表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

彼女と彼氏の恋愛事情

桜の木の下で

作者: らすく
掲載日:2014/05/14

誰かが言った。

桜の木の下には死体が埋まっている。

だからあんなに綺麗な花が咲くんだ。…か。


県立海原公園。

今年も公園一杯に植樹された桜が満開だ。

どの桜も綺麗に咲いていて・・・ふと、昔読んだ小説の1文が思い出されます。


「今日もいい天気ね。」


空を見上げると、青空の中綺麗に咲いた桜が目に入る。


「綺麗・・・」


すぐ近くからため息交じりの声が聞こえる。

ふと、声の聞こえた方へ視線を向けると、1人の少女が立っていました。


年の頃は17ぐらい?

大人と子供、その両方の魅力を併せ持ち躍動感溢れる瑞々しい姿。

腰まで伸ばした髪はカラスの濡れ羽色のように綺麗で、目鼻立ちもスッキリしている。

一言で言えば美人。可愛らしいという形容詞はふさわしくない。

桜の花も霞むような美貌だ。

彼女は白いシャツに桜色のジャケットを羽織り、桜を見ては幸せそうに微笑んでいた。

その笑みはとても幸せそうで…


「こんにちは。」


少し躊躇ったけど、思い切って声をかける。


「うおっ!?…あっ、こんにちは。」


驚かせてしまったようで、慌ててこちらへ振り返りました。


「ごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」


「あ、いや、声をかけられるとは思ってなかったから…つい。

 こっちこそ驚いちまってすまねぇ。」


少女は頬を赤らめながら謝って来ました。

言葉こそ乱暴ですが、性格は良さそうな子です。


「とても幸せそうに桜を見ていたので…ね?

 桜は好き?」


「う~ん…」


私の問いに彼女は悩み始めました。


-何か間違ったかしら?


そう思い初めた時、

「俺の名前と同じだからな?昔は嫌いだった。

 でも今は好きかな?思い出の木だし。」

と言ってにかっと笑いました。


この木と同じ名前…?


「間違っていたらごめんなさいね?

 "桜"さんと言う名前なのかしら?」


私が問いかけると、彼女は「あぁ、そうなんだ。よろしくな。」と答えました。


「奇遇ですね?私は八重って言うんですよ?」


私も名乗ると彼女はきょとんと目を丸くしました。


「ふふ、この木は八重桜っていう種類なの。

 だからね?」


説明すると彼女はすぐ、納得したように頷きました


「なるほど。

 じゃ、オレとお姉さんとで丁度この木と同じ名前になるって事か。」


「ええ、奇遇でしょ?」


「確かに。」


「ふふっ」

「はははっ」


2人で顔を合せるとどちらからとも無く笑い出してしまいました。




「・・・綺麗なお嬢さんだったので、つい声をかけてしまったの。ご迷惑だった?」


ひとしきり笑いあって落ち着いた後、改めて話しかけます。


「いや、そんな事ねぇ…いや、無いです。

 でも綺麗っていうのは、オレみたいなガサツな女よりアンタみてぇな人に使う言葉だとおもう…思います。」


とても嬉しいことを言って頂きますね?


「あらあら、こんな若い子から綺麗なんて…照れてしまいます。」


「いやいや、若い子って…そんなに離れてるように見えねぇけど?」


驚いた顔で私を見つめます。


「そうかしら?」


「失礼かもしれねぇけど、いくつ?…なんですか?」


そうですね。答ても良いけど驚かせてしまいますし、誤魔化すことにしましょう。


「女性に年齢を聞くのはNGですよ?」


「ははっそうだったな。申し訳ないです。」


う~ん、無理な敬語はやめてもらった方が楽しくお話が出来そうですね?


「無理にかしこまらないで?

