三十二話 子爵とエルフの血 3
1日ほど時を飛ばして、3月15日。遂にリーフの結婚式当日でした。天候はこの地方では珍しい曇りでした。現在、ツヅルはギルド付近の人の少ない路地で黒いフードの付いている外套を深く被りながら立っています。
もちろん、これは寒いからではなく、さすがに顔が見えたまま潜入するのは駄目だろうということで先日スラマイナからツシータの分と合わせて2つ借りたものでした。
隣にはツシータが同じようにフードを被っています。
不満や愚痴をたれるネリーに何とか言い聞かせて宿屋に置いてきた彼らが何故まずこの場所に向かったのかというと、スラマイナたちを待っているからです。
このモハナトの南にある薄暗い路地を待ち合わせ場所にした理由は、モハナトの南東に位置している貴族街にあるフォート家の屋敷に行くにあたって、ここに集合すれば距離が近く且つ人に見つかりにくい道を通ることができるからでした。
時間は7時半。リーフが連れて行かれるのは10時からなので、若干早すぎる気もしますがこのリーフ誘拐計画は貴族の屋敷に忍び込むなんてバレたら即死刑になるような計画なので、慎重に越したことはないでしょう。
昨日一日で調べ回り、フォート子爵邸の周りの地理はほとんど完全に把握したものの館内や庭にどれほどの護衛が存在するかどうかすら分からず、今日実際に見て安全にどこにあるかすら分からないリーフの部屋まで行けるルートを探さなければならないことがただひたすらにツヅルの不安を煽っていました。
そう、さすがのツヅルもたった数日間で貴族の屋敷に忍び込む計画を完全な状態で立案することはできなかったのです。
「ツヅル」
脳内シュミレーションを行っていた彼に可愛らしい少女の声が掛かりました。もちろん、隣りにいるツシータです。
「どうした?」
「剣は抜いてもいいの?」
頭を少し傾けながら、彼女は聞きます。必要な場合は殺してもいいか、という問いなのでしょう。
「命の危機を感じたとき以外は極力避けてくれ」
ツヅルは簡潔にそう答えます。
フォート子爵家も曲がりなりにも貴族です。その関係者を殺してしまうと、後々面倒くさくなるのが容易に予想が付きました。
彼女は頷くと、また黙ります。
どうやら、その様子を傍から見るにツシータは人の家に潜入という倫理的にあまりよろしくない行為を今からするということに罪悪感を感じているようでした。
ツヅルも前世の10歳頃は犯罪を犯す度胸もない、というよりもそもそも犯罪をしようとすら考えることのない普通の少年だったので、気持ちは分からないこともありません。
「人の敷地内に入ったボールを取りに行くようなものだ。そう緊張するな」
一応、精神自体は大人である人間としてはあるまじき説得方法でツヅルはツシータの罪悪感を消し去ろうと試みました。
「……うん」
それを聞いた彼女は意味を理解したのかしていないのか、静かに頷きます。
まだ頭の中で葛藤しているようだったので、ツヅルは――その理由を説明しろ、と言われたら難しいでしょうが――ツシータの頭をフードの上から撫でました。
すると、驚いたのか頭が少し跳ねましたが、別段拒否はされなかったので数十秒ほど続けていると、
「いやー、遅れてしまったわ。すまんな」
と、これから重要な任務に挑みに行くことを理解していないかのような態度でスライマナがツヅルたちと同じ外套を着込んでやってきました。
後ろには4人ほどいて、やはり皆同じような格好をしています。ルシラと研究会のエルフ3人でしょう。
「首尾は?」
スラマイナは格好つけるかのように声を低くして言いました。
「まだ開始すらしてないじゃないですか……。後2時間と25分ほどでターゲットがF家に馬車で移動を開始する予定です」
ターゲットとはリーフ、F家はフォート家のことですが、この呼び名は昨日のスライマナの「何かスパイって感じがしてカッコええやん!」という特に意味もない発言が由来しています。
「馬車で『宿屋―F家』間を走るにはどれくらいの時間が掛かる?」
「検証していませんが、町中での馬車の速度と大体の距離から計算してみると30分程度かと」
ツヅルたちは薄暗い路地を歩き始めると同時に淡々と作戦確認を行います。
