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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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二十九話 子爵とエルフの血 1

 国とギルドと商会と教会。この4つは、ベストロジア王国史、いえこの世界の歴史を語るために必要になってくる重要なパーツです。 

 冒険者ギルドは表面上、世界各国で一種の治外法権を取られていました。

 教会も宗教という圧倒的な権威があり、ギルドに近い措置が取られています。因みに、ここでいう教会とは世界の人口の過半数という膨大な数の教徒がいる、ギ・ラーク教のことです。

 特に大きな商会――商人たちが集まった組織――はそれこそ国すらも介入できないほどの莫大な資金や多くの金銀財宝を所持しています。

 つまり、どれも国からある程度独立している側面があって、それ故に内戦や戦争が起きる発端となってきたり、国が牛耳られたりすることがありました。

 国家の力が強いのは言うまでもないでしょう。

 ベストロジア王国のギルドの制度というのは極めて一般的なもので、王都やモハナトなどの街に一つずつ設置され、表面上はそのどれの権力も同等です――表面上という言葉通り、裏では様々な権力争いがあるのですが――。

 ギルドの長たるギルド長は前ギルド長の指名で決めますが、例外が存在します。前ギルド長が指名をせずに死んでしまったりした場合や、新しくできた街で前ギルド長がそもそも存在しない場合などです。

 そんな時は、ギルド長選挙を行い、一番支持が多かったものが新ギルド長となります。

 つまり、極一部の例外のみ民主主義で、その他は基本的に世襲制のようなものでした。 

  



 さて、話を戻しましょう。

 ツヅルはナラスたちとの会談を終えて、ギルドに内蔵されている酒場の椅子でミルクをちまちまと舐めていたネリーの不平不満を聞き流しつつ、精霊研究会会長のスラマイナに会うために着実と北西の方向に歩みを進めています。


「全く、女を待たせる男はモテないぞ!」


 やっと長い長い愚痴が終わった、と思ったら今度は説教が始まりました。どうやら、ネリーは退屈というものが極度に嫌いなようで、ギルドの中では暇を潰せなかったらしく非常に不機嫌でした。

 じゃあ、ギルドの酒場かなんかで食べ物を頼めばいいじゃないか、と彼が言いましたが曰く、一人で食べるのはなんか嫌らしいです。


「悪かった、悪かった」 


 こんなことで謝るのも何だかな、とツヅルは思っていましたが、そんな感情はおくびにも出さずにネリーの頭を優しく撫でながらすぐにけ謝罪しました。


「それで、自分の身長の高さを自慢したつもりか!」


 彼女はジタバタとしました。別に彼女は確かに小さいですが、身長にコンプレックスを持っているわけないでしょう。この言葉を訳すと、「撫でるな!」ということです。

 ツヅルは更に力を強くして痛くはない程度の撫で攻撃を行いました。


「やめろー!」


(あれ、なんか可愛く見えてきたぞ)

(……お主、加虐癖があったのか。普通に引くのじゃ)


「……今!」


 久々に現れたテルランが呆れるような声でそう呟くと、途端にネリーはツヅルの手を自分の頭から退かそうとするのを辞めて周囲をぐるりと見渡します。


「どうしたんだ?」


 彼にはその意図が理解てきなかったので聞くと、


「なんか今、すごくのじゃのじゃいいそうな少女の声が聞こえた!」


とネリーは頭を横に傾けました。

 さすがのツヅルもこの言葉には驚きを隠せませんでした。


(……テルラン、一回喋ってみてくれ)

(妾は天才、博識、純真無垢で清廉潔白、後最強じゃ)


 急に投げ掛けられたテルランは何の迷いもなしに自画自賛を行います。

 その胆力に若干関心しながらもツヅルはネリーをジッと注視しました。


「……!? また、聞こえた! あれみたいな言葉で!」


 どうしてかは皆目検討もつきませんが、この反応でネリーがテルランの言葉を聞くことができるのが確定しました。


(あれみたいな言葉というのはどういう意味じゃ?)

(頭のおかしい子みたい?)

