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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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十一話 クルォリ捜索 3/心討ち

「えっ?」


 脳内から別の人物の、それも妙に古臭い口調の声が聞こえてきたら誰でも驚くでしょう。ツヅルにもそれは該当しました。 

 様子が変なツヅルを見たツシータは「大丈夫?」と聞きました。その表情は純粋に彼のことを心配するような顔つきでした。


「今の声……、聞こえなかったのか?」


 もしかしたら幻聴なのか、と疑いながらツヅルは聞きました。彼女はさも当然といった態度で首を縦に振ります。


((わらわ)の声はお主以外には聞こえんぞ。待っとれ。今すぐ出て来てやるのじゃ)


 また先ほどの声が脳内に響き渡ります。かなりの上から目線でしたが、今のツヅルはそんなことも気にならないほどに狼狽していました。

 出て来るってどういうことだ、と口に出そうとしたとき、何と驚くべきことに姿を消していたクルォリが突然ツヅルの目の前に現れたのです。これにはツシータも驚愕の声を上げました。


「クルォリがなんでツヅルの魔力に溶け込んでるの……?」


 意外にもこの状況をいち早く理解できたのはツシータです。彼女の言葉を聞いてやっと自分が今どういう状況に陥っているのかを彼は把握しました。

 そんな2人を見て満足したのかクルォリは再びツヅルの魔力へと溶け込んで姿を消失させました。


(外道なお主には、妾に一生寄生される権利をやろう。昼寝はありで頼むのじゃ)


 どうやら、この妙に古臭い少女の声はクルォリの声で、ツヅルにしか聞こえないようです。

 クルォリは飲食店で物を頼むときのように一方的に雇用条件を言い放ちました。


(聞こえるか?)


 通じるのか分かりませんが、彼も脳内で問いかけてみます。


(なんじゃ?)


 先程も言った通りツシータにはこの会話は聞こえていないので、彼女の目からはツヅルはボーっと突っ立っているようにしか見えません。

 そんな彼女を無視して、ツヅルは露骨に服従させようとしてくるクルォリに話を聞きます。

 

(どうして僕と契約したんだ?)


 クルォリが人間の魔力に溶け込むために必要な条件は主従関係を結ぶことだ、という依頼者のスラマイナの言葉を思い出しながら問います。


(お主が妾の食事を遮ったのが悪いのじゃ。妾はもう丸一日魔力を補充しておらんかったのに)


 どうやら、聞く限りではツヅルの作戦は成功を収めたらしいです。尤も、この結果を成功と呼ぶかどうかは賛否両論となりそうですが。

 

「ちょっと! ツヅル!?」


 テルランとの会話に集中しているツヅルにはその声が耳に入ってきません。

 岩石の類が多い荒原のど真ん中で直立不動を保っているツヅルは、何故精霊族研究会から逃げ出したのかと自分の体内魔力にいるらしい謎の生物に問うと、


(妾は精霊族で、そしてあやつらもエルフじゃから精霊族じゃ。その魔力を食すというのは、お主ら人間の価値観からいえば、猿の肉を食べるようなものじゃ。共食いまではゆかぬがなんとも気分が悪い)

 

と苦い声で答えました。

 

(お前が勝手に締結した契約だが解約する方法はあるのか?)

(ないのじゃ。クルォリの契約は主人が死ぬまでどんなことがあろうとも途切れることはない)

(……契約っていうのはどんな内容なんだ?)

(妾のメリットは毎日必要最低限の魔力は主人であるお主から自動的に供給されるから飢え死ぬことがないことじゃな。お主のメリットは妾を下僕として酷使することができることじゃな。お主の命令に従わないと契約を履行したことにならない。じゃから、妾は魔力供給を受けられなくなるのじゃ)

(……因みに、そうだな、テルランは僕の体内魔力から出て僕から離れることができるようだが、その距離に上限はあるか?)

