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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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二十一話 スライム討伐 7

「期待はしてほしくないんだが」


 ツヅルは微笑しながらそんな前置きをして語り始めようとしましたが、


「何かあるのか!?」


と、その言葉に驚いたセランは顔を近づけてきました。頷いて、距離を置きます。

 まず、そもそもパカルタと共にクレピスに着いて行けばいいのではないか、という案は東ベストロジアから西ベストロジアに渡る船の料金が圧倒的に足らないという理由から不可能になります。

 パカルタの分は騎士団が出してくれるのでしょうが、残念ながら騎士にならず国を左右する権力を持っていないミーラとセランの分に予算を割けるほど国は優しくはありません。


「だが、自分も騎士育成学校に入学すればどうだろう」

「えっ?」


 セランは呆気に取られたようです。


「どうやら、騎士育成学校はいわば国家で重要な役割を担っている軍隊の力を高める学校だから、授業費は無料、寮もあって家賃がなく、必要なのは食事代や服代、その他生活に必要なものだけらしい。そして、何より国に船代を借金できる」

 

 現在、ベストロジア王国の国王の関心は軍事方面に偏っているらしいです。それにより、武器や兵器はもちろんですが、きちんと教育を受けた兵士の数を増やそうと考えているようで、数年前いくつかの制度が生まれました。その内の一つが東ベストロジアに住んでいる受験生が試験会場まで来られるように交通費を貸す制度です。

 そんなことよりも試験会場を今あるものとは別にもう一つ東ベストロジアに置けばいいんじゃないか、とツヅルは思うのですが、そう上手くはいかないようです。

 何故彼がこんな知識を所有しているのかというと、単純に騎士という職業に興味が出てきたからでした。

 現在、彼は使命を言い渡されたわけでもなく、ただ異世界に存在しているだけの人間です。魔王を倒せというわけでも、貧乏貴族の息子となって家を立て直せなんてこともありません。親や家柄などのあらゆるしがらみが存在しないのです。

 だからこそツヅルは何かやりがいのある仕事、例えば騎士などになりたいと望んでいたのでした。


「騎士学校があるラートラーンは西ベストロジア最西端の街で、クレピスと何キロ離れているかは知らないが受かれば、少なくともモハナトからよりは近いし、船代も払わなくていい。まぁ、夏や冬の休暇で会いにいけるだろう」

「……受かるのか?」


 セランもこの案に乗り気に見えました。

 しかし、その合格するかどうかという不安もあります。騎士育成学校の倍率は20倍以上、さらに受験者の中には領主となるため教育を受けた貴族の子息もいるのです。受かるには過酷な修行をしなければならないのは明らかでした。


「それは自分次第だな」

「そうだな……! ……ツヅル! やるよ、俺!」


 先程の落胆ぶりはどこに行ったのか、と思わせるような元気さで叫んだ単純明快な性格のセランに少し苦笑します。

 

「でも、ミーラの判断も聞かないとなー。さすがに一人置いてはいけないし。……ん?」


 そろそろ馬車に戻ろう、とツヅルが言い掛けた時、隣りにいるセランが前を指差しながら彼に呼び掛けます。


「アレなんだ?」


 少し馬車から離れて前を見てみると遠方、100メートル先に馬まで切り刻まれて倒れている馬車と、赤い水たまりに浸かっている5人の人間と、赤色に塗れている片側にしか付いていない角、翼を持った誰かが立っている姿が見えました。

 ツヅルはその光景があまりにも衝撃的過ぎて一瞬理解できませんでしたが、すぐに硬直した脳を働かせて、状況を把握しようとします。

 その赤は紛れも無く血であり、その馬車はツヅル達よりも先に出た五人組クランが乗っていたものでした。ということは、倒れている人間は当然彼らでしょう。

 そして、血に、いえ返り血に塗れている誰かが人間ではなく魔族だということに気付いた時にはもう、ツヅルたちは発見されていました。




 揺すっても起きないメアを除いた全員が馬車を止めて、周りに人工物が見えない草原の真っ只中で戦闘の準備しました。もちろん、魔族の中にも人間に対して友好的な者はいます。しかし、今回、その可能性は圧倒的に低いのは明らかでしょう。何故ならもう5人も死んでいるのです。

