二十六話 増える変人
サラのその言葉で、ツヅルは全てを確信します。
魔法薬がまるで置いていないのは、彼女が昨日今日で商人か何かに売り捌いたからでしょう。
それは何故か。過去の因縁を云々、という言葉から分かるように、ムーロとの決着をつけに行こうと思っているからです。
それを行うためには多大な労力と甚大な被害が必要です。自分はムーロと戦って死ぬかもしれない、とサラは思っているからこそ、自分の財産を全て金銭に変えてメアに託そうとしたのでしょう。
「策はあるんですか?」
しかし、サラがムーロと戦うつもりであるとしても、メアの心臓を持っている彼女を殺してしまったらメアが死んでしまいます。
「……『自爆』という魔法を知っておるか?」
サラは目を閉じながら、自分に無理やり飲み込ませるようにして言いました。
「自爆」といえば、使うと術者が死ぬこと、放つと二度爆発することで有名な魔法でした。二度爆発する、というのには一応理由があります。
一度目の爆発は術者の体内魔力全てを一気に物凄いスピードで体外に放出することによって起こる爆発です。
二度目の爆発は一度目の爆発で体内魔力を0にしたことから起こる現象でした。どうやら、この世界では体内魔力がなくなると、爆発するというとんでもない法則があるそうです。
ツヅルはこれを知り、跳び上がるほどに驚きました。
この世に生きている生物は、獣人のような魔法を使用できる者が少ない種族だとしても必ず体内に魔力を所持しています。何故なら、大気中の魔力が溶けている水を飲んでいるからです。
以前も述べたように魔力は水に溶けやすい性質を持っていて、この極一部の例外を除き、この世界の水全てに魔力が含まれています。
体内魔力の補充方法が気になった方もいらっしゃるかもしれませんが、この魔力の溶けた水から生物は自身の魔力を補給しているのです。
さて、これがどうして爆発につながるのでしょうか。
ここで出て来るのは「反応物質」と呼ばれているとある物質です。この「反応物質」も魔力と同じく全世界の大気中に存在します。
それは何と魔力が含まれていない水に触れると爆発を起こすという性質を持っていました。
といえども、魔力のない水などというのは基本的に存在しません。
ただし、体内魔力のなくなった者の体内には存在します。飲んだ水に含まれている魔力以上を魔法などで消費すると「反応物質」により爆発するのです。
これが「自爆」を放つと二度の爆発が起きる理由でした。
「だが、この魔法は少し応用すれば、防衛結界やら回復やらにも使用することができる」
サラの作戦はこういうことでした。
彼女はまずムーロを自分の闇魔法で呼び出してから、どこか人里離れた洞窟に誘い込みます。
そして、「自爆」の応用版である自分の魔力を全て使用して半世紀は絶対に剥がれないような結界を作る魔法を使用してムーロを閉じ込める。
「いくらか防衛魔法を極めんとした私でもメアが普通に人間としての寿命が来るまで保てる結界を作るのは無理だ。『自爆』を使わなかったら、恐らく5年も保たないな。まぁ、翼と角を失った私はきっと後5年も持たないし、死ぬにはちょうどいい機会だったかもしれん。私の『自爆』の結界なら50年は保つだろう」
サラは淡々と告げます。
ツヅルでは出来ない離れ業でした。そんな方法があるなどということは知りませんでしたし、知っていたとしても選択肢の中に入れることはなかったでしょう。
「でも、それじゃあ、サラさんが!」
メアにとってサラは残った唯一の希望であることは彼にもよく分かっていました。まだ言葉も上手に喋れない頃に両親を亡くし、2、3年前に親代わりになった人と別れ、そして、また自分が寝ている内にいなくなろうとしているのです。
(それはあんまりだ……!)
