のように暮らしていました。

 そして、それから10年あまりが経ちました。その間にも公爵が一度変わりました。そんな時、再び不幸は起こります。

 ギルドの武器と金に新しいモハナト公が食いついてしまったのです。 


「歴代でも最高クラスに極悪だ」


と後々のレダンが評しているように、モハナト現公爵は利益のためなら、人を殺すことも、世界各国で禁止されている薬物を扱うことも、何気なしに行う精神破綻者でした。

 怖いもの知らず、というよりは怖いものを怖いと認識する能力が著しく劣っているようで、彼は犯罪まがいのことを堂々としています。

 モハナトの治安の悪化は間違いなくこの公爵が関係していて、領民からしてみれば疎ましい存在に間違いありませんでした。

 ともかく、そんな人間がギルドの持っている力に気付き、当時のギルド長、即ちジラーを暗殺して、その力を奪い尽くしたことは負の歴史として後世に残るべき悪行でした。


 モハナト公爵はジラーを殺害した後、代役のギルド長を立ててギルドの権力や財力を自分のものにしよう、と考え自分の使用人をギルド長選挙に立候補させました。

 ジラーには跡継ぎがいなかったため選挙になる、と彼は思ったのでしょう。

 しかし、彼はレダンという例外の存在を知りませんでした。

 レダンがどうしてギルド長になったのか、その疑問は彼らが集めた武器や資金を取られないようにモハナト公対策として立てていた、とある手段が答えです。

 それはジラーの遺書にて、レダンを次期後継者とする、と記述するという実に単純明快なものでした。 

 冒険者達の反発やモハナト公爵の妨害はあったものの、イシスに学んだ処世術とジラーと共に革命の準備をしていた時に学んだ知識を生かして、彼は何とかギルド長という椅子に座れました。

 そうして、約30年後、彼はツヅルに出会ったのです。

 もう自分の歳からして、もう後がないから猫の手でも子供の手でも借りたい、そんな軽い気持ちで伸ばした腕がどういうことか、彼をこのような事態に身を置かせました。

 レダンにもし利己的な感情が混じっていたのならば、ツヅルのクラリスを英雄として祭り上げる策は拒否されていたでしょう。しかし、そうではありませんでした。

 イシスとジラーの弔い合戦。革命隊はそのために結成されたと言っても構いません。

 



 そんな過去を持っているレダンはこの状況に感極まっていました。


(イシスとジラーを殺したモハナト家への復讐。まさか、それが自分が生きている内にできるとは思わなかった)


 そういう点ではツヅルに感謝を述べたい気持ちでいっぱいでした。

 しかし、


「クラリスを領主にする作戦というのは、あの少年が(わし)の心情を完璧に見抜いていたことに他ならない」


 底知れない恐怖も感じていました。

 10歳、まだまだ子供であるはずのツヅルがフォート家を壊滅させ、魔族を殺したばかりか、状況を最大限に利用して一つの街にクーデターを起こそうというところまで来ています。

 その頭脳、行動力にレダンは恐れおののいていました。


「レダンさん。そろそろ時間です」


 集中していたナービは微かな微笑も漏らさない無表情でそう呟きました。

 現在、午前7時。そろそろ冒険者たちがギルドに集まる時間です。

 この革命を行うにあたって重要なことは、この街の人口の半数以上を占めている冒険者を革命陣営に付かせる、です。

 そのためにツヅルはナラスを殺させ、その罪をモハナト公爵になすりつけたのです。

 外面が良く狡猾であったが故に、この街ではクラリスの次に人気があったナラスの死は絶大な反感を買うことでしょう。

 ツヅルがナービたちに任したのは、その激情した冒険者にモハナト公爵制裁の方へと感情を後押しをすることでした。

 まず、ナービが周りの冒険者に聞こえるようにして、「湖の剣」のメンバーとナラス死亡について語ります。そうすると、モハナト公爵陰謀説を聞いた周りの冒険者や「湖の剣」のメンバーは憤慨するでしょうが、それだけだとまだ足りません。