 嫌らしい笑みを浮かべながら、その魔族は徒歩で馬車にゆっくりと向かってくるのが見えました。

 この世界に来てから頭脳でいくつかの困難を越えたツヅルでも、現在際している状況下でどのように行動すればいいのか分かりませんでした。

 何故魔族がこんな場所にいるのか、何故五人組を殺す必要があったのか、またどのような武器を用いるのか、など考えれば考えるほど分からないことが増えていくのです。

 ここに現れたのがオールドスライムのようなただ強いだけの魔物などなら、まだ対策の仕様はあったでしょう。

 ですが、ツヅルたちと対峙しているのは魔族です。敵が知能を持っているというだけで討伐の難易度というのは大きく変わります。

 魔族は人間とは違い、総数は少ないですが一人一人が並大抵では及ばない魔法能力を持ち、一般的に見ると魔族一人と人間一人では比べ物にならない戦闘力差が存在するそうです。

 作戦は未だに何も思いつきませんが、ここで諦めるわけにもいきません。ツヅルはもう一度注意深くもうかなり近づいてきた魔族を観察しました。

 左側は無事ですが、右側は激しく損傷した角が生えている頭、容姿は人間でいう30代女性でした。服は遠目でも雑に作られているのが分かる布製のノースリーブの黒いワンピースで、色や大きさが揃っていない――恐らく盗品でしょう――靴を履いていました。また、腰に短剣があるのが浮き出たシルエットから分かりました。

 背中に片側にだけ黒いコウモリのものをそのまま拡大したかのような翼が生えているのが分かりました。

 魔族として括られる種族の見た目は人間に近いものから離れたものまでいますが、魔族は姿形が人間に近いものから上位種とされる傾向、つまり魔物に近いものが蔑視される社会にあるそうです。

 これは、人型に近ければ近いほど魔力を貯めやすく発しやすい性質が関係していました。魔法能力が全てである魔族にとってはこの優劣は大きいからです。

 

「ふふふ、本命はこっちね。わざわざスライムちゃんたちを村の近くに送り込んだ甲斐があったわ」


 その魔族はツヅルたちに聞こえるように嫌らしい笑みのまま言いました。武器を持っていないように見えましたが、なにせ着ている服がヒラヒラとしたワンピースなので油断はできません。


「……あなたがオールドスライムをこの村に?」


 怖気づいでいるセランとミーラを見て、一歩前へ出たパカルタは唇を震わせながら聞きました。その魔族は軽く頷きながら、


「あら、私のスライムちゃんを倒したのはあなた達?」


と、感心したかように返答します。


「その人たちを殺したのはスライムを殺された報復、ということか」


 ということは僕たちも、とパカルタは身震いしました。

 いくら2年でB級冒険者になった優秀なパカルタでも、スライム討伐というE級の依頼で突然現れた上位種のオールドスライムと戦い、何とか倒した思ったらそれよりも格上の魔物より更に強いであろう魔族が出てくるとは想像だにしなかったでしょう。


