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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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二十五話 モハナト革命隊

「えー、それでは閉会としますー」


 無駄に気力を使ったのか、会談が終わるとぐったりとしたアールナはうなだれながら応対室から出ていきました。

 討伐隊は主に「湖の剣」で構成されるそうで、ツヅルたちは朗報を待つ係となったそうです。


「ツヅルくん、少し良いか?」


 今日は討伐依頼を受ける予定がないツヅルが本日の予定を考えていると、ギルド長であるレダンから声を掛けられました。

 少し疑問に思いながらも特別な用事のない彼は素直に了承します。




 三人衆とナラスが退室すると、一番扉に近い椅子に座ったツヅルとそれの反対側にいるレダンだけが残った応対室は1分ほど静寂を保っていました。

 


「ツヅルくん、君の頭脳を借りたい」


 しかし、それはレダンの老いた声によって終わりを告げます。相当、内密にしてほしい話題らしく彼はツヅルの近くの椅子に座りました。


「どういうことですか?」


 当然、急にそんなことを言われても頷きようがないツヅルは頭を少し傾けながら物静かに呟きます。


「君はファリースリ、というのを知っているか?」

「はい。危険な魔法薬ですよね」


 唐突にその名前が出たので驚きました。これはかなり厄介な頼み事になりそうだ、とツヅルは椅子に深々と座り直し、聞く姿勢をとります。


「そう。全世界で禁止されているといっても過言ではない危険や薬物だ。最近、それが東ベストロジアの有力者の間で流行っているらしい」


 聞くと、貴族の街ハルミリ、農業の街クヌ、港街サーヴのような街の間でとある薬物が高値で取引されているらしいです。

 

「儂らは様々な商会を通じて、とある薬物、すなわちファリースリを法外な値段で売り捌いている犯人を知った。誰だか分かるか?」

「ラミ伯爵の子女であるリトーン、先程の「湖の剣」のナラス、そして、モハナト公爵でしょう」

 

 ツヅルが即答すると、レダンは驚いて立ち上がりました。さすがにこの情報を知っているとは思わなかったのでしょう。


「……そうだ。聞くところによると、サーヴの領主、アルノ公爵や東ベストロジア最大の商会であるドラント=ヴァルーユ商会など色々な人物が関わっているが、あくまで売り捌いているのはその三つだ。まぁ、君のような子供は例外としても、ファリースリには関わっていないがこの情報を知っている者は結構いる。だが、これに歯向かおうとはしない。何故か?」

「相手が強大過ぎるから、ですか?」


 レダンはツヅルの回答に頷きました。


「だが、これをチャンスと見立てる人もいる。東ベストロジアで二番目に大きいブラーノ商会やウロミス教を信仰する教会、そして、儂らモハナト冒険者ギルドなどがそうだ。儂はモハナト公爵を使って一儲けしようとしている者たちを集めて『モハナト革命隊』という組織をつくった。実は先程の話し合いにいた「湖の剣」の副団長であるナービくんや司会を担当してくれたアールナくんも所属している」


 そんな組織があったことにツヅルは驚き、今度は彼が立ち上がりそうになりました。


「しかし、それだけの面々が揃っても儂らはモハナト公爵に太刀打ちできない。相手の権力は東ベストロジアでも一二を争うからな。そこで、儂は隊員の推薦した人物を『モハナト革命隊』に誘うことにした。君はアールナくんに推薦されたのだ」


 レダンは彼の眼を真剣に見ました。

 一体どれだけモハナト公爵を恨んでいるのだろう、とツヅルはその恐怖すら感じる眼を見つめ返して思います。明らかにファリースリの取引を上手く利用して儲けようとしている人間の眼ではありませんでした。むしろ、復讐に燃えているような眼でした。

 

「今日の話し合いを見て、アールナくんは決して考えなしに推薦したわけではない事が分かった。君にはぜひ儂らの革命隊に入ってもらいたい」

「……少し、考えさせてもらえますか?」


 ツヅルはすぐ了承しても良かったのですが、少し躊躇しました。メアとリーフのことが心配だったからです。

 利益重視で行動するならば革命隊に所属する方に即決でしょう。しかし、倫理もしくは道徳というものが多少なりとも備わっているツヅルにとって、その選択をするのは苦痛でした。

