第八話
投稿が遅くなって申し訳ないです。毎日投稿は難しいと言いつつも続けていきたい欲はあり、、、。
暖かい目で見守ってください。
「レオン様、ラングフォート家の紋章が入った馬車が近くまで来られました」
椅子に座っていた僕は立ち上がり、執事長についていく。玄関を出ると母上の趣味のガーデニングから溢れ出た植物たちが綺麗に並べられており、玄関前を装飾している。石畳が敷き詰められた道を少し歩くと門へ辿り着く。僕が住んでいる屋敷の門だ。貴族のように門兵がいるわけではないが、立派な門だと僕は思う。門の外へ出てみると、遠くの方からカラカラと馬車が道を通る音がかすかに聞こえてくる。
「よくこんなにも離れているのに気づいたね」
「昔から耳と目は良いのです」
「衰えていないとは、良いことだ」
「恐縮です」
執事長とはこれまでも何回か二人きりで話したことはある。唯一の良心であり、僕を見届けると約束した相手だ。しかし、逆に僕はあまり執事長のことを知らないかもしれない。後で聞いてみるのも悪くないかもしれない。
少し違うことを考えていたら馬車が近くまで来ていた。華美な装飾は施されていないものの、貴族である者の馬車だ。一つ一つが洗練されている。馬も毛並みがよく、よく手入れされていることが見てわかる。
パカラ、パカラ。小気味良い音をたて馬車は目の前にやってきた。御者が降り、こちらに気付き一礼すると、馬車の扉の前まで移動する。扉の向こうにいるであろう、シャーロットに話しかけている。
そして遂に、馬車の扉が開かれる。御者の手を取り、降りてくる少女。長い髪が風に靡き僕の視界を奪う。艶の良い黒髪、整えられた長い髪。その持ち主こそ、ラングフォート伯爵家次女、シャーロット・ラングフォート伯爵令嬢である。
「ご機嫌よう、シャーロット伯爵令嬢」
「ご機嫌よう、レオン・ヴァレンティス」
とても落ち着いた雰囲気がシャーロット伯爵令嬢にはあった。優雅な人といえば説明がつくのだろうか。けれど、それでは説明がつかないような、根幹から貴族というものが染み付いている。そんな雰囲気であった。
「中庭で、お茶の用意があります。そこでお話ししましょう」
「わかりました。では、案内を」
「どうぞ、こちらです」
凛とした態度で会話をしている。目は僕を見ているが、興味があるように見えない。確かにシャーロットからしたら、明らかに格下である商家に婚約させられたのだ。不服以外の何者でもないだろう。
しかしその態度を一切見せず、凛としているのは並大抵のことではないだろう。14歳の少女がいきなり自分の将来の旦那を紹介され、それが自分よりも格下、しかも貴族ですらないというのは、屈辱であるに違いない。
中庭には、メイドたちが用意したティーセットが置かれているテーブルと椅子が置かれていた。
「どうぞ」
メイドたちが椅子を引き、紅茶の準備をし、お茶会の準備をする。
そして、シャーロットと僕はこうして対面した。お互いの顔がよく見える。
整った顔立ちで、14歳とは思えない程の鋭い眼差し、長い黒髪は彼女を飾り立てる。対比するように明るめの色で彩られたドレスがとても似合っている。
「改めて、ようこそ。レオン・ヴァレンティスです」
「シャーロット・ラングフォートです。お招きいただき有難うございます」
動作一つ一つに隙がない。優雅かつ可憐である。
「この紅茶は、父の商会で取り扱っている中でも最高級のルナティアという紅茶です。どうぞ、召し上がってください」
「いただきます」
品のある動作でソーサーを持ち、右手でカップを持つと、少しまだ熱い紅茶を飲む。
彼女の喉がコクンと動く。紅茶が彼女の中に入る。フッと顔が綻び、緊張した空間が消える。
「これは……美味しいですね」
「それはよかった。父に我儘を言って用意しただけあります」
「お世辞じゃなくて、これは本当に美味しいわ。豊かな香りがスッとして後味がスッキリしてる。それだけではなくて、舌触りも良く、しっかりとした味わいもある」
シャーロットの何かに触れたのか、いきなり饒舌になる。それもそうだ。先にシャーロットは紅茶好きという情報を手にいれ、父上にその紅茶を分けてもらったのだ。最高級の紅茶なのに変わりはないが、出世払いとして分けてもらった。
ずっと警戒されては、こちらの事情的にも良くない。初めから本気を出していく。
「シャーロットは……失礼しました。シャーロット伯爵令嬢は紅茶がお好きなのですか?」
「シャーロットでいいわ。これから生涯を共にするもの、名前で呼んでくれなければ嫌だわ」
「では。シャーロットは紅茶がお好きなのですか」
「ええ、もちろんよ。紅茶は良いものよ、例えどんなに疲れていても、飲めば休まる。そんな気がするのよね」
紅茶のいい香りが場を満たしていく。さっきまでの空気感は消え、本音は話せなくても嫌悪は消えた、そう思える。今日の成果としてはこれくらいで十分だろう。後は機嫌を損ねないようにすればいい。
「僕も紅茶は好きです。けれどシャーロットみたいにちゃんとした理由ではないですけど」
「あら、別にいいのよ。人それぞれの理由があっても」
「大人みたいに見える、でもですか?」
一瞬、視線をこちらに向け驚いた顔をするが、また笑った。
「案外面白いのね、あなた」
「そうですか?」
ソーサーを置き、真剣な眼差しで僕を見つめる。曇りのない綺麗な目だ。何も汚されていないことがよくわかる。
「そうよ、私はイヤイヤここに来たけれど今ので来て良かったと思えた」
「では、光栄なことです」
それから他愛のない会話をして時を過ごした。時刻が昼前くらいになった頃に解散の流れになった。
「また来たいと思ったわ。また、美味しい紅茶を用意してなさい」
そう言い残しまた馬車に乗り込んで、パカラパカラと馬を走らせて消えていった。
ふぅ……それにしても貴族らしい人であったな。態度は軟化していたが根底には貴族と商人という差があった。
それもそうだろう、こちらは貴族相手に商売してるとはいえ身分は平民と変わらない。しかし向こうは貴族の中でも伯爵の地位にいる。男爵や子爵などの数代しか続いていない家ではなく、最低でも十代続かないと授爵されない地位である。それはもう、貴族の中の貴族と言っても過言ではない。
さて、最初の一手は打てた。次はどのように攻めていくか。大丈夫、制限時間はまだ残っている。
いかがだったでしょうか。
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一週間くらい、投稿お休みします。一週間分の小説を書くためです。