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転生ヒロインは攻略しない⋯⋯逆ハーレムは望まないので物語には逆らってみようと思う  作者: おかき


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6話 近付く距離

先生から所作を褒められ、エアハルトからも沢山褒めてもらった。


ミリアは内心喜んでいたが、先生の手前表情には出さずに静かに席に着いた。


隣に同じくエアハルトが座る。


「ミリアさん。今から試験を行いますが、宜しいですか?」


「はい。宜しくお願い致します」


隣のエアハルトにも同じ用紙が渡される。 


試験に採用された国は、大陸の端にある小国の言葉や習慣に法律が問題とされていた。

最近になりミリアが住むエルドラ王国と国交を行うようになった新しい国である。

小国は幾つかの民族が混じる国の為、かなり語学が難しい。


エアハルトは用紙を眺めて、渋い顔をしていた。


「始めてください」


先生の声にミリアはペンを走らせる。


部屋にはカリカリと羽ペンの音だけが響いている。

羽ペンの音は一つのみ。

エアハルトの羽ペンが動く事はなかった。


ミリアは時間いっぱい考え、何度も見直しをして試験を終えた。


「採点して来ます。暫くそのまま待っていてください」


ミリアとエアハルトの用紙を回収して、先生は部屋から出て行った。


しばし沈黙が流れたが。


「ミリア嬢は凄いんだね。僕は全く解らなかったよ」


しょんぼりするエアハルトにミリアは笑顔で話をする。


「私は学んだから出来たんです。エアハルト様は学んでいません。解らなくて当たり前ではないのですか?」


エアハルトはミリアの言葉にハッとなる。


「そうだよね。学べば良いんだ!」


いつもなら卑屈になるのに、ミリアといると何故だか前向きな気持ちになれる。


「良かったら一緒に先生から教えて貰いましょう」


ミリアの誘いに断わる理由もなく、エアハルトは一緒に学ぶ事を決めた。


先生が戻って来ると、ミリアの試験合格が伝えられた。

ミリアの修得語学は6カ国となった。


「先生。エアハルト様も一緒に学びたいそうです。私も一緒に学びたいのですが……駄目でしょうか」


ミリアが先生に伝えてくれる。


先生は眉を少し上げてエアハルトに伝えた。


「私は忖度も甘やかしも致しません。それでも?」


エアハルトは厳しい視線で問われる。



ミリアを指導する先生はアドルフの奥方のサシャ。

アドルフは外交官を務める王弟である。


エアハルトの母が王妹のエリザベート。

アドルフの奥方であるサシャは昔から交流があり勉学で人を下に見るエアハルトにいつもお説教をしていた。


(そんな私が大人しく学ぶなど、サシャ様からしたら信用ならないのだろうな。

サシャ様はミリア嬢を大事にしているように感じる。

私からの悪影響を懸念しているのは確かだ)