彼らが今いるギルドの路地からフォート家まで人があまり通らない道を通るので、遠回りとなり歩きで行くとなると25~30分程度掛かることが分かるので、時間はたっぷりあるものの若干早足でした。
「じゃあ、ターゲットが来る前に侵入するのもありちゃうん?」
スライマナが会議中に一案思い付いたかのような軽い口調で呟きました。
「難しいですね。フォート家の後ろには3メートル程度の巨大な壁がありますし、正面や側面には警備員が大量にいるでしょう」
「そんなもんターゲットがF家に入ってからも同じやんけ」
「まぁそうですけど。ターゲットが到着する前に警備員を眠らせたり、気絶させるのは色々と危ないと思います。到着した後なら、電撃的に突入できますけど」
「……何かそれ聞いて、姉ちゃん心配になってきたわ。そうかー、Tの頭の中の作戦ではそんな攻撃的なものになっとんか……。確かに、睡眠魔法で少しずつ眠らせてとか格好いいことはできないやろけど」
Tとはツヅルのことです。この他にもツシータはTU、ルシラはR、スライマナはSと頭文字を取った略称で呼ばれていました。
「いえ、昨日も言った通り最初はばれないように行こうと思います。向こう側に発見されたら、突破できる場所を見つけて集中攻撃しながらどんどん警備網を瓦解させます」
さて、そんなこんなしている内に20分ほど歩いて、現在8時。少年故に既に疲労した様子のツヅルは貴族街の近くにある住宅街の空き家の2階からフォート家を眺めていました。
「これ肉眼じゃ見えへんやろ! 米に書いた絵か!」
この空き家は、さすがに黒色の外套集団がいきなり貴族街に乗り込むわけにもいかない、ということで監視のためにツヅルが予め見つけておいたものです。
2階の窓から、豆粒のような大きさのフォート家を見たスライマナは頭を抱えました。
そういいたくなる気持ちも分からない訳ではありません。
数ある空き家の中から全く疑われずにフォート家が見ることができて、人があまり来ない場所にあるのはこの家くらいでした。
「やっぱり無理ですかね」
「『照準』なら見えるんじゃないか?」
折角探したのに、と落ち込むツヅルを見てルシラが言いました。
「照準」とは遠くを見るために造られた無属性魔法で、魔法陣を用いるのではなく人差し指と親指で輪を作ってそこに魔力を注ぎ込むのが一般的な詠唱方法です。
「あー、モハナトに来てからは狩りとかしておらんかったから、忘れとったわ! それがあったか」
スライマナはそう言って、「照準」を使用し始めました。
彼女の片目を瞑りながら指で作った輪を覗き込む様子を見て、本当に標準器のような役割の魔法なのかとツヅルは興味津々に見つめていました。
「ん? 教えてほしいんか?」
煽るような表情をしたスラマイナは腰をかがめてツヅルの顔を覗き込みました。
「教えてほしいです」
「あ、アタシも! 使えないかもしれないけど……」
そんな彼女に思わず頬打ちしたくなる気持ちを抑えたツヅルは即答し、ツシータも自信なさげに言いました。獣人は一般的に魔法の習得速度が他種族よりも劣っているという研究結果があるそうです。
「じゃあ、何かすることあるよなぁ……」
そんな彼らを見て、スライマナはいよいよ悪い笑みを浮かべます。
「お、お願いします」
ツシータはそんな彼女に怒らずに素直にそうお願いしました。
「スパイごっこには付き合ってあげてますよ……」
しかし、図々しいツヅルはそう呟きます。
「T、お前ほんっんとうに可愛げがないわ。TUちゃんくらい素直になれば多少は子供らしくなると思うで」
「悪い笑みを浮かべられるほど大人になったつもりはないですがね」
「……! このやっちゃ!」
あの自由奔放なスライマナが少年と口論しているのを見た他のエルフ3人は目が点になっていました。
一応、ツシータやルシラなどの緊張を解すためという理由があったツヅルとスラマイナの掛け合いを終え、彼女はツヅルとツシータに「照準」の魔法を教えていました。
「こうな、まずキュイーンってな感じで魔力を集中させる。まぁ、ここまでは簡単なんやが……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「何や?」