ツヅルは自分の行動を悔やみました。もし、彼がメアが闇魔法を隠している理由をいち早く察していればこんなことにはならなかったのです。彼にはその頭脳が足りませんでした。
後悔しているツヅルの姿にサラは言及しました。
「ツヅル、お前は今、『自分のせいで』と思っているかもしれないが、それは誤りだ。この前をお前から聞いたが、ムーロはツラウ村にオールドスライムを差し向けたんだろう? きっと、闇魔法使いを探すためだ。そんな大胆なことをしていればそう遠くない未来には討伐隊が差し向けられてムーロは殺されていたはずだ」
「でも……」
「……むしろ、今メアが寝ていてくれてよかったと思う。私が死ににいくのをあいつは止めるだろうしな」
サラはどこか遠くを見ているような無表情で言います。
「いつ、行くんですか」
ツヅルは説得は無理だと理解し、後先のことを考えてサラに聞きます。
「5日後だ。魔法薬をまとめて売ったせいですぐさま売却金が用意できないそうで、その日まで待って欲しいといわれた」
5日。準備するにはあまりにも短すぎる時間でした。説得が無理ならば先回りして何か打開策を見つけよう、とツヅルは考えていましたが、それは無理そうです。
「まぁ、私も死なないならそれでいいんだがな」
サラは再び無表情で言います。しかし、目はギラギラとしていて完全に覚悟を決めた者のそれでした。
メアに対する彼女の気持ちが、自分の命を投げ出してもいいと思うほどに大きなものであることに気付き、ツヅルは不謹慎ながらも感服しました。
「そういえば、魔力がなくなってからその『反応物質』が反応して爆発するまでにはどれくらい時間があるんですか?」
ツヅルは少し気になったことを聞きました。
「……この国で仕事をした時に見たことがあるが、20秒ほどだったような気がするな」
いきなり何を言い出すんだ、という目でツヅルを見たサラは戸惑いながらもそう呟きました。
そして、ツヅルが十数分ほどメアの見舞いをし、「リリィージェラス」を発ったのは15時でした。まだまだ夜まで時間があります。
(……宿屋に戻ってゆっくり考えたい)
もう現地調査をしながら策を練るのには疲れていたので、彼は宿屋に帰りました。
「リリィージェラス」と宿屋の距離は中央区を挟んでいるので、地味に遠く片道30分は掛かるのに彼は軽く辟易とします。
宿屋は魔法で加工された木材で造られています。その木は熱を放出しやすい性質を持っているようで、触るとほんのりと冷たい感触が手に広がりました。
冬は地獄になりそうだな、とツヅルは思いながら、同じくその木材で造られた「宿屋:ゼルミー」というプレートが付いている大きな扉を開けます。
入ると、いわゆるエントランスホールが広がっており、そこから宿泊部屋がある廊下に向かう通路と食堂へ向かう扉が見ることができます。
エントランスホールはツヅルが想像するホテルのようなものよりもかなり小さく、椅子や机が置いてある5、6人が談笑できそうな休憩スペースが2つと受付のカウンターしかありません。
受付にいつもいる茶色を少し薄めたような色、――煤竹色の髪の受付嬢の左側の床には幾つかの観葉植物が並べて置いてあります。
右から順に、一つの枝に丸い葉っぱ沢山付いていて緑の派手さを体で表しているカポックのようなものと、光を当てると輝く葉を持ち、咲いている白い花が美しいスパティフィラムのようなものと、この世界では珍しい黒髪をショートカットして、その背はツヅルよりも小さい、全く適した大きさではないダボダボとした布の服上下を着ている7、8歳程度の少女が3つ揃って横一列に立っていました。
(見かけない子だな。今日新しくこの宿屋に来た人の子供?)
