第二話
僕が物心ついた時、なんとも言えない感覚を覚えていた。ここは自分のいるべき場所ではない、僕はここの世界の住人ではないような不思議な感覚だった。その感覚は自分が成長するにつれて大きくなり、学校へ通い始めてからその正体に気づいた。
僕は、転生者である。
前世はしがない平民であったはずだ。欲を捨て、家族のために朝から夜まで働き、せっせと金を集める。その少ない金で家族を養い、立派に育ててきたはずだった。しかし、その努力が報われることはなく、何事もなかったかのように自分は死んでいった。
事故であった。村に現れた一匹の魔物が、農作業中の僕をまるで殺しを楽しむかのように、この体を裂いた。痛く、辛く、決して消えない恐怖がその精神に刻まれた。
死んだこの体は朽ち果て、精神もまた朽ちていったはずだった。何故だかは知らないが、もう一度、生を受けこの世に僕は生まれた。しかし前世とは違い、僕は裕福な家庭に生まれた。貴族ではないが、商いで金を稼ぐ商人の長男として生まれた。幼少期は家庭教師による英才教育、親からの無償の愛。そして妹という存在との出会い。何不自由なくこの世を謳歌していた。学校に通い始めてからも、幼少期に培った圧倒的経験値とこの体の類稀なる才能によって不自由なく過ごせていた。
だからこそ、僕は思い至ってしまった。いや、誰もがそうなる運命だろう。前世の記憶を持ち、人生をもう一度恵まれた環境でやり直す事ができれば、必ず誰もがこの思考に至ってしまうだろう。
我儘に、自由奔放に、誰にも縛られずに、この溢れ出る欲を満たすためだけに、生きてみよう、と。
そう思い至ってから、態度が変わり、欲を隠さず、横暴になっていた。しかし、誰も口を挟まなかった。やるべきことは上手に出来ていたからだ。学習も運動も魔法も、全てこの体は上手にこなした。だからこそ、咎める者は現れなかったのだ。
だが、それだけではない。欲を隠さない、横暴な人間など、どれだけ優秀であっても人は離れていくだろう。しかし、この体は優秀に加え、都合のいいスキルを覚えていたのだ。
スキル:〈洗脳〉相手の意思を自分の都合のいいように変更する。
このスキルが発覚した時、僕の欲望に歯止めが掛からなくなった。自分でも驚くほどに、肥大する自分の欲望を抑えることが難しかった。
この家で、洗脳にかかっていない人間は、家族と執事長のみとなった。それは自分に残っていた最後の良心である。家族までこの洗脳を使ってしまってはいけないと良心が叫んでいた。
その良心の1人である執事長には全て話した。自分が転生者であること、洗脳スキルを持っていること、欲望が抑えられないほど肥大化していること、メイド全てに洗脳をかけていること。ありがたい事に執事長は黙って話を聞いてくれた。そして僕はあるお願いをした。洗脳をつかわず、全てを知る唯一の良心として、この僕を見ていてほしいとお願いした。その時の執事長の顔を決して忘れない。
そこから二年間学校に通い様々なものを学び、家に帰り家族と会話し、寝るという生活を送っていた。だが、洗脳もあまり使う場面がなかった。
家にいるメイド全てに使った後、使う場面が一切なかったのだ。
学校生活は、洗脳を使うまでもなく皆んな僕を慕ってくれた。優秀な僕はそれだけで価値があったのだ。両親も横暴になってしまったこの僕をよくある思春期の行動として優しくしてくれた。妹たちも変わってしまった僕に驚いていたが、それでも優しくしてくれていた。
きっと妹たちなりに理解したのだろう。
けれど、ある時、再びこの力を使おうと思った出来事があった。
そう、奴隷を知ってしまったのだ。
この世界には人間以外の様々な種族が存在している。しかし、僕が住んでいるこの国は人間至上主義であり、他の種族を見下している風潮があった。そのせいか、奴隷は様々な種族が売られており、労働力として働かせていたり、あるいはおもちゃとして使う。観賞用として売られていることも多い。
街を歩いていた時、たまたま奴隷商会の馬車が目の前を横切った。普段なら貨物部分に布が被せられ、中が見えないようにしているが、奇跡的にも、風で一瞬その布が舞い上がったその時、大きく白い翼を携えた種族、翼人族の奴隷が見えた。その瞬間、まだこの体に目覚めていなかった情欲が湧き出たのをいまだに覚えている。
2年生が終わり、冬休みになった日から親の仕事を手伝い、給料を得て、金を貯めた。そして、冬休み最終日、目当ての奴隷を買った。その時の心の踊りようはかつてないほどであった。鼓動が早く、この目の前の生き物を自分のものにできると脳が理解し、視界がグッと狭まったあの経験は14歳になった僕の心をグチャグチャにするのにそう難しくなかった。
そうして、リエナという翼人族は僕の奴隷としてこの地に連れてこられた。
いかがだったでしょうか。
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では。