注解2 ギルドと国
注解その2です。
ところで、国、教会、商会、ギルドの4つのパーツ内、冒険者ギルドだけ浮いているとお思いになられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
国も言わずもがな。教会と商会は神と金という力を備えています。しかし、ギルドは冒険者が集まる職業案内所とそう変わらない場所です。
というわけで、ファリースリという薬物を取り巻くモハナト冒険者ギルド対モハナト公爵について語るために、なんて名目でギルドと国について説明します。
ギルドはこの世界で初めて成立してから4桁年は越える古い歴史がありますが、長い間国に従順な組織で、実際に国とギルドが争い始めるようになったのは、神暦917年に起こったとされる「冒険者革命」と呼ばれる事件からです。
914年、ビマクレ王国という5つの大陸の一つであるアカイック大陸の大きな国の王は、当時は国に従順だった冒険者ギルドに過剰な税を掛け始めました。これはこの数年前に起こった大規模な戦争で他国に負った負債を返済するためでした。
当然、ギルドはそれを払わないといけないのですが、それには運営資金として冒険者の報酬金から抜いている僅かな金額では足りませんでした。
ギルドは、日毎に少しずつ運営資金を高くし始めます。
最初の内は冒険者は気付いていませんでしたが、3年ほど経つとまともにクエストをこなしているのに餓死者が出るほど運営資金は高くなり、これに激怒した冒険者達は「ビマクレ冒険者事件」を起こしたのです。
税金という制度を知っている冒険者は少なく、彼らが、ギルドが俺たちの金を抜いて自分たちのものにしていると勘違いしたため起こった事件で、冒険者数十人がギルドを占領し、金庫を強奪しました。
しかし、その金庫には僅かな金銭しか残っておらず、当時のギルド長に知らされて冒険者たちはやっと税金を知りました。
結局、怒りの矛先はビマクレ王国に向かいます。冒険者達は老若男女問わず人を集め「ビマクレ城の戦い」を起こしました。
この時、冒険者たちを率いていたのが現在、アカイック大陸の4分の1を占める領土を持つ超大国のレドクロイト王国の初代国王のレドクロイトです。
戦いは1ヶ月にも渡り行われましたが、結果はレドクロイト側の勝利でした。
落ち目だったビマクレ王国を滅ぼして、新たに王国を設置し、国王となったレドクロイトは「ビマクレ冒険者事件」のお詫びとしてギルドの権力を国から分離させたのです。
そして、その時に書いたのが今でも読まれている『革命権利』という本であり、これが当時の世界に広まって、冒険者やギルドが国に反乱を起こすようになりました――この150年ほど前にクルーラル・メラルトが魔法による製紙技術、複製技術の開発に成功している――。
ベストロジア王国はこの時、ギルドに対する税は少なかったので、冒険者が反乱を起こす可能性は少なかったのですが、第一次ステイリー戦争と呼ばれる海に進出するための重要な戦争を行っていました。
当時の国王イト12世は、今反乱を起こされたらたまったもんじゃないということで『ベストロジア王国の利益を損なうような行動を行わない限りは、各街の冒険者ギルドの権利を不可侵のものとする』という法を王国閣議によって制定し、国民の不満度を下げて、無事彼らはその戦争に勝利したのです。
そして、この昔話の本題です。
神暦1215年。現在から約170年ほど前に起きた事件です。
まず、世界情勢について語ると当時は戦争が激化していて、『戦争期』と呼んでもおかしくないほどの戦いが起きていました。
当時、ベストロジア王国は「ネミカラ争奪戦争」においてルリガイア帝国に完敗し、領土が残されるところ建国当時のウェート山脈に囲まれた土地しかなくなってしまいました。
以前にも語りましたが、このときのベストロジア王国騎士は千人程度です。因みに、敵のルリガイア王国軍は8万人以上いました。
明らかに勝てる戦いなのにも関わらず、何故ルリガイア軍はそれ以上王国の国土に攻め込まなかったか、という疑問の答えは3つほどあります。
1つ目は当時のベストロジア王国は世界から「防衛戦と撤退戦の上手さは世界一だ」と評されていることから。
それに関連していて、2つ目はルリガイアの国王、また幕僚達の「流石にあのベストロジアが兵士を千人しか用意しないということはまずありえない。おそらく、あと最低でも1万人はいるだろう」という見当違いから。
3つめは、ルリガイア帝国は王国との戦争が終了したら別の国に戦争を仕掛けようと考えていたからでした。
この3点により、ベストロジア王国は何とか滅亡の危機を脱したのです。
このネミカラ争奪戦争を引き起こし、愚王と呼ばれたイト28世が官僚の1人に殺されたので、即位したイト29世や他の宮廷勤務の大臣、騎士軍の関係者はルリガイア帝国の比較的甘めな終戦交渉を見て安堵の溜息をついていたそうですが、長い間戦争をして、しかもそれのために高い税金を取られ、挙句の果てには敗北したとなっては流石の国民も黙っていません。
当時の王都の冒険者ギルドの長だったマルトルは、「僅かばかりの兵士しかいないから、と私のところから何百人の冒険者を持って行きながら無残に敗北するとは」と激怒し、彼と同じくこの敗北に怒りを覚えている王都の民、1200人ほどを集め王国に対立しました。
一時はベストロジア城の手前までたどり着いたマルトル軍ですが、イト29世の「ベストロジア城の逆包囲」という戦史に残るような見事な包囲戦により700人を殲滅され、結局敗北してしまいました。
勝利したイト29世は、マルトル軍を下した時点では名将だったのかもしれませんがここで大失態を犯します。
マルトルを処刑してしまったのです。
マルトルは若い頃はS級冒険者であり、しかも世襲制ではなく選挙で王都のギルド長に上り詰めるほどの王国全土に響き渡る人気を所持していました。彼の死は、伝言ゲームのように東ベストロジアまで広がり、イト29世が戦争に敗北した腹いせに戦争反対派だったマルトルたちを殺したと歪曲されました。
人は近くの店が盗難にあったとしても同情を寄せる程度の反応しか見せませんが、いざ自分がその標的になると激しい憤怒を抱く生物です。
もうこの時には冒険者たちは自分たちの手元に『冒険者の国にすら干渉されない絶対的な権利』があると思い込んでいたのです。
マルトルの死はそれを剥奪するものに彼らは感じられました。
そして、一つ一つの街の冒険者は抗議のために、その街の領主の屋敷までやってきました。
結果だけを語ります。結局貴族側は冒険者の暴動を止められず、10個以上の街でギルド対王国、すなわち、冒険者対遠征部隊の構図の戦闘が行われ、遠征部隊、貴族もろとも壊滅した街もあれば、すぐに冒険者を鎮圧できたのでそこまで被害がない街もありました。
一ヶ月後、イト29世がこの冒険者暴動のストレスで自殺したことにより、この内乱は幕を閉じました。
ギルドがこの世界で一勢力としての地位を確立しているのにはこんな様々な戦いが関係しているのです。冒険者は戦争のときの予備戦力ともなるし、国が動かずとも魔物という害獣を狩ってくれるので国には必要な職業です。
これらの要素から考えると、冒険者という職業は国に対してのみ誘導が簡単な革命材料となるのではないでしょうか。




