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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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十七話 スライム討伐 3

 改めてこの盆地の景色を味わいながら無駄に体力を消費したメアの休息のために4人はゆっくり歩いています。

 やっとまともな冒険者仲間ができたな、とツヅルは三人衆と話しながら思いました。

 ツシータはともかく、メアとリーフは冒険者をしなくても生活できるし、更に親から外出を禁止されているので――メアは出ていますが――友人だとは思っていても戦闘における仲間とはあまり思えなかったのです。

 もしこれから三人衆と共に依頼を受けることができれば、きっとかなり戦闘が楽になるでしょう。


「し、しぬ……」


 メアが発した言葉通りの今にも息絶えそうな歩行を見せていました。ウイルスに感染してゾンビになったと言われても信じることができそうなふらつき具合です。


「ツ、ツヅル、たすけてくれ……!」


 こちらを見る体力もないのか、メアは地面から目を離さずに苦しそうな声でツヅルに助けを求めました。

 仕方ないな、と彼は呟きながら、肩に手を掛け励ます素振りをしました。しかし、素直に助けるような彼ではありません。彼女の肩に下向きに押します。


「痛い痛いッ―! ……よくもやったな!」


 彼を親の(かたき)を見る目でメアは睨みつけながら、今まで必死に持ちこたえてきた足を折り地面に座り込んでしまいました。


「ふふ、確かにメアはもう駄目かもしれない……!。しかし、それは君も一緒だ!」


 可愛い雄叫び、という矛盾しているかとも思えるような表現が似合う声を出しながら、メアは自分の今使えるありったけの力を全部使い切って、見事な抱きつきをツヅルに向かって行いました。

 

「なにッ!?」


 驚いたあまりにライバル役のようなセリフを吐いてしまったツヅルは彼女の抱きつきを避けることができず倒れ込んでしまいます。


「負けそうなら共に死んでしまえばいい……! 負けを引き分けに持ち込むスキル「オーバーハグ」……!」


 実にバトル漫画っぽい言葉です。実際にやっていることは、疲れたから誰かの肩を借りようとして失敗しただけなのですが。

 ツヅルは草がクッションとなって怪我は負いませんでしたが、腹の上にメアが乗っていたため動けません。

 いくら男性といえども、いえむしろ10、11歳の頃は女性の方が成長が早い場合が多く、現にツヅルは同い年のメアよりも背が低く体重も若干少ないのでまるで抵抗できませんでした。


「ふふふ、よくもメアのことをいじめてくれたな。今度はメアがツヅルをいじめてやる」


 どうやらメアは疲れによる眠気によって朦朧としているらしく、何をしでかすか分からないという不安に襲われたツヅルはこの状況を見ても何故か何の行動も起こさない三人衆に呼び掛けます。


「すまないが助けてくれませんか。人を助けないと最悪死に至る可能性がある、なんてことが昔読んだ本に書いてあった気がします」

「仲睦まじいことはいいことだと思うよ」

「メア、楽しそう……。私も乗っていい?」

「眠い……」


 しかし、残念ながら交渉下手なツヅルの言葉はニヤニヤとしながらこちらを見ているパカルタと畜生ミーラとそもそも話を聞いていないセランには通じなかったようです。

 ツヅルは呆れながら助けを求めるのを辞めた時、 


「もう……、だめだ……」


と呟きながら疲労困憊状態のメアが倒れこんできました。驚きつつも状態を確認してみると、どうやら眠っているようです。


「し、死んでるわ……」

「いや、ないから」


 ミーラは楽しそうに微笑みながら言った言葉をあっさり切り捨てます。


「あ、寝ちゃった? ま、休むのは大事だよね」


 メアを見たパカルタは皮肉げな発言をすると、近くにあった鈍色の岩に座りました。



 

「ツヅルはどうしてメアと数日間パーティーを組み続けているの?」


 メアが眠りについてから20分。

 メアを抱えているため動けないツヅルのことを何も考えずに、好き勝手に盆地を探索しに行った三人衆を彼は眺めていました。

 もう大分盆地の入り口が近くなってきたので、先程スライムの集団との戦場のように成人男性の背丈よりも高い草や陽の光を通さないほど木が密集した林などは見えません。見えるのは周りを木に囲まれている大きな庭ような風景です。

