三話 異世界
ツヅルが記憶喪失を装ってしばらくクラリスから情報を引き出していると、次第に馬車から街が見えてきました。何とか生き残ったか、彼は何度目かも分からないため息を吐きます。
モハナトという街は大きな外壁に覆われていました。クラリスが南門と呼んだ門には優に50両は越える馬車が列をなしていました。
聞く所によると入街門は全部で10箇所はあるらしいのですが、馬車が通ることができる門は東西南北の4箇所しかないようです。
また、街という制度について少し言及すると、ベストロジア王国では王都には国王が、一つの街には一貴族の当主が領主となるのが基本です――数は少ないですが、商会の商人や教会の司祭などが治める街もあります――。また、この国では王国から存在を認められていて遠征部隊が派遣されていたり、資金援助などを受けているものを街、そうでないものを町と表記しているそうです。
因みにこの王国での貴族の階級は、身分が高い順から並べると公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵です。騎士爵が正式には貴族ではない国は存在しますが、この国ではきちんとした貴族として認められていました。
南門のふもとまで着き、そこかしこから世間話が聞こえてくる長蛇の列に紛れ込み、南門の真下にある受付に着いた頃にはもう夕方でした。風も段々と冷たくなってきてるのが感じられました。
外壁なんてものとは無縁の生活をしていたツヅルはねずみ色の滑らかとは言い難いその壁をジッと観察していました。
「ついてきてくれ」
やがて壁を見るのに飽き、物珍しさからキョロキョロしていると、話疲れたのか若干ぐったりとしているクラリスに連れられて受付まで行きました。
「入門証はございますか?」
あまり純度は良くないガラス一枚を挟んだ向こうに騎士風の鋼色の鎧を着た男が紙のようなものを持ちながらクラリスたちにそう尋ねます。門番でしょう。
その声が疲労に帯びていたので、毎日相当数の馬車を相手にしているのだなとツヅルは察しました。確かに毎日こんな数の馬車を相手にしているかと思うとゾッとします。
「子供を保護したのだが。危険な者ではないのは私が保証する」
クラリスはハキハキとした口調で入門証らしき紙を鞄から取り出し、疲労感に包まれている門番に渡すとツヅルを指差しました。
すると、門番は頭を掻きながらツヅルに身分証、入門証という証明書の有無を尋ねました。しかし、そのどれも持ってないことを知ると、露骨に面倒くさそうな顔をして、
「明日までにギルドで身分証を作って役所まで持っていってください。……最近、不審な輩は街に入れるな! とかいって貴族たちがうるさいんで、身分登録を全ての街人に行わせているんです」
といいました。まぁ、仕方ないかとツヅルが頷くと、すぐクラリスたちの馬車は一斉に街へと入りました。
このベストロジア王国も含め、大体の国にはそれぞれ街に1つずつ冒険者ギルドという施設があり、そこには魔物討伐や採集などの依頼を受け報酬をもらうため、はたまた身分登録をするためなど様々な理由を持った人々が集まるらしいです。
また、前者の目的でギルドへとやってくる者を冒険者と名付け、一つの職業として確立しているそうです。
門が開き、街に入るとまず見えたのはいわゆる商店街でした。
食物、雑貨、本など様々な商品が様々な露店で売られています。建物は木造、レンガ造りなど様々ですがまだ建築技術が発展していないのか、三階建てまでがほとんどでした。
しかし、印刷技術が発展してことに気付いたツヅルは、もう三大発明の1つが存在しているのかと驚きました。三大発明とはツヅルの元いた世界における火薬、羅針盤、活版印刷のことです。
不思議なことに皆カラフルな髪の色をしていて、黒色の髪を持つ者は全く見られませんでした。
「このモハナトは東ベストロジアの街の中では一二を争うの大都市だ。人の数や発展具合はそれこそ西ベストロジアの都市にも負けず劣らずといっても過言ではない」
と、驚愕している彼に向かってクラリスは自慢するかのように言いました。