「ミリア嬢を見て自分の傲慢さに気が付きました。私はミリア嬢と同じように知識を得たく思います。先生、お願いします」


エアハルトは先生に頭を下げてお願いをした。


「先生!私からもお願いします」

ミリアも一緒に頭を下げた。


「解りました。次回からは一緒に来なさい。そしてエアハルト様は既にミリアが修得している語学を学んで下さいね」


先生の許しが出て、ミリアとエアハルトは手を取り喜んでいる。


二人は近い距離に顔がある事に気が付き、真っ赤になりながら離れた。


サシャは口角を少しあげ、そんな二人を眺めていた。


試験を終え商会へと戻りナタリーとカルロスに試験の合格を伝える。

そしてエアハルトと二人で教会で勉強する事も伝えた。

ナタリーは喜んでくれた。

カルロスは少し考え込んでいたが、ミリアとエアハルトに頑張るように伝えた。


それからのミリアは週の半分をエアハルトとの授業に。もう半分を商会の仕事に割り当てる事になった。


明日から教会に行く約束をエアハルトと交わし、ミリアは伯爵家へと帰って行った。




黒猫の蓮とどうしても一緒に暮らしたいミリアは、伯爵様にお願いして離れで飼う許可を貰うために本邸に足を運んだ。


蓮は離れでナタリーがみてくれている。

もし駄目だと言われたら、商会の自分の仕事部屋で飼えるようにカルロスにお願いをしていた。


商会で飼う事になるならば、ミリアは伯爵家を出るつもりでいたのだ。  



執事に伯爵様の部屋まで案内された。

執事がノックをし、入室の許可を待つ。


ミリアは父に会う事よりも、猫を飼う事の許可を貰えるかに意識が向いていた。


ミリアが執務室を覗くと、父であるアーノルドが驚きの後にとてもにこやかな笑顔でミリアを中に招き入れた。


ソファーに座るように促され、ミリアはアーノルドの対面に座る。


「どうしたのだ?」


アーノルドは内心ドキドキしていた。

一線を引いて本邸に足を運ぶ事のなかったミリアが、自分から本邸に来ている。

しかも、自分の執務室に来たのだ。


小躍りしたい程の喜びを、必死に抑え込んだ。


「伯爵様にお願いがあって参りました」


アーノルドはやはり他人行儀なミリアに落ち込んでしまう。

だが、「お願い」をして来た事は父として嬉しかった。


「私が昔助けた猫がいます。今日その猫と再会しました。その猫は私の大事なお友達です。離れで一緒に暮らしたいのです。

どうか猫を飼う許可を下さい」


ミリアはそう言うと、深々と頭を下げた。


「ミリア!頭を下げなくとも良いのだ。離れはミリアのものだ。お友達の猫を飼うと良いよ」


ミリアの体を急いで起こしながら、 アーノルドはミリアに許可を出した。

伯爵の言葉を聞いたミリアは嬉しそうな笑顔を父であるアーノルドに向けた。


「ありがとうございます。伯爵様」


お礼の笑顔と言葉は嬉しいが、伯爵様……。そう呼ぶミリアとの間に距離を感じ、やはり落ち込んでしまう。


父と呼んで欲しいが、今はまだ時期尚早……。


「いつか私にお友達を紹介してもらえるかな?」


アーノルドはミリアにお願いをしてみた。


ミリアは少し考えてはいたが、小さく頷いてくれた。


拒否をされなかった事に、アーノルドは安堵した。


ミリアは用は済んだとばかりに席を立つと執務室を出て行った。アーノルドは執務室から出て行くミリアの背を寂しそうに眺めていた。


「アーノルド様。これからですよ。無理な行動をなされては、逃げられてしまいます」


アーノルドの心の内を知る執事が、そう言って慰めてくれた。


(そうだな。これからだ)


