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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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三十四話 子爵とエルフの血 5

 馬車制圧作戦を実行しているスライマナ陣の真面目さから転じて、今度はツヅル陣営について語ります。


「Aカッ……いえ、Cさん」

「……そこの君、今何て言ったの?」


 ツヅルは思わず口に出してしまいました。

 スライマナたちと別れたばかりの彼はシャルインと、ツシータはファルというように別れて――特に意識したわけでもないですが――会話していました。

 ツシータがファルに話し掛けた理由は恐らく、強そうだからでしょう。モハナト遠征部隊の隊長クラリス然り、彼女はそういう人の所に寄っていく性質があります。


「……何のことですか? 僕まだ10歳なので難しいことは分からないです」

「そういうのは分かっている人がやる言動なんだぞ。というか! Aカップって呼んだよね!」


 シャルインはしばらくツヅルを睨みつけていましたが、

 

「はぁ……、まぁいいや。今回は許してあげるから、次からは気をつけるように。で、何? あたしに話し掛けた理由は」

「そうでした。A……、Cさん」


 絶対言うなよ!? というフリで注意したのかと勘違いをしたツヅルは、もう1回その名前を呼ぼうとしましたが、竜をも威圧するかのような鋭い眼光をこちらに向けてきたためやめました。


「Cさんはどういう魔法が得意ですか? 作戦を考える参考にしたいので。あ、後ついでに、FさんやGさんの得意魔法を教えていただければ嬉しいです」


 スライマナ、ルシラが闇属性以外の属性の魔法を放つことができるのは作戦会議の時に聞きましたが未だにこの3人の得意な属性を聞いていないことにツヅルは気付き、質問をしました。


「あたしは風が得意かな。風属性は水属性や無属性と同じように攻撃用の属性ではないっていわれてるけど、あたしクラスになれば全然そんなことないよ! まぁ、風属性以外の魔法は会長やルシラに劣るけどね。というか! あの2人は本当にエルフの中でもトップクラスの資質があるから! あたしをポンコツとか思わないこと!」


 シャルインは指を立てると、少し前を歩きます。

 実際に彼女らが戦っているところを見たことがないので仕方がないとはいえ、スライマナやルシラがそんな高評価を受けるほど素質のあるエルフだと知ってツヅルは驚きました。

 確かにそうでなければ北ミストレア森林から1、2百キロも離れたモハナトに来れないでしょう。


「ファル、じゃなくてFの得意属性はエルフの王道、聖属性だよ。あの見た目に反して回復魔法が一番得意なの。因みに、あたしもあの目の傷はどこで負ったのか知らない。そもそもあたしは会長たちが住んでいた集落出身じゃなくて、モハナトの北の森で彷徨っている時に偶々出会ったていうだけだからね。

 で、グラベール、じゃなくてGは……。というか! この頭文字呼び疲れるわ。……まぁあの子が良くも悪くも特別だからね。魔法は絶望的なくらい下手だけど、短剣や弓の扱いがその下手さを補うくらい上手い」


 ツヅルは話を聞いて頷きました。

 スライマナ、ルシラは器用長者で、シャルインは攻撃魔法としても使えるが妨害魔法として使用することが一般的な風属性が得意。ファルは聖属性、中でも回復魔法が得意で、グラベールは魔法は使えないが物理攻撃特化。

