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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
30/80

二十八話 苦悩

「明朝だぞ!」

「ぐぁっ!」


 朝。ぐっすりと眠りに落ちていたツヅルは自分の体に何か物体が落ちてきたことにより目覚めました。

 目を開け、自分を起こした原因の方に視線を向けると腰に暗い空と同じくらい黒い髪を持つネリーが跨っているのが見えました。

 そう、空。もしかして寝坊でもしたのか、と思っているツヅルが異様な暗さに気付いて視線を窓に向けると、窓の外はまだ暗くまだ陽が登りかけてすらいません。朝というかまだ深夜でした。

 

「おはよう! ツヅル! いい朝だな!」


 たった今起床したばかりのツヅルには辛い脳に響く大声で話しかけてきた彼女は未だ半分眠りに落ちている彼の上半身を揺すりました。


「後、2時間寝かしてくれ」


 5分なんて目ではない程の時間要求を行った彼ですが、窓から見た空模様から考えると現在時刻は遅く見積もっても5時前でしょう。その時間は十分にあります。 


「駄目だ! 早寝早起きが天下を取るための秘訣だぞ!」


 子供の残酷さとでもいうべきか、ネリーは全身に力を掛けて、腹と背中とくっつくが比喩じゃ済まなくなるほどの圧力をツヅルの腹に掛けました。


「分かった分かった!」


 結局、ネリーの強引な起床号令によって睡眠を妨害されたツヅルは4時で起きることになります。


「ツシータは、ってそういえば深く眠れる方だったな」


 体を起こすと、隣のベッドですやすやと寝息を立てながら寝ているツシータを見ながら彼は眠たげな眼を服の袖でこすりました。 


「うん! いくら揺すっても起きようともしなかった!」

「で、起こした理由は?」


 目頭を抑えながらも、ほとんど覚醒した彼はネリーにわざわざ起こされた理由について問いました。


「暇!」


 案の定といえばそうなのですが、ツヅルはその答えを聞くとさすがに苛立ったのか、無言で彼女の頬を引っ張ります。

 

「いらいいらいいらい! ちゃんとりゆうがあるから!」


 本当に孤児院で暮らしてきたのか、と思うほどには柔らかい頬を引っ張られたネリーは苦しみの声を上げました。しかし、何でも理由があるということなのでツヅルも一度引っ張るのをやめます。


「いたい……。……今日、自分は3時に起床したんだ」


 痛む頬を抑えながら彼女は説明、というか弁明を開始しました。


「ああ」

「最初は散歩に行こうとしたんだけど、さすがにツシータ嬢やツヅルに伝えた方がいいと思ったから、嬢を起こしに掛かったがさっきも言った通り起きる気配すらなかったんだ。だから、書き置きでもして出掛けようと思ったその時、自分の脳内にとある考えが浮かんだんだ」

「ああ」

「散歩は一人で行くよりも二人で行ったほうが楽しいのではないか、と」

「……要は?」

「暇だったのだ!」


 その部屋にはしばらくネリーの苦痛の声が響き渡りました。




「結局、出てきてしまった……」


 ツシータやリーフ、テルランすら寝ている時間にツヅルはネリーというよく分からない少女とモハナトを歩いていましす。

 準備している間に日は多少昇り街灯がなくとも歩行には問題ない程度には明るくなったので、別段明かりは必要ありませんでした。といっても、街の住人たちの起床はまだのようで、彼らは宿屋を出て十数分歩きましたが2人しか人影を見ることができませんでした。

 ネリーの歩みは意外と遅く、ツヅルは街の風景を眺めながらゆっくりと石畳を歩きます。

 モハナトは外壁に囲まれているという街を大きくすることが難しい性質を持っていました。

 それにも関わらず、医療が発展して経済も安定してきてしかも戦争をしていないので、最近ベストロジア王国の人口は増える一方で、東ベストロジアで一二を争うほど大きな街であるモハナトは若干人口過密気味に陥っています。

 そして、そういう街では商人が宿屋、食料店その他様々な店を建て、布教目的の教会のシスターや司教がまた新たに教会や修道院を建て、といった具合にどんどん人が集まってくるのはお分かりになられるでしょう。 