様々な食べ物のいい香りが入り混じり、呼び込みなどの声でやかましく、人間、獣人が種族問わずでグループを作って会話をしていました。確かに街が活気に溢れてるのが感じられます。下がり目の街ではこうはいきません。きっと経済が上手く回っているのでしょう。
生憎、妖精族、魔族の姿は見られませんでしたが、人間だけでも争うのに少なくともこの街のこの場所では人間と他種族との共存が実現している事にツヅルは何ともいえない感動を覚えました。
街の雰囲気を味わいながら、ツヅルはクラリスに着いてきました。しばらく歩くと、馬繋場に到着しました。
そこに遠征部隊の馬車を繋ぎ止め、クラリス以外の騎士は皆疲れた表情で騎士舎という騎士のための寮へと帰って行きました。
モハナト公爵への報告などは隊長のクラリスの役目らしく、彼女は面倒くさそうな表情をします。どこの世界でも中間管理職は大変だな、とツヅルはしみじみ思いました。
頑張って下さい、とせめてもの気持ちで応援すると、モハナト公爵は自分の屋敷に人を入れるのを嫌がるから通信魔法で伝えるだけなんだがな、とクラリスは微笑みました。通信魔法はこの世界ではかなり難易度の高い魔法らしいです。
ツヅルはもっと魔法について聞くために口を開こうとしましたが、残念ながらその話はクラリスが「ところで」と切り出したことにより断念されました。
「すまないが、あくまでも部外者である君を騎士舎に泊めることはできないんだ」
済まなそうな表情のクラリスはそう言いながら、2000レー紙幣をツヅルに手渡しました。「レー」とは主にラビンス大陸で用いられている通貨です。リンゴのように見える果実が1個十数レーで売っているところを見ると、どうやら円とは価値が違うようでした。
「これで、数日は暮らせるだろう。10歳でしかも記憶喪失の君には酷かもしれないが、その金が尽きる前にギルドかどこかで君が暮らしていけるだけの準備を整えてくれ」
なんでもクラリスたち遠征部隊は明日から再び港街へと遠征をしに行くそうです。帰ってくるのは18日から20日後程度になるらしく、さすがに誰もいない騎士舎に身分の分からない少年を一人置いてくわけにはいかないだろう、ということでした。もっともだ、とツヅルは頷きます。
因みに、どういう因果かは分かりませんでしたが、この世界でも1週間は7日で1ヶ月後は30日で1年は360日だそうです。
モハナト公爵は休みなしに我々に荷物の運搬を任せるから中々に骨が折れる、とクラリスは表情にできる限りの不平不満を精一杯込めて言いました。
「しかも、最近モハナト公は500人ばかり傭兵を雇ったようで、そいつらがまた厄介なんだ」
傭兵という職業は基本的に略奪などを好むことを知っているツヅルは頷きました。
遠征部隊の業務内容には街の治安維持も入っています。それをやらせずに遠征ばかりを行わせる、ということはモハナトの治安は大体お察しの通り、中々の悪さを誇っています。
この街の北東ブロックには東ベストロジア最大のスラム街があり、そこは最早何の治安維持も行われていません。逆にスラム街があるからこそ、それ以外の区画の犯罪が少ないともいえますが。
その話に相槌を打ちながら、ツヅルはクラリスにお礼を言いました。そうすると、感謝され慣れていないのか照れたような表情になった彼女は「用事を思い出した」と呟いて夕暮れの街を駆けていきました。
ツヅルは疑問に思いながらも冒険者ギルドへと歩き出しました。冒険者ギルドへの道すじはあらかじめクラリスから伝授されていたため、ツヅルは一直線に目的地へと向いました。
「ちょっと!」
しかし、まだ10歩も歩いていない時です。後ろの方から、怒り気味の少女の声が聞こえてきました。最初ツヅルはその声が自分に掛けられたものだと分かりませんでしたが、何者かが肩を強く掴んできたので振り向きます。
「何で無視するのよ!」
そこには、10歳の少年の平均弱のツヅルよりも10センチは高いであろう少女が立っていました。
