0000 魂、入れ換えられますか?
美濃拓海は長期休暇の前半で宿題はほぼ全部終わらせる。それというのも、宿題を終わらせた報告をする度に母親が誉めてくれるからである。おかげで立派なマザコンに育ってしまった。
風呂・トイレは共用。食事も大家さん夫婦含む住人全員で摂る。そんなアパート暮らしの彼の家は貧乏である。テレビは地デジ化の際に隣の部屋の人が買い替えた時のお下がりにチューナーを付けたもの。遊びといえば金をかけぬモノだけで、パソコンどころかコンピューターゲームの一つも無い。愛読書は「美味しい野草大図鑑」。
だから彼は普段勉強か、図書館で借りた本を読むか、アパートの別の部屋に住む中学生と遊ぶか、母親の内職を手伝うか、近くのコンビニへバイトに行くぐらいである。
「お休み」
「おやすみなさい」
未だ12月にも関わらず冬休みの宿題を全て終わらせた彼は段ボール製の机を片付け、母親と段ボール製の布団に寝転がる。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
どことも知れぬ場所を歩く
一歩ごとに曖昧な風景ががらりと変わるイメージ
ふと、誰かとすれ違った気がした
立ち止まって辺りを見回しても、ただぼやけた風景が見えるだけ
そして、また歩き出した
行き先は、わからない
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
閉められたカーテンの隙間からは明かりは見えず、ただ天井に取り付けられた電灯が明るく輝く。壁際には本棚・机・ベッドにクローゼット。もちろん、彼と彼の母親の部屋にこんな厚手のカーテンもこんなに大きな電灯も存在しない。部屋の大きさ自体はあまり変わらないが、大量の段ボールが無いため少々広く見える。
そして、部屋の真ん中にはニヤニヤとした表情をする男が浮いている。
夢から覚れば、美濃拓海は見知らぬ部屋で宙に浮く人型のナニカと向かい合っていた。
「く、くくく! ああ、この表情! ちゃんと彼女は“美濃拓海”を手に入れたのですね!」
美濃拓海をみて笑い出すナニカに対し、後ずさる拓海。それを見て、また笑い出すナニカ。
「くふふ、失敬! ワタクシ、ツァルトシエルと申す悪魔です! 此度は“彼女”の依頼で彼女に“美濃拓海”を差し上げまして! 替わりに、余ったアナタを“彼女”の中に放り込んだ次第です!」
「はぁ? なに言って――」
足の長さが違う。腕の長さが違う。身体の重心が違う。太ももに障りを感じない。
彼の感覚は理解した。身体が“美濃拓海”の物ではないと。