 スライマナが意識したわけではないでしょうが、この5人は中々に整っているパーティーでした。魔物討伐に行くのなら、文句のないものです。

 しかし、今回の敵はあくまで人間であり、潜入作戦のため派手なことはできません。それに、回復魔法が必要になるほどの怪我を負ってしまったらアウトです。

 ツヅルはため息をつきました。5人いえ自分とツシータを含めた7人の適切な運用方法を彼は屋敷に着くまでに考えなければならないことに憂鬱な気持ちが芽生えたのです。

 しかし、やらねば仕方がありません。

 しばし、ツヅルが唸りながら作戦を考えていると、


「本当に頭脳担当なんだね。君」


と、彼のやや前方にいるシャルインが感心したように言いました。ツヅルは視線を向けます。


「いや、ごめんね邪魔しちゃって。でも、『会長にこのちっこい少年が司令塔や』と聞かされた時はさすがに驚いたからさ」


 シャルインはスライマナの真似を挟みながら呟きました。

 確かに、ツヅルはまだ難しいことを考えず公園を走り回っていればいい年齢です。そんな年齢の子供が編み出した作戦に参加するなど不安極まりないでしょう。


「まぁ、会長やルシラが君のことを信用しているのならあたしも信用せざるをえないけどね」

「Aカップさん……!」


 彼女の優しい笑みにツヅルは感動したのかのような演技をしました。


「というか! 君、意地悪だよね!」


 シャルインは道端に転がっていた石を軽く蹴っ飛ばしながら叫びました。


「ツヅ、T! この人すごいの!」 


 そんなとき、いつもツヅルと呼んているせいで頭文字で呼ぶのが慣れていない――尤も慣れていてもどうかと思いますが――ツシータはファルを引っ張ってこちらに来ました。


「やぁ」


 連れてこられたファルは子供をあやすようにツシータの頭を撫でながら低い声で挨拶をしてきました。どうやら、この短時間で結構仲良くなったようです。

 どうも、とツヅルが簡単に挨拶を返すと、


「Fさん、元々傭兵だったらしいの!」


とツシータが元気よく言いました。

 それを聞いたツヅルは「北ミストレア森林の集落にいたはずの彼女が傭兵?」と首を捻ります。


「私は元々アークオス出身でな。アークオスというのはラビンス大陸の一番西にある国だ。そこにはたくさんの精霊族が暮らしていて、精霊族のみで構成されている唯一の国と呼ばれている。そこのエルフ師団という、他国に貸し出す用の傭兵に所属していた。何故そんな部隊が存在しているか、という疑問の答えは簡単な話でアークオスの強さを示すためだ。数年前、エルフ師団はベストロジア王国に貸し出され、そこで色々あり、スライマナ達のいた集落に居着いたわけだ」


 彼の疑問に気付いたのかファルは自身の過去を語ります。

 できれば色々ありの部分が聞きたかったのですが、自分の国から離れることになった理由なんて面白おかしく語れるようなものではないだろう、と思い諦めました。

 それにしても精霊族の国に傭兵にいるとはとツヅルは少し驚きました。彼にはどうにも人間以外が治める国が想像つきませんでした。

 モハナトでの暮らしに慣れたツヅルですが、文化が違い、科学の代わりに魔法があり、人間の他にも種族がいる、まさにファンタジーに等しいこの世界にツヅルはまだ慣れていないようです。

 無理やりそれをツヅルが飲み込んだ頃には彼らは目的地に着いていました。ルシラたちと別れた場所と同じL字路です。

 以前も語ったようにこのモハナトは細道が多く、馬車が安全に通ることができる道というのが限られています。

 モハナトの中央部にはモハナト公爵の巨大な屋敷があり、それに準じて大きな道が沢山あります。 

 このL字路は中央部北西にあり、住宅街である北西側から貴族街のある南東側に馬車で最短距離で向かうのに絶対通らなければならない場所でした。

 必ず馬車が通ると確定しているからこそツヅルはこの道を選んだのです。中央部に入られてしまったらもう進路の予測が付かないでしょう。

 人はやはり中央部だからか多いのが少し難点でしたが、その変わりと言うのも何ですがこの道路の外側はまるで草木が生い茂っているまるで整備されていない土地があります。

 聞くところによると、アルバリ家という侯爵家が不動産屋から買ったはいいものの何故か手を付けようとしない土地だそうです。

 単純思考で考えれば、何か考えがあって土地をまるごと買ったがその計画が頓挫したため現在も放置されているのでしょう。

 というわけでより中央区に近いL字路の内側の道にはそこそこ人がいますが、このアルバリ侯爵が有する土地の付近の道は通行人はいませんでした。誰も用がないのですから通る者はいないでしょう。


「あ、来たわ……!」


 ツヅルがこの道の状況確認が終わったと同時にタイミング良くツシータが馬車の到来を宣言しました。

 シャルインたちがその言葉に反応して、見てみると確かに遠くに布の被さった馬車が走行しているのが確認できました。しかし、それがスライマナたちが乗っている馬車なのかは彼の目では残念ながら分かりません。