あまり手入れはされていないショートカットの銀髪で、それなりに動きやすそうな濃い緑色の布製の服を着ていました。背中にショートソードらしき剣を掛けています。
また、そのおかしな挙動と金属音から短剣を腰と太ももに仕込んでいるのをツヅルは見抜きました。
それはそれは美少女でしたが、ツヅルが最も気になったのは彼女の頭に生えている猫耳でした。即ち彼女は獣人族の少女なのでしょう。
獣人と話すことが初めてだったので緊張しているツヅルはそれを何とか隠しながらも、少女の次の言動を固唾を呑みながら見守っていました。
「さっき、クラリス様となにを話していたの!?」
少女は怒気を纏いながら叫びます。
その前世からの知識が詰まった頭脳を持ってしても、ツヅルはこの少女が何で怒っているのかを察せませんでした。仕方がないので、モハナトまで搬送されてきたんだ、と無理やり笑顔を作ります。
「あなた、お金貰ってたわよね? クラリス様の優しさに付け込んだんでしょう!」
この猫耳の少女は一体どんな立場の者なのだろうと思ったツヅルは「どういうこと?」と聞きました。
少女は、クラリスは慈善と修飾しても間違いではないほどに優しい心を持ち、常に人助けに励んでいるので人気が高く、それ故にこの街にクラリスを知らない人はいない、という旨のことを無駄に仰々しく語りました。
つまりは、獣人と人間をまったく差別しないということで特に獣人からはまるで聖母みたいな扱いを受けているということでしょう。
ツヅルはここでやっとこの猫耳少女がそんなクラリスのファンないし信者のようなものだと気付き、すぐに自分が記憶喪失になったことを話しました。
記憶喪失の人間が何か陰謀を企てるわけもないか、と判断してもらえると踏んだからです
ツヅルの話に最初は不審がる目線を向けていた彼女ですが、幼い少女の移り変わりの激しさが功を奏したのか、
「あぁ! 見ず知らずの少年を助ける慈悲深さ、クラリス様はやはり素晴らしいわ」
とその作り話を簡単に信じてくれました。
末期症状だな、とツヅルは思いますがもちろん顔には出しません。
しばらく感激していた少女は、唐突にクラリスさんが助けたのならアタシも助けないと、と意味不明なことを小さな声で呟き、
「あなたをギルドまで案内あげる」
とツヅルに言い放ちました。
彼はギルドまでの道を知っているのですが、わざわざ油を注ぐこともないだろうと考え了承しました。
「アタシはツシータ。生まれつき苗字はないわ。それと11歳。あなたは?」
未だに警戒しているのか猫耳をピクピク動かしながらツシータは彼の手を引っ張り、歩きながら言います。
「ツヅル・トバリ。10歳だ」
「あら、年下じゃない。ギルドに着いたらジュースでも奢ってあげましょう! ……5レーくらいの」
1つしか違わないじゃないかという言葉をツヅルは飲み込みました。結局、水は一滴も飲んでいなかったので素直に奢られることにしたからです。
手を引かれるままにツシータについて行きます。愉快な少女でした。
「それにしてもツヅル・トヴァーリって変な名前だわ。300年ぐらい前の貴族みたい」
この世界の住人は若干難聴なのか、とツヅルは頭の隅で疑いました。
モハナトで暮らすなら、きっと様々な用途で訪れることになるであろうモハナト冒険者ギルドはツヅルが想像した以上の喧騒さでした。
頬を赤く照らした冒険者と思わしき者たちがアルコールが入っているだろう木のグラスを片手に大きな笑い声をあげながらオチや流れを全く考えないフィーリングで会話をしていたり、服にこびり付いた血を一生懸命水で流している人の姿がありました。
やはり、冒険者の本業は魔物討伐であるらしく、ツヅルやギルドの職員と思わしき者たち以外は皆武器や防具を装備してます。
そう魔物、ツヅルは生きるためにはそれらと戦わないといけないということに今更ながら若干恐怖していました。ツヅルは前世では秀才という称号が似合う、喧嘩はおろか武道すら僅かにしかやってこなかった男性です。
指揮するのにはそこそこ慣れていますが、戦地に立つことは全くもって経験がありませんでした。ギルドの騒々しさから右耳を抑えながら、死ぬかもしれないと不安に身を震わせていると、
