0001 確認、しますか?
感覚で理解し、しかし理性は混乱していた。
服の上から己の全身を触り、部屋を見回し、見つけた鏡で顔を確認する。
パジャマと呼ばれるピンク色の衣服とその下にある女の身体、見慣れない部屋に家具、そして鏡の中に居る者はどこかで会ったような気がしないでもない女子。
「な、ななな」
「くふ、くふふふ! ようやっと理解できましたか美濃拓海! いやさ、“篠宮香奈”!」
「篠宮、香奈……?」
すぐそばに浮かびにやにやと笑みを浮かべる自称悪魔ツァルトシエルにそう言われて初めて、美濃拓海は鏡に映る顔がクラスメートの目立たない女子に似ていることに気付く。鏡を通して左右逆になっているだけでそのものなのだが。
“篠宮香奈”は悪魔に顔を向ける。一切の訳が判らないが、この悪魔が何かを知っていると思ったから。
「どういう、ことだ?」
「おや、おやおやおや! 存外に察しが悪い! 先程説明したでしょう! 押し出した魂を余った身体に押し込んだと!」
「余っ、……入れ替わった……?」
「くふっ、くふふ! 確かに! アナタから見ればそう見えるやもしれませんね! 理解していただけてなによりです!」
「え、でも、どうして」
「どうして! どうしてどうしてどうして! 方法と理由のどちらを問うているのやら! どちらにも既に教えたでしょう! “契約にのっとり”、“魂を入れ替えた”と!」
「契約……、って、篠宮さんが……?」
「ええ、肯定しましょう! 正確にはアナタの身体の元々の所有者ですがね!」
「どんな契約か、聞いても?」
「契約内容! 黙秘させていただきます! ……と、言いたいトコロですが、アナタは当事者ですし特例で話しましょう! ズバリ、“美濃拓海が欲しい”です!」
“篠宮香奈”は固まり、悪魔は変わらずにやにやと笑顔を浮かべる。
人間の悲哀こそ悪魔の生きる糧であり、人間の絶望こそ悪魔の存在理由である。
これからの“美濃拓海”と“篠宮香奈”を思い、より楽しく過ごすためにどのような『助言』を行うか考えるだけで、舌をなめずりたくなる悪魔であった。