 ツヅルは応対室を歩き回りながら考えます。すると、歴史書の類が多い本棚に目がついたのでレダンに許可を貰って本を手に取ります。歴史を知ることにより何か分かるかもしれない、なんて淡い期待がありました。

 『モハナトの歴史』というシンプルな題名の本があったのでそれを読むことにしました。紙が萎れているので相当昔のものでしょう。


「モハナトの街の歴史は血で赤く染まっている……」


 そんな書き出しから文章が書かれています。その内容を切り取って述べます。

 まず、初代モハナト公爵とその息子の次期当主は、別の街の公爵の子女と見合いのためにその街に行った帰り、次期当主の弟、後の2代目が雇った暗殺者に街中で暗殺されました。

 5代目は王国閣議に向かう途中、親である4代目が雇った冒険者に殺され、その4代目は凶暴ということで知られていた6代目に殺されるのを恐れて国外へと逃亡したそうです。

 8代目は次期当主候補第2位で、第1位である兄を騙して森に行かせ、そこで盗賊団に襲わせて殺し、一度は自分が領主になったそうでしたが、その兄の息子である9代目との対立で劣勢となり、亡命したようです。

 と、権力争いによる暗殺や毒殺が多発していて、なるほど確かにモハナト公爵家の歴史はコメディーかと思うほどに血に染まっていました。


「君に何をしろ、と命令するつもりはない。ただ、その頭脳を貸してほしい」


 ツヅルがその数分で読める薄っぺらい本を読み終わるのと同時にレダンが天井を見上げながら呟きます。


「……分かりました」


 ここでも、自分が何の役に立つのだろうか、とツヅルは思いながら了承しました。




 大凡(おおよそ)20分ほどのレダンとの話が終わり、ツヅルは応対室から出ました。

 受付の裏側はこんなことになっていたのか、と意味のない感心をしながら出口を目指して歩いていると、パカルタたちが彼に手を振っているのが見えます。どうやら、待っていてくれたようです。


「大丈夫だった?」


 パカルタは先程、ツヅルだけが残された話が気になったのか安否を心配しました。ツヅルは簡単にお礼を言うとそのまま口を閉じます。さすがに彼ら三人衆を巻き込むわけにはいきません。


「そっか」


 パカルタは顔を伏せながら言葉少なに頷きました。三人衆を連れて暑苦しいギルドから出ると、普段とは違う彼の態度に違和感を持ったツヅルはどうしたのかと問います。昼の日差しが目に入った彼は眩しさから目を閉じます。