 ナラスを支持していたのは主に女性や子供の冒険者で、冒険者の過半数、20歳以上の男性冒険者はナラスの死にそこまで感慨を持たないのです。

 なので、そこはレダンに演説を頼みます。

 フォート家虐殺の件を全面に押し出して、モハナト公爵は貴族や民衆に届くはずの利益を独り占めしようとしている、という印象を与えるのが目的でした。

 こうして、騙されやすい冒険者はすぐに立ち上がるでしょう。現に、フォート家虐殺の間違った噂はもう雇い入れた演説者によって、街中に広まっているのですから。

 ナラス死亡や革命の演説がいい具合に街に拡散したところで、ツヅルの用意したトドメの一撃である新聞を民衆に配ります。

 新聞、というものがどういうものか知っているツヅルにとってその内容は変哲極まりないものですが、しかしこの街の住人はそうではありません。世界が世界なだけに教育の制度が発達してないので、知識を得るということに対して鈍感であるため、このかなり偏向的な新聞にも同調してくれるでしょう。

 こうして、7時のナービとレダンの演説と7時半前後の新聞を用いて、冒険者や一部の民衆を味方に引き入れ、モハナト家へ突入し、その首を落とそうという算段でした。


「じゃあ、僕から先に行きます」


 ナービは無表情のままレダンも見ず、ギルド長室から退室します。魔族討伐戦後から、彼はずっとこの調子でした。




「ちょっと、ナービ。ナラスさんは?」


 階段を下り、まだ7時なのにガヤガヤと近所迷惑を気にしない騒音を発しているギルドは特別変わった様子は見られませんでした。

 何でも、この世界の一般的な職業に就いている者は7時まで寝ていることがないので、苦情は来たことがないそうです。

 いつも通りのギルドに少し心を落ち着かされたナービが「湖の剣」のメンバーを探していると、幸いなことに向こうの方から話し掛けていました。

 この狐科の獣人で一本のサーベルのみしか武器を持っていないかのように見える、きわどい大胆な服装の彼女は、名をフスト・オーリオといい、B級冒険者という地位でありながら、死んだクラなどに劣らないスピードアタッカーです。

 その実、モハナトのスラム街育ちの暗殺者で、とある人物の依頼でアルバリ侯爵を暗殺しようと彼の屋敷に飛び込んだところで、ちょうど侯爵防衛の依頼を受けていた「湖の剣」に撃退されました。

 その時にナラスの子持ちの夫人も溶かすような容姿と、本来C級冒険者の実力しか持っていないはずなのに何年も、僕はA級冒険者だ、と騙ることができる話術に陥落(・・)したらしく、フストはナービが気付いた時にはもう「湖の剣」のメンバーになっていました。

 それから、彼女はナラスに好かれるため全く悪事をせず、スラム街に暮らしていた頃とは大分違う清廉潔白な振る舞いをしています。

 尤も、そうさせた肝心のナラスは人知らぬところで傍若無人に振る舞っていましたが。


(ナラスが死んだ、って分かったらこの子も『湖の剣』から抜けるのかな)


 一体、何人が抜けるのか。賭け事をしてみたくなるような心境に陥ったナービはナラスの死をもう既に受け入れていました。

 ナラスが命を失うほどの罪過を背負っていたことは明々白々でしょう。


(まぁ、私も同罪だがな)