 光をずっと浴びているため、少し暑さを感じ始めていたツヅルの元に、先程林の中に入っていったはずのミーラがやってきて妙な質問をしました。パカルタとセランの姿は見えません。


「どうしてって?」


 この質問の意図が把握できない彼はメアを起こさないようにゆっくりとミーラの方を向いて、聞き返します。


「……正直に言って、メアよりも魔法が上手くて体力がある子どもなんてこの世界に巨万(ごまん)といるし、モハナトにだってかなりの数いるはず。モハナトはハルミリのように貴族の街というわけでも、クヌのように農業で大成した農民の街というわけでもない冒険者の街なんだから」


 ミーラはメアの方を見ると、居心地が悪そうにそわそわしながら地面を見ます。

 アールナから青い蜂のことを聞いたのか、以前、3組のクランがツヅルを勧誘したことがあります。確かにE級冒険者を何人も殺した青い蜂を類稀なる卓越した頭脳で殲滅した新参者の少年。といえば、中々に優秀そうでしょう。もっとも、ツヅルの自己評価はそこまで高くありませんでしたが。

 その勧誘はツシータがいなかったので保留という建前で断りました。しかし、もし受けていたのならば、メアの力を借りる必要もなくなったでしょう。


「なんで能力の優れていないメアを選んで2人旅のようなことをしているの? 冒険者には死の危険が付き纏っているのに」


 今日話した印象ではいつも眠たそうなミーラは真剣な口調で問います。決してメアを罵る語勢ではなく、むしろ何か自分のことで思い詰めているようでした。

 一体どうしたんだろう、と不安に思いながらツヅルは次の言葉を待ちます。


「ツヅルは今日見た限りかなり優秀。頭もいいみたいだし、魔法はよく分からないけどパカルタ兄さんの『一閃』よりも速い魔法なんて今まで見たことなかった」


 それはちょっと言い過ぎだ、と謙虚さを見せようとしましたが、そんな話の暗さとは反対にきらびやかな太陽の光に遮られます。

 眩しさから手で目を覆いました。


「短剣を持っていることから見て格闘戦もできるみたいだし、そんなあなたが何故……」


 メアを選んだのか。

 ミーラの今にも泣きそうな表情を見て、ツヅルは質問に答えるべく思考してみます。

 しかし、すぐには答えが出てきませんでした。いえ、正確にいえばミーラを納得させられるような回答が浮かんでこないのです。何故その人物が友人と思えるのか、なんてことを考えたことは二十数年あまりを生きていたツヅルでもなかったのです。

 仕方がないので彼は素直に自分の答えを語ります。


「偶然だな」

「偶然?」


 ツヅルの仲間に対しての言葉だとは思えない回答を聞いたミーラは非難するような目になります。


「別にメアと出会わなかった世界線でも僕は困らなかっただろう。だが、メアに偶然出会ってしまった僕から言わせれば、彼女は友人だから。見知らぬ強者と弱者の友人だったら後者を選ぶし、それに現在の強さが一生の強さだなんて僕は断言できない」


 少し支離滅裂に見えるかもしれませんが、ツヅルの脳内ではこれは論理として繋がっています。

 短いスパンで連発されるメアのおかしな言動に悪態をつきながらも、彼はその性格を気に入っていました。信頼が置けるから仲間に誘った、ツヅルにとってはそれだけのことでした。

 その言葉を聞いたミーラは依然として彼を睨みつけます。


「じゃあ、例えばいつかメアがお荷物になったとき、あなたならどうするの……?」

「メアが強くなりたいならいくらでも特訓に付きあう。そうじゃなかったら、荷物番だろうな」


 そして、まぁ、僕が置いてけぼりになる可能性もあるがな、とおどけたように言います。

 ミーラはやっと穏やかな表情に戻り、目を閉じて何かを考えていましたが、数秒後決心したように口を開きました。


「ツヅル。出会って一日も経ってないあなたに悩みを相談するのも申し訳ないけど、今まで沢山の冒険者に同じことを聞いてきてそう答えてくれたのはあなたしかいなかったの。……聞いてくれる?」


 一度しか会わない人だから話しやすいということもあるだろう。そう思って、頷きました。




 彼女の本名はミーラ・トペア。名だたる、なんて修飾はお世辞にもできない一般的な庶民の家庭で生まれ育ちました。複雑な家庭事情などは存在せず、パカルタとセランも同じ姓を持っていますし、生まれてからずっと同じ家庭で過ごしています。