「別に、あんなものを殺されたぐらいで怒ったりしないわ。私はむしろ嬉しいの」


 しかし、魔族はそう呟きます。いよいよ彼女の目的が分からなくなり、ツヅルは頭を抱えそうになりました。

 そんなことをしていると、魔族が舌なめずりをしながら呟きます。


「さぁ、闇魔術師を私のところへ引き渡しなさい。あなたたち4人の内のだれかでしょう?」


 闇魔術師。メアのことだ、とツヅルは魔族の言葉に疑問を感じながらも、即座に察します。しかし、素直に差し出すわけにも行かないので、顔は無表情のままでした。


「闇魔術師? そんな人ここにはいないよ」


 もう一歩前に出たパカルタはハキハキと言います。彼が段々魔族に近づいていていっているのは攻撃のチャンスを伺っているからでしょうか。


「……あなたたちもそんな嘘を吐くのね」


 それを聞いた魔族は残念そうに片方だけの翼をはためかせました。

 それを見て、ツヅルは改めて彼女が魔族だということを認識できました。


『依頼で自分の力量では敵わない強敵と対峙したら、これを開けてそいつの頭目掛けてばら撒け』


 そういえば、と今回遠出するに当たって持ってきた小さな鞄の中に、昨日寝る前サラに貰った小瓶を仕舞ったことを思い出します。

 魔族にこっそりばれないように鞄の中に手を入れてみると瓶の感触がしました。

 サラの説明によればこの小瓶の中身を魔族に掛けるだけで致命打を与えられるはずです。

 小瓶を上手く使うことができれば、絶体絶命といってもいいこの状況を何とか切り抜けられるかもしれません。

 しかし、小瓶、と表現するだけあってその内容量が非常に少なそうなのが心配でした。

 これでは、もし外したときが絶望的です。この魔族がどのくらいの速さで動くのかまだ分かりませんが、必ず一撃で仕留めなければなりません。

 ですが、どうすればいいのでしょう。ツヅルは頭を悩ませました。戦力に乏しいこちらが魔族の動きを止める方法なんてそう簡単に思いつくはずがありません。


「ツヅルくん、何か思い付いたの?」


 後ろにいるツヅルの唸り声から何かを察したのか、パカルタは前を向きながら彼にしか聞こえない小さな声で問います。


「……一つだけ、この佳境を脱する方法があります。しかし……」


 そう答えると、パカルタの足を見ました。ミーラやセランは完全に魔術師型で、前に出て戦う、ましてや魔族の動きを止めるなんてことはできないでしょう。そして、パカルタも足の怪我により目的の達成は絶望的に近いです。

 誰かにこの小瓶を渡して自分が前に出るしかないのか、とツヅルが考えていると、


「僕はどうすればいい?」


とパカルタが聞いてきました。完全に作戦立案をツヅルに任せているようです。

 ひとまず、彼は小瓶のことを一言で語りきります。パカルタはなるほどと言いたげな表情で頷きました。


「持って近づいたら警戒されてしまう。だから、誰か一人が魔族の動きを止めている間に小瓶を使う、か。

うん、その方法しかなさそうだね。今回の敵はオールドスライムとは違って間違いなく僕らが勝てない相手だから」

「でも、どうするんですか? 前に出る人がいないと……」

「僕がするよ」


 パカルタの表情は見えませんが、足を震わせていました。しかし、その声は平常時のものでした。

 さすがにそれは、とツヅルも一度は遠慮してみせましたが、確かに考えてみれば分かる通り囮役に最も適しているのは、この中では一番戦闘経験が豊富で足の後遺症を持っても今なお強いパカルタでしょう。


「自分が闇属性魔術師だと宣言しながら近づいて、ある程度行ったら攻撃や妨害を仕掛けるのが今思いつく限りでは最良かと」


 少し気が引ける自分を頭の中から追い出したツヅルは観念して即座にたてた作戦を伝えました。

 そして、パカルタは魔族の方に向き直りました。意外にも待っていてくれたようです。


「渡すか、渡さないか決まったぁ?」


 興奮を抑えきれないかのように(せわ)しなく周囲を歩き回りながら、その魔族は気味が悪くなるほどに輝いている黄土色の眼でこちらを見ました


「だから、このパーティーには……!」


 セランが怒りながら言い掛けたのを腕で静止したパカルタは、


「僕がその闇魔術師だ」


 微笑みながら堂々とそう言い放ちました。




 とりあえず、パカルタが攻撃を仕掛ける前までにツヅルは小声でセランとミーラに作戦内容を伝え、援護を頼みました。

 2人は若干震えながらも、了承しました。兄が危険な役目を負ったというのに、ただ震えているだけの彼らではないでしょう。

 この小瓶は魔族に対して有効打になりうるのか、何故魔族は闇魔術師、すなわちメアを狙っているのだろうか、などの疑問がパカルタが魔族の方へと体を動かしている途中、待機しているツヅルの脳内に浮いてきます。

 基本的には落ち着いているツヅルですが、今この状況のような謎の解答時間が短い場面に出くわすと、彼の頭脳ではついていけなくて狼狽してしまうことが多々ありました。


「あら、あなたがそうなの? 意外だわ。まぁ、これで目的が……」 


 パカルタが魔族との距離5メートルまで近づいた時、彼は、


(『一閃』)