ツヅルは思わずその少女を見つめてしまいます。 何故観葉植物の隣で直立不動しているのかが物凄く気になったからです。
しかし、正面から見られて気づかない人間はいないもので、もちろんこの少女も同様でした。
彼女はツヅルに見られていることに気付き、テクテクと彼の方に近寄ってきました。
「へい! どうした?」
ナンパのような喋り方で、少女はツヅルに明るい声で話し掛けました。
「今、そこで何をしていたんだ?」
また変な人に声を掛けてしまった、と後悔しながらツヅルは問います。
「いや、木の気持ちなんていうのは分からんものですよ」
「……植物の気持ちを体験したくてあそこに立っていたが結局分からなかった、ということか?」
腕を組みながら答えた少女の言葉をツヅルは一応読み解きました。
「……! お兄さんは今のが分かったのか!?」
「逆に、分からないと思ったのに答えたのか?」
思わず質問に質問を返してしまいます。
「まぁ、いい。君は今日から新しくこの宿屋に泊まる子?」
「そうだ! 知人の嬢に神の幻想に司りし地じゃなくてここに住め、といわれたからな!」
少女は彼を上目遣いで見つめながら、元気いっぱいに答えました。知人の嬢、嬢と呼んでいるくらいだからきっと知人は貴族の娘か水商売関係の女性でしょう。神の幻想に司りし地というのはすなわち教会のことでしょうが、この場合は恐らく孤児院のことだと彼は解釈しました。
「要約すると、知り合いの遊女に孤児院から連れだされた、か?」
同じ言語を話しているはずなのに何故翻訳作業に勤しまねばならないのだろう、と少しばかりの憤(いきどお)りを感じながらツヅルは彼の出せる声の中では比較的低い声を出しました。尤も、彼は一般的な少年よりも中性的なので、その声は高い印象を与えるものでした。
「大体合ってるけど、少し違う! 嬢はまだ11歳だから遊女ではない! 一般的な少女!」
しかし、それよりも高いよく響く声で少女は彼に訂正を求めます。
まだ十分に大人にもなっていないのに孤児院から少女を引き取るとは、とその嬢にツヅルは妙な感心をしました。
そんなことを話していると、ツヅルの知人の少女の声が聞こえてきました。
「ネルー! そっちにいるのー?」
ツシータです。そういえば、今日で確か剣の修業は終わりだったことを思い出しました。
ネルというのがツヅルには何か分かりませんが、とりあえず宿泊部屋が並んでいる廊下から聞こえてくる声を頼りに彼女の元へと向かおうとしました。
「ツシータ嬢ー! エントランスに来てくれ! 面白い少年を見つけた!」
しかし、少女のその言葉によりツヅルは驚いて体の動きが止まりました。
「何? あんまり迷惑を掛けないように……。あら、ツヅル」
少し待つと、ツシータはこの謎の少女に呼ばれてエントランスへとやって来ました。
また、騒々しくなった
久しぶりに会った彼女はいつも通りの緑のワンピースを着ていて、胸の下にツヅルが贈ったベルトを、左手の人差し指にはリーフから聞いた「通信指輪」らしき光沢のある銀色の指輪をつけています。
「知り合いか?」
ツヅルは顔を少女の方に向けて聞きます。
「そうよ。ちょっとした偶然で出会ってね」
「約8000レ-の買い物だ!」
ツシータは彼の問いに曖昧な答えを返し、少女は相変わらず脈絡のない言葉を放っていました。
「……人身売買?」
「違うわよ! いや、違くもないんだけど……。とにかく、ちゃんと理由があるから!」
彼女は慌てながら即座に理由を説明し始めました。
一週間前、彼女は剣の修行をしようとしましたが、彼女の師であるクラリスは遠征でこの街を離れているので、剣の教えを請うことができませんでした。
なので、彼女は自分の知人の中で自分よりも剣が上手い人を訪ねようと自分の過去を振り返ります。
ここで初めて知ったのですが、ツシータは孤児だったそうで、ギルドに冒険者として登録できようになる10歳までは孤児院で暮らしていたそうです。
彼女が一週間ばかりの師として選んだのは、孤児院にいた頃に知り合った現在20歳の女性でした。その女性もツシータと同じ孤児で、3歳から今現在まで孤児院に住んでいます。
10歳になると同時に孤児院から抜けだした彼女には少し孤児院に行きづらいものがありますが、彼女が剣において頼れる相手は、クラリスを除いたらその女性のみしかいなかったので仕方なしに向かいました。