 いつもの話し方でお願いできる?それに、貴方は凄く女性らしいと思うわ。だって、凄く素敵な表情をしていたもの。」


「あ…ども。」


あらあら、真っ赤になってしまいました。

褒められ慣れていないのかしら?とても素敵なお嬢さんなのにもったいない。


「あっ…改めてオレは春野 桜って言います。お姉さんはなんと呼べば?」


「"八重"と呼んで下さい。親しい人たちは皆そう呼びますわ。

 私も桜さんと呼ばせてもらって良い?」


私達は顔を見合わせると、少し笑いあって頷きました。


「八重さんも誰かと待ち合わせかい?」


「ええ、大切な方を待っていますの。そろそろ来るはずなのだけど?

 桜さんもそうなのではなくて?」


「えー、あー、うん、一応そう…なのかなぁ?」


歯切れの悪い返答、どうしたのでしょう?


「なにか問題でも?」


「いや、オレが待ってるのはダチが2人。大切といやぁ大切な友人ではあるんだけどな?

 八重さんの言ってる大切と意味は違うから。」


気を使わせてしまったかしら?


「お友達でも大切な人に変わり無いわ。

 とても良い友人をお持ちなのですね?」


さり気なくフォローをはさむと、すぐに感じ取ったのでしょうか?

とても良い顔で返事を下さいました。


「…ありがとう。」


でも…そうですね?桜を見て居た時の艶っぽい笑顔は恋する乙女のそれ。友人を誇る笑顔とは違います。

いたずら心が芽生えてきますね。

少し…つついて見ましょう。うふふっ。


「どんなお友達なんですか?」


「あぁ、2人居てかすみと楓っていうんだ。

かすみは結構おっちょこちょいな所があるんだけどさ、凄く友達思いですっごく一途なんだよっ!

楓は傍目には無口で無表情なんだけどさ、よくよく見りゃ表情も多彩だしやっぱり友達思いなんだ♪

どこから仕入れて来るのか情報にも詳しくてさ、この間も…っと、詳しいことは内緒な?」


いたずら顔でウィンクされてしまいました。

話せるのはここまで。と言う事でしょう。

話して良い事と悪い事。しっかり区別されているようです。

その辺はよく分かっているようで、本当にしっかりとしたお嬢さんです。


「そうですね。内緒にしておきましょう♪」

「あぁ、内緒で♪」


目を合わせると、どちらからともなく笑い合います。


そしてひとしきり笑った後、声を潜めて尋ねます。


「…それで、かすみさんの一途な恋は実っているのですか?」


桜さんはにまっと笑い。

私も釣られて笑います。


「八重さんも好きなんだ?」

「ふふ、嫌いな人なんていませんよ?」


女の子はいくつになっても恋話と切っても切れない間柄ですものね?


「そうだな、差し障りの無い程度で良いかい?」

「勿論です♪」

「ふふっ、それじゃ---------」


かすみさんや楓さんとの出会い。

朝、昼、放課後と必ず行方をくらませていたかすみさんの後をつけた所、幼馴染の男性に自覚の無いまま猛アタックをして居たこと。

かすみさんとその幼馴染の様子を見て居た幼馴染さんの友達、柾さんに話しかけられた事。

それからの朝、昼、放課後はかすみさんの居るべき場所に何故か柾さんが居るようになった事。

柾さんは歯の浮くような言葉ばかり言ってくるので、つい手が出てしまう事。

かすみさんが意を決して告白した事。

失敗して落ち込んでしまった事。

かすみさんが落ち込んでる間は柾さんが来なかった事。

その後色々あって、無事かすみさんは幼馴染さんとの恋が実ったというハッピーエンドに至るまで。を教えていただきました。


お話の中、柾さんが来ない間を「あのチャラ男はぜってぇ他のクラスの女を物色に行ってたんだっ!!」と言いながらも、寂しそうなそれでいて拗ねている表情が印象的だったでしょうか?

それと「あのチャラ男っ!かすみが上手く行ったと思ったらま~たつきまとって来やがってっ!」と怒っているように見せてましたが嬉しそうでしたね。


本当、桜さんも素直ではありません。

更なるイタズラ心が湧いて来ます。もう少しだけ…つついて見ましょう。


「でも…さっき桜を眺めていた表情は恋する乙女の顔。

 お友達とは別に大切な方が居るのではありませんか?」


聞いてみると真っ赤になって手を振ります。これは図星…ですね?