 微笑を保ったまま、魔法名を口にせずに得意魔法である「一閃」を放ちました。

 無詠唱で魔法を放つ、というのはそこそこ難易度の高い応用技術の一つで、「無音魔法(ステレスマジック)」と名付けられています。


「……!」


 パカルタの放った「一閃」はいつも通りコンマ数秒という凄まじい速さで魔族へ飛び掛かりました。

 常人ならまず避けられない、ある程度戦闘訓練を積んだ者でも警戒していなければこれを防ぐことは不可能でしょう。 

 しかし、それは魔族の体に当たることはありませんでした。

 彼女は「魔法壁」を目の前に敷くことによって難を逃れたのです。魔族という種族の詠唱の尋常ではない速さにパカルタは驚きました。人間が恐らく数回人生を繰り返せるような時間があったとしても、この領域には辿り着かないでしょう。

 「魔法壁」は人間のA、S級の魔術師でも1秒は掛かります。ですが、この魔族は彼が「一閃」を放ってから、それに対応する形で魔法を唱え始めました。実質、4分の1秒以下。人間の四半分以下の詠唱で唱えたのです。

 パカルタは改めて種族差というものを初めて思い知らされました。


「あなたじゃないの……? でも……」


 奇襲攻撃を見事に防いだ魔族は怒るでもなく、ただ無表情で疑惑の目をパカルタに向けます。

 その様子にツヅルは違和感を覚えたものの、何も思い浮かばなかったのですぐさま戦闘の観察を再開しました。


「……まぁ、いいわ。あまり、人を殺すのは趣味じゃないけど。『闇黒球(あんこくきゅう)』」


 魔族は睨みを利かせながら、いかにも闇属性のようなネーミングの魔法を放ちました。

 「闇黒球」、闇属性の中級魔法で、これの下位互換版である闇の玉を飛ばすだけだった「暗球」と比べると、詠唱者が球を自由に動かせるという機能が加わったものです。 

 闇の玉の効果は、表面に当たると風に舞うガラスの破片に引っ掻かれたような切り傷を負い、内部と接触すると当たったものが数百年後に送られたが如く腐敗する、といったものでした。

 その「闇黒球」を詠唱した魔族はパカルタから遠くに離れた地面に飛びました。ツヅルはその行動が「一閃」を警戒しているからではないことに気付きました。


(暗黒玉を操作するため? いや、戦いながらの方が効果的に運用できるだろう)


 自分の指示で動きを変えられる魔法というのはいわば「接近型魔法術」などを用いた接近戦において有用な魔法といえるでしょう。つまり、もしかしたら彼女は「闇黒球」を接近戦をしながら、使うのが苦手な、まだまだ未熟な魔族なのかもしれません。

 しかし、パカルタはそんなことに気を配る気力がなくなるほど「闇黒球」を避けようと、必死になっていました。

 別にまっすぐ向かって来ているならそれなりの速度があったとしても、パカルタは避ける、もしくは防ぐことができます。

 ですが、現在彼が立ち向かっている魔法は「闇黒球」であり、彼の移動先に球の軌道をずらされたら避けるのはかなり難しくなります。


(『転換遅延』)