というわけで、勇気を振り絞ってその孤児院に行くと、昔「ギフテッド」と呼ばれていたこの少女と出会ったそうです。
「なぜか分からないけどこの子、――ネルは教会から出たがっていたから、それをシスター様に伝えると『8000レーほど寄付金を頂ければ引き取って頂いて構いませんよ』と言われたわ。だから、アタシはその二十歳の人から剣の稽古を受けながら昼夜問わず討伐依頼をやって、今日やっと8000レーをシスター様に渡せたわけよ」
何故ツシータがそこまでしたのか分かりませんでしたが、聞くとこの少女は昔、獣人であるという理由から他の孤児から避けられていたツシータと唯一友人になってくれた者らしいです。それを聞いた彼は納得しました。
それにしても、ツヅルがスライム討伐でオールドスライムと戦闘している頃にそんなことが起こっていたとは驚きでした。
「少女を買うのに、8000レーで足りるのか?」
疑問に思ったことをツヅルは聞きます。8000レーでは小さな宝石すら買えません。
「私もそんなに詳しくないから相場は知らないけど、まぁ、この子は厄介者扱いされてたしね」
「何を!」
「時折何言ってるか分からなくなるしね」
少女の頭の上に手を乗せたツシータはカラカラと笑いながら言います。
この少女は頭の回転が早すぎるので、本来説明すべき内容の話をすっぽかして結論に飛んでいるようにツヅルには見えました。
「そういえば紹介していなかったわね。この子はネリー・アーテル。通称ネル。今8歳よ。さっき言った通り孤児院出身で姓がないから私の妹にしたわ!」
随分と強引な姓の決め方にツヅルは呆れました。
「丹精込めて育てるわ」
「丹精込めて、丹精込めて育てられるわ」
「だが、大丈夫なのか? この宿屋は子供料金なんてないぞ」
真心を込めて育てられるってなんだよ、というツッコミをするよりも、財布事情の方を聞きたいリアリストなツヅルは訝しげな目線をツシータに送りました。
一週間の宿屋、食料代とネリーを買うのに8000レーを浪費したのですから、彼女の財布は空だと踏んだのです。
「……ツヅル~」
彼の言葉に決まりが悪そうに目を逸らしたツシータはまさしく猫なで声で彼の方に擦り寄ってきました。
「……はぁ。ま、昨日臨時収入も入ったしいいか」
ツヅルはその甘い声に負けて、鞄から財布を取り出してしまいました。
「これも一種の職業なのであろうか?」
この光景を見たネリーは顎に手を置いてそう問題提起します。
「そういえばリーちゃんの話聞いたわ」
ツシータはツヅルから1000レー紙幣を一枚ばかり受け取ると、急に真剣な表情になり彼を見つめました。この妙に変わるのが速いに表情にイラっとくるのを彼は抑えると、近くにあった椅子に座り、話を聞く態勢に移行します。
「もちろん、作戦はツヅルが練って貰えればアタシはそれに従うだけだけど」
「実はまだ有力なものは出来てなくてな」
すまないが、と文頭に置き、ツヅルは正直に話しました。ここで嘘を吐いても仕方がありません。
「分かったわ! じゃあ、作戦会議ね! ちょっと待ってて」
彼の言葉を聞くと、ツシータは満面の笑みで廊下へと走り出しました。
「ちょっと待て。なんで嬉しそうなんだ?」
その歓喜ぶりを見て、思わず彼女を止めます。
「……べ、別になんでもないわ。ただ、今日のご飯は何かなーって」
わざわざ指摘する必要もないほどにあからさますぎる嘘だったので、ツヅルはため息のみで済ませました。
「どうしたの? ツヅル? 疲れているみたいだけど」
普段なら小言の一つでも言ってくるであろうツヅルが何も言わなかったのに疑問を覚えたのかツシータは彼の肩に手を掛けます。
「いや、……まぁ色々あったからな」
メアのことについて話そうと思いましたが、しかしリーフの問題と合わさって混乱してしまわれては困るので、ツヅルは口を閉じました。
それ故に若干違和感が残る形で彼は口ごもってしまったのですが、それにまったく気になった様子を見せず、
「じゃあ、疲れているツヅルのためにアタシとりーちゃんとで作戦会議をするわ! ちょっと待ってて」
と再び嬉しそうにリーフの元へと向かおうとしました。
「ちょっと待たれよ!」
ツヅルの代わりに今度はネリーが呼び止めました。
「……? 何よ。どうかしたの?」
「ツシータ嬢! 馬にでもなってみたらどうだ?」
「え、どういうこと?」