 そうして、充実した街を好む貴族がやってきて再び経済が上昇し、それにつられて一般人が集まり、現在のモハナトは非常に建物が混雑していて、入り組んでいる細い道や路地が溢れていていました。

 馬車などが通れそうな大きな道も少ししかありません。


(そういえば、難題を抱えたときは外を歩きながら考えたりもしたな……)


 その複雑な道を物ともせずに、異世界に来て早々大きな問題を抱え込んでしまったツヅルはそう思い出していました。彼は朝4時、5時の雰囲気が好みだったので、何か思考をするときは時たまにこういう朝に外へ出たりしたものです。


「ツヅルは今まで外と内、どちらにいた時間の方が多い?」


 地面の砂を一粒一粒数えるかのようなスローペースで歩いているネリーは黒色の眼で彼を見ます。そういえば、ツヅルは黒髪黒眼の人物は自身と彼女しか見ていなかったことに気付きました。まぁ、気付いた所でどうというわけではないですが。


「……寝ている時を除いても、考えることが多かったから内だな。でもたまにこうやって外で歩くこともあった」

「自分もだ」


 さっきまでは元気だったのにどうしたんだろう、とツヅルは彼女を心配しました。


「思考に没頭すると、たまに自分はよく分からない世界に立っているんだ。その世界ではいくら歩いても体力は消費しないから眠ることもできないから、何かきっかけがないと元のこの場所に戻ってこれない」

「『至高』の世界、ってやつだな」

「時折、今自分が立っているこの世界が、本物なのかそれとも思考の中なのかそれともそれとは別の何かなのか、分からなくなるんだ」


 ネリーはツヅルから眼を離して、珍しく雲の掛かっている空を見上げました。


「ネリーはどの世界にいたいんだ?」


 彼は自分の頭脳を越した人に憧れを抱き、好む傾向がありました。天才特有の苦悩というものでしょうか。どれだけ頭を働かしたとしても一般人の枠から抜けきれないツヅルにはネリーのその悩みが羨ましく思えました。


「……本物にいたい。じゃなければ、食べ物が食べれないからな」


 しばらく歩くと、彼女は自虐したかのように答えます。


「そうか。僕はネリーの悩みを解決することはきっとできないだろうけど、僕がいる方が本物だ。それは覚えておいてくれ」

「……そう。確かにそうだな。ツヅルがいるほうが本物だ」


 ネリーはそう呟くと黙ってしまいました。




「……あら、おはよう。二人共早いのね。うーん、……眠いわ」


 今さっき起きたことが丸分かりなボサボサの短い銀髪のツシータは、尻尾をクネクネと動かしながら伸びをします。

 ツヅルとネリーは30分ほど歩いた後、食堂で今日も朝食の準備をしていたリーフと会話しながら食事をしていました。もう6時でした。


「ネル、何かあったの?」


 ネリーの様子が変だと感じたのか、異様に鋭い彼女は聞きます。


「何もないぞ! ツシータ嬢! 今日は何の準備をすればいいのか?」


 ネリーは何もなかったかのように振舞っていました。彼女が何も言わないのだというなら、ツヅルもそうせざるをえません。


「今日はどこに行くんだ? だと」

「さすがにそれくらいは分かるわよ。今日、ね。リーちゃんの件の手伝いをしたいんだけど……。ツヅル、なんかある?」


 そう言われた彼は今日の用事を改めて考えてます。メアの見舞い、精霊族研究会へ赴く、……。


「特にないな。というか財布の中身は?」


 彼女の財政がネリーの宿代を払えないほどに貧窮していることをツヅルは思い出しました。ツシータは、あーと脱力しながら頷きます。


「じゃあ、自分はどうすればいいのか」

「確かに、ネリーは討伐依頼にはいけないわね。というかアタシもツヅルがいないと不安なんだけど」


 ツシータは不満そうに呟きました。


(これは、ツシータ1人だと行きそうにないな)

 

 彼は、剣の修行もしてきたんだし普通のF級依頼なら楽々こなせるだろうと思いながらも口には出さずに考えました。

 資金もある程度あるが、逆に時間がないツヅルは当然討伐依頼などに参加するわけにはいきません。


(そういえば、ミーラが『私たちは大体、7時はギルドにいるから』、といっていたな)