アーノルドは、気持ちを切り替えミリアに自分が何をしてあげれるのかを考えたのだった。



執務室を出て、離れに走って戻る。

淑女としては失格だが、ミリアは貴族として生きる気はさらさらない。


離れに戻り、ナタリーに許可を貰った事を伝えた。


籠から出され、ソファーでくつろぐ黒猫の蓮。

ミリアは抱き上げると、蓮を膝に乗せた。


「伯爵様から許可を貰ったわ。これからは一緒に暮らせるの」


ミリアは蓮に嬉しそうに報告する。


【本当!嬉しいなー。ミリアと一緒にいれるなんて幸せだよ】


蓮は嬉しそうにそう言うと、ミリアの撫でる手にスリスリしている。


【ところで、ミリアは伯爵様って呼んでるけど、父親でしょう?お父様って呼ばないの?】


蓮の直球の質問にミリアは気分を害することも無く、淡々と答えた。


「私が引き取られる前では幸せな一家だったのよ?私の存在のせいで誰かを不幸にはしたくなかったの。

いずれ私はこの家を出るつもり。

その為に、商会で働いてるの。

確かに伯爵様はとても優しいし血の繋がりはあるけれど、父と呼べる情はまだ持てないかな……」


【今気がついたよ……。ミリアは前世の思考と言うか、大人であった記憶が強いんだね。僕のせいだね……。ごめんね】


蓮は頭をガックリと落として落ち込んでいた。


「そうだね。前世の精神年齢が強いのは確かね。でも、私の心の中には幼いミリアがちゃんといるのよ。時折幼いミリアが出てきて、私の気持ちを楽にしてくれる。

エアハルト様と仲よくなれたのも、そのおかげだと思うわ。じゃなきゃ、前世おばちゃんの私が10歳くらいの男の子と仲良くは出来ないもの。

だから蓮。何も気にしないでね?

私は私らしく、この世界で生きていくわ」


そう伝えても落ち込んだままの蓮をミリアは撫で続けた。


翌朝、商会に向かおうと離から出るとそこにはサリーが待っていた。


「おはようございます。サリー様」

ミリアは丁寧に挨拶を告げた。


やはり他人行儀なミリアにサリーはどうしたら良いか解らなかった。


「アーノルドに聞いたわ。猫を飼うそうね」

サリーはミリアとの話のきっかけとして、猫の話に触れた。


「はい。伯爵様には許可は得ていますが 離れからは出しませんので、ご安心下さい。決してご迷惑はお掛けしません」


一礼すると、ミリアは離れを出て行った。


ナタリーはサリーへ一瞬チラリと視線を向けると、サリーが少し傷付いた顔をしていた事に気が付いた。

サリーもミリアと距離を詰めようと努力をしている事にナタリーは気が付いている。


でも、それをミリアに告げる事はない。

ミリア自身が気が付かなければ意味がないからだとナタリーはそう思ったのだ。


ナタリーはミリアを追い今日も商会へと向かう。



ミリアは毎日忙しく過ごしていた。


翻訳の仕事は数カ国後に増えていた。


古い物語の本。

他国の貴族の家門の歴史。

創作された人気の物語。


翻訳する種類は様々。

ミリアは色んな本と沢山の言葉を楽しく、興味深く翻訳の仕事を熟している。


今日は朝からエアハルトは商会に来ていた。

仕事をするミリアにある物を買いに行きたくて、カルロスにミリアの少しの外出許可を貰っていた。


ミリアを休憩させるために、ナタリーが声をかける。

ナタリーが休憩の声をかけた時はミリアは手を休めなければならない。

そうしなければ、ミリアは休憩もせず翻訳に没頭してしまうのだ。


「ミリア様、休憩ですよ」


紅茶をエアハルトに出し、対面にミリアの分を出した。


「後一行だけ書いたら休憩します」


羽根ペンをカリカリ動かしミリアが答えた。


「よし」


ミリアは仕上がりに納得したようで、机から離れ休憩のためにソファーへと座る。


「エアハルト様は今日は用事があったのですか?」


いつも午後から商会に来るのに、ミリアが朝商会に着いた時にはエアハルトは先に来ていた。


「今日はミリア嬢と外出したくて、カルロスさんに許可を貰ってたんだ。休憩が終わったら僕に付き合って欲しいんだけど、いいかな?」


ミリアが目をパチパチ瞬きをし、エアハルトを不思議そうに見つめる。


「駄目かな?」


「あ!ううん。大丈夫。カルロスさんから許可を貰っているなら平気よね?」


ミリアは確かめるようにナタリーに視線をやる。

ナタリーは頷いてくれた。


「じゃあ、僕に付き合ってね」


エアハルトは嬉しそうに伝えると、紅茶を口にした。


休憩を終え、ミリアとエアハルトは街に歩いて向かう。

後ろからはナタリーとエアハルトの護衛もついてくる。


向かった先は文具店。

エアハルトが扉を開けミリアを先に通す。  


ミリアは店内に入ると興味津々で周りを眺め始めた。上質なインクの香りと紙の匂いに頭がクラクラしてくる。


「今日はね。ミリア嬢に贈り物を用意したんだ」


エアハルトがお店の奥に向かい、店主となにやら話を始めた。


(エアハルト様は常連さんみたい。高級文具店のようだし)