(お主の魔力ならば50メートル程度じゃな)


 テルランのこの言葉を聞いてツヅルは絶望に陥りました。そもそも、何故ツヅルたちがここまでひたすら歩いてきたのでしょうか。それはクルォリの回収という依頼を承ったからです。

 精霊族研究会の50メートル以内で生活するのは一種の苦行であり、それを望むツヅルでもありません。


「もう! ツヅル! いい加減帰るわよ!」


 ツシータはいつまで経っても正気に戻らない彼の耳元で体を揺さぶりながら叫びました。かれこれ10分ほど、ツヅルはテルランと脳内で話していたのです。




 荒野からモハナトへ帰る途中、ツシータにテルランのことを包み隠さず全て話しました。

 聞き終わると、彼女は納得できなさそうに「そういうこともあるの……?」と呟きながら遠くを見つめていました。

 太陽はもうすぐ地平線を下回りそうな塩梅です。丘の頂上付近でテルランを捕まえれたので、帰り道がどちらか分からなくなるようなことはなく、現在彼らは今まで来た道を折り返していました。

 

(そろそろ「光明」のちからが必要かな)


 一キロほど歩いた時、風景の変わらない単調な茶色の荒野に飽き飽きとしながら、暗さによる視界不良が目立ってきたので何気なくツヅルがそう考えていると、


(妾に任せるがよい)


と自信満々であることが一聞しただけで分かるようなウザったい声のテルランが口を出してきました。

 その言葉の直後、目の前に藍色の楕円球の体をしたクルォリが現れます。


(何をする気だ?)

(光ってやるのじゃ!)


 その瞬間、どういうことか1万ルクスはありそうな巨大な光がツヅルたちを包み込みました。


「ん? どうしたの? うわっ、まぶし!」


 猛烈な光に気付いたツシータを手を目を隠します。

 あまりにも唐突すぎて目を閉じる暇がなかったツヅルは目を抑えながら倒れ込み、その様子は(さなが)らフラッシュバンを受けた時の兵士のようでした。


「おい、テルラン! やめろ!」


 普段、叫ぶことの少ないツヅルも思わず叫んでしまいました。


(なんじゃ、気に入らんのか? これは大量の魔力を消費するが特大の光を出せる魔法なのじゃが)


 テルランが不満そうな声で追記します。

 

(……普通な、こういう場合は一言、いや二、三言は断ってから……)

「ちょ、ちょっと! さっきの光でモンスターが集まってきてるんだけど!」


 ツヅルがテルランに説教を垂れようとしたとき、目をこすりながらツシータが驚き声をあげます。

 見てみると、確かに遠く離れたところ100体はいそうな魔物の群れがこちらに向かってくるのが分かりました。何故、魔物だということとその数まで分かったのかといえば、魔物たちが人の住めない更地が広がっているらしい南の方面にいることと、各々が松明を持っていて、炎の赤い光がかなりの数見えたからです。

 ツヅルは強制的に頭を冷静に働かせます。群れをなし、松明を持てる即ち手がある性質を同時に満たす魔物は彼にはゴブリンしかいません。もしかしたらあれが、今日の朝ギルドで見た依頼のゴブリン中隊かもしれません。

 もしそうならば、20人のE、F級冒険者を必要とする魔物の集団にツヅルとツシータだけで挑むのはあまりにも無謀です。彼は何故か突撃しようとしているツシータの首を掴みながら逃げました。


(妾、別にこんなつもりじゃなかったからセーフで)

(お前覚えていろよ)


 この他人に厳しく自分に甘いクルォリの言葉を聞いたツヅルは、後で針かなんかを一本ずつ刺していこうと深く心に誓いました。




 モハナトに着いた頃にはもう21時でした。

 西門の門番に夜は危険だから気をつけて、と労われたツヅルは二日連続で夜帰りなのに気付きます。ま

 そういえば、ギルドに青い蜂の報酬を貰いに行くをを忘れていたなと彼は今日の本来の目的を思い出し、先に精霊族研究会に行くかギルドに行くか迷いました。

 依頼の報酬の受け取り方は各々の依頼により元々定まっており、青い蜂はギルドで、クルォリは研究会で直接受け取ることになっています。

 ツヅルはギルドは23時まで開いていることから先に精霊族研究会に行くことにしました。




「なんていいよっと!? クルォリを捕まえた!? たった一日で捕まえられるとは思っとらんかったわ! まだ若いのに有望なやっちゃ」 


 精霊族研究会の地下一階、スラマイナの部屋で一体どういう人生を歩んだらその謎の言語を操れるのか、と疑いを抱くほどに一般的な口調とはかけ離れている喋り方でスラマイナは快く彼らを迎えてくれました。