「今、何の説明をしているんですか?」
このようにスライマナの授業は感覚派で聞く所によると、彼女は、魔法学など知った事かと理論をまるで学んででこなかったようです。
「会長、私が教えます」
部屋の隅からこの噛み合っていない授業を見ていたルシラが手を上げました。さすがに、これを数十分と続けられてはたまらなかったのでしょう。
「えー、まずいつも魔法を使う時は魔法陣を使う。お前たちがそれの意味を考えたことがあるかどうか知らないがな」
部屋の中心にいるツヅルたちに近づくと、ルシラはスラマイナを押しのけて授業を開始しました。
以前にも語りましたが、魔法陣とはいわばアダプターのようなもので、何の力も持たない魔力を火属性や水属性に変換する役割を担っています。
例えば、火属性魔法と水属性魔法が「二重魔法」で同時に使えない理由はこの魔方陣のシステムが関係しているのです。
「攻撃魔法とか他人に使う補助魔法などは素直に魔法陣を使用していればいいんだが、自分に何か補助魔法を掛けたい場合や、今回の「照準」のようにそもそも放つ必要のない魔法のときはそう簡単にいかない。何故なら、魔法陣は自分の体の前に出現し、魔法が放たれる方向は前方と決まっているからだ。もちろんそれにも理由があるんだが今回は置いておく」
魔法陣を用いて自分に補助魔法を掛けるには、軌道をブーメラン状に設定して放たなければなりませんが、それは高難度の技術です。
「私もあまり魔法史には詳しくないんだが、魔法陣を介さなければ魔法は放てないがその肝心の魔法陣は先程の語った性質を持っているから、8世紀頃に魔法が開拓されてからもしばらく『自分に魔法を掛ける』という概念がなかったそうだ。しかし、どの時代にも鬼才というものはいるもので今から400年前、10世紀だな。名前は覚えてないがそれを解決したやつがいる」
ルシラは一息つきました。
「まず、その男は『魔法陣を動かせばいい』と考えたそうだ。まぁ、その結果は失敗に終わったがな。どんな方法を試しても魔法陣は自分の心臓の前にあった」
数学史や文学史などがそこそこ好きなツヅルは中々に面白いと思いながら聞いていましたが、尻尾も耳も脱力した様子のツシータは若干ウトウトし始めています。
意外に「教える」ということが好きならしいルシラの授業は、普段の彼女からは考えられないほどの熱の入った親切なものでした。
「ここまでなら少々魔法が好きな一般人止まりだったんだが、こいつの凄いところは次の発想だ。『魔法陣を魔法で作ってしまえばいい』と思い付いた」
小難しい歴史を聞かされて頭脳が働いていないツシータには難しかったのかルシラの言葉を聞いて、キョトンとします。
これはつまり「魔法陣が動かせないのなら、動かすことのできる魔法陣を魔法で作ればいいじゃない!」ということです。
少し強引な方法じゃないか、と思いつつもツヅルは感心します。
「そして、これは成功した。まぁ、細かいところは自分でやってくれ。つまり、『照準』だったらまず作った輪に魔法陣を造り、その造った魔方陣で『照準』を詠唱すると考えるんだ」
「でも、それをして何の意味があるんですか? 普通の魔法陣でやっても、『照準』を発動させること自体はできますよね」
ツシータが手を上げました。
「普通の魔方陣だと空間の一部がそのまま『照準』となるから動かせないんだ。しかし、指なら動かせるだろう?」
なるほど、とルシラの教えにツシータは納得したように頷きます。
「じゃあ、とりあえず一旦『照準』を見せるから見よう見真似でやってくれ。さすがに魔術書に書いてあることを教えるのは面倒くさいからな」
ルシラはそう言って、指で輪を作り詠唱を開始しました。
そうすると、すぐさま銀色の魔法陣が彼女の目の前に出現します。あれが、魔法陣を造るための魔法陣ということでしょう。
「『照準』」
そして、ルシラがそう呟くと、1秒も経たずにその輪に魔法陣が生まれ「照準」を発動されました。そのお手並みはさすがエルフと賞賛を贈りたいほどでした。
「どうだ? できそうか?」