 親は共に冒険者だったためその家庭での生活は貧しかったのですが、楽しかったことを彼女は覚えています。

 しかし、その家庭生活はミーラが物心が付いてからたったの数年で終わりを告げました。

 その時の冬は数十年と来ていない大寒波が押し寄せてやって来ていました。

 作物が育たず、東ベストロジアのどの街の荷馬車も動かなかったので物資が不足し、通常時のような冒険者の仕事は有り余るほどでまともに仕事をしていれば餓死することはなかった冬は、大寒波の到来により一気に飢饉へと発展しました。冒険者ギルドすらも臨時休業になる程度の冬にまともな仕事などありません。

 しかし、苦しかったのは冒険者だけではありません。商人や庶民、挙句の果てには貴族すらも飢え死ぬかもしれない事態に陥り、それによって東ベストロジアのほぼ全ての街が税金を上げ、そして、起こったのは暴動です。

 ある人は餓死、ある人は貴族の屋敷を襲撃、ある人はパン一個で殺し合いました。

 現在は庶民の並々ならぬ努力によりモハナトは無事復興しましたが、当時は街全体がスラムになったらしいです。

 その波にトペア家も当然巻き込まれました。

 貯金なんてする暇がない庶民の家族は黙って死ぬか、悪をなしてまで生きるかのどちらかしか許されなかったのです。

 しばらく、トペア夫婦は3人の子供たちには内緒で深夜こっそりと家を抜き出し盗みを犯して食い繋いでいました。

 しかし、貧困に困っているのは彼らだけではありません。何者かの恨みを買ったのか、ただ単純に盗みに入られたのかは分かりませんが、冬も終わろうという頃、彼ら3人兄妹が発見したのは切り刻まれた親2人の死体と荒らされた部屋でした。

 トペア夫妻が無残に殺された時、ミーラとセランはまだ10歳未満であり、やっとギルドが休業から立ち直ったというのに生活資金を稼げるのはパカルタただ一人でした。

 彼は自分を、そしてまだ年端もいかぬ兄妹を自立するまで生き残らせるために昼夜問わず討伐依頼に出て行ったそうです。

 トペア家にとって幸運だったのはパカルタは魔法の天才といっても過言ではない才能を有していたことでしょう。

 初めて魔法を使ったのはほんの一ヶ月前だというのに「火炎波」などの下級魔法とは一線を画する中級魔法を難なく習得し、D級冒険者昇格試験に冒険者という職業に就いてから一週間余りで、しかも飛び級で合格しました。

 そうして、難しい仕事をこなせるようになって一ヶ月が経った頃、彼はまたまた高校生が算数のテストを受けたときのように別段苦しまずC級の試験を突破しました。

 そこから、冒険者仲間と共に様々な魔物を討伐できるようになり、ミーラとセランを養い始めてから2年が経過した頃、12歳の彼は冒険者昇格の最初の鬼門と呼ばれているB級の試験をたった2回の挑戦で突破したのです。

 パカルタはモハナトでは最小年齢のB級冒険者になりました。冒険者の多いモハナトでも平均年齢26歳、合格するまでの試験回数の平均10回の難関門を他の冒険者から見たら一瞬とも呼べる速さで潜り抜けました。

 パカルタは子供冒険者から尊敬を集めていて、クランへの誘いが後を経たなかったそうです。

 しかし、これで目を付けられたのか、彼が13歳の時にA、B級冒険者に袋叩きにあいました。

 全治数ヶ月の怪我を負ったので、しばらくの間冒険者を休職しなければならなくなりました。


「もしこの怪我を負っていなかったら兄さんは今頃にはA級に達していたはずだ」


とミーラは真剣に言います。

 パカルタは魔術師としてはかなり特殊な立ち位置にいて、「接近型魔法術」なる戦術を用いて戦闘に挑んでいたそうです。

 「接近型魔法術」とは後衛からの攻撃という魔術師本来の戦法を捨てて、自ら前に立ち前衛職と同じように動き回る戦術のことで、怪我による足の後遺症のせいでパカルタはこの戦術を選べなくなりました。