 ナービは自虐気味にほくそ笑みました。


「ちょっと! ナービ、聞いてるの!?」


 彼女は裏の世界で生きてきただけあって、自分と同格、もしくは低級だと判断した輩にはきつく接してきます。

 実際のフストの強さは、「湖の剣」で三番目でしょう。その3人は上から順に、ナービ、クラ、フストです。

 クラはもう死に、その上フストが抜けることは「湖の剣」にとって戦力的に大損害を被ることになるでしょう。

 しかし目的のためならば仕方ない、とナービは首を横に振ると、顔付きを神妙なものにしてフストを見つめました。


「な、何よ! そんなに見てきて……! わ、私にはナラスさんがいるんだから!」

「ナラスは、昨日死んだ」


 ゆっくりと咀嚼するように、悲壮な表情をしながらも周囲数メートルの人間にも聞こえるような声で堂々とナービはその事実を告げました。

その言葉によって約十秒間、ナービの周りの空間に意図しない静寂が訪れました。


「……。馬鹿言わないでよ!」


 しばし沈黙を保っていたフストはその言葉の意味をやっと理解できたのかそう叫びます。

他にこっそりとこの話を聞いていたナラスに陥落した女性冒険者たちもそれに同調し始めました。


「おいおい、どういうことなんだ」


 偶々通りがかっただけの男性冒険者が落ち着いた態度で尋ねてきました。

 いつも通りのギルドとは違ったこの光景に他の冒険者もどんどん集まってきます。

 そして、自然とナービを囲うように立った彼らは口々に、ナラス死亡のことについてヒソヒソと呟き合いました。

 もし、この発言をしたのがモハナト随一の魔術師であるナービの口から出たものでなければ、ここまで人は集まらなかったでしょう。

 ナラスとナービが「湖の剣」を創設し、実質2人でA級クランに登り詰めた話はこの街では英雄譚のように語られているのです。


「説明して」


 少し落ち着いたのか涙目になりながらも、しっかりとナービの目を見つめているフストは、この場にいる全ての冒険者の代弁者となりました。


「昨日、私とナラスとクラと……、闇魔術師の人で魔族討伐に向かったんだ」


そんな切り出しから彼は語り始めます。


「……! どうして、そんな少人数で……!?」

「ちょっと、話は変わるけどナラスが悪事を働いている、という噂は聞いたことないか?」

「……あるけど、私は信じていない」

「実はそれ、本当なんだ」


 フストはキッとした顔で反論しようとしましたが、それはナービによって遮られました。


「でも、それはナラスの意志故にやったことではない」

「……どういうこと?」

「……ナラスは、あいつは妹をモハナト公爵に人質にされていたんだ……!」


 ナービは予定通り拳に爪を立て血を流し、唇を強く噛みます。

 ナラスが悪事を働いているのは事実ですが、しかし後半は欺瞞です。嘘には少しばかりの真実を混ぜることで信憑性がぐっと増す、というのはレダンの教えでした。

 あの冷静沈着なナービの迫真の表情と右手から流れる血を見て、もうこの場にはこの嘘を嘘だと思う者は1人もいなくなったようです。多少の辻褄の合わない話も受け入れてくれました。


「ナラスさんの妹は死んだはずじゃ……」

「うん。私もそう思っていた。でも、違ったんだ。昨日、ナラスが馬車の中で『僕は今日死ぬから』と、全てを教えてもらった」


 そこからナービは一気にすべてを語ります。

 一昨日、ナラスの街での人気さを鬱陶しく思ったモハナト公爵は妹を人質にして、魔族討伐に1人で行かせ、彼を自分の手を汚さずに殺そうとする。

 しかし、純真な心を持っているナラスは、自分が死ぬのは構わないが街の平和のために魔族は倒したい、と考え、モハナト公爵にバレない程度の人数で魔族討伐に挑むことにした。

 そして、ナービたちは何とか魔族を討伐することに成功したが、クラ、そしてナラスという大きな被害を出した。


「そんな……」


 話を聞いて、足から崩れ落ち地に伏せたフストは呟きました。表情を見えませんでしたが、しかし、涙を零していることには気付きました。

 彼は罪悪感に塗れながらも、もう今更止められない、と大きな声で自分の考えを口に出しました。


「だから、私は復讐がしたい」

「……!?」


 その声に周りは騒然となりました。当然でしょう。ナービが今、堂々と言ったのは聞く人が聞けば即座に反逆罪で死刑に掛けられるような発言だからです。


「フスト、お前はどうだ。悔しくないのか……! あの公爵に愛する人間を殺されたことを憎んでいないのか……!」

「君たちもだ。この街の冒険者の権威であるナラスが殺されたというのに、私たちは貴族という仮初の権力に屈していて良いのか……!」


  畳み掛けるようにナービはギルド全体に響き渡るような声で反逆を呼び掛けます。


「……私は、……私は、やる」


 ナービの呼び掛けに対する反応は二つでした。

 フスト、「湖の剣」の面々、ナラスを神のように崇拝していた一部の女性、子供の冒険者、そしてナラスの死自体は何とも思っていないが貴族憎しな冒険者は、復讐の炎で瞳を燃やしていました。そして、他の過半数の冒険者は一歩後ろに下がりました。