どうしてわざわざ遠回しな言葉遣いをするのか、とツヅルは疑問に思いました。ツシータが頭を悩ませているので、ここが彼の翻訳力の見せ所です。
「じっとしとれんのか……、と言いたいらしい」
きっとネリーの意図したところは「少し落ち着け」でしょうが、ツヅルはあえてニュアンスを少し変えました。
「ネル。あなた、私に買われておいてよくそんな口が聞けるわね……」
一応、嘘は混じっていない意訳を聞いたツシータはネリーの方にジリジリと詰め寄り、手が届く範囲まで来た時、彼女の髪の毛を手で掻き乱しました。
危険を察知したネリーは逃げようとしますが、相手は身体能力おばけのツシータです。当然、勝てるはずもなく彼女はその短い黒髪をお湯もシャンプーも付けずに洗われました。
「別にそんなこと言ってないよぉ! 痛い痛い! 全ては翻訳が悪い! これは、自分を貶めるためにツヅルが仕掛けた罠だ! 自分は悪くないんだぁ!」
政治家になったら上手くやっていけそうなネリーを見たツヅルは喉を鳴らして笑いました。
「……ツヅル、そこのところはどうなの?」
「あ、そういえば、さっきネリーがツシータのこと遊女と呼んでいたぞ」
「え? 遊女ってなに?」
「……遊び人のことだ。一日中街を歩き回って、食っちゃ寝するだけの愚かな民族のことだ」
少し危ない話題が振られたので、ツヅルは遊び人とネリーに責任転嫁をして何とか事なきを得ました。
これを聞いて、ツシータはため息の一つも漏らさず猫耳の一つも動かさず、無表情のままただ淡々とわしゃわしゃ攻撃を再開しました。
「言ってないよぉぉー!」
彼ら3人と一二度しか話したことのない寡黙な受付嬢以外誰もいない夕暮れのエントランスには彼女の叫び声が満ちていました。
「じゃあ、リーちゃんのために作戦会議ね! ちょっと部屋で待ってて今からリーちゃんを連れてくるから!」
無実なネリーへのお仕置きが済んだ後、ツシータは嬉々としながらそう言うと今度こそ走り去ってしまいました。
きっと、彼女は参謀に憧れているのでしょう。会議、というよりディベートにおける有能といえば口論の強い人で、そういう人は大抵頭が良く見えるものです。
「……やたら会議をしたがるのは頭のない証拠?」
まだ掻き乱された髪の毛が痛いのか、両手で頭を抑えているネリーは彼女がいなくなったのを確認すると、恨みつらみが十分に籠もった発言をしました。
「概ね間違ってないがツシータの前でそれいうと殺されるぞ」
「そもそも! ツヅルが嘘を吐かなかったらこんなことになっていなかった!」
「そうだな。……そういえば、何故、僕は呼び捨てなのにツシータは嬢付けなんだ? いや、別にいいんだが」
彼は責任追及を無視して、前々から思っていたことを聞きます。
「うーん。強いて言うならば、それはこの世界が定めたこと?」
「つまり適当、か」
「そうだ!」
魔法で加工された茶色の木材で製造されているので、靴を履いていても冷たさを感じることができるほどに冷たい廊下をツヅルたちは談笑しながら歩いていました。
「こ、この子は、ま、まさかツヅルさんとツシータさんのお子さん……!? 出生祝でもしろ、というのですか!?」
「いや、違うから」
ツシータに引っ張られながらツヅルたちの部屋にやって来たリーフはネリーを見て、開幕驚愕したかのように言い放ちました。
「まだ2桁の年になったばかりの少年少女に何を……」
「ツヅル見て見て! リーちゃんの頭。このカチューシャ可愛くない!?」
リーフは宿屋の手伝いの途中だったようで、地味なウエイトレス姿で、その紺色の長い髪を一本にまとめていました。また、頭には彼があげたリボンカチューシャがつけていました。ツシータは頭に付いているそれが気に入ったのか、ツヅルの言葉を遮ります。
鮮血のように赤いリボンは彼女の紺色によく似合っています。
「買った意味があったようでよかった」
似合っている、ということをツヅルは頷く仕草を見せながら暗に伝えました。
「ありがとう、ございます」
リーフは恥ずかしそうに頭を触ります。彼女の若干内気な少女にはこれを付けるのが、若干難しかったようです。
なんだツヅルも同じことを思っていたのか、とツシータは満足気に頷きました。
「じゃあ、始めましょう! ジャカジャカ! クランマイウェル第二回何か色々対策会議リーちゃん編第一節~」
「それ聞くのも久しぶりだな」
「ジャカジャカ、ってなんですか……?」
「異議あり!」
3人の反応は概ねこの通りになりました。




