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神殺しの王となる。  作者: 唐松あせび
一章 モハナト革命
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十話 クルォリ捜索 2

 ツヅルよりも知識があるとはいえ、この世界に精通しているとはいえないツシータにも当然、クルォリなんて生物の行く先なんて知る由もありません。

 一年間ひたすら採集依頼をこなしてきただけに、このモハナト近辺ならば知らぬ草花なしと豪語してもいいほどの知識を彼女は所有していますが、その分魔物の知識が皆無でした。

 彼らはとりあえず西門からモハナトの外に出て、西に向かって歩きながら2人で作戦会議を行っていました。

 今日は昨日と同じような空も雲一つない晴天でした。どうやら、東ベストロジアは晴れやすい傾向にあるようです。


「どうするの? アタシは何もおもいつかないんだけど」


 ツヅルは目を(つむ)ったまま思考していて、彼女の問いに答えません。

 案ずるより産むが易し。しかし、さすがにモハナト周辺全てを探索するなんて回りくどい方法をとりたくないツヅルは必死に思考していました。ツシータはもう考える気力を失ったのか、指で髪を弄っていました。


(自分が空を飛べて、魔法攻撃が無効で、なおかつ物理攻撃に弱かったらどうするだろう?)


 人探しの極意――まぁ、この場合は人ではないですが――は、自分を相手の立場におくことです。生きてきた道が違うんだからそれは意味はない、と嘲笑する人もいますが、決して高いとはいえない自分の足場から全てを覗こうとするのは愚かでしょう。

 魔法耐性が強く、物理攻撃が致命的な弱点であり、常に空を飛べる。

 この条件下で最もシンプルで比較的安全な策といえば、空高くを飛ぶことでしょう。

 

(だから、相当高度の知能を持ってたり、逆に知能がまるでない場合を除いて、クルォリは森にはいない)


 現在は魔力を与えてくれる人間がいないので魔物の魔力を主食として生きているクルォリが、空高くから飛んでいたら大量の木に阻まれて森の魔物が見えないし、魔力の多い魔物を発見するために森の中を低く飛んでいたら物理攻撃を受ける可能性が高まる林や森に出向くわけがありません。

 だから、クルォリの飛んでいる場所はモハナト周辺で考えればすぐ西にある荒野かすぐ東にある草原のどちらかということになります。

 北には数十平方キロメートルばかりの小さなものですが森があり、南にはそもそも生物が住んでいないと聞きます。


(荒野か草原か、はさすがに絞れそうにないな)


 最悪2日掛けなければならないのか、と少し脱力します。

 ところで、ツヅルたちの目標はクルォリを捕まえて、無事にスラマイナのところへ持ち帰ることです。

 では、空高く飛んでいると仮定したクルォリをどう捕まえればいいのでしょうか。

 真っ先に思いつくのは自分も空を飛んで直接捕まえることでしょう。しかし、これは少なくとも彼らの魔法能力では不可能に近いです。ツシータはそもそも自分の体を上げるほど「浮遊」を行うと瞬時に魔力が尽きてしまいますし、ツヅルはまだ精々5キログラム程度の物が持ち上げるので精一杯です。

 第二に「浮遊」で自分の体ではなく、なにか物を使って捕らえるのはどうでしょう。

 これは例えば小石をクルォリに当てて弱らせて地上に落とす、網かそれに代用出来る物を使い捕獲する、などです。

 しかし、一向に良い策が浮かんでこなかったので、ツヅルはとりあえず捜索に集中しようとここまでの思考をツシータに伝えました。

 彼女も最終的には何も考えず、ただボーッと何かを思い詰めながらツヅルを見つめていただけなので特に反論することもなく頷きました。


 

 