 大方予想通りの反応になったことでナービの役目はとりあえず終了します。

 後は、レダンの演説によって残りの過半数の冒険者を引き入れるのみでした。




「モハナト公爵はかの魔王にも及ぶほどの大悪党である!」


 ナービを見ていた冒険者は皆、その突然の声に驚き、その声の発信源となる人物の方へと目を向けました。階段から降りてきているレダンに。


「私はナラス君の死を聞き、モハナト公爵の情報を調べた。そして、更に看過し難き一報を得た!」


 彼は一拍置きます。


「フォート家で起きた虐殺も貴族たちの資産を奪うためにモハナト公爵が仕組んだことであった、ということを!」


 その真相にナービとレダン以外の誰もが息ができないほどに驚愕しました。

 フォート家で起こった貴族虐殺の犯人はモハナト公爵であった。その衝撃的な事実に先程までナラスの死を惜しんでいた者達は一斉にその話に引き込まれました。


「モハナト公が街を自分のものにしようとしたせいで、伯爵以下貴族たちまでも虐殺された」


 誰もがレダンに釘付けになりました。

 この時代の民衆のほとんどは基本的に皆、政治に興味がありません。

 一部の知識人が領主の政策を非難したりすることはありますが、大抵、統治の知識がない領民には伝わらず、いかに駄目な策を生み出したとしても領民の資産や家族を奪わない限りはそれに何の興味も持たないのです。ナショナリズムはまだほとんど存在していない時代なので仕方がないでしょう。

 しかし、ナービ、レダンの話は実に単純明快でした。

 ナラスの人気に嫉妬したモハナト公爵がナラスの妹を人質にして殺し、貴族たちが持っている資産を奪いたいがためにフォート家に集まった貴族たちを虐殺した、という子供でも分かるような話は学のない冒険者達にも理解と怒りを与えました。

 冒険者というのは、ツヅルのような極々一部の例外を除き、誰しもが貴族に対しての反感を持っています。

 彼らは簡単そうな書類仕事だけをやっていればそれだけで自分では一生かかっても集められないような資産を所持できるのですから。 

 その憎悪の感情をレダンは刺激しました。


「我々や君たち冒険者などのギルドの住人は国の権力から独立した唯一の存在だ。それ故に、君らの資産はまだ奪われていないだろう。しかし、モハナト公爵の暴虐非道振りは底知れない! 我々が流暢に構えていたら、モハナト公爵はすぐに、君たちの財産や家族に襲いかかるであろう! それもフォート家の事件のような大虐殺をもって!」


 自分が今なんとかしなければ自分も被害に合う、という強迫観念を持たせることを、その備え付けられた演説力を用いて達成したレダンはしばし沈黙し、周りを見ます。

 ナービの呼び掛けに一歩下がった冒険者も、今では目に怒りの感情を浮かべ、レダンの話に聞き入っていました。

 金銭略奪と英雄惨殺という二つの非道を今日の朝、一気に伝えられた冒険者達はモハナト公爵に憤怒しました。

 これなら後ひと押しだな、と思ったレダンは口を開いて、


「我々はこのモハナト公爵の残酷な行為を受け入れない! 我々は正義によって、善心によって彼を下すことと定めた!」


と、叫びます。

 すると、ギルド内の冒険者の一部は、よく決心したと言わんばかりの歓声をあげました。


「現在、遠征部隊隊長クラリス・アーキュリーがこれに参加すべくモハナトに馬車を走らせている。さぁ、君たちもこの正義の断罪に参加して欲しい! モハナト公爵という悪の代名詞に制裁を!」


 すると、冒険者は各々の武器を取り出し、掲げました。

 クラリスの情報を出して冒険者に、この戦いは勝てると思わせ、勝ち馬に乗らざるをえないという人間的な本能によって無理やり彼らを戦わせることにレダンたちは成功したようです。

 自分達は正しい、そんな思いを彼らに持たせたのが1人の少年だということに気づかないまま、冒険者は革命に参加する覚悟を見せました。

 この後、すぐに配られた新聞により更に人が集まり、作戦開始時刻となる8時15分には約800名もの冒険者が集い、ギルド前の大通りを埋め尽くしました。

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