 引きあわせても面白いかもしれない、と考えたツヅルはツシータに急いで準備をさせました。

 非戦闘員であるネリーは一応ツヅルに付いてくることになりました。




朝7時のギルドは例のごとく混雑しています。依頼金を求めて走る冒険者たちが依頼掲示板の周りで右往左往していました。

その混雑具合の中、ツヅルたちはなんとか落ち合えたミーラたちと対面していました。


「こんにちは」


 まず、最初に声を出したのは深緑の長い髪をツインテールにしているミーラです。何故かツシータはこの挨拶に何も返さずに、何故か会話は硬直状態に陥りました。それを見たツヅルは意味がわからずに首を捻りました。

ネリーは初めて入るギルドに興味津々の様子でこの雰囲気に気付いていないようです。

セランはいつも通りこの状況を察せずにボオとしていました。

「ツシータ=ミーラ」戦線がまるで動き出しそうになかったので、ツヅルがネリーとセランを交互に見ていると、女性冒険者2人がこちらに近づいてくるのが見えました。

 セランに一直線に向かっていったので、当然彼が目的でしょう。


「あ! おはよう、セラン! 今日も依頼を受けに来たの?」


 若干頬を赤く染めた13歳程度に見受けられるショートカットの元気が溢れている女性冒険者は意気揚々と彼に話しかけました。どうやら彼とこの2人の女性は既知の仲のようです。


「何だったら、私たちのパーティーに入れてあげてもいいのよ」


 もう一人は肩甲骨に届く程度の髪を1つにまとめた女性でした。容姿から察するにこちらもショートカットの少女とそう変わらない年齢でしょう。

2人共、細身の剣を背負っていました。


「ん? ああ、おはよう二人とも今日は暑いな!」


 そう話しの流れをぶった切るように挨拶を開始したのは、当然セランでした。

彼女らは彼のその態度にため息を吐きましたが、すぐにきを取り直します。慣れているのでしょう。

 その後もセランたち3人は和気藹々と会話を繰り広げていました。少女2人の様子を眺めていると、ツヅルは彼女らがセランに好意を持っていることに気付きました。


(……何も考えていないように見えるのは、人に好かれる上で得なのか?)


 「湖の剣」の団長、ナラスのように容姿も特別良いとはいえない彼がこの様に女性から好かれる理由をツヅルは考えていましたが、人の心は複雑怪奇。帝王学の本を2、3冊しか呼んだことのない彼には全く答えを出すことができませんでした。


「ツヅル、この人は?」


 三十秒ほど硬直していた会話が動き始めたので、ツヅルはツシータの方を向きます。

 これを聞いたミーラは自己紹介をするためか一歩前に出て口を開きました。


「私はミーラ・トペア。ツヅルの奴隷よ」 


 衝撃発言です。ギルドは騒々しいのでこの言葉がギルド中に響き渡るなんてことはありませんでしたが、その時のツシータの固まりぶりはまるで動かない石像と評してもいいほどでした。

 何故かミーラは勝ち誇った様な笑みを顔に浮かべており、セランは女性冒険者との会話に夢中になっています。

 ネリーは相変わらずあっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返していました。


(この状況を一体僕がどうしたらいいんだ)

(大丈夫じゃ)


 この全くもってまとまりがない状態をどうにかすべく彼はテルランに助言を求めましたが、やはり助言を仰ぐ相手が間違いだったのか、何の慰めにもならない言葉しか受け取れませんでした。

 しかし、ここで時間を潰しているわけにもいかないので、彼は何とかこの状況を落ち着けようとします。


「この人は冗談が好きなんだ」


 まず、固まっていたツシータを回復させるために嘘を吐きます。

 嘘といっても、ミーラは本当に僕に隷属したいとは思っていないだろう、とツヅルは思っていたので、彼にとってはあながち嘘ではありませんでした。


「そ、そうよね! やっぱり、そう……」

「本気よ」

「………」


 納得しかけた彼女にミーラは追撃を放ちます。

 ツヅルはため息を吐くと、もう何も信じないと疑心暗鬼になったツシータに納得してもらうためにミーラとの出会いから現在に至るまでを全て語り始めました。


「なるほど。アタシがいない間にそんなことが……」


 飽きたのか、さすがにツヅルをこれ以上困らせるわけにはいかないと感じたのかは定かではありませんが、ちゃちゃを入れるのをやめたミーラは彼との思い出を噛みしめるように頷きました。