「いやっ!?そんなのは居ねぇって!!

 そりゃ、この間始めてデート紛いの事はしたこと有るけど、アイツはそんなんじゃねぇしっ!!

 チャラいし…タラしだし…信用出来かねねぇし…この間は意外な所を一杯見つけたわけだけど…好きかって言われると無理だからっ!!」


あらあら、誰がとは言っていないのに柾さんを否定する言葉。

凄く楽しそうに話しています…これは間違いありませんね?


とてももどかしく、背中を押してあげたくなります。


「その方のことを良く見て居るのですね?」


「見てっ!?いやいやいや、そんなんじゃねぇよ。

 気がつくといっつもそばに居やがるから目に付くだけだって。」


「あら?チャラくてタラしなんですよね?」


「あ?あぁ。髪は茶髪で長いし、昼飯には混ざってくるわ、放課後買い食いに行こうとすれば着いて来やがる。

 親友の彼氏の友達だから甘い顔してやってるが、そうじゃなかったらあんなチャラい男とっくに殴ってるしっ!!」


本当、楽しそうに話します。

しかし自分の言っている矛盾に気づかないのかしら?いつも一緒に居ては他の女性に声などかけられそうも無いのですが…?

それとも、自分の気持ちを認めたくなくて否定しようとして居るのかしら?


「ふふ、桜さんはその方のことをとてもお慕いしているのですね?」


「ふぉあっ!?

 お慕いってあれか?好きってことだよな?そんなんじゃねえ、そんなんじゃねぇから?」


あらあら、顔を真っ赤にして。

さぞや周りの方もヤキモキして居るのでしょうね。

でも、少しは自分の気持ちに気付いたのでは無いのでしょうか?


…まだ若いのです。気づかないで後悔するには早いですからね。


でも…あまりつつきすぎて意固地になると後で柾さんに怒られますね?

このぐらいで引いた方が宜しいでしょう。


「あらあら?私の勘違いのようでしたか。

ごめんなさいね?」


「あ、いやっ、そんなことはねぇです。

オレの方こそ見ず知らずの人にこんな話しちまって…」


「いえ、とても楽しいお話でしたよ?

凄く、素敵なお話した。」


遠くから歩いてくる2人の女の子…

おそらく彼女達がかすみさんと楓さんでしょう。

話に聞いて居た印象通りの子達ですね。


「桜~っ!こっちこっち~。」


元気な方の少女が駆けて来ます。あの子がかすみさんでしょう。

かすみさんの声に桜さんも気づいたようです。


「お?あっ、お~いっ、こっちだ~!」


桜さんも笑顔で手を振ります。


「桜、相変わらず早いね。待ったんじゃ無い?」


かすみさんが少し息を乱しながら桜さんへ声をかけます。


「いや、全然。今日は話し相手も居たからな。」


桜さんは私を手の平で指します。こういった細かい所でも女性らしさがにじみ出て居ますね。


「あっ、こんにちは。

えっと…桜の友達?」


かすみさんの問いに桜さんと目があってしまいました。


ふふっ、桜さんも笑っているし、大丈夫でしょう?


「こんにちは。

今日、桜さんのお友達になりました、八重と言います。

かすみさん…でよろしかったでしょうか?」


私の問いにかすみさんはお顔を赤くして私をじっとみます。何か間違えたのでしょうか?


「うっわぁ~!すっごく綺麗っ!!それに上品な人だねっ!!」


あら?嬉しい事を…


「かすみ、相手の名前だけ聞いてその反応は失礼。

 私は楓、宜しく。…でも、確かに綺麗。」


「あっ!?そうだったっ!!

