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3: 自由気ままなおじさん。

 学校で、カバンを開けると――おじさんが飛び出てきた。


「なんて事してくれるんだ!」


 僕にとっては、ぬいぐるみが動くところを見られたことなんか 大した問題じゃない 。

 それよりも 高校生にもなって、可愛いぬいぐるみを大事にしているという事実が知れ渡った日には、もう 学校に通えない !!


 最悪だ。この状況、どう説明すれば 傷が浅く済む のか?

 頭を抱え込んでいる僕の前で、友人の菅井(すがい)がふと口を開いた。


襟音(えりおと)も、『ぬいぐるみ転生』好きなのか?」


 はい?

 ……確かに、前は好きだったよ。

 キナスの柴犬時の姿が、ちょっと きなこに似てて可愛いな♡ と思ったこともあったし。

 でも今となっては、そのアニメの名前を聞くだけで 頭が痛くなる 。


 そんな僕の葛藤を置き去りに、友人は話を進めていく。


「俺も好きなんだよな。でも俺は、キナスより クロウ派 かな。黒柴かわいいよな。にしても、キナスのぬいぐるみまで持ってるなんて、相当なファンだな! かく言う俺も、クロウのぬいぐるみ持ってるんだけどな」


 はい? 今なんて言いました?

 キナスのぬいぐるみ?


 いやいやいや。ちょっと待ってよ。


 僕の きなこは、キナスなんかより断然かわいい!

 ……と言いそうになったのを、ぐっと堪える。


 おじさんは、僕たちの話を分かっているのかいないのか、ただ 頷いている 。


 そんな中、菅井がぽつりと呟いた。


「にしても、このぬいぐるみ、どういう仕組みなんだよ。動きがリアル過ぎだろ?」


 ……嫌な予感。


「俺のクロウも、こんな風に動くやつがよかったなぁ」


 はい? 今なにか言った?


 俺のも動くのがよかった?


 なんなら代わってあげますけど!!!

 人の苦労も知らず、 いい気なものだ。

 お前のクロウも動きだして、ボロボロになればいいさ……!

 

「おい、お前さっきから、俺の弟の事を知っているようだが、もしかして居場所を知っているのか?」

 

「え……何これ? 最新のAIかなんか搭載されてるの?」

 

「なんだAIって。俺はキナスだ! 訳あって今はこんな姿だが――」

 

 ストップ。僕は、おじさんの口を塞ぐ。……も手遅れだった。


 僕は仕方なく、菅井に事のあらましを説明する。


「なるほどな。普通のぬいぐるみが急に喋り出したのか……それにしても、羨ましいぜ」


「どこがだよ!! どこの誰かもわからない おじさんだよ!? しかも、自分を勇者とか言い出す変な人だよ!!」


「いや、だから、勇者キナスだろ! いいな~ほんと羨ましいぜ!」

 

「だから!! キナスってのは おじさんが勝手に言ってるだけで……」

 

 僕の必死の否定を、菅井は 完全スルーして興奮気味に語り出す。


「いやいや、この見た目。フォルム。

何より この剣さばきと身のこなし !

どこからどう見ても キナスだろ!!!」

 


 違いますけど!? 

 どこからどう見ても!!

 元は きなこだし!!

 


「ぬいぐるみ転生」のキャラなんかと 一緒にしないでくれる!?

 っていうか、こんな話、おじさんが聞いたら 余計に調子に……まずい。

 


「おっ! わかるのか?

俺がキナスだと見破るとは、なかなか見る目があるな!」

 

 いや、ないよ!! むしろ、節穴だよ!!!


 僕の心のツッコミも虚しく、菅井はさらに おじさんを調子づける 。


「そりゃあ、わかるよ!

漫画でも、魔王との戦いで キナスは封印されて柴犬のぬいぐるみとして目覚めていたし……」


 おい!! おい!!

 人が 必死におじさんから遠ざけてた情報を、なに知れっと暴露してくれてんだよ!!!


「なに? それは本当か?

やはり、あれは予言の書だったのか!?

続きがなくてな、探していたのだが……お前が持っていたのか!!!」

 そりゃあ、こうなるのが嫌で、僕が必死で隠してたんだから見つかるはずないよ。大体、

 予言の書じゃないから!

 ただの漫画だから!!!


 おじさんは 何やら考え込む。

 仕草だけは可愛いけど……

 


「まさか、予言の書にも俺がこんな姿になる事が書かれていたとは……」


 違う違う違う!!!

 それ、ただの転生漫画だから!!!

 

「そう言えば、漫画でも……キナスはエリオットに触れられる事でぬいぐるみに転生したんだったな」

 

「……エリオット? 残念ながら俺はエリオットに触れられていない。予言の書も、全てを言い当てられるわけではないのだろう」

 

「いやいや。そんな事ないぞ。襟音に触れられて転生したんだろ? えりおと→エリオット。なっ?」

 

「なるほど!」

 

 ……なるほど! じゃねぇー!!!

 こじつけも甚だしいよ!!!


……こうして、おじさんの暴走は、さらに加速していったのだった。




 


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