「なんか緊張してきた……。というか! よくアレが見えるねー」


 馬車が何の異変も示さずにここに来たということはスライマナ達は成功したということか、とツヅルはとりあえず安心しました。


「ツヅル参謀長。如何して乗り込むのか?」


 ツシータは変に演技掛かった口調でツヅルに聞きました。


「戦闘は必要ないから、まぁ、とりあえず身体能力が低い順だな」


馬車の中にはスライマナ達がいるので、特に心配せず乗り込めます。


「あ! それじゃあ、一番最初はあたしだー。ほらー、あたしってば女の子だから運動苦手じゃん?」


 無理するなよ、といいたくなる可愛らしい声でシャルインは自分の運動不足を高らかに宣言しました。


「まぁ、風魔法を使用して馬車に乗り込むことも思いつかない3流風属性術士だから仕方ないか」


 ファルはそんな彼女の姿を見て嘲笑します。


「は? さすが、回復馬鹿は言うことが違いますね。回復魔法って愚劣さは直せない欠陥品だったっけ?」

「いや、回復魔法は悪くない、私が未熟なだけさ。私がお前の間抜けさを治すには後数億年はないと無理だろうな、すまない」

「ムキーッ! 昔、回復魔法を間違えて敵に掛けて、グラベールが死にかけたことを忘れたの!?」

「そうやって、お前は過去のことばかり持ち出して。お前だって『竜巻』でグラベールごと敵を巻き込んで、挙句の果てには倒せなかったことを思い出せないのか!」


 何故か唐突に始まった喧嘩を見て、


「あの2人、仲悪いのかしら……」


とツシータは不安そうに言いました。


「ああいうのは仲がいい証拠だ。……それよりも、Gさん不憫すぎるだろう」


 この口論をそっちのけて、ツヅルはグラベールが非常に苦労していることを知ると、合流したら(ねぎら)ってやろうと思いました。

 結局、順番はツヅル、シャルイン、ファル、ツシータという身体能力順になりました。

 自分が一番最初であることに少し情けなさを感じながらも、振り落とされたら洒落にならないので、ツヅルは先頭に立ちます。 


「はっ!」


 ツヅルは自分の目の前までやってきた馬車に飛び込みます。あくまでここは街道なので馬車の速さはそこまででもありません。

 この数日間討伐クエストを受けず、歩くことしかしていなかったので今日生き残り、宿屋に帰ることができたのならば良い睡眠になりそうでした。


「おぉう!?」  


 わずか一枚の布に遮られた馬車の中に入ることに成功したツヅルの眼にはまずスライマナが突然の来場者に驚く姿が見えました。

 彼女らに挨拶をする前に、次に飛び込んでくるであろうシャルインたちのためにツヅルは反対側に移動しました。


「あ、足が……つ、つった……」


 計画通り飛んできたシャルインはどうやら跳躍が足に来たらしく馬車内に入った途端、ゴロゴロと転がり始めます。その様子は簡潔にいえば猛烈に邪魔でした。


「年齢から来るやつか、ご愁傷様です」

「違うわよ! まだ、若いんだから……。いたい」


 そうしてすぐにファルとツシータがほぼ同時に飛び込んできました。


「ふぅ、揃ったな」


 ツヅルは馬車にいる6人の少女女性とリーフの父親らしき男を見て、再び安堵のため息を吐きました。男女比が如何せん偏っているのが気にならないでもありませんでしたが、リーフの父親、アラティスからはそんなことを気にすることができないほどに、この状況は異様でしかないでしょう。

 顔の下半分すら見えないほどフードを深く被った集団が何故か自分が乗っているオンボロ馬車に乗り込んできているのですから。


「君たち、何の目的があって……」


 短剣を突き立てられているからか、恐怖に歪んだ表情のアラティスは言います。この怪異とも思える状況の真相が知りたいと思うのは当然でしょう。


(さて、どう説得したものか)


 アラティスが結婚式に参加しないのはさすがに問題があります。ここでいかに上手く口説き落とせるかがこの先、リーフ救出を行うに当たって鍵となります。


「アタシよ!」


 しかし、ツシータはツヅルのそういう考えを無駄にするかのように、考えなしにフードを取り堂々とアラティスに顔を見せました。


「おい馬鹿……!」


 もし、説得するのが失敗したら顔がばれている者は処刑されるかもしれません。何故か今までフードを被っていたのか、と問いたくなるような行動に思わず辟易としました。


「……! 君は、ツシータちゃんだったか……!?」


 アラティスはそのフードの下にある容姿を知って驚いた様子です。どうやらツシータは彼と知り合っていたようです。


「そうよ、アタシたちはこれからリーフを誘拐しに行くの」


 印象操作などまるで考えないストレートな言葉で堂々とツシータは言います。この純色とも呼べるような彼女の性格はツヅルにはないものでした。


「……そういうことか。君たちは全員娘の友人なんだね。……それはありがたいけど、でも今すぐ帰ったほうがいい」


 その言葉を聞いて、この黒い外套の集団が何をしようとしているのかを理解したアラティスは悲観的に呟きました。


「どうして?」

「相手が強大過ぎる。もし、今日は成功してもきっといつかは見つかってしまうだろう。そうなったら、君たちは死を免れられない」

「……でもっ!」


 ツシータは何も言い返せないのか尻込みしていました。


「あなたはこの状況に屈辱を覚えないんですか?」


 それを見て、ツヅルは言いました。

 アラティスの言葉に感化されて諦めるほど彼の心は頭が良くありません。

 とても危険で、常人なら間違いなく手を引く問題。しかし、そこに順路や利益を見出せない男ならば青い蜂の時点で彼は死んでいたでしょう。

 神のご信託もユニーク性のあるスキルも異世界でも通じる身体能力すら受け取っていない、精々読み書きには不便しない程度のご加護(・・・)で人のいない泉の付近に放り出されました。