 話を戻して、パカルタが冒険者を休業すると同時にタイミング良く10歳になったのはセランでした。

 彼も生まれながらにして魔法の才能があり、純粋な人間だというのに初めて魔法を使ったのが6歳の時とパカルタとは違う、かなり早熟な魔術師でした。

 彼は兄よりは時間を喰ったもののそれでも平均からしたら短い3ヶ月でD級に昇格しました。現在、12歳の彼を未だC級の壁を越えられていないそうですが、話を聞く限りでは時間の問題でしょう。

 パカルタはその大人しい性格とは裏腹にアクティブな戦術を好むのに対して、活発なセランは一点に留まり続ける戦術を好みます。

 パカルタが戦車ならば、セランは固定砲台でした。

 やがて、パカルタも復帰して、多少動きが鈍くなることがありましたが依然としてB級冒険者としての実力を保っていて、あの兄弟には魔法の才能がある、と一部の冒険者内で噂されるようになった頃に10歳になったのがミーラです。

 

「私にはそれがなかった」


 ミーラはその大きな瞳に溢れる涙を堪えながらツヅルを見つめます。


「普通の人でも3ヶ月あれば合格するE級の試験を、私は1年冒険者の仕事をこなしても未だに合格できないの。合計11回受けても、まだ」


 無理に笑顔を作って自虐する、という痛々しさを感じるミーラを見て、ツヅルは何とも言えません。

 優秀な兄、姉に比べて不出来な自分。なんて話は古今東西溢れかえっています。そして、その相談に対する回答は「そんなことないよ」の一言で大体片付きます。

 しかし、ツヅルはその安易な助言が嫌いでした。何も変わらないアドバイスなど馴れ合いに等しいのです。


「なんで、私たちがこのクエストを受けたと思う? クランの階級は過半数を満たす冒険者階級の人がいなかった場合平均をとるから、私たちはD級クラン。普通、その階級のクランはE級のクエストなんか受けないわ」


 ミーラの問いの答えは容易に察することができました。青々しい小さな草原の中で彼女は軽く呼吸をします。


「私がいるから……。私がいるから、パカルタ兄さんとセラン兄さんは気を使って、今までD級以上の依頼を受けなかったの」


 気を使って人と接するという行為は賞賛されるべきものがありますが、時にはそれが人を追い込むこともあります。気を使われる理由が自分の弱さならば尚更でしょう。

 ツヅルは何と言って助言しようか迷いました。出会ったばかりのため、大した交友もないミーラに特別な感情は抱いていませんが、このまま放っておくほど彼は悪魔ではありません。

 しかし、結局ミーラを立ち直らせる言葉は思いつきませんでした。


「な……、なぁ……! 君たちは俺たちと、一緒に来た冒険者だよな……!?」 


 突然、緊急事態であることを表しているようなかすれていて苦しそうな声が穏やかな風を遮ったのです。 

 驚いたツヅルは振り向いて声の主の様相を確認しました。身長や容姿は明らかに11、12歳程度の少年でしたが、それ自体には何も問題はありません。問題はその服装などを見れば分かりました。

 その少年が着ていた布の服、短剣などが何か酸のようなものによって原型が分からないほどに溶かされていたのです。学校の実験などで使う薄めた塩酸などではこうはならないでしょう。恐らく相当の劇薬が降り掛かったのだと予想できました。

 肌の一部、特に腕などもその酸で灼け落ちたのか皮膚が赤色に染まっていました。

 まだ寝ているメアを除いた2人がその容姿に驚愕を覚えていると、しばらくどこかへ行っていたパカルタとセランが戻ってきます。


「えっ……! 貴方は、西側のパーティーのメンバーの人ですよね、どうされたんですか!?」


 パカルタもこの状況を見て、何か予期せぬ出来事が起こったのだとすぐに察しました。


「ミーラ、すまない。後にしよう」


 ミーラの相談を放置しておくのは気が引けますが、緊急具合でいえば目の前の焼け爛れた少年の方が上でしょう。


「……うん」


 彼女は涙目なのを他の者に見られたくないのか俯きながら頷きます。

 そして、最後にメアを無理やり起こして、彼らはその少年の話を聴き始めました。


「俺たちはオールドスライムに襲われたんだ……!」


 それが一言目でした。ツヅルたちよりも随分前に盆地に着いた彼のクランは早い段階でスライム数十匹を討伐し終えたそうですが、帰る途中オールドスライムに出会ったのだそうです。震えながら少年は詳細を語りました。