(な、なんじゃと!)

「なんか怒ってる!」


 ツヅルはとりあえず今はテルランを黙秘することに決めます。その理由は単に今彼らがいる場所が人通りの多い町中だからです。テルランには今日彼女がいるところでは話さないでくれと頼み込み、肝心のネリーには帰ったら話すで通しました。


(僕が頭を撫でるとテルランの声が聞こえるのか?)


 そんな見当違いな考えを胸中に抱きながらツヅルはゆっくりと歩きました。例の如くネリーの歩みが疲労時のメアよりも少し早い程度の速度しかないせいです。

 そうして三十分弱ほど歩くと、精霊族研究会が見えてきました。


「入っても?」

「……ああ」


 昨日と同じ黒色の外套を深く着込んで顔が見えない門番に入室許可宣言を出してもらうと、ツヅルはその白色のレンガの一軒家へとお邪魔しました。


「ネリーはエルフを見たことがあるか?」


と、研究会のエルフを見ても全く動じないネリーを見たツヅルは問いました。


「本で見たことある!」


 この答えを聞いて、そういえば普通の少女とはちょっと違うんだったと彼は思い出しました。

 彼女にとって旅行は写真集もしくは旅行記があれば簡単にできるものなのでしょう。


「……ツヅル」


 地下に向かう階段の方へと赴きながら他愛もない会話をしていると、突然後ろから声を掛けられました。


「あ、ルシラさん」


 もうすっかり怒りは収まっているらしいルシラです。


「その子は?」


 彼女は自身の銀髪を撫でながらネリーに軽く笑いかけました。


「自分はネリー・アーテルだ! 気軽に『テルル』と呼んでくれても構わない!」


 ツヅルが紹介しようと口を開くのを腕で遮ったネリーは自己紹介します。まるで元素ような渾名(あだな)に彼は違和感を覚えましたが、あいにくこの世界では水素の存在すら解明されていないので意味のない違和感でした。


「アーテル? ああ、クルォリの時に来てた獣人の娘の妹か? ……いやでも、人間で、しかも黒髪だし」

「黒髪黒眼ってそんな珍しいんですか?」


 ルシラの言葉を聞いて、疑問に思ったツヅルはネリーの黒髪を撫でながらそう聞きます。ネリーの髪は非常に滑らかでさわり心地が良いので彼の手も自然に動いてしまうのです。


「まぁ、珍しいな。私もお前とこの少女以外では見たことない。それに黒髪黒眼は英雄の種族だからな」

「英雄?」

「神暦0年の人精魔大戦で精霊王と魔王を倒したギ・ラークや神暦743年生まれで魔法学の先駆者であるクルーラル・メラルト、など様々な偉人が黒髪黒眼だ。理由は知らんが」


 この世界には本来なかったアルファベットを魔術書などに用いたクルーラル・メラルトが黒髪黒目であった。ツヅルがこの話を聞いて、まず驚いたのがそれです。

 この情報が意味する所は、すなわち異世界に舞い降りたクルーラル・メラルト――当然、仮名でしょう――は自分の元いた世界の住人がこちらに来ていないか、を探るために元の世界では最も使用されていた言語である英語を用いた、ということです。

 ツヅルはその可能性を考えていないわけじゃありませんでしたが、自分以外にこの世界に来た人がいると知って少し動揺しました。


(本来、この世界には黒髪の遺伝子がない。……ということはネリーは異世界出身で、本当は前世の記憶があるのだろうか)