 ばれてしまったのでは仕方がない、と思ったのでしょうか。彼女はフードを被っておらず、その尖った耳を特に気にすることもなくツヅルたちに見せながら歩いていました。


「で? クルォリの奴はどこにいるんや?」


 そう聞いてきたので、ツヅルは脳内でテルランに話しかけて出てきてもらうように言いました。

 どちらにしろお主とは離れられんのじゃから、と彼女は分かりきった言葉を返して目の前に出現します。


「え?」


 流石のスラマイナも突然現れたクルォリには唖然しました。

 話さねばどうにもならないので、ツヅルは今日一日の捜索劇を語り始めます。 

 彼女は最初は若干戸惑いながらも頷いていましたが、クルォリ、テルランがツヅルと衝突したこと、脳内で古臭い言葉で喋ったこと、ツヅルがテルランと契約を結んだを知ると「え?」と繰り返すだけの機械になっていました。


「いやー、流石に耳を(つんざ)きましたわ。もうこれは、劈くとかキャラに合わない難しい言葉を使ってしまいますわ」

「以上が僕が失敗に至るまでの顛末です。尽力させて頂いたのですが、非才であるが故に看過し難い失態を犯してしまいました。この結果を真摯に受け止め、ひいてはクルォリハンターの名を(ほしいまま)にできるほどの冒険者へと栄進するために邁進したいと思います」

(妾狩られているのじゃ!)

「頭が痛くなるような言葉ばっかり使うなや! 官僚か!」


 ツヅルは2人からツッコミを貰いました。


「……まぁ、ええわ。じゃあ、そうやな。せっかく荒野を駆けてもらったんやから約束の報酬の三分の一の1000レーくらいは払わしてもらうわ」

「いいんですか?」


 スラマイナは頷きながら、散らかりようが半端ない部屋の端へと行き、ゴソゴソと探索をし始めました。

 その様子はまさに探索という言葉がぴったりで、然るべきところに申請すればこの部屋がダンジョン認定されるのも夢ではないかもしれません。

 それから3分が経ちました。

 スラマイナが財布を探すのに苦心しているとツヅルの後ろに居た1人のエルフがため息をつきながら手伝いに行きました。

 彼女はツヅルらが初めて研究会に来た時にこの地下室まで案内したエルフで名をルシラといい、研究会の副会長らしいです。

 何故そのような幹部が案内役を承っているのかツヅルは気になりましたが、出会ったときの態度から見ても分かるように彼女はかなりクールで男勝りな性格のため、聞けませんでした。

 しかし、案外面倒見がよいらしく、この研究会の会員から「困った時のルシラさん! 危ない時のルシラさん! スラマイナ会長が暴走した時のルシラさん!」と結構慕われていました。苦労役らしく、中間管理職は大変そうだな、とツヅルは密かに同情しました。


(そういえば、クルォリってどれくらい昔から存在しているんだ?)


 待っている時間が暇だったのでツヅルはテルランにクルォリの謎を聞きます。


(クルォリというのは元々人間の主人を見つけて、魔力を受け取る代わりに光る種族じゃ)

(……なんて迷惑な話だ)


 テルランの話は続きます。


(妾は神暦0年。ギ・ラークが魔王、精霊王を討伐した年に丁度生まれたのじゃ。じゃから、あまりクルォリの歴史はあまり知らん)

(そのギ・ラークなんて人のことを初めて知ったんだが)

(……ギ・ラークを知らぬのか? お主今までどんな人生を送ってきたんじゃ……) 


 さすがに異世界で暮らしてきたとはいえないので、ツヅルは沈黙で回答しました。

 そんなことよりも、テルランが1383歳と高齢なのに驚きました。さらに聞くと、クルォリには寿命という概念がなく死ぬときというのは誰かに殺されるか、魔力が途切れるかのどちらかしかないそうです。


(……今までに妾の主人となった人間は1人しかいないのじゃ。それ以外はふよふよ浮きながら魔物の魔力を食すだけの人生じゃ。たまに主人がいないと気がすまない尻軽なクルォリがいるが妾はそうではないのでな。……まったく、あんな強引な捕獲の仕方はないじゃろ、お主もアヤツも)