 きっと、クラリスがあの場所を通ってくれなければ死んでいただろうし、ツシータがクラリス厨で一緒にクランを組んでくれなければ未だにその日暮らしから抜けられなかったでしょう。

 今まで生きてこれたのはツヅルの頭脳が卓越しているからではありません。


『あなたは確かに大したことはないけど、チャンスと人を使うのが上手いと思うわ』


 ツヅルの脳にそんな言葉が響きました。もちろん、テルランではありません。前世の記憶でした。


「……どういうことだ?」


 急に聞かれたので驚いたのかアラティスは聞き返します。ツヅルは幻聴を振り払って答えます。


「分家というだけで娘が強制的に結婚させられ、いざ子爵邸で結婚式となったら移動にこんなオンボロ馬車に乗らされるこんな現状に、不平不満は浮かんでこないんですか? よくある話だ、で済ませることができるんですか?」


 生まれた家で自分の価値がだいたい決まる。とても、シンプルで簡単な制度ですが、下にいるものは不満を持ちます。当然、身分社会が一般的だと思っている者にも、です。

 説得するにおいて、その不満は実に有り難いものでした。


「……リーフ」

「そうです。貴方の一人娘であるリーフは現在、オズワルとの結婚に胸を苦しめています。しかし、それは貴方の責任ではありません。全てはフォート・ララティーというフォート家最初の当主から始まった因縁のせいです」


 思っていることいないこと、ただアラティスを説得するためだけに造られた言葉たちをツヅルは声として排出します。


「………」

「もし、その因縁を断ちたいのなら、僕たちに任してください

「……1つだけ君に質問する」


 アラティスはツヅル言葉を聞き終わった後、そう小さな声で言います。


「何ですか?」

「君にとっての、リーフのいいところを教えてほしい」


 これには今まで言葉巧みに説得していたツヅルもキョトンとしました。

 作戦を聞いたり、リーフへ危害は加えないで欲しいという懇願なら分かります。彼にはその質問が予想の範囲外でした。

 しかし、あまり黙っていると変に思われるのでツヅルは無理やり口を開きます。


「僕はモハナトに来てからまだ2週間しか経っていません。僕がリーフの良さを語るにはまだ日が浅いでしょう」

「………」


 なんと答えるのが正解なのか、と迷いました。

 その時、ツヅルの頭には自分やツシータに迷惑は掛けまいと必死になって望まぬ相手との結婚という不幸を受け入れようとしていたリーフの姿が浮かんできます。 

 それが彼女の最も印象的な光景でした。その献身さに彼は愛しさすら覚えていました。


「リーフはただの友人です」


 その言葉は間違いなく素直な思いでした。


「……人が手塩にかけて育てた娘を、ただのとはよくも言ってくれたものだな」


 数秒間の沈黙の後、アラティスが呆れたような怒っているような顔で呟きます。ツヅルがその表情を見て思わず絶句してしまいます。


「………」

「ははは、冗談だよ。……私はもう決心した。今後のことを君たちに任せるよ」


 ところが、数瞬後アラティスはまるで貴族とは思えないほど無邪気に笑い、そして彼らの願いを受け入れました。


「はー、よかったわ。ここで決裂したらここまで苦労全部オジャンやからな」


 アラティスがツヅルと結託した様子を見て、今までジーと様子を見ていたスラマイナが伸びをします。


「よし、これから皆でリーフを頑張って救いましょう!」

「まだ侵入すらしていないのに何故、私はこんなに疲れているんだ……」

「が、頑張ります!」

「……何とかなったか」

「『リーフはただの友人です』、だってよ!」


 やはり、同じものを見せても人によって反応が変わるもので、気合を入れ直すツシータ、これから先を案じているルシラ、緊張しているグラベール、安心しているファル、先程の意趣返しとばかりに声真似をしながらとりあえず煽るシャルインとまさに十人十色でした。



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