 だとしたら、ネリーが通常の8歳の少女からは並外れた知識と頭脳を所持している合点がいきます。 


「お姉さんの名前はなんだ?」


 ツヅルはそんな考えてもどうしようもないほどに大きい規模の考えをネリーの言葉をきっかけにやめて、会話に集中しました。


「私はルシラ。……あまりこの名前はいいたくないんだが、ルシラ・アビュリソーだ。気軽に、気軽に? えっと、気軽にルシラと呼んでくれ」


 アビュリソー、ツヅルは聞いたことがない単語ですが、言いたくないとルシラが言っているのだから何か理由があるのでしょう。

 しばらく考えていましたが、知らないものを考察しても答えが出るわけもなく、話したくないのなら聞くのも野暮だったのでツヅルは口を開きませんでした。


「よろしく、ルシルシ!」


 ルシラの言葉を完全に無視して、ネリーはそう呼び掛けました。


「何だそのアダ名は!? むしろ、本来の名前より長くなっているじゃないか」

「なんだと! ルシラなんてオリジナリティの欠けている呼び名を自分を呼ばせるというのか!?」

「ルシルシなどという、使ったけどあんまり質が良くなかったからそのまま放置されていつの間にかカビが生えたスポンジのような名前の方がセンスが無いぞ!」

「そんなもの洗えばいいのだ!」

「洗っただけでは落ちない!」


 妙な方向で口論になった2人をツヅルは諦観の目線で見つめていました。どうしても、2人を止められる気がしなかったのです。


「うるさいんじゃ! 何や、お前らは! まだ、スリーピングナウ状態の私を気遣う気持ちはないんか!? 一週間ぐらい不貞寝するぞ!?」


 しかし、ツヅルにとって幸運なことにその口論は突如地下から響いたスラマイナの怒声によって終了を迎えました。




「はぁ、全く、ツヅルも止めてくれれば良かったのに」

「いつもどれくらいに起きているんですか?」

「8時間睡眠や。時間は決めとらん」


 スラマイナを落ち着かせたツヅルは不貞腐れている8歳と16歳を尻目に彼女と世間話に花を咲かせていました。


「それにしても……」


 呆れた顔をしたスラマイナは2人の方を見ます。その容姿は普段の言動からは想像もつかないほど凛々しく、しかも今日は喪服に似た黒色の正装だったので、ふざけていない時は外見年齢相応――二十代前半程度――に見えるのだな、とツヅルは感心しました。


「ルシルシ」

「……何だ?」

「……ルシルシ!」

「何で、ルシラはまだ10にもなっておらん子と張り合っとるんや」


 これも、何人かのグループから無作為に二人選ぶ実験の例の一つなのでしょうか。

 2人共、普段ツヅルと話す時には見せない意地が強い一面を露呈させていました。


「まぁ、あれはあれで仲良くなった方なんじゃないですか」

 

 ツヅルの諦めの混じった声で呟くと、「仲良く」の部分に反応したのか、彼女ら2人は彼の方にバッと振り向いて、


「仲良くない!」

「仲良くない!」


と、仲が良さそうに言葉を被せました。


「はいはいはい。喧嘩するのは、カップルと偉い人だけで十分や。ツヅル、今日あの話しに来たんや

ろ? ここじゃなんだし、とりあえず私の部屋行こか」


 大人の余裕というか、ただ面倒くさいので抗争を抑えたスラマイナは眠たげな目で二人を引きずって行き、ツヅルはそれに着いて行きます。

 冷たい廊下を進み、灯りがランプ一つしかない暗い階段を下り、やがてツヅルたちは相変わらず散らかっているスラマイナの部屋に着きました。

先程までルシラと口論していたのを忘れたかの様に、ネリーは床に置いてある弓矢を手にとって遊んでいました。


「あの子、ネリーちゃんやったっけ? は何かよくわからんな」


 このいい様にいえば機転の速い、悪い様にいえば冷めやすいネリーの性格に先程まで口論していた彼女を見ていたスラマイナは動揺していました。

子供の頃はみんな変なところがあるものです、とツヅルは適当に返して、彼女の方に向き直します。


「そうやった。作戦、決まったんやな?」


 スラマイナの言葉に彼は頷きました。ツヅルは昨日今日で起きた出来事をファリースリの部分を除いて、彼女たちに語ります。


「なるほど。よくそのギルド長とやらを納得させることができたな。……というか、私はツヅルのその詐欺師スキルの方が心配なんだが」


 弓で遊んでいるネリーを尻目に彼の話を聞いたルシラは言いました。


「そうか。で、私らは何をすればええんや?」




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