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去年の話



「うあー 夏休み終わってしまう」

朝から汗をかきながら読書感想文を仕上げに入る

「だから早めに終わらせたほうがいいよって言ったのに…」


隣でよく冷えたオレンジジュースを飲みながら、呆れた目でみどり亮平りょうへいを見る。

「お前はもう全部終わってんのかよ」

「私はもう一週間前に終わってるよ」


夏休み最終日。計画性の差がよく分かる結果となっていた。毎年こうだった 。アパート隣同士。学年クラスも一緒。学校もずっと一緒。もはや兄弟のように、お互いの家に出入りをしている。今日は亮平の部屋で夏休みの宿題を終わらせている。

「その感想文で最後?」

「そうだよ今年のオレは一味違うんだよ」

たしかに去年は、この時間帯でもあと二つくらいは宿題が残っていたような気がする。むしろこの短時間で仕上げられる能力があるのだから、もしかして本気を出せばそうとう頭がいいんじゃないだろうか。でも計画性がないから、やっぱりバカなのかも…と。翠は考えてため息を軽くついた。


「もうすぐ終わりそうなんだけど、アイス食べたい」

「冷蔵庫に入ってなかった気がするけど」

「お願い!翠の分もお金だすから!戻ってくるまでに仕上げとくからさ」

「外暑いのに…」

渋々お金を受け取り家から出た。そうして翠は戻ってくることはなかった。



―――交通事故。

事実を知った亮平は、親からの電話でタクシーを拾って病院にくるように言われた。タクシーに乗っているとき、手汗が大量に出たが、まだどこかで大丈夫だと考えていた。だってドラマとかでよくある、病院行ったら、包帯がちょっと痛々しく巻かれているけど、ちゃんと意識もあって「アンタがアイスなんて欲しがらなかったらこんなことに……」なんて冗談半分で叱ってくれて、一ヶ月もしたらその怪我も笑い話になって。そんな感じになるんだ、そんな死ぬなんて。そんな簡単に翠が死んでたまるか、大丈夫大丈夫……と、亮平はずっと祈るように、つぶやいていた。

病院についたとき、もう治療はされてなかった。

即死だった。

幸い顔に大きな傷跡がなくてよかった。誰だかちゃんと分かる状態で。いつもの寝顔のように見えたんだ。


それが去年の話……。



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