記録 ① 【旧総合病院】
ダダンッ! ダダダンッ!
辺りは音と薬莢、加えて、赤色で溢れていた。
「おい、援軍は! B地区の奴らはまだか!」
「20分前の交信で、通信が途絶えてる!」
「喋ってねぇで、撃ちまくれ!」
世界には、動く死体と暴走した機械兵器、弱い人間が頑張って生きていた。
今日の戦場 は【N、W、R、A】=新世界連邦軍 が管轄する地域に位置する【旧総合病院】を囲むように駐屯していた 、Cチームを中心に行われていた。
相手は【元 】人間たちの集団。 【レギオン】と呼ばれる群れだった。
《こちら、Cー3地区! ゲートが破られる! 誰か応援を!》
《Cー2だ!、こっちはまだいけるぜ!》
《こちら、Cー4地区。 すでに数人、3地区へ向かわせた、どうぞ!》
《礼を言う! Cー1地区、それで! 援軍は、援軍はまだなのか!》
その答えを返すべきCー1地区のリーダー、ホフマンはギリッと奥歯を噛みしめ、こう言った。
「んなこと言ってねぇで、撃ちまくれ!」
ホフマンには返す言葉など無いのだ。
こういう時、器用な奴は、「大丈夫だ」「援軍は来る」など、仲間を励ます言葉を掛けれるのかもしれない...しかし、この男、『ホムマン=カーニッシュ』は違った。
この男は生まれつき正義感は強く、根っからの軍人であり、そして、とてつもなく不器用なのであった。
(嘘は時として人を救う……)
その言葉を信じたくなくて、生きてきたホムマンは吐き出したい気持ちを全部、引き金に載せ、弾丸としてぶちまけていた。
ダダダダダダダダダダダタ………カチッ。
無機質な音。
引き金を引いても、弾丸は放出されない。
「ッ!、こんな時にぃぃ!」
ホムマンは叫ぶ、そこには誰に対してでもなく、自分自身に対しての怒りだった。
「ヤベェ、こっちも弾切れだ!」
「おいおい、ここダメになったら、医療系の備品どうする気だ、他のチームは!」
「ジーザスッ! それより、てめぇの命ってことだろ」
「ここまでなのかよ……」
一人の隊員がホムマンに詰め寄った。
「ホムマン隊長!、自分たちは、俺たちはどうすればいいんですか!?」
「…… 」
「病院に避難している、一般人をみすみす殺させるんですか、あんな化け物たちに!?」
「……」
「なんとか言ってください、隊長!」
「大、丈夫だ」
ホムマンのその声はいつもの怒鳴り散らすような声ではなく、今にも枯れてしまいそうな弱々しい声だった。
その様子を見た遂隊員たちは遂には覚悟を決めていた。
「大丈夫だ、俺には、秘策がある」
ホムマンは懐を探る。
次の瞬間、隊員たちは目を見開いた。
「た、隊長、それは……」
ホムマンの手に握られていたのは、球状の物体が握られていた。
ピンを引き抜けば、中にセットされた火薬により爆発した、鉄の破片を敵に当てるという、一昔前の投擲武器……
「そうだ、手榴弾だ」
ホムマンは移動しながら、続ける。
「こういう場合を考えてないわけではなかった」そして、隊員たちの前に一つのアタッシュケースを置いた。
「これ一つだけではない、既に大量に爆薬を仕込んだ起爆式の奴を5つほどのをセットしておいた。うまくいけば奴らは大量に始末できるーー」
ホムマンの言葉に隊員たちの顔に希望の灯火が宿った。
だから、とホムマンは言葉を切って、こう言った。
ーーお前たちは俺を置いて後退しろ、と
少しの間、隊員たちは彼が何と言ったかわからなかった……。