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天涯孤獨(可視の躰を待つてゐた現實)

〈螢袋云ひ傳へは云ひ傳へなり 涙次〉



【ⅰ】


 安保さん、畸妙な注文をカンテラから受けた。「だうかしやつくり發生機を」。しやつくりが治まる機械なら分かるが‐ とは云へ、サラリーを取つてゐる身である。しやつくりを自動的に起こす装置を(そんな物は容易い)造つて、オーダーに應へた。

 カンテラ、前回お送りしたやうに、涙坐の罹つた「しゃつくりが始まると、躰が透明になる」病氣(?)を、一味の仕事の為に使はうと云ふのである。その為に、わざわざ安保さんに先の畸つ怪な装置をオーダーした。彼は無駄を嫌ふ。折角、涙坐にも安保さんにもサラリーを支払つてゐる。彼らの「能力」を使はずに放つて置く手はない。



【ⅱ】


「しやつくり發生機」には、ご親切に「しやつくりを治める機能」も付いてゐた。これで、涙坐の透明人間化を、上手くコントロール出來さうだ。さて、だう云ふふうに彼女の「能力」を使ふか。あ、この「能力」つての、お借りしました、尾田栄一郎先生。笑。

 事は並行して‐ ある少年が、姉探しをしてゐる。それには、親から授かつた遺産が、懸賞金として懸かつてゐる、これはテオのアンテナが受けた情報である。テオはロボテオ2號に、委細を任せた。「オ姉サン、ダウヤラ【魔】ニ誘拐サレタミタイデスネ... 懸賞金ハ五千萬圓デス」。これを、涙坐に探らせる... カンテラの思ひ付きは、透明人間となつた涙坐に、魔界(やはりと云ふか何と云ふか)を隈々(くまぐま)まで見聞して來させる、と云ふものだつた。



【ⅲ】


「さ、お嬢様、ぼつちやん、だうぞ」肝戸の黑グロリア。一應、ぴゆうちやんが同席はしてゐるものゝ、透明人間化した涙坐に護衛は必要なかつた。たゞ、この場合は、ぴゆうちやん、ペット的扱ひである。涙坐の緊張を和らげる為... 何せ初使用の機械に、自分の命運を委ねるのである。

「オ姉チヤン大丈夫ダヨ。安保ヲヂサンノ作ツタましーんダモノ」‐「さうね。私もさう思ふわ」‐明らかに、涙坐、無理をしてゐる。だが、車内で「しやつくり發生機」を使い、透明人間となつた。服を脱いだ。もうかうなりや運を天命に任せるしかない!

「ぢや、行つて來るわ」‐「お氣をつけて、お嬢様」肝戸とぴゆうちやんに送り出され、涙坐は「思念上」のトンネルを下つた。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈ファミレスでビーフステーキとオーダーす食つてやるから今に見てゐろ 平手みき〉



【ⅳ】


 涙坐は然し、或る「自由」な感覺を得た自分に氣付いた。こゝには、いつも彼女が「面談」で訪れた時の、魔界のざはめきは、ない。彼女は、喉元を衝く「ヒック、ヒック」と云ふこみ上げるものを、疎ましく思つた。魔界の或る地點で、彼女はテオから怪しい、と因果を含められた*「蕩らし【魔】」の居處にぶち当たつた。(お邪魔しますよ‐)懸賞の少年が見せてくれた姉の冩眞を思ひ出す。だうやら、ダブルベッドの中で、煙草をくゆらせてゐる女、それが少年の姉であると確信する。

 涙坐は、「もしもし」と聲を掛けた。「蕩らし【魔】」のゐない今はチャンスだ。「何? 何処から聞こえるのこの聲?」女は取り乱した。「しー、わたしは怪しいもんぢやないわ。あなたを助けに來たゞけ」‐「助け? 何が?」‐「貴女、こゝでの生活をエンジョイしてゐるみたい... だうなんですか?」‐「エンジョイ? してるわよ」‐「弟さんが探してゐるけど‐」‐「無駄な事は止めろつて云つといてよ、もう」



* 前シリーズ第54話參照。



【ⅴ】


 涙坐は肝戸のグロリアまで戻つた。服を着て、「しやつくり發生機」の、しやつくりを止める機能を使ひ、元の躰、可視の躰に戻つた。肝戸「だうでした?」‐涙坐「何かわたし、邪魔してしまつたやう...」‐ぴゆうちやん「ドシタノ?」‐涙坐「話は事務所に戻つてからね」



【ⅵ】


 姉の魔界に染まつてゐる有り様を聞き、カンテラ「さうか... 弟さんには惡いが、斬るしかないな」‐じろさん「『魔界壊滅プロジェクト』に、カネ出させるかい? 俺行つて來るよ」‐カン「宜しく」


 じろさんの帰りを待つて(カネの件はOKとのこと)、涙坐に案内された、カンテラ・じろさん・テオは魔界に降りた。「よお、『蕩らし【魔】』。元氣さうだな」‐「カ、カンテラ、此井!!」前回の登場時にはじろさんに(文字通り)降参、と云ふところ迄首を折り曲げられてギヴアップした、「蕩らし【魔】」。これから、この二人(?)の間に、ハーフ【魔】が量産されたのでは、堪つたものではない。女「あんたたち何? 人の幸福なんだと思つてるの!?」‐カンテラ、ぼそりと「弟、の氣持ち、も分かれ、よな」‐「しええええええいつ!!」女を斬つた。これで、少年は天涯孤獨の身だ。「蕩らし【魔】」は、この機に乘じて逃げ出さうとしてゐたが、テオが(テオ・ブレイド装着の上で)道を塞いだ。ぽきり、ぽきり、指の関節を鳴らしながら、じろさんが近付いて來る...



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈蚊も見ずや地表に熱気凝るがゆゑ 涙次〉



【ⅶ】


「なんで、死んじまつたんだ、姉さーん!!」と少年は泣き崩れた。眞相はカンテラ一味が闇に葬つた。「これ、あなた方に差し上げます」、少年は自ら、施設に入る事を望んだ。カネが、一味に轉がり込んで來た。カンテラ「お有難うござーい」。自らを乞食の身に喩へた譯である。お仕舞ひ。



 

 

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