 テルランは心なしか悲しそうな声をしていました。表情が見えなくとも感情というものは意外に分かるものです。

 言葉の最後の方が聞こえませんでしたが、千年生きてきたのだから人に言いたくない思い出の一つや二つあるのだろう、とツヅルは無理に詮索しようとしませんでした。


「あったわ! ぼろぼろやけどまだ使えるやろ。ヘイ! ツヅル少年! お望みの1000レーやで」

「私が見つけたのですけどね……」

「どっちでもええやろ! 肝心なのはこの少年が頭脳を用いて出した行動を賛美することちゃうんか!?」


 スラマイナが報酬を手渡しできます。

 ツヅルとツシータの2人で報酬を分け、各々500レーという微量の儲けでクルォリ捜索は幕を閉じました。

 彼にはスラマイナに引かれた報酬の2000レーの代わりに手に入れたテルランが役に立つ姿が見えなかったので、少しナイーブな気持ちになりながらツシータと共に冒険者ギルドへと向かいました。




「今日は疲れたわ」


 深夜帯なので人の少ないギルドに入ると、眠たげに目をこすりながらツシータは言います。

 体力のないツヅルは夢遊病のように眠りながらに見えるほどノロノロとした歩行をしていました。


「あっ、ツヅルさーん」


 そんな彼らの元へ、黒色の布と二つに折ってある羊皮紙を持っているギルドのクリーム色の制服を着たアールナは寄ってきました。


「今日の朝、ギルド所属の調査員がクリーム草原へ向かって、きちんと駆除できているのが確認できましたぁー。そして、こっちが報酬の『心討ち』の魔術書ですー」


 こころなしか少し眠そうなアールナは作られてから10年以上は経っているであろうくすんだ羊皮紙を彼に手渡しました。

 ツシータはこの光景を見て「……クランのリーダーはアタシなんだけど」と呟きました。アールナは頭の良さと落ち着いた態度からツヅルがリーダーだと思い込んでいるようです。


「次にー、これはお詫びの品です」


 あはは、と苦笑いをしながら彼女は黒色の布を手渡しました。

 それを広げてみると、外側が黒色、内側が赤色のドラキュラが着ていそうな、ツヅルの身長よりも少し大きいマントでした。

 触り心地から相当上質なものだと分かりましたが、お詫びといっても何のことか心当たりがありません。


「実は、青い蜂の死骸から出てきた毒を調べてみたんですよー。そうしたらなんと一滴垂らすだけで骨まで溶けるほどの毒というよりは酸だったらしくですねー。……改めてランク設定をしてみたらC級依頼として、扱われるべきものだったので、それのお詫びです」


 アールナの説明を聞いて、ツヅルとツシータは同時に身震いしました。もし、青い蜂が昼行性という性質を持っていなかったら、今頃彼らは見るも無残な姿で発見されていたでしょう。


「それはー、『ユーミルマント』といってー、獣人の国では革命の英雄と祭り上げられている獣人の着ていたマントを完璧に再現したベストロジアには二桁個もない貴重品ですー。まぁ、特に効力などがないから誰も作らないだけですけどねー。ですが、噂によれば魔力を上手く操れるとか操れないとかー。」


 後半部分はものすごく曖昧でしたがツシータはこの説明を聞いて、


「魔力関係ならツヅルね。ちょっと着てみて!」

 