 ツヅルたちは今日のところは西の荒野方面に進むことにしました。現在、見通しの良い丘に向かっているところです。視界確保のために高所に向かうのは古代からの常識です。

 数十分後、モハナトから離れてきたのでいよいよ魔物が出始め、現在彼らは狼の姿をした魔物のウルフ10体程度を何とか怪我を負わずに殲滅した場面でした。

 といっても、ツシータが獣人の身体能力を活かしてほとんどを討伐しているので、ツヅルはほとんど戦闘に参加していないのですが。


「やっぱり仲間がいると魔物討伐が楽だわ!」


 戦闘時の無表情状態を解き、陽気にツシータは叫びました。


「眺めているだけで役に立つなんて嬉しいこと言ってくれるな」


 微笑しながらツヅルは皮肉口調で自虐します。実質、戦闘の場において彼はいないのも同然なので、この発言は全く間違っていないでしょう。


「そ、そんなこと言ってないわ! それに雑魚戦では確かにアタシの方が上かもしれないけど、アタシ1人だったら、ううん、もしツヅルと一緒じゃなかったらきっと青い蜂でアタシは死んでいたと思う。だから、感謝しているわ」


 屈託のない笑顔でツシータは言いました。

 前世の記憶がある自分よりも精神年齢が上なのでは、とツヅルは思いました。

 

「そもそもツシータは青い蜂の依頼は受けてないんじゃないか。僕がいなかったら。」

「そうね。じゃあ、お互い様だわ」


 この返しは彼が11歳の頃にはできなかったでしょう。


「……ねぇ、ツヅル」


 今度はツシータの方から声が掛かりました。

 荒野は広々としていて、ツヅルが暮らしていた都市の狭苦しさとは大違いでした。名前も知らない草木がわずかに点在していて、時折、遠くには色彩理論をまるで考えていない様々な花が連なっている花畑があるのを見ることがてきました。

 まだ、春の初めですが陽は暖かく、ここが平原で魔物が全く出現しない場所ならば思わず寝っ転がってしまったでしょう。そんな心地よさがありました。

 太陽が南の方に向き始めていました。もうそろそろ正午です。


「ツヅルは、どんなっ……」


 ツシータの言葉は不自然なところで止まります。ツヅルが疑問を持って彼女を振り向きました。 

 すると、彼女は「あっ……、あれ……」となんとも驚いた表情で晴天を指します。

 もちろん、ここで空を見上げない理由もないので彼は上を向きました。眩しくはなかったので北の空だということが分かりました。

 そこには、なんと普段空を見上げても見ることはできない希少な物体が浮いていたのです。

 まさに枕にしたらちょうどいい大きさの楕円球で、人間などに比べたら遥かに丸っこい形をしていていました。

 その表情はデフォルメされているかのようなジト目で固定されていました。

 頭には刺されても痛くなさそうな丸い角が生えていて、石を軽く投げるくらいじゃ届かないだろうと思わせるほどの高さにプカプカと浮いています。

 それを見た時のツヅルとツシータには「なんだあれ」以外の心情は存在しませんでした。


「ツっ、ツヅル、あれ……!」


 逃げられないようにゆっくりと追おう、と冷静になったツヅルは言いました。

 そのクルォリらしき生物の後を追います。しかし、いつまで経っても降りてくる気配がありません。やはりどう捕まえるかが問題になりました。


「やっぱり、何か網みたいなものを探すしかないのかしら……」


 空を見上げながら、ツシータは呟きます。

 しかし、都合よくクルォリを捕らえられる網が転がっているはずもありません。ここで、ツヅルかツシータのどちらかが網を取りに行くという案もありますが、彼らは通信手段を持っていないので、結局その作戦は頓挫してしまいました。

 ツヅルは改めて作戦立案のために集中します。

 やはり、空にいる標的に対する攻撃手段が圧倒的に足りていません。

 ツヅルは精々「浮遊」で軽いものを飛ばすことしかできず、ツシータは体内魔力の少なさが全面的に致命打となっていて、普通の方法ならば依頼を達成するのは不可能でしょう。

 かといって、奇を(てら)った方法がそう簡単に浮かんでくるはずもなく、クルォリ捕獲の難しさは情報が少なすぎて何も思いつかないというところにありました。

 唸りながら、考えます。


(そうか……! 何も僕たちがクルォリを地に落とす必要はないのか)

 