ミリアは場違いな気分になり、少し落ち着かなくなった。


「ミリア嬢。こっちに来てくれる?」


部屋の扉の前で手招きするエアハルトに視線をやると、嬉しそうな表情でミリアを呼んでいる。


ミリアも奥の部屋に案内され中に入る。


ガラステーブルの上には沢山の色の羽根ペンが並べられていた。


いつもミリアが使う羽根ペンより小さめ。

態々ミリアのために並べられていた。


「ミリア嬢の羽根ペンは大きいでしょう?だがら、僕から羽根ペンを贈りたくて……」


少しだけ照れくさそうにするエアハルトに、ミリアの胸が小さくトクンと音をあげた。


「良いのですか?」


「うん。僕が勉強を頑張るきっかけをくれたのはミリア嬢だし、仲良くしてくれるのもミリア嬢だけだし……お礼って言うのは変だけど、兎に角ミリア嬢に羽根ペンを贈りたかったんだ」


エアハルトは顔をほんのり赤らめてミリアに気持ちを伝えた。


「仲良くしてくれるのは、私も同じです。私も何か贈りたいけど……」


「なら、僕の羽根ペンも選んでくれる?お揃いにしようよ!」


エアハルトがミリアに似合いそうな羽根ペンを選ぶ。ミリアも手に取り選ぶが、二人はなかなか決められない。


お互いを思い選ぶ様子に、ナタリーと護衛も温かく見守る。


「決められないようでしたら、お互いの色を選んではいかがでしょうか」


店主の言葉にミリアとエアハルトがお互いの顔を見合わせる。


エアハルトは薄い桃色の羽根ペンを。

ミリアは薄い水色の羽根ペンを手に取った。


二人は恥ずかしそうに、でも嬉しそうに自身が手にした羽根ペンに決めた。


店主が受け取り贈り物として上質な木箱に入れてくれた。


「ありがとうございます。エアハルト様。大切に使いますね」


ニッコリ微笑みお礼を伝えるミリアを見て、エアハルトの胸はバクバクと早い鼓動を刻む。


「ぼ、僕も大切に使うね」


二人はそれぞれ木箱を大切に胸に抱え、文具店を後にした。


エアハルトは一旦邸に帰って午後からまた来るらしく、商会の前で二人は別れた。


ミリアは気が付いていないが、部屋に戻る足は速くなっていた。

ナタリーはクスリと笑い、ミリアの後を追う。


部屋に戻り椅子に座ると、木箱から羽根ペンを出した。


羽根の先に薄い桃色の色がつけられ、ミリアの瞳の色と同じだった。


ミリアは暫く羽根ペンを眺めていた。


「帰っていたのか」


カルロスがミリアの仕事の本を抱え扉の前にいた。


「エアハルト様からの贈り物が嬉しかったようで、ずっと眺めていらっしゃいます」


ナタリーは温かな眼差しでミリアを見つめる。

異性からの初めての贈り物だとミリアは気が付いていないとも思っていた。


「エアハルトと仲良くしてるようで安心したが、あいつが誰かにしかも異性に贈り物をするなんてな……」


カルロスもエアハルトの変わりように驚くが、良い方向へと変わっていくので安心していた。


「やはりミリアを紹介して正解だったな。ミリアはその人の背後にあるものを見ない。人を見るから対等に接する。平民と貴族と二つの身分を経験しているからだろうか」


カルロスの言葉にナタリーも同意する。

でも、ミリアはそれだけではなく、転生者で前世の辛い人生が今の芯は強いけれど心優しい人格になったのを知っている。



ナタリーは自分に出来る事なら全て使い、全力でミリアを幸せにする事を誓っていた。


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