 尤も、出会ってから2日間しか経っていないので噛みしめられるほどの思い出はないわけですが。


「私の紹介は済んだから。この人とあの小さい子の紹介をしてくれる?」


 ミーラはツシータとネリーを交互に見ました。


「何が小さいか!」


 先程からギルド内をふらふらしていたネリーが小さいという言葉に反応し、こちらへとやってきます。


「背」

「背は小さくとも心は広いぞ!」

「おお~」


 普段は5、6人くらいで構成されているグループから無作為に2人取り出して一対一で話させると、普段のグループからかけ離れた雰囲気になることも多いですが、ネリーとミーラの会話はそれの典型でした。


「私も器が大きい。因みに形は雑煮椀」

「凄いな! 自分も雑煮は茶碗蒸しの次に好きだぞ!」

「へぇ。私はどっちも嫌いかな」


 離したら空に飛んでいきそうなほどフワフワとした会話にツヅルは苦笑すると、 


「この子はネリー。色々、事情があって預かっている子だ」


と会話の輪に入って彼女の紹介をします。

 事情があって、とは、わざわざツシータが買ったと言うのもアレだなと思った故の濁し方でした。


「私はツシータ・アーテル。このネリーの姉で、普段はツヅルと共に依頼を受けているわ」


 こうして、自己紹介がやっと終了しました。セランはまだ少女2人との会話に集中していたのでツヅルが適当に紹介しました。


「それで、本題なんだが――」


 今日ツシータと共に依頼に出てくれないか、と彼はミーラに向かって頼みます。


「いいわ」


 微笑したミーラは即答しました。

 理由としては、前衛であることとツヅルの仲間だということである程度信用できるからだそうです。


「正直にいうと、私たちも2人だと辛いから」


 そういえばパカルタはどうしているだろうか、とまだ暇乞いをされてから2日ほどしか経っていないのに何故か懐かしく感じたツヅルはツシータたちにまた後でと挨拶をしました。

 

「どうしようか……」


 さて、ツシータたち3人が去り、残されたツヅルとネリーはさすがにこの春なのに夏の蒸し暑ささえ感じるこの熱気に溢れたギルドを出ようと出入り口に向かいましたが、それは残念ながら叶いませんでした。


「ちょっと。……えっと、ツヅル、君」


 後ろから声を掛けられたのです。名前を呼ばれた彼は振り向きました。そこにいたのは金色に光り輝く鎧を着た金髪のナラスと杖を持った茶髪のナービです。

 この2人を見て、ツヅルは魔族に関することだとすぐに察しました。 


「どうしたんですか?」

「少し来てもらっていい? あの件に関することなんだけど」




ツヅルはナラスたちに連れられ、以前魔族の情報を提供した応対室にあるフカフカしている上品な椅子に座っていました。

ギルド職員に一言掛けるだけでこの部屋に入れたのを見たツヅルは、A級クランである「湖の剣」のリーダーであるナラスの権力に感心しました。

冒険者ギルドは国から独立している場所なので、街の安全を著しく乱さない限り、国に属している騎士は介入できないので、その街のトップの冒険者がその街のギルドを牛耳ることも少なくありません。

それ故に、ギルド側も冒険者が暴れたときのために鎮圧部隊というのを準備しているそうです。

 それはともかく、本題に入りましょう。


「昨日一日で魔術師保護団体に模してツラウ村の住人は全員調べたんが、肝心の闇魔術師はいなかったんだ。どうしようかと思いナービに聞いたら、君に尋ねてみれば解決するかもしれないと助言をえてね」


 革命隊に所属しているらしいナービには、ナラスをできるだけファリースリ関係に移らせない様にしたいので魔族の件を長引かせてくれとレダン経由で頼んであります。

この理由は嘘ではありませんが、ツヅルがこれを頼み込んだ本当の理由はもちろんメアのためでした。

 彼としては、メアへの同情の心も含めてサラには死んでほしくはないのです。

 4日後、サラはモハナトを旅立ち、メアのためにムーロの所へ行くでしょう。もし、その時までにツヅルが何の案を思いついていなかったら、彼にはサラを止めることはできません。