「……僕は今日から王都に向かうことにしたんだ」


 相変わらず下を向きながら、パカルタは答えました。どうやら、魔族の問題をほったらかしたまま自分だけ安全な場所に行くのが胸を痛めるらしいです。


「昨日一晩中、2人と話し合ってね。人事の締め切りは4月30日まで。今日が3月10日だから、急いで王都に向かわなければ間に合わないんだ」


 モハナトから王都までは一ヶ月以上掛かるらしいので、確かに今から向かわないと間に合わなそうでした。


「それにしても、君には改めてお礼を言わなきゃいけないな」


 何のことか、と彼は思いましたが、聞くとセランを騎士学校に誘った件です。昨日、セランから直接聞いたのでしょうか。

 あれはどこに行くにしても知り合いは居たほうがいいだろう、と若干利己的な考えもあり、ツヅルの脳内では感謝されるべき項目に入っていませんでした。


「俺も今年の冬にはミーラと共にモハナトを旅立って騎士学校の入試を受けに行くことにした。ミーラも納得してくれたしな」

「そうね。……資金面と能力面、どっちも問題があるのが不安だし、ツヅルと一緒にいけないのは悲しいけれど」

「ま、ツヅルなら来年受かるだろう」


 落ち込んでいる兄に対して弟妹(ていまい)は明るく談笑していました。きっと、兄の騎士生活に対する不安などは皆無なのでしょう。


「ははは、この様子なら大丈夫そうだね。……別れの挨拶も済んだ所だし、僕はそろそろ行くよ。外に馬車を待たせているんだ」


 パカルタはそう暇乞いをすると、若干悲しそうに小走りで西門の方向に走ってしまいました。

 ツヅルたちは彼に向かって手を振ります。

 さて、パカルタの見送りが済むと、3人はギルドの前で立ち話をしていました。ツヅルは早速メアの問題に対しても、リーフの問題に対しても、モハナト革命隊のことに対しても、全くの手詰まりで頭がまるで働かないのです。


「そういえば、一晩中話し合っていたからミーラは今日、眠そうだったのか」

「うん、何故か、セラン兄さんが仕送りの値下げ交渉をして、パカルタ兄さんが値上げをする、というおかしな場面で四分の三晩くらいは消費したわ」

「だって、曲がりなりにも指揮官にもなって貧乏なのは恥ずかしいだろ」

「指揮官っていっても貴族じゃないんだし、構わなくないか?」

「まぁ、そうだけどよ。……それにしても、魔族を俺たちの手で倒せないのは残念だよなぁ」 

「そうね。メアの(かたき)も討てないわ」

「死んでないから」


 死ぬ可能性があることには変わりないが、とツヅルは心のなかで呟きます。


「魔法が効かないっていうのが致命的すぎるんだよ! もし、それがなかったら善戦できたかもしれないのに」

「無理たと思うわ。でも確かに、魔族とか妖精族は生まれた時から魔法に耐性があるらしいわね」

「人間とは違うもんなー。魔法の面では完全に俺らの上位互換だ」


 魔法という観点だけを見れば、精霊族と魔族に勝てるものはいないでしょう。仮に魔法のみを使用していい種族同士の戦争があったとするならば、他の種族より数十倍は戦力のある人間でも彼らには勝てないそうです。

 しかし、ツヅルはそんなことよりももっと別なところに思考が移っていました。


(妖精族、か)

(妾のことか?)

(………)

(……最近、お主、妾の扱いがぞんざいになってきておる! いい加減にしないと、クルォリ保護団体が動き出すぞ!)

(………)

(……もう、いいのじゃ)


 ツヅルに無視されたテルランは不貞寝してしまいました。

 しかし、彼は意図的に答えなかったのではありません。思考の途中だったので、聞こえなかっただけなのです。

 その思考は簡単にいえば、ツヅルがクルォリ捕獲の依頼を受けた時に出会った精霊族研究会にリーフ誘拐の協力を頼んではどうかというものでした。

 リーフは曲がりなりにもエルフ。あの研究会はエルフの存在を隠す、とそれを集める目的もあります。これこそまさに淡い期待ですが、頼み込んだら了承してくれるのではないでしょうか。

 まず、リーフがフォート家に遷る前にいなくなったら当然、彼女の親であるアラティスが疑われてエリー家というものがなくなってしまう可能性があるので、リーフ誘拐を行うのはフォート家で行われるらしい結婚式当日でしょう。

 あくまで犯人は政略的思想を持っているように見せかけなければ、すぐに首謀者がツヅルだということが暴かれてしまいます。

 ツヅルはその薄い望みでリーフの問題を解決できるとは思いませんでしたが、これしか思いつかなかったので仕方ありません。彼はミーラとセランに挨拶をして、精霊族研究会まで向かいました。




「どうぞ」


 ツヅルとツシータは唯一精霊族研究会に入った妖精族以外の存在ということでそこそこ有名になり、スラマイナが通行許可を出したことによって、門番に軽く睨まれながらも顔パスで通れました。 

 深くフードを被り、傍目には耳の形が分からないようになっているエルフたちは水晶を弄ったり、談笑に浸ったりと研究らしいことは何もしていませんでした。

 この「精霊族研究会」という名前がエルフの居所を隠すための名前なので仕方がないといえば仕方がないのですが、ツヅルの目から見たら、いつの間にかコミュニケーション部になっている運動部のような感覚が拭いきれません。

