プロローグ
男は街を駆けていく。
しかし、そこは地上から十数メートル上の荒廃したビル群の上だった。
ビルとビルの間が4メートル弱。 慣性のまま跳躍。向こうのビルに着地の直後また、疾走。
不意に男の足が止まる。 懐から、何かを取り出す。 それは小さな箱上で、箱の中央にはその大きさに見合ったモニターが存在した。
それは辺りの地形情報を表示する、GPS端末だった。
「現在位置、確認...」
ポイントが示していたのは、<旧総合病院>の近くであった。
男が、再び走ろうとした足が止まる。
遠くに銃声。 加えて、ほのかに火薬の臭いも混ざっていた。
男が下を見下ろすと、動く人影が見えた。
それは、人。 否、【元】人間たちだった。
男は視線を横にずらす。
ちょうど、数人の武装した集団がぎこちなく歩く【元】人間たちへ向けて発砲を開始した瞬間だった。
男はそれを見ると、あとを見届けようとはせず、再び走り出した。
「これもこなせないようなら、『奴』は殺れないな...」
男の唇が小さく弧に歪んだ。
ーー街は荒廃し、人間は武器を持つか、化け物になるか...ここは近未来、地獄と化した死んだ世界の話ーー