一話 死後の世界
「おはようございます」
目が覚めたら、声も聞いたことあるようなないようなよく分からない声が聞こえた。
何故か、眼は開かないからその声の主を見ることもできない。しかし、不思議と気分は悪くなかった。殺されたというのに。
それにしてもここはどこだろうか。耳にはその声しか聞こえない。
「私は女神です」
驚いて、声が出なかった。別に目の前に女神が居たから、というわけではない。さすがにその妄言を信じる気にはなれない。驚いたのは今さっき刺されたばかりの僕にそんな言葉を投げ掛けてくるやつがこの世界に存在するとは思っていなかったからだ。
「お前は誰だ……!」
「だから、女神です。あなたはつい先程、亡くなったのでここ天界にいらしたのです」
不思議とその言葉には納得できた。心臓を一突きされて生きている人間はいないだろう。僕が納得したのが伝わったのか、女神は続けた。
「普通なら死んだ人間はこんなところには来ません。私は一人しかいないのですから」
「じゃあ、なんで?」
「あなたのことが、いえあなたの刺激的な人生が気に入ったのです。だから」
女神は深呼吸でもしているのか、長い間を置いた。
「あなたを異世界に送って、記憶を持ったまま新たな人生を歩ませることにしました」
「なっ!」
「あなたが本当に私の興味に足る者なのか、知りたくなったのです。まぁ、別に断ってくれても構いません。だったら、墓地にまで落としてあげるだけです」
僕は素直に悩んだ。自暴自棄にならなかったのはもう既に一度死んでいるからだろう。
『今度は優しい世界で一緒に暮らしましょう?』
「……分かった。受けよう」
そして、彼女に出会えるかも、そんな途方もない希望を抱いて僕はそれを受けた。
「ふふ。ありがとうございます。もちろん、この天界の記憶は消させていただきます。前の人生でもそうだったでしょう?」
「ああ、誰しもそういうものだ」
「そうですね。では綴。……いってらっしゃい」
期待と恐怖で身を包ませた僕の脳に直接襲い掛かってきた猛烈な睡魔は到底耐えれるものじゃなかった。
次から視点が三人称になります。