 そこでパカルタが放った魔法は「複合魔法」という魔法の応用技術によって製造されたものでした。

 「複合魔法」というのは簡単にいえば、同じ属性の魔法を組み合わせてそれらを一つにまとめる技術のことで、習得難易度は以前紹介した「n重魔法」よりも難易度が高いです。

 違う属性の魔法で複合できないのは勿論として、詠唱時間や効果の違いによって同じ属性でも複合させるのが困難なものがあります。

 魔力の消費魔力は、複合させた魔法各々の消費量をすべて足しそれを魔法の数だけ累乗した値で、これは「n重魔法」のものと等しいです。

 パカルタが放った「転換遅延」は二つの魔法が組み合わさっていました。

 一つ目は無属性魔法の「転換」といって、自分の体を数メートルずらすだけの簡単な魔法ですが、避けるときには役に立ったりするものです。

 二つ目も当然無属性魔法です。「遅延」は相手が自分の行動を認識する時間を1秒程度遅らせる魔法です。

 その二つを複合した「転換遅延」は二つの効果が混ぜ合わさったもの、つまり自分が「転換」で移動するという動作を視認を1秒程度遅らせる、といったものでした。

 それなら「二重魔法」でこの2つを同時に放っても同じじゃないか、という提案は無属性魔法の性質によって否定されます。

 無属性魔法は火、水、風、土、聖、闇属性魔法と同時に使うことができますが、ただ一つ無属性魔法同時では同時に使用できない、ということはだいぶ前に語りました。

 つまり、「複合魔法」によって本来同時に使えなかった2つの魔法を一つにするのが、パカルタの意図なのです。

 ツヅルは明らかに「闇黒球」が当たったように見えたパカルタがすぐ近くに無傷で立っているのことに驚きました。

 無事、その意図に沿うようにして彼は「転換遅延」により、魔族に自分の移動方向が悟られないように「闇黒球」を避けられたようです。

 しかし、たった一回避けた程度で魔族の攻撃は終わるはずもありません。「闇黒球」はUターンして再びパカルタの方へと向かって来ました。


(……これは、近づいた方がいいのか?)


 逃げているだけではいつまで経っても「闇黒球」は避けられないことがパカルタには分かりました。

 なので、何とかこの状況を打開するために頭を働かせていると、彼は先程ツヅルが考えていたことと同じことを思い付き、避けながら魔族の方へ近づく方針を固めます。


「『転換遅延』!」


 パカルタは再び高速で彼の元に戻ってきた「闇黒球」を同じ方法で避けました。

 彼の額に汗が滲みます。今日は通常のスライム戦、オールドスライム戦とこなしてきているので残りの魔力が少なく、そこに「複合魔法」による膨大な消費魔力が失われました。

 疲労が溜まり、ふと足の力を緩めようとすると転けそうになります。

 しかし、彼は踏ん張りました。ここで、倒れてしまっては自分や兄妹や共に戦った友人たちの未来を壊してしまうことになり、そして、10歳の頃から今まで頑張ってきた自分の努力も報われません。

 そんな苦しそうなパカルタを見て、ツヅルは助けに行こうとしましたが、すぐにその行為が愚の骨頂であることに気付いて足を止めます。

 そうして、彼はサラから貰った小瓶を使うタイミングを探りながら、魔族対策を考えていると脳内にとある推測が浮かんできました。それは、彼女には物理攻撃に対する耐性がないのではないか、という推測です。


「……『心討ち』」


 ツヅルは30秒詠唱しました。ゴブリンやスライムならば木っ端微塵になっているほどの威力です。

 一瞬という言葉が似合うほど早い「心討ち」が瞬きをした瞬間に魔族に到達していました。遠いところで、「闇黒球」の軌道が振れ、地面に落ちたのが見えました。

 予想していない方向から攻撃を受けた魔族は体をのけ反らせましたが、すぐに持ち直します。

 ツヅルは「心討ち」が通用したかどうか分かりませんでしたが、彼女のありえないとでも言いたげな表情と額を流れる一筋の血により察することができました。

 

(正解か……)


 ツヅルは拳を握りしめながら、脳内でそう安堵のため息を吐きます。

 彼が「心討ち」を放ったのには先程の疑問を解消する意図がありました。

 「心討ち」は魔力を用いる魔法なので当然魔法攻撃なのですか、不思議なことに物理攻撃という側面もある魔法なのです。なので、魔法か物理。どちらかに耐性を持たれるだけで威力がかなり落ちます。これはスライムの時にも感じられました。

 こうして考えてみると、パカルタの「一閃」を「魔法壁」で防いだのは、格の違いを思い知らせて求めている闇魔術師を安全に手に入れるためで、短剣を持っているのに「闇黒球」を放った時、接近戦に入らなかったのは物理攻撃に対する耐性がなかったことが分かります。

 これらを結論付けると、この魔族はスライムなどよりも遥かに強い魔法耐性を持っている代わりに物理攻撃に弱い、ということです。

 ツヅルはツシータからもう十数日連続で借りている短剣を取り出しました。


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