私の役目は終了した、と言いたげな態度で手本を行ったルシラは近くにあった椅子に座り込みました。ツヅルたちは魔法を詠唱し始めます。
「火炎波」などは想像しやすかったため習得は簡単でしたが、魔法陣を造る魔法といわれても想像がしにかったのですが、いち早くそれを使用できたのはツヅルでした。
前世からよく考え事をしていたことにより想像力が高くなっていたからなのか、数学などよってツシータよりは抽象的な考えに慣れていたのかは分かりませんが、彼は自分の指に魔法陣を造ることに成功しました。
ここからは詠唱するだけの作業です。銃の照準器というこの「照準」に似たものを知っている異世界人のツヅルにとってその魔法を理解するのが簡単だったので、スラマイナたちの予想よりもかなり早くに習得できました。
「ありがとうございます。Rさん。Sさんよりも分かりやすかったです」
「私も同じような教え方やったんけどなー……」
ルシラへの感謝の言葉に不服そうなスライマナは少し俯いていました。不憫に思いますが、致し方ありません。
「どうだ?」
「……今日のところは諦めるわ」
目的の時間である10時までは後1時間半といったところでしょうか。腕をスッと下ろしたツシータはどうにもイメージが湧かないようで自分に呆れたかのように諦めました。
「まぁ、誰かの『照準』を見せてもらえば……」
そんな彼女を慰めるためにそう言葉を掛けたツヅルはとあることに気付きます。
「そもそも、最初からSさんかRさんのやつを一緒に見れば無駄な時間は省けたんじゃ……」
「………」
「………」
異議はなかったのか、一同沈黙しました。
「おー、よく見えるわー。ここは意外にいいスポットかもしれんなー! ゲヘヘ」
「口を謹んでください」
「でも、私ら「浮遊」で女子が水場で遊んでいるところを覗くおっさんとやっとること変わらんで?」
ツヅルは空き家から先程習得した「照準」でツシータと共にフォート家の警備員の数を調べていました。スライマナの言った通り、傍から見たら変態集団に見えること間違い無しな光景でしたが、目的のためには仕方ありません。
先程から貴族がよく使用している木や布ではなく鉄で作られた、所々に装飾してある馬車がフォート子爵邸の正門から入っていくのが見えました。
貴族の結婚式は一種の社交場なので当たり前といえばそうなのですが。
「正面の門には4人……」
スライマナやルシラが雑談に耽る中、ツシータは彼の「照準」を覗いて真剣に数を数えていました。
「ツシータ。時間はまだまだだからそんなに気を張り詰めなくてもいい」
優しげな口調で彼は呟きます。
この作戦に失敗したらリーフが危ない、と思っているからこそこのように焦っているのでしょう。
ツシータのその仲間を思う気持ちは美点ですが、現在のように焦るべきでないときに焦ってしまうのは少し汚点、というよりは弱点となりうるものでした。
ツヅルやスライマナなどは、その緊張を解すためにいつも以上に雑談をしていたのですが彼女にはあまり効かなかったようです。
「……うん」
彼女は日常会話では見せない暗い低い声でそう呟きました。
少しそっとしておいたほうがいいな、と判断したツヅルはフォート家の屋敷を再び観察します。
馬車1両どころか一気に3両は入る横幅の正門には長い槍を持った警備員4人がジッと立っていました。また柵越しに見た限り、門を通るとレンガで造られた道があります。道を少し外れると、ガーデニングがしてある庭や倉庫らしい小さな小屋があるのが見えました。
先程から正門をゆっくりと通り過ぎている貴族の馬車が屋敷の左右どちらかを抜けていっているので、馬車小屋は2つあるのでしょう。
そして、屋敷はさすが貴族。宿屋やギルドなんか目じゃないほどの大きさで、2階建てであり、渡り廊下らしき通路で繋がれている東館や西館がありました。
「会長、将来あんな家に住んでみたいです」
「いやー、逆に落ち着かんやろ」
スライマナたちも丁度屋敷を見ていたのか感想を言い合っていました。
ツヅルは昨日、疑われないように孤児の子供を装って一応下見しましたが、改めてフォート家の外を順々に見ていきます。
