第三話 喧嘩にめっぽう役立つ男
主人について町中を歩いていると、どうやら「冒険者」と呼ばれる彼らが街で暴れているらしいと聞いて、主人はそれを諌めに行こうと言う。
冒険者というのは、世界中を旅をする者をいう。
たいていはロクな職に就けなくなった者がなる。
そういう人はたいてい戦争の高揚を忘れられなくなってしまった「戦地に魂を縛り付けられた者たち」であるらしい。
冒険者には行く先ざきで問題が発生していても、介入する義務はなく、知らんぷりすることもできるが、「依頼」という形を取られてしまうと、それに首を突っ込まなければならなくなる。
冒険者ギルドというのがあり、冒険者がどのような旅をしてきたのか、というのはギルドが絶対に把握していて、その旅の内容によって月に最低でも七百ベル、最高額二千ベルの給金がギルドから渡される。
なんかそういう人たち。
その冒険者が暴れている。各地のトラブルを解決する人間がトラブルを起こしてたんじゃ子供の笑い種でしょうに。
到着すると、そこは酒場だった。
ウィナルソという酒瓶が転がっており、それを掴む上げると同時に、店の奥から罵詈雑言が聞こえてきた。
「マスター、危険ですのでここは俺が……」
「私のスキルね」
「ウン?」
「【剣士】って言ってね。剣の形をしているものを持てば、攻撃の重さや速度が増すんだよね。だから、大丈夫なの」
「いや……それは早計では……?」
「いってきまーす」
「おバカ!」
主人が冒険者に向かっていくのを追いかけようとして、肋骨のヒビが痛んだ。すっげー痛い。
「マスター、あぶねぇってマジで」
案の定、あのおバカの嬢は冒険者に顔面一発パンチ食らった。
俺は少し我慢して、第二の皮膚を少し軽くしてすぐに駆けつけると、その冒険者の腕を掴み、握り締めてへし折った。
「グアアアン!」
「落ち着きなさいな……お兄さん方」
「テメェ何すんだコラァッ!」
落ち着きのない冒険者の顎をポンと打ち抜く。
彼らは崩れるように倒れて行った。
「…………弱いな……」
思わずつぶやく。弱い。人間というのは、こうも弱いものだったこか。その上、体重たって少なくて四十キロはあるらしい。
「あとは警察の出番ですよ、マスター」
「う、うん……」
「顔に怪我など作って……」
皮膚の厚みを戻して、振り返る。
どっと疲れる。すごく痛い。嫌になるくらい痛い。
「病院に行きましょう。治癒師がいるかもしれません」
「そうだね」
少しの間が空く。警官隊の到着の足音が近付く中、彼女は俺にこう言った。「貴方は何者なの」と。どうやら少し楽に痛め付けてしまいすぎたらしい。俺は返答に困ってから言い返した。
「喧嘩にめっぽう役立つ男、ですよ。マスター」
1ベル=35円くらい