 そもそもオールドスライムはどんな魔物なのでしょうか。

 この世界の魔物には、長く生きていたほうが強いという習性というか特徴があります。

 魔物は生まれたときが一番弱いのです。人間など様々な生物には最後に寿命という絶対的な脅威がありますが、魔物にはそれはありません。最期を迎えること即ち何者かに殺されるときなのです。

 オールドスライムとは、古い、要は年老いたスライムのことで、真っ先に魔術師に狩られるスライム族の宿命をくぐり抜けて強くなった魔物のことだ、と少年は説明してくれました。

 体積は通常の3倍以上を所有していますが、動きが一般的なスライムよりも1.5倍ほど速く、その酸は頭から被ったら人間の体など一瞬で溶かす驚異的なものらしいです。

 スライム族特有の物理耐性はもちろん、魔法耐性も大分上がっているそうです。ツヅルはオールドスライムの話を聞けば聞くほどに勝つ展望が見えなくなりました。

 

「他のお仲間さんは何をして?」


 寝起きのメアは若干不機嫌で、問い詰めるような厳しい口調で聞きました。


「全滅してなければ戦っている」


 応急処置ということでパカルタの回復魔法で回復しながら少年は言います。


「え? 逃げていないのか?」


 信じられない、と表情で示しながら、メアは苛立ちます。

 多少棘があるもののその反応は当然でした。オールドスライムはC級冒険者が数人いてやっと倒せるレベルのモンスターであり、五人組クランはE級クランです。1、2人の犠牲は覚悟して冒険者ギルドに報告しに行くのがベストな行動でしょう。


「もし、もしかしたらオールドスライムは村を襲うかもしれないだろう? さすがに引けない。俺は助けを呼んでこい、と言われたから抜けてきただけだ」


 今から戻って冒険者ギルドに報告しに行きましょう、と少年の義憤に反論を申し出たい気持ちを何とか抑えたツヅルはパカルタに提案しましたが、彼は首を横に振って、


「駄目だ、それじゃあ今戦っている彼らの救出が間に合わない。助けに行こう!」 


と場にいる全員を見渡しながら、勇敢な発言をします。


「オールドスライムを倒しに行くのか?」


 黙って話を聞いていたセランが兄に聞きました。パカルタの決定ならどんなことでも従うといった断固とした態度でした。


「まさか。そこまで無謀じゃない」


 パカルタは参戦に反対しているメアを見ながら否定します。


「あくまで、撤退の援護をするだけさ。倒すかどうかは現場に行って全員の意見を聞いてからにするよ」

「まぁ、それなら」


 メアは渋々といった様子で了承しました。

 ミーラは何も言わず、ツヅルはギルドに行ったほうがいいと反対しようとしました。しかし、この時、この事態に乗じたとある考えが脳内に浮かんできたことにより賛成派へと移り変わりました。




 戦場までの道中、ツヅルは戦闘での手札を知っておきたいと思い、1人1人に問い掛けました。

 まず、ミーラは水属性の下級魔法の「水の槍」、水を気体にしたり個体にしたりする「状態変化」などがオールドスライム戦で役に立つ可能性がある魔法でしょう。

 次に、セランは地面から砂で出来た針を出す「砕岩」、物理攻撃に力を生じさせる「波動」、物理攻撃に魔法の力を付与する「属性強化(エンチャント)」などでした。

 メアは火属性魔法の「炎槍」、「火球」、「火炎波」です。


「パカルタさんはどんな魔法が使えるんですか?」


 最後にパカルタに聞いてみました。


「うーん。まぁ、無属性も多少は使えるんだけど戦闘ではあまり使用できないものばかりだね。逆にツヅルくんはどんな魔法を使って欲しい?」


 ツヅルは数秒考えます。


「相手の属性の弱点を変える、もしくは増やす……みたいな」

「あー、あまり使い所が分かんないから使ったことなかったけど確かにあるよ。「属性変化」っていう名前。でも、相手が例えば火属性無効なのにそれをかき消す、みたいなことはまだ僕じゃできないけどね。あくまで結構利くから十分利くに変わるだけだよ」

「そうですか……」


 これらの手札を知って、ツヅルは自分が努力すれば作戦が実行可能であることを理解しました。


「なら、僕が合図した時にオールドスライムの弱点属性を水属性に変えてください」

 

 その作戦はミーラを元気付けるためだけの作戦です。

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