モハナトの南東側の貴族街の中央付近に位置するフォート子爵邸は左隣にラミ伯爵邸が建っており、右隣には貴族用の商店街、後ろには路地を挟んでこの街に4つあるギ・ラーク教会の内の1つがあり、正面には大きな馬車道を挟んで巨大な噴水のある広場があります。
貴族といえば広い屋敷というイメージがありますが、この世界では魔物という脅威があるので――もちろん、庶民目線から見たらかなり大きいものの――広い敷地の屋敷を持つ貴族はあまりおらず、男爵、騎士爵の屋敷が三軒連なっているということも少なくありません。
商店街が横にあるというフォート家の位置を見て、結構好立地だなと思うのはツヅルが貴族ではないのが原因でしょうか、不思議なことに公爵や侯爵は中々こういう場所に屋敷を建てたりしないようです。
(まぁ、潜入する側の僕たちからみたら本当に悪い立地だが)
教会、商店街、広場という人が集まる場所ベスト10にランクインするような場所が固まっているのです。何と侵入しにくいことでしょう。
「幾つか窓は見えるけど屋敷内の巡回警備とかはなさそうだな。尤も屋敷に到達するのが難しそうだが」
「なぁ、T。本当に正面突破するんか? できる気がせえへんのやけど」
「そうですね……」
「おい!」
スライマナの不安にツヅルは思わず同意してしまいます。
(あくまで侵入してリーフを引っ張ってくるだけ考えていたけど普通に難易度高いな……)
彼はこんな作戦を立案した自分を恥じました。しかし、もう作戦当日が到来しててしまったのですから仕方がありません。ツヅルは作戦を正すべく頭を回転させました。
教会とフォート家の間の路地から「浮遊」か何かで壁を飛び越えるというのも考えにくいです。3メートルを素早く浮遊するのはまだツヅルやツシータにはできませんし、スライマナやルシラの「浮遊」で壁を越えたとしても7人の内、1人でも街の誰かに見られたら、即アウトでしょう。だったらまだ逆方向に走ればすぐに逃げることができる正面突破の方が安全でした。
次にツヅルが思い付いた方法は馬車に乗り込むことです。
騎士爵や男爵など警護の少ないであろう貴族の馬車を狙って押し入る、いうなれば馬車ジャックでした。
ここまでくると本当にテロリストだなと彼は思っていましたが、この方法が中々有効策になりうることにも気付いていました。
いくら、人間よりも遥かに身体能力が高い獣人のツシータと、狩猟に慣れ幾多の危険を経験して、一子爵家の護衛なんぞ話にならないほどの魔法能力を持っているエルフが5人がいるとはいえ、こんな貴族街のど真ん中の、しかも沢山の貴族が集まる屋敷に正面突破というのは馬鹿が過ぎるでしょう――尤も、ツヅルはエルフや獣人を過信していて真面目にその作戦を選んだわけですが――。
「騎士爵や男爵の馬車を乗っ取るというのは?」
というわけで、彼はスライマナたちにそれを進言しました。
「やっぱ、普段の性格に依らず大胆な作戦を立てるな」
「だが、ターゲットがF家の屋敷に到着するまで二時間もない。正面突破は少なからず犠牲が出るだろうし……」
3人で集まって悩んでいると、ツシータがツヅルの袖を引っ張ってきました。
どうした、と聞くと、どうやら彼女も一案思い付いたようで、
「リーちゃ、じゃなくてターゲットのお父さんも当然、馬車で来るじゃない? だから、頼み込んでその馬車に乗せてもらうっていうのは……」
と自信なさげに呟きます。
「それや!」
それを聞いたツヅルがその作戦を聞いて悩んでいると、横から入ってきたスライマナが同意しました。
「いや、でも今から宿屋に戻るというのも、というかそもそもターゲットの父ならターゲットと同じ馬車に乗るんじゃないか?」
「そうなったら、適当な馬車を奪って偽装工作をすればええやんけ!」
「ターゲットの父が乗っている馬車を乗っ取るのはいい作戦だと思うな」
ツヅルは反論したものの、結局スライマナたちに押し切られてその作戦を実行することになりました。
しかし、この作戦には問題点があります。
子爵家の長男の結婚相手となる少女の護衛が厚くない訳がありません。リーフとリーフ、アラティスの父の乗っている馬車が別々ではなく同じだった場合、この作戦の成功率がガクッと下がることは間違いない、ということでした。




