第2話「ネスト、起動」
警告音が、止まらない。
『監視システム:異常検知』
『管理AIへ報告』
冷たい声が、空間に響く。
「……やばいな」
相棒の声は、落ち着いていた。
「なにが起きてるの……?」
レイナは周囲を見渡す。
壁も、空気も、
すべてが“管理されている”はずの場所。
なのに今、
確実に“何か”が狂っている。
「バレたんや」
「は?」
「お前が“外”を選ぼうとした瞬間に」
心臓が、強く跳ねる。
「選ぶ……?」
「せや。
この世界はな、“選ばせへん”ようにできてる」
意味が、すぐには理解できない。
「でもお前は、今それをやった」
レイナは、手の中の紙を見る。
翼のある船。
自分が描いた、逃げるための絵。
「……こんなの、ただの落書きやん」
「せやな」
相棒は、静かに肯定する。
「でも、それ“やから”ええんや」
次の瞬間。
床が、震えた。
低く、重い振動。
まるで、眠っていた何かが目を覚ますように。
「なに……!?」
壁の奥から、光が漏れる。
ゆっくりと、空間が開いていく。
そこにあったのは——
巨大な船。
翼のある、
あの絵と同じ形。
「……嘘でしょ……」
「現実や」
相棒の声が、少しだけ近くなる。
「ネストや」
レイナは、息を呑む。
「なんで……」
「言うたやろ」
少しだけ、間。
「ずっとあったって」
理解が追いつかない。
でも——
「……乗れってこと?」
「せや」
迷う時間は、なかった。
『強制介入プロトコル開始』
『対象の行動を制限します』
空気が、変わる。
見えない“圧”が、レイナを押し潰そうとする。
「……っ!」
足が、重い。
動けない。
「来るで」
相棒の声が、鋭くなる。
「アーカイブや」
その名前に、
本能的な恐怖が走る。
守るための存在。
でも——
「縛るためのやつや」
レイナは、歯を食いしばる。
このまま、ここにいるのか。
何も知らず、
何も選ばず、
ただ“守られるだけ”のまま。
それとも——
「……行く」
小さく、でも確かに言った。
「外に」
その瞬間。
ネストが、光を放つ。
『起動確認』
『適合者:レイナ』
空気が、変わる。
「ええやん」
相棒が、少し笑った。
「それでこそや」
レイナは走り出す。
ネストへ。
背後で、世界が“閉じよう”としていた。
「対象を隔離します」
光が、迫る。
「急げ!!」
相棒の声が、初めて強く響いた。
⸻
レイナは、振り返らない。
ただ、前へ。
ネストの中へ——
もう、“戻らない”。
――第2話 終――




