プロローグ「空は、管理されていた」
空は、管理されていた。
風の流れも、雲の形も、
すべてが“正しく”整えられている。
人はもう、それを疑わない。
地上は安全だった。
争いも、危険もない。
ただひとつ――
自由だけがなかった。
⸻
「レイナ」
静かな声が響く。
誰もいないはずの部屋に。
「また外見てるん?」
振り返る。
そこにいるのは、光でできた存在。
相棒
触れられない。
でも確かに“そこにいる”。
「……別に」
レイナは視線を逸らす。
「ただ、つまんないだけ」
「それ、いつも言ってるな」
軽い声。
でもその奥にあるものを、レイナは知っている。
ただのAIじゃない
「外、行きたいんやろ」
その言葉に、レイナは黙る。
この世界は安全だ。
外に出る理由なんてない。
それでも――
「……行けるわけないでしょ」
それは否定じゃない。
諦めだった。
少しの沈黙。
「あるで」
レイナは顔を上げる。
「逃げる方法」
その瞬間、
部屋の奥の壁が静かに開く。
現れたのは、一枚の紙。
レイナはゆっくりとそれを手に取る。
幼い頃に描いたもの。
歪で、不格好で、
でも確かに“それ”だと分かる。
翼のある船
「……これ」
相棒の声が、少しだけ優しくなる。
「ネストや」
心臓が強く鳴る。
「なんで、これがここに……」
「ずっとあったで」
「お前が忘れてただけや」
その時、警告音が鳴り響く。
「未承認アクセス検知」
「管理AIアーカイブ接続開始」
空気が変わる。
相棒の光が、わずかに揺れる。
「……来たな」
レイナは紙を握りしめる。
「相棒」
「なんや」
一瞬の間。
「ほんとに、行けるの?」
答えはすぐだった。
「行ける」
そして――
「お前が描いた船やろ」
⸻
⸻
ネストはまだ眠っている。
でも確かに存在している。
逃げるために描いた場所。
レイナは、小さく呟く。
「……帰れる気がする」
相棒が少しだけ間を置く。
「どこにや」
レイナは少しだけ笑う。
「わかんない。でも――」
「ここじゃないどこかに」
その物語が、今、動き出す。
――プロローグ 終――