「あ、あの、この子に冒険者カードを作ってもらいたいんですけど……!」
手続き窓口の木で出来たカウンターの前に立ったツシータの妙に張り切った声が聞こえました。
「あらー、いいですよー」
それに対し、カウンターの向こう側にいる受付は悠々さんと呼んでも差し支えないのではないかと思わせるほど、ゆっくりとした喋り方で返します。
カウンターには革製の薄っぺらいカードが置いてありました。よく見ると、
『名前:アールナ・ベリート 種族:人間族 性別:女 年齢:24 出身:メリヤ 経歴:13歳騎士育成学校 入学 17歳同学校 卒業 18歳ベストロジア騎士団航空第十二部隊 入隊 23歳同部隊 除隊 23歳モハナト冒険者ギルド緊急職員』
と、この受付嬢の個人情報が書かれています。
周りを見渡すと全窓口にこのカードが置いてあったので、きっと冒険者に対する身分証明だろう、とツヅルは推測しました。現代風にいう名刺のようなものでしょう。
しかし、馬車でクラリスに少しばかりこの「航空部隊」と言うものについて聞きましたが、これは中々いい経歴はずです。
航空部隊に入隊するには素早い判断力、魔法で空を飛びながら相手の兵に魔法が打てる魔力、敵味方が空で入り乱れているときに敵を確実に仕留められる技術の三つが揃っていないといけない、とクラリスが言ったのを覚えていました。
受付嬢、アールナは肩に掛かった桃色の髪をどけてツヅルの眼をジッと覗き込みました。
「あなたー……、ほんとに10歳以上?」
「ええ、ちょっと小柄で」
どうやら、10歳以上でないと登録はできないようです。簡単な返答をすると、アールナは10歳未満の子供が嘘を吐けるはずないかと小さな声で呟き、何も書かれていない冒険者カードを取り出しました。冒険者カードとはその名の通り、自分が冒険者であることを明かすためのカードで、何でも身分証明にも使えるそうです。
「じゃあー、名前、年齢、出身、あとなにか称号とか実績とかそういうのがあったら教えてくださいー」
「えっと……」
アールナに聞かれれたことに答えようとしてツヅルは口を開きます。
「この子はツヅル・トヴァーリ。ちょうど10歳で出身はここよ。その他はないわ」
すると、ツシータは割り込んできて堂々たる面持ちで告げました。
さすがにトヴァーリなんていう姓は嘲笑う者が誰もいないとしても嫌なので、訂正してくれ、とツヅルはアールナに頼もうとしました。
「ちょっと待って……」
「オッケー、できましたー」
ですが既に時遅し。その悠々とした喋り方を完全に無視したアールナの迅速な仕事ぶりにより彼はこれからツヅル・トヴァーリという名前で生きていくことに決定しました。
アールナは冒険者カードを落ち込んでいるツヅルに手渡しながら、
「はい、どうぞー。登録初日は依頼が受けれないのでー、受けたい依頼があったら明日来てくださーい。ギルドが開いているのは6時から23時までですー」
と微笑みながら言いました。
この世界には一家に1つ時計というものがないので、ちょうど1時間ごとに街の中央にある鐘が鳴ります。毎時鳴る音が違うので、それが時間という概念を人々に与えていました。
まぁ、例え辺境の地にいたとしても時間を知ることができる魔法があるので、魔法を使えない僅かばかりの領民にしかその恩恵はありませんが。
その鐘は魔力石で動かされているので、非常に正確で意図的にずらそうと思わなければまったくずれません。魔力石というのはその名の通り、魔力を司る石です。魔力というものを語るとかなり長くなってしまうので省略しながら簡潔に語りましょう。
魔力は全大気中に存在し、もちろん人間の体内にも存在します。体内の魔力をそのまま体内魔力といい、魔法を使用するときに消費されるのがこれでした。すなわち、これがなくなると魔法が使えなくなってしまうのです。
なので、この体内魔力の代わりをしてくれる魔力石は様々な意図で使用されています。
『F級冒険者 名前:ツヅル・トヴァーリ 種族:人間 性別:男 年齢:10 出身:モハナト 経歴:なし』