 そう思いながらも彼は顔には出さず、廊下を通り地下への階段を下って行くとそこで偶然ルシラに出会いました。


「……お前か」


 こんなところに人間がいる! と最初は驚いていたかのように見えましたが、その人間がツヅルであることに気付くと、すぐに調子を取り戻します。


「お久しぶりです」

「一週間ほどしか経っていないのだし、久しぶりというわけでもないだろう」

「では、どれほどから久しぶりと?」

「そうだな……。一ヶ月ぐらいじゃないのか」

「なるほど」


 しばし沈黙が空気を支配します。どうにも接点がないので、スラマイナなどのボケ役がいないと会話が続かないのでしょう。


「ルシラさんって何歳なんですか?」


 さすがにこのまま無言で通りすぎるわけにもいかないと感じたツヅルはそう質問します。


「16だ」


 女性に年齢を聞くなんて! というテンプレートな言葉は口に出さず、ルシラは素直に答えました。

 人間から見てエルフの顔の違いというのは、アジア人が複数人のヨーロッパ人の集団を見たときのラテン系、スラブ系などある程度の違いは分かるものの細かい違いは全く分からない現象と同じようなものです。

 ルシラとスラマイナは同じ集落出身だと聞いていますので、ツヅルからは2人を見ると、髪の色の違いは除いてルシラの方が多少顔が細長く、幼いくらいしか違いが分かりませんでした。


「へぇ、見えませんね」


 10代の女性は大人のように扱え、という教訓をどこかで見たことを思い出した彼はお世辞を言いました。


「そ、それは……」


 これを聞いたルシラは震えます。喜んでいるのかな、なんて考察ができないほどには怒りに震えているように見えました。


「私が老けている、といいたいのか?」


 案の定、という言葉が今日一番似合う光景でした。ルシラの日本刀のような鋭い眼光と魔神かの如く放たれているオーラに彼は身震いしてしまいます。


「違います! 僕はルシラさんが神々が創りだし地上に舞い降りた天使だと聞かされたとしても、まったく疑うところがございません!」


 ツヅルは妙に芝居がかった言い訳をしました。


「ふふふ、そうか、ほら」


 ツヅルの言い訳を受け取るとルシラは恐ろしいほど急に笑顔になり、彼に向かって腕を広げました。

 何ですかこれは、と彼は視線で訴えかけると、


「昔から天使の抱擁には心地良い陶酔感に溺れられるの効果があると、伝えられているだろう? だから、ほら」


と答えました。

 天使の抱擁というか天使の誘惑もしくは悪魔の抱擁ですよね、と返す暇もなくツヅルは潰れそうなほどに強く怒りの笑顔を保ったままのルシラに抱きしめられます。


「痛い痛い!」


 そんなに歳の話題はタブーだったか、とツヅルは叫びながら後悔しました。それにしても2人は階段での抱擁を疑問に思わないのでしょうか。

 ルシラの体は10歳のツヅルをも凌駕(りょうが)するほどの柔らかさでした。確かにこんなに締め付けられていないのならば、世知辛い世の中を数瞬だけ忘れることができそうです。

 彼女はよほど人に抱きつくのに慣れていないのか微妙に顔を赤くしていました。


「ルシラー! 遅いやんけー! どうかしたんかー? お前、昼食取りに行く、とか言っといてアレか! 私と一緒にいるのが嫌だったとかそういう……。え、意外に近くにおる! というか、ツヅルと抱き合っとる!」


 そんな時、間抜けたと表現するのが適切であろうスラマイナの声によって抱擁は中止されます。

 階段を登ってきたスラマイナは布のシャツ1枚にショートパンツという、ツヅルが思春期だったら目の置き場に困るであろうラフな格好をしていました。というか、エルフであることをまるで隠そうとしていませんでした。


