EP15:サンジェルマン伯爵、決して死ぬことがなく、すべてを知っている人物
フランツが興奮しながら、レオポルトの下宿先に駆け込んだ。
「事故の責任者である賃貸集合住宅の所有者の名前がわかったぞ!
ザルツブルクのように建築中の、『天使の切妻』がある賃貸集合住宅をウィーンで探し出し、現場監督を捕まえて教えてもらったんだ。
建築主のモノグラム『A.B』と所有者の頭文字が一致した!
そいつがあの『天使の切妻』を設置し、マリアンヌを殺した犯人だ!
知ってるか?
アドリアン・ベッカー(Adrian Becker)という名前だ!」
レオポルトは眉をひそめ
「アドリアン・ベッカーか・・・・。
父から聞いたことがある。
知人だと言ってたな。」
フランツが好奇心を隠しきれず
「どんな奴だ?!
仕事は?
経歴は?」
マホガニー製の絹張りの肘掛け椅子に深く腰掛けたままレオポルトは腰の前で手を組み、目をつぶり、
「確か、過去に投資で大成功した資産家で、ウィーンのグラシや地方各地で、賃貸集合住宅を建設し経営している新興有産市民階級だ。
経歴は謎で、どこからともなく現れた男で、出身地や年齢も謎だという。
かの有名なサンジェルマン伯爵と同様に数か国語に堪能で、2000年前の歴史、例えばカナの婚礼や、4000年前のバビロンの宮廷を巡る陰謀等と云った古代の出来事を、まるでその場で直接見て来たかの様に、臨場感たっぷりに語ったそうだ。」
フランツは興奮で頬を赤く染め
「つまり『決して死ぬことがなく、すべてを知っている人物』というわけかっ!
サンジェルマン伯爵のように!!
食事は丸薬と水だけ?
ヴァイオリンの名手で化学と錬金術に精通してるのか?
ダイヤモンドの傷を消す秘法を知ってるのか?
催眠術で姿を眩ますことができるのか?」
パチッ!と目を開いたレオポルトはムッとして口をとがらせ
「そこまでは知らない。
だが、父と同じ秘密結社に属し、重要なポストについているらしい。」
フランツは好奇心で輝かせた瞳を一瞬にして曇らせ、口角が下がった残念そうな顔つきで
「だけど、そう聞くと歴史やさまざまな分野に造詣が深そうな、好ましい人物に思えるのに、建築主であり所有する建物があんな事故を引き起こし、それを世間から隠そうとするなんて・・・・・。
マリアンヌの事故について、おじさんに、いや父君に隠ぺいを指示できるとは、よっぽど『権力』があるんだろうな。
だって、財力を盾に迫られたとしても黙るような父君じゃないだろう?
それとも父君はアドリアン・ベッカーに『弱み』を握られてるのか?
信じられないな。
どちらにしても卑怯なやつにみえる。
どういう人物なんだろう?」
レオポルトは両手の指先をピンと伸ばして突き合わせ、唇を噛むと
「アドリアン・ベッカーが頭が良くて知識が豊富で、商売が上手く、事業に成功した人物、だとしても『好いやつ』とは限らないだろ?
『パピエ・マシェ』こと貴族令嬢マチルデがいい例だ。
聖女という人気者になりたがり、その方法も機会も十分持っていたとしても、エレナのような『真の聖女』になることはできなかった。
根っからの『好い人』になるには、知性や商才や努力以外にも必要なものがあるんじゃないか?
アドリアン・ベッカーがマチルデぐらいの性格の悪さ、ならまだ救いはあると思うけどね。」
フランツがキラッと目を光らせ
「君はアドリアン・ベッカーをどうするつもりだ?」
レオポルトは眉を上げ
「君こそ!復讐に燃えてたじゃないか!
奴にどう責任を取らせるつもりだ?
ナイフを突きつけ脅しでもして事故の原因を世間に公表させ、刑事罰を受けさせるのか?」
フランツは顎に指を添え、
「う~~~ん。
サンジェルマン伯爵もどきに対抗する術なんてあるのか?」
と唸り、考え込んだ。
レオポルトは口をゆがめて不敵に笑い
「いいや、それだけじゃ甘いな。
『僕の可愛い妹』を殺したんだ!
奴を社会的に破滅させてやるっ!」
フランツがハッと顔を上げ、瞳を輝かせ、興奮で息を弾ませ
「面白そうだなっ!どうするんだっ?!
僕にも教えてくれっ!
協力するからっっ!」
しつこく問い詰めた。
だが、レオポルトは頑として口を割らなかった。
次回以降の7話は以前公開した作品です。
一度お読みくださった方は読み飛ばしていただいて大丈夫です!