ごめんなさい。私はかすみと言います。宜しくお願いしますっ!」


そう言うことでしたか。

2人ともお上手ですね。嬉しくなってしまいます。


「ふふっ、ありがとうございます。

かすみさんも楓さんもとても可愛らしいですよ。」


「へへっ…。」

「ありがとう。」


かすみさんは嬉しそうに笑い、楓さんはあまり表情が変わっていませんが、ほんのり頬が緩んでいますね。

桜さんの言ったように傍目には分かりづらいですが、感情豊かな女性のようです。


「今日は八重さんも一緒に?」


かすみさんが桜さんに問いますが、私は首を振ります。


「ご一緒したいのはやまやまですが、今日は待ち合わせをしていますの。ごめんなさいね?」


私がそう言うと、かすみさんは残念そうに、桜さんは少し肩を竦め、楓さんは…少し分からないかな?多分3人共残念そうにしたのでしょう。


「ふふっ。今度お時間があれば、是非ご一緒しましょうね?」


私が言うと3人揃って「はい!」と言う返事をしてくださいました。


「じゃっ、メアド交換しましょうっ!」

とかすみさんが仰いましたが、私は携帯電話を持っていません。


「ごめんなさい。携帯電話は持っていないの。

でも、時間がある時はいつもここにいるわ。

見かけたら声をかけてね。」


仕方が無いのでそう言って断らせていただきました。

3人共残念そうにされましたが、無い物は…ねぇ?


「かすみ、時間。」


困っていると楓さんが助け舟を出してくださいました。


「あっ!?いっけないっ!!

いかないとっ!?」


かすみさんも時計を確認すると慌てたように桜さんと楓さん、それと私に声をかけます。


「桜っ!楓っ!始まっちゃうっ!!

八重さんはここにいる時はいつでも声をかけていいんだよねっ?」


「ええ、勿論。

お願いしますね?」


3人が不安にならないよう、とっておきの笑顔で答えます。


「分かったっ!じゃっ、今度は絶対に遊ぼうねっ!!」


かすみさんはそう言うと、桜さんと楓さんの手を引いて駆け出します。


「八重さんっ!またなっ!!」


桜さんは空いている手で私に手を振って。


「……」


楓さんは小さくお辞儀をすると、かすみさんに引きずられるように駆けていきました。



本当、楽しい方達でした。

次に時間があれば、是非ご一緒したいですね。







耳元に微かに感じた風。

横を見ると1人の男性が立っています。

年の頃は20前後。

どこにでもいそうな容姿のどこにでもいそうなトボけたお顔。


「随分楽しそうだったね?」


そこに立っていたのは、私の愛しい人…又三郎さん。


「ええ。見てらしたのですか?」


少し非難を込めて言います。

たとえ愛しい人でも、女性の話に聞き耳を立てるのは失礼です。

親しき中にも礼儀あり。と昔から言いますからね。


「いやいやっ、君がとても楽しそうだったから話が終わるのを待っていたんだよっ!?」


気ままな方ですが、嘘は言わない方です。

きっとその通りではあるのでしょう。


「そうですか。

それは失礼致しました。」


「いやいや、遅れた僕の方が悪いからね。」


私が謝ると、又三郎さんも頭を下げてくださいます。

又三郎さんは頭を上げると、微笑みながら問いかけて来ました。


「で?今年も綺麗に咲けたんだね?」


私も微笑みながら手の平を上に向けます。


「ふふっ、見れば分かるでしょう?」


その手に従い、満開の桜を見た又三郎さんは驚きに口を開きます。


「うん…すっごい綺麗だね。」


「ふふっ、ありがとうございます。」


「で、八重さん。

僕達もそろそろ行こうか?」


「そうですね。

 誰かさんが遅れましたから、皆さん待っていると思いますよ?」


「うわっ、こりゃまた手厳しい。」


「ふふっ」


又三郎さんの手を取り、桜の木を振り返ります。


桜の木の下に死体が埋まっているなんてまったくの嘘。

その下に幸せな気持ちが集まるからこそ、あんなに素敵な花が咲くんですよね?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