「えっ! いや! 違うんです! これは、天使だから仕方がなくて!」


 ツヅルとの抱擁が見られたルシラはこうなる前の状況を知らない者にとっては何が何だか分からない弁明をしました。




 とりあえず一度、地下のスラマイナの部屋に入って彼らは状況を整理します。

 やはり、部屋には持ち主の性格が出るのか、その部屋はアルファベットが書かれた紙が散らばり、矢らしきものが数十本という数で床に乱雑に転がっており、カーペットはぐちゃぐちゃのまま放置されていて、という光景でそれはもうひどい有り様でした。


「ははは! なるほどな。ツヅルが歳の話をしたから、ルシラが抱きついてきたんか!」


 その部屋の中で座り込み、ツヅルの話を聞いたスラマイナは床を叩きながら口を全開にして笑いました。


「……そんな笑うことないじゃないですか」


 ルシラは恥ずかしそうに赤面しました。


「悪かった悪かった! まぁ、その話はそれぐらいにしといて。ツヅル、今日はどうしたんや? まさかルシラに抱きついてもらいに来た、なわけないやろ? いや、別にそれならそれでゆっくりしてもらえばいいんやけど」


 少し笑いの渦が収まったスラマイナは涙を指で拭きながらツヅルに尋ねます。彼はこの流れに乗り、今までのことをかいつまんでリーフのことを話しました。


「そのフォート家とかいう子爵のバカ息子のせいで、その分家の娘で、微妙にエルフの血が入っているツヅルの友人が望まない政略結婚をさせられようとしている、か。はー、難しい話やな。家ちゅうのは生きるのに困らん貴族様にとって一番の問題やからな」

「しかし、どうしようもなくないか? 政略結婚など全世界の貴族にとって一般的のことだし、今回のようなことも多少稀だがないことはない。大義名分もないのだから、もしそのリーフさん? を誘拐できたとしてもその後が地獄だぞ」


 話を聞いた2人の感想はこのようになりました。どちらも正しく反論の余地がないほどです。特にルシラの意見はツヅルがリーフの問題について最も悩んでいるところで、どうしても打ち破れない壁の一つでもありました。


「何か策はあるんか? 別に誘拐の手伝いと、ここで匿うぐらいなら協力したってもいい。やけど、ろくな作戦も立てずただただ突撃するだけやったら、私らはやらん」


 仲間思いなスラマイナは断固としてそう告げます。

 

「いえ、今日はあくまでもしかしたら協力を要請するかもしれないのでよろしくお願いします、というのを頼みに来ただけです。……勿論、2つほど作戦は考えていますが、どれも不確定要素を帯びたものばかりなので」

「そうか……。分かった! もし、リーフちゃん誘拐を達成できたのなら、その報酬はちょっとした頼み事でええで」


 ツヅルが頷くと、13時の鐘が鳴ったのが聞こえました。さすがに地下まで聞こえるはずないだろう、とツヅルが驚くと、スラマイナは彼の様子が面白かったのかニヤけながら壁に掛けてある円型の時計を指差しました。

 そんな彼女にため息を吐きながら、ツヅルは今後の予定を考えました。

 一応、夜にはレダンに会いにギルドに行こうと考えていますが、どうもその間が暇です。


(……何も思いつかないし、ひとまずメアのところへ行ってみるか)


 問題解決のことばかりでメアのお見舞いのことを忘れていたツヅルは精霊族研究会から「リリィージェラス」へと向かいました。




「何を……、しているんですか……!」


 ツヅルが「リリィージェラス」にメアの見舞いために着き、まずはサラに挨拶しようと店の扉を開けると、そこには何とも綺麗な店内が見えました。

 いつも少しでも配置を変えたら崩れ落ちてきそうなほどに魔法薬が置いてあった机には千切られた値札しか転がっておらず、棚には何もありません。

 まるで、閉店セールを行った後廃業した店のようにガランとしていました。


「ああ、ツヅルか」


 しかし、サラは何も動じずただいつものように奥の方にある椅子に座って本を読んでいます。


「サラさん! これは、どういうことですか……」


 この片付けられた風景が何を意味するのか理解していたツヅルは、別の意図があって欲しいと望みながら聞きました。

 サラはゆっくりと答えます。


「メアが1人で資金はもう揃えた。後は、私自らの手によって過去の因縁に決着をつけるだけだ」

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