「このF級というのは?」
ツヅルは手渡された冒険者カードを見ながら聞きました。
「あー、それは階級ですー。その階級にいるものは一定以上の戦闘力を持っていますよー、という証明になるものです。ギルドに依頼しに来た人が『C級以上じゃないと駄目』なんて言うことはよくあることですし、むやみやたらに下級冒険者が高ランクの危険なクエストを受注しないように制限を設けなければなりませんからね。
ランクはF、E、D、C、B、A、Sの7つで、毎月25日に昇進試験というものがあって、各冒険者は各々のランクより上の試験をうけることができます。ちなみに飛び級も可能ですー。例えば、F級のあなたがC級の試験に受けて合格すれば、その時点でC級冒険者として扱われますー」
ツヅルはなるほどと頷きました。
「Sランクってどれぐらいいるんですか?」
好奇心から聞きます。
「実は東ベストロジアにはいないんですよねー。現在は西ベストロジアの王都に3人、騎士の街と呼ばれているクレピスに1人、騎士育成学校が近くにあるラートラーンに2人、商業都市ジリアンに1人の計7人ですねー。どれもモハナトより大きい街ですー。因みに、このモハナトで強い冒険者といったら……」
アールナがそう言いかけるとギルドの扉が開く音がしました。
振り返ると外から鈍く光る鋼の剣や魔力石が埋め込まれている杖などを持った10人余りの冒険者がぞろぞろとギルドへと入ってくるのが見えました。
「ああー、あの人たちです。A級クラン『湖の剣』といいます。あー、クランというのは冒険者同士で組めるパーティーのことですー。クランを組むための条件は2人以上の冒険者がクランへの参加に同意している、ということで人数の上限は特にありません。
ただ、A級クラン、B級クランといったランクは所属している冒険者の半分以上がそのランクでなければなりません。
例えば『湖の剣』はA級が8人、B級が6人、C級が2人の合計16人といったメンバー構成ですー。このモハナトでA級クランは彼らだけです。あとー、リーダーが必要ですね。ほらー、今先頭を歩いている人が『湖の剣』のリーダーです」
アールナに促されてツヅルは「湖の剣」というクランの一番先頭を歩いている男を見ました。
金色の鎧を着ていて、細身の剣を背負っていました。金髪碧眼で女性冒険者から「騎士様~」と甘い歓声が響くほどに容姿が良く、白馬に乗っていれば騎士どころか何処かの国の王子と紹介されても納得していまうほどでした。
しかし、少年であるツヅルにとってその甘いマスクは何の効果もなく、彼はすぐに後列にいる魔術師の方に目を向けました。
「ねぇ、アタシたちもクランを作りましょうよ」
数秒後、その声でツヅルはそのクランを見るのを辞め、隣で退屈そうに座っていたツシータを見ました。どうやら彼女もツヅルと同じ心境だったようです。
彼はツシータに先程の発言の理由を聞きます。
「だって、あなた今日登録したんだから当然F級じゃない? アタシも食っていくために毎日採集依頼ばっかりこなしていて1人ではその、……怖くて魔物とはあんまり戦ったことないから、討伐依頼よりも報酬の低い採集依頼に手一杯でまだF級だし。――アタシはもっと上を目指したいの。目標があるから。だけど、11歳のアタシを加入させてくれるクランはないのよね。だから……」
歳も近くて、階級も同じツヅルならクランを組んでくれるだろうという思惑だったそうです。
ツヅルはこれに即了承しました。何故ならこれは絶好の好機だったからです。実はツヅルもツシータを誘う気でした。
さすがの彼もたった1人で権力、武力、財力の盾を持たずに異世界を放浪するのは怖いのです。
「そう! 入ってくれるのね、嬉しいわ! 名前は何にする? 特別にあなた決めてもいいわ」
ツシータは子供の名前を決めるかのように喜々とした表情で言いました。
「……そうだな。『アーテル』とかどうだ?」
「それどういう意味?」
「……いや、特に意味はないが」
「そう。でも、なんかいいわ! 採用!」
悲しいことにこれから先、冒険者カードはあまり出てきません。