 ツヅルたちが落とそうとしなくとも、食事のときはクルォリは降りてくることに今更ながら気が付きました。。

 クルォリは魔力を与えるときに逃げた、というスラマイナの発言からクルォリが食事をするには生物にくっつかなければならないのだと推測できます。

 ならば、とツヅルはその性質を利用して作戦を立案しました。

 クルォリが食事をする前に魔力を持った魔物を倒せばいいのです。

 物理攻撃を一発喰らったら命の危機が訪れるのですから、食事のため魔物に密着するときの警戒心は相当強いものでしょう。

 なので、食事しているときに捕まえる、という作戦は少し成功確率が低いように思えます。

 だからこそツヅルは、クルォリの食事の邪魔をするという作戦を決行しようとしたのです。

 10回20回とそれを行い、食料である魔力を持つ物体をなくす、簡単にいえばツヅルたち以外に魔力を持っている生物をいなくするのです。クルォリも生物なので食事が必要であり、近くには彼らしか体内魔力を持っているものはいません。

 ならば、クルォリはどうするのでしょうか。そう、食事を取るために自分からツヅルたちの元へとやって来なければならないのです。

 


 

 ツヅルすぐにこれをツシータに伝えました。彼女はなるほどと頷きました。

 肝心のクルォリは何も気づいてないようです。今から数時間は食事を取れないとは思ってもいないのか、のほほんと飛んでいました。

 やはり、改めて見ても謎生物という言葉がしっくりくる見た目で、前世で見かけたら絶対逃げ出してしまっただろうな、とツヅルは思いました。

 因みに、クルォリが現在空腹なのか、それとも彼らと出会う前に食事を摂っていて満腹ないしそれに近い状況なのかは完全に賭けで、もし後者だとしたら日を跨ぐ可能性もあります。

 ちょうど太陽が一番高いところに居座ったとき、ツヅルたちは最初の魔物を発見しました。ゴブリンが5体です。

 結果を簡潔に述べると、ツシータの突撃がゴブリンに炸裂し、1分も掛からず殲滅しました。クルォリは戦闘の音を聞いても見向きもしませんでした。


「これくらい楽勝ね!」


 作戦開始から1時間余りが経った頃、すでに何体も魔物を倒しており、クルォリから見れば迷惑極まりない護衛となったツヅルたちは再び魔物を発見しました。

 フレイムという名前の炎の体を持っている魔物です。何でも生物が死ぬときに放出される魔力が突然変異したものらしく、人間や精霊族、魔族の体内魔力を求めて徘徊しているそうです。

 これは魔力で体が構成されているため、まさにクルォリの求めていた食材でしょう。それ故にツシータお得意の短剣による打撃が効かないため、5分掛けてツヅルが戦いながら覚えた「流水」という水を噴出する魔法で何とか事なきを得ました。

 クルォリは心なしか泣き出しそうな表情をしているように見えます。


「さすがだわ、ツヅル」


 この世界におやつの時間という概念が存在しているのかは知りませんが、午後3時になりました。

 これみよがしにパンを食べているツヅルたちはまたまた魔物を発見しました。

 ドリュアスまたはドリアードと呼ばれている緑色の肌をして頭や腰、足首などに花を飾っている女体型の魔物です。

 人型の魔物は大抵、何らかの人外の力を手に入れようとした学者たちの実験の失敗作が繁殖したものです。

 このドリアードの場合は、植物のように土から栄養を得ようとした人体実験の失敗作として生まれました。また、結局自然の力を得ることはできず、人間や動物の血肉を喰らって生活しているようです。

 ベストロジア王国にはこの種の人体実験の失敗作である人型の魔物が多いらしいです。 

 そこかしこに飾ってある花とボロボロながらもきちんと作られている服から、何だか少女らしさを感じられました。

 なので、ツヅルたちは殺すのを躊躇っていましたが、ドリアードが魔法を放ってきたため、仕方なしに「浮遊」による短剣攻撃とツシータの打撃で、討伐しました。

 クルォリは実に悲しげで、その藍色の体は涙の色なのではないかと勘違いするほどでした。

 

