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仮眠

作者: 泉田清
掲載日:2026/04/16

 ほとんど眠ったような状態でハンドルを握っている。何とか抗っていたがもう無理だ、「危ない!」と思った瞬間ブラックアウトした。目が覚めた。居眠り運転の夢を見たのだ。天窓は鼠色、曇天であるらしい。

 昨夜は送別会があったはずだ。どうやって帰ったのかは覚えていない。部屋にいるという事はタクシーを拾えたはずだが。スマホに着信が入っている。かけなおすと「○○駅前交番ですが」電話相手の警察官が言う。私は驚愕した。

 

 ○○駅の東口駐車場に車を停める。駅構内に入り、中央階段の前を抜け、西口に出た。タクシー乗り場の奥に交番が見えた。

 はるか頭上にあるビジネスホテルの看板を仰ぎ見ながら、商店街の裏通りへ出た。送別会会場はここから10分ほど。通りには誰もいない。誰もいない道を歩くのは気分がいい。マイカーを駅の駐車場に停めて、会が終わったらタクシーでアパートに帰り、次の朝電車に乗って取りに行くつもりなのだ。

 行く手を塞ぐものがあった。ひっくり返ったビニール傘。強風にあおられひっくり返り、そのまま打ち捨てられている。私は閉じたままのビニール傘を持っていた。昨日からの強風を伴う雨は、今は小康状態、生暖かい夕方である。ひっくり返ったビニール傘を避け前へ進む。「本日はお足元の悪い中、わざわざお越しいただき・・・」ようやく挨拶を考え始めた。


 朝。警察官と電話した後、最寄り駅に向かって歩き始めた。

 昨夜までの雨がようやく上がり、空は曇天。二日酔いだと鈍い日光でも目が眩む。駅に着くまですれ違ったのは僅か二人。みな私より酷い二日酔か、既に出かけてしまったかのいずれかだろう。駅構内にはそれなりに人はいた。切符を買って改札を通る。連絡路で男子生徒が駅員と話をしていた。「・・・落としちゃったみたいで」、「○○駅に問い合わせてみましょう」。男子生徒の真剣な顔。彼は財布を落としてしまったようだ。

 ○○駅に着いて、中央階段を下りる。前にいたスーツ姿が「何か」を避けた。「何か」は財布だった。黒いナイロン製の。周りを見渡し、誰もいないのを確かめ、拾い上げる。目撃者はいない。このままネコババすればよいではないか?ついさっきの、真剣な顔が思い出される。この財布はきっと男子生徒のものだ。階段を下りるべきか、上がるべきか。


 「○○駅前交番です」警察官が電話口で挨拶する。何てことだ。

 どうやってアパートまで帰ったのか覚えていない。もしかすると飲酒運転で帰ってきたのかもしれない。どこかの誰かが通報したのか。「運転免許証を落とされたようですが」、「あ、ああそうですか!」素っ頓狂な声で返事した。財布の中にあるはずの免許証が確かに無い。「すいません、今から伺います」。これで車を取りに行く事、免許証を引き取りに行く事、電車に乗る理由が二つになったわけだ。ドアを開け駐車場へ降りる。やはりマイカーは無い。胸をなでおろした、私はちゃんとタクシーで帰ってきたのだ。


 さて、男子生徒の財布を交番に届けるか。いや、いや、確かに私は交番に行かなければならない。それは落とした免許証を引き取りに行くのであって、落ちていた財布を届けに行くのではない。これではアベコベだ。中央階段を上り、改札にとって返し、「これ落ちてました」駅員に財布を渡した。すぐにもさっきの生徒に連絡が行くだろう。

 駅構内を出て、タクシー乗り場を通り過ぎ、交番にやって来た。飲酒運転根絶!のポスター。窓ガラスが黒っぽくて不思議と中を窺い知ることはできない。意を決してドアを開ける。「すいません、さっき電話したものですが」。手続きは意外なほど簡単でアッサリ免許証は戻ってきた。帰ろうとしたら、警察官が「顔色悪いですね」と言い、私の顔をジロジロ見る。脂汗が出る。「ちょっと寝不足で」それだけ言って逃げるように交番を出た。


 マイカー乗り込み、鍵をかけ、シートを倒して一息ついた。しばらく横になる。

 酒を飲んだ後、数時間仮眠をとり、そのあと飲酒運転で検挙されたという話はよく聞く。私もそれに当てはまるだろうか?ちゃんと帰宅したはずだが二日酔には違いない。なんだか気が滅入ってきた。

 こうやっていると送別会に向かう前の事が思い出される。外は弱い雨。やはりこうやって横になり出渋っていた。送別会なぞ行きたくなかった。気の進まぬ私が幹事をやらされ、予約を取らされ、きっと挨拶までさせられるだろう。「本日はお足元の悪い中・・・」などというような。気が滅入ってくる。休みの日にまで同僚たちの顔をみなければならないなんて。

 とても眠い。少し眠ろう。目を閉じるとすぐにも夢の中に落ちていった。起きたら何が待ち受けているか、何も分からないまま。

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