と嬉々としながら促しました。

 二人に見守られながら着てみると、特に何かがパワーアップした感触はありませんがやはり着心地がいいものでした。悪くないな、とツヅルは思います。

 ただ、大人用のものだったので布を引きずってしまっているのが若干の不満でした。後で直そう、と裁縫は得意ではありませんが心に誓いました。


「なんか、魔術師っぽいわ」


 とツシータは彼を褒め、アールナもそれに賛同します。

 褒められるのはやぶさかではないツヅルはこのマントが気に入りました。

 結局、お詫びとして受け取ったのはこのマントと1万レーというC級依頼の報酬に匹敵するもので、2人で分けても5千レーなんて大金を手に入れました。

 今日の朝にギルドに行く前に買った粗雑な革の財布が重くなったツヅルは、しばらくは暮らせるなと大きく息を吐きました。




 朝9時に宿屋を出たツヅルたちは23時にやっと帰ってくることができました。10歳でこんな過酷な労働をするとはさすがに驚きです。

 夜になるとテンションの上がるツシータは「さぁ! 寝ましょう!」とこれから睡眠するとは思えない元気溌剌(はつらつ)具合で言いました。


「あ、そうそう。ツヅル! クルォリ、じゃなくてえっとテルラン貸して!」


 部屋に2つあるベットに各々座り、ツシータは何を思い付いたのかそんなことを頼み込んできます。

 ツシータがテルランを殺すなんてことはしないだろう、と判断し、あっさりと引き渡しました。

 きっと枕にでもするのだろう、と思います。ツヅルの前世での一般的な枕を食パンとするならば、この宿屋の枕は乾パンのようでした。中に石が入っているのではないかと思うほど固いのです。


「やっぱ、柔らかいわ! 抱いて寝ると気持ちよさそう」


 ツシータは笑顔で嬉しそうにテルランを抱きしめながら言いました。


(そっちの枕だったか)

(そっちこっち言ってないで早く妾を助けるのじゃ! この小娘、生き物に対する道徳がなっとらん! イ

タタタタ!)


 テルランの悲痛な叫びが聞こえてきましたが、彼は無視します。


(無視するのかこの外道! なんなら、歌って眠れなくしてやろう! ~~!) 


 テルランの歌は音痴なのですがどこかまた聞きたくなるような中毒性がありました。

 都会の騒音の中で生きてきたツヅルは全く動じずにそれを子守唄として睡眠しました。




 次の日、彼は早速ここ2日で得た報酬の整理していました。

 まず青い蜂のクエストで彼が得た報酬は、「心討ち」の魔術書、紅縅のマント、5000レーの3つ。次にクルォリのクエストでは、500レーと不本意ながらテルランを手に入れました。

 テルランに戦闘の場においてできることを聞いていくと、


(……光れるぞ)


 そう一言応えるだけでした。

 あの光は確かに目眩まし、目印として使うには最適かもしれませんが、どうやら1日1回しか使えない大技のようです。


(あ! 後、魔力を吸い取ることができるぞ!)


とテルランは思い出したかのように言います。

 確かにこの点において、彼女はいい能力を持っていました。しかし、それにも欠点があります。

 それはテルランは物理耐性の低いので、ベストなタイミングで使わなければ、テルランは物理攻撃を喰らって死んでしまうのです。

 そんないまいち運用方法が思いつかないテルランをおいといて、次は「心討ち」の魔術書を読み解こうとします。

 その羊皮紙を開いてみると、予想通り英語と数式が入り混じった文字が羅列してありました。


(やはり英語だ……。でも、何故?)

 

 ツヅルがそんな風に困惑していると、近くにいたツシータが魔術書を覗き込んで来ました。

 曰く、その文字は魔法の創設者クルーラル・メラルトが編み出した魔法用の言語でメラルト語っていうのよ、です。

 改めて魔術書を見ます。書いてある量はそこまで多くないようです。思いの外、単純な魔法なのでしょうか。

 ともかく、数式の方は理解するのが難しそうですが、彼も教育を受けた身であり英語がそれなりに読めるのでまずその部分のみを読んでみました。


『関係式Bを変形すると……となり、これは関係式Aに含まれる。故に、関係式Aにおいて具体的な解を求めればいい。したがって……』


と、このようでした。ツシータは年下の彼が自分にも読めない文字を読めたことに驚きを隠せないのか、しきりにツヅルと魔術書を交互に見つめていました。

 しばらく2人でこの少年少女には難しい魔術書を解読していましたが、ツシータの知識とツヅルの知識が上手いこと噛み合わさったのか、1時間半後には何とか主張の部分を理解でき、「心討ち」の魔法のイメージを掴むことができました。完璧に理解するにはまだまだ時間がかかりそうですが。

 因みに、テルランに一千何百年の人生で溜め込んだ豊富な知識を活かしてもらおうと魔術書を見せましたが、なんと最初の一文すら読めませんでした。

 魔法でも技でも、やはり習得したら使いたくなるもので彼は早速「簡単な討伐クエストを受けよう!」とツシータに言い放ちました。

 いつもならすぐに了承するツシータですが、今日の彼女はひと味違うようです。


「買い物に付き合って!」


 3月4日。太陽はもうそろそろ南の高い空に位置する頃合いです。

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