 また、2日後リーフの結婚式がフォート家で行われます。これもないがしろにしてはいけません。

 つまり、ツヅルは今日と明日でこの2つを解決するための作戦を考え、布石を打たなければならないのです。

 そんな時にナラスなどに邪魔をされたら堪ったものではないでしょう。

 ナービがツヅルのところにナラスを連れてきた理由というのはもう既に分かっていました。彼はモハナトとツラウ村間の移動で、ファリースリに関わる時間を潰させようとしているのです。

 つまり、彼はナラスにツラウ村に行けと助言すればいいのでしょう。


「そうですね……」


 彼は顎に手を置いて一拍置きます。


「きっと、ツラウ村の闇魔術師はどこかで魔族の話を聞き、自分のせいで人が死んだことに罪悪感を感じて言い出せなかったという可能性があります。なので、ツラウ村で魔法が使える人間の尾行、昨日今日で失踪者がいたらその人を重点的に探すのが効果的かと」


 ツヅルは嘘八百を並べました。


「なるほど……。また、ツラウ村へ移動しなきゃいけないが、まぁ仕方がない。ナービ、少し準備をしてくるから馬車で待っててくれ」


 この嘘に騙されて、ナラスは急いで応対室から出て行きます。部屋には彼とナービのみしかいなくなりました。


「いや、意図を汲み取ってくれてよかった。それにしてもスパイは精神をすり減らすね」


 苦笑したナービがため息を吐きながら言います。

 それに釣られたようにして愛想笑いを顔に浮かばせた以前から聞かなければ、と思っていたことを聞きました。


「ナービさんはナラスが革命で死んでも大丈夫なんですか? 仲がいいようだったので」


 この質問の意図を訳すと、作戦上必要があれば殺してもいいですか? ということです。もちろん、彼にはそのつもりはありませんが、いつその必要が湧いてくるかは分かりません。


「……まさか。向こうはどう思っているか知らないが仲がいいはずがない。私とナラスは確かにまだF級冒険者だった頃からクランを組んでいた仲だ。だが、あいつはクランが大きくなればなるほど、傲慢になってきた」


 ナービは語り始めました。

 ナラスは「湖の剣」がこの街唯一の大人数A級クランになった途端、女を(さら)ったり、民家に強盗に入るようになったそうです。

 どうやったのかは分かりませんが、貴族ともコネを作りそれらは度々その犯罪はもみ消されることになりました。


「私は一度犯罪の誘いを断ってから誘われていないけど、ナラスからよく自慢話のように聞かされた」


 彼がファリースリのことを知ったのはナラスが持ってきた小さな鞄の中を見た時だそうです。

 その謎の鞄を持ち帰ってきたその日、ナラスは変によそよそしく明らかに怪しい雰囲気を纏っていました。

 流石に、ファリースリに手を出すのはまずいだろうとでも思っていたのでしょう。

 ナービが気になってナラスが部屋にいない時に入り込むと、何重の魔法を用いた鍵が掛かった場所にその鞄がありました。


「私は魔法が大得意だから、ナラスみたいな前衛職の魔法の鍵なんか開けて見終わったらまた元のようにかけ直すことなんて簡単だった。鉄とかでできている鍵だったらちょっと苦戦したかもしれない」


 その中には何かの本で見たものと同じファリースリの粉末が入っていたのです。

 しかし、彼はこれを誰にも言えませんでした。何故なら、ナラスが1人でファリースリを調達できるはずがないからです。

 作るにしても高度な魔法技術が必要ですし、買うにしても膨大な資金が必要です。

 つまり、ナラスの後ろには誰か貴族が付いていることが分かりきっていました。つまり、下手に誰かに話すと自分やその伝えた相手にまで被害が及ぶ可能性が非常に高いことが容易に想像できたのです。


「そんな時、モハナト公爵、ラミ伯爵、そしてナラスがファリースリで関わっているということで協力を求めてきたのがギルド長のレダンさんだった」


 革命の計画を立てたレダンが最初に声を掛けたのがナービだったそうです。


「そういうわけだ。私は如何なる犠牲を払ってでもファリースリを使ってモハナトに革命を起こすよ。……正直にいえば、もしナラスが昔のままだったのならこうはならなかったかもしれない。しかし、あいつは禁忌を犯した。もう私には不要だ」

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