「………」


 空が茜色に染まっていく時分。自分が今地図上の何処にいるのかがあやふやになっているツヅルたちはもうクタクタになっていましたが、魔物が出てきたでは戦わねばなりません。その魔物とは、マジシャンスライムでした。

 スライムという種族はモハナト周辺では珍しく、ツシータも今までに一度だけしか見たことがないようです。

 スライムは物理攻撃にかなりの耐性を持っていて、その再生能力のため斬撃を与えてもすぐ元に戻ってしまうそうです。つまり、物理攻撃で倒すには再生の隙を与えないほどのスピードでひたすら殴りつけなければいけないのです。

 このマジシャンスライムは大きさは普通のスライムとそう変わりませんが、名前からも察せる通り、魔法を使用することができます。

 体の色で使う属性を判断できて、今回は緑色なので風属性魔法を使うことが分かりました。

 そういうわけで、ツシータが囮になっている間にツヅルは「火炎波」を数発打ち込みました。

 1匹だったことも幸いして討伐時間は数分しか掛かりませんでした。

 クルォリを見てみると、いよいよふらふらと飛び始めました。


「はー……、これいつまで続ければいいの?」


 ツシータは猫のように背中をのけ反らせました。もう数時間も歩き続けています。疲れたのでしょう。


「今にでも墜落してしまいそうな飛び方をしているからもうすぐだろう」

 

 ツヅルも彼女に乗じて伸びをしながら、答えます。

 相変わらず植物があまりない丘を彼らは登っていました。その上空にはクルォリが風に吹き飛ばされるのではないか、と思われるほど不安定に飛んでいます。

 ちゃんとモハナトへと帰れるのか、と心配でツヅルは振り向いてみると、遠くに街があるのが見えました。ほぼ点にしか見えないので、もしかしたら別の街かもしれませんが、方角的に見てモハナトでしょう。

 夜が近づいているのが空の様子から分かり、東の空はもう既に暗くなっていました。

 夕焼けと夜が互いに境界線を争っている光景はツヅルの前世でも見られるものでした。ですが、ツヅルはこの風景を見て、雨と晴れの境目に立ったときのような感動を覚え、何故か郷愁(きょうしゅう)的な気分に陥りました。

 それはツヅルがまだ前世に囚われているからでしょう。


「ツヅル! 危ない!」


 そんなツシータの声で現実に引き戻されました。

 何があったのか、と彼女の方を向きます。すると、何が起きているのかすぐに分かりました。

 クルォリが自ら豪速球となって自分の方向へと突撃していたからです。

 その表情は先ほどのような悲しげなものではなく溢れんばかりの怒りを抑えようともしないものでした。

 時速150キロを越えているように見えます。

 この速さはやばい、とさすがのツヅルも避けようとしましたが、彼の身体能力じゃ間に合わないように見えますし、魔法を使おうとしても恐らく詠唱中にツヅルの体に衝突するでしょう。

 なにもできそうにないので、最終的に、少しでも衝撃を防ごうと腕を障壁にする、という誰でも思いつくような防御方法を行うことにしました。

 ツヅルはクルォリの衝突に備えます。ツシータは彼の方に駆けて来ていますが、いくら体力抜群の彼女でも追いつけそうにありませんでした。

 そして、クルォリが腕に激突する感触があり、


「……あれ?」


 しかし、痛みも感じませんでした。「一瞬で天国に行ったのか?」と脳内でおどけながら、瞑っていた両目を開けると、見えたのは数秒前と変わらない荒野でした。それから周りを見渡してみると、ツシータがすぐに横にいて、クルォリの姿が見つからないことに気付きました。


「ツヅル! 大丈夫!?」


 ツシータがかすり傷一つ負っていないツヅルの体を支えます。


「それにしても、クルォリはどうしたの? ツヅルとぶつかった瞬間に消えちゃったんだけど」


 分からない。その問いにそう答えようとしたその時、


(まったくこの鬼畜! 鬼! ひとでなし! (わらわ)の食事を(ことごと)く邪魔しおって! 何じゃ妾がそんなに好きなのかこの変態め!)


と妙に古臭い言葉遣いをした少女の声がツヅルの脳内に響き渡りました。

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