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第27話 戦いの準備

 何をどう言って良いのか分からない沈黙の中、先に口を開いたのはファウロス殿下だった。


「……ダグラスも突拍子もないことを言うものだな」

「そ、そうですね……でも、一理あると思います」


 私は顎に手をあてて考える。


「えっ!?」


 ファウロス殿下が大袈裟に驚いたので、私は首を傾げた。


「私達がぎこちない感じだったら疑われてしまいそうだと思って」

「それは……まぁ、確かにそうだな」


 ファウス殿下はほっとしたような残念なような声音で相槌を打った。


「だから、練習が必要だと思うんです」

「練習?」

「そうです。一生にも関わることですから、手ぬかりがあってはいけないかと」


 とは言ったものの、私も何をどうすれば良いのか分からない。仲睦まじいという感じを出すにはどうしたら良いのかしら? さっきダグラスさんが言っていたこと......キスしたり、抱き締めあうとか?

 私はそれを想像して顔が赤くなった。キ、キスは出来ないけれど、抱き締めるならなんとか……。そうよ、友達同士だって抱き合うくらいはするものだし、殿下と私は友人だもの、別におかしくはないわ。何事もやってみないことには慣れないし、と私は半ば破れかぶれな気持ちで、ファウロス殿下に抱きついた。殿下はぎょっとして、一瞬身を固めた。


「ソフィー!」


 我に返ったらしいファウロス殿下が呼んで、私の肩をつかんで引き離す。


「な、なにをするんだ、急にっ······!」


 殿下は目を白黒させている。私の行動に戸惑っているみたい。


「練習が必要だと思って……」

「だからっと言って、こんな破廉恥な......」


 破廉恥、と言われて私はしゅんっとなった。そうよね。殿下ば王妃様がお好きなんでもの。いくら演技といえ、好きでもない人間が抱きつかれたら迷惑よね……。私は自分の浅はかさを恥た。


「い、いや、その……君が破廉恥とかふしだらとか思っているわけではない! 決して……だが、その、我々は節度ある貴族で、だから、つまりベタベタするより、話の整合性を合わせることの方が重大だと思うが……」


 早口でもごもごとファウロス殿下が歯切れ悪く言う。何となく照れているようにも見えるわ。人のことは言えないけれど、殿下もこういうことには慣れていないかもしれない。でも、シルフィスにいたときは、手に握ってくれたり、抱きしめてくれたりと殿下は私にしてくれたけど、どうして今さら照れているのかしら? 


「先走ってしまって……ごめんなさい」

「疲れて判断力が鈍っているんだ。少し休むのが良いと思う」

「はい……」


 ファウロス殿下は優しくそういってくれたけれど、私は沈んだ気持ちのまま、メイドが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。私は一息ついて、殿下と話の整合性を合わせることにした。


「まずは……出会いは、学園で間違いないな?」

「でも、その前に生誕祭でお会いしましたよね?」

「ああ……確かに。そうだったな」

 私の言葉でファウロス殿下がその時のことを思い出したのか、相槌を打つ。殿下はギルレーヌに留学される前にも、体の弱いマルバシアス国王の名代として、毎年ギルレーヌ国王の生誕祭にも出席されていた。私達はそこで顔を合わせている。といっても、互いに聖公家とマルバシアス王家として通り一遍の挨拶を交わしただけだけれど。個人的に親しくなったのは留学してからだった。


「では、出会いは生誕祭だが、互いをよく知るようになったのは、学園で、ということで良いな」

「そうですね。それで、結婚するに至ったのは、シルフィスで共に救助活動をしている間に、その、お互いを友人としてではなく、男女として好きになった、と……」

「あ、ああ……それで良いと思う」


 私が照れたように尻すぼみに言った所為か、殿下も少しぎこちなく頷く。私達は恋愛結婚ではないから、何とも微妙な感じだわ。私にとっては事実だけど、殿下にとってはそうではないもの。


「あとは、他に何を聞かれる可能性があるでしょうか?」

「そうだな……どんなところに惹かれたか、とかか?」

「え、えーと、その……」


 ファウロス殿下の何気ない一言に、私は顔が一気に赤くなった。殿下の好きなところ……正直に言っても良いのかしら? でも、嘘を言ってもしょうがないもの。私は意を決して、口を開いた。


「殿下の、誠実で真面目で、冷静でありながら熱いものをお持ちなところでしょうか……」


 それに長身で引き締まっていて、濃い色の肌も、と口にはしなかったけれど、私はそこまで考えてしまって、思わず羞恥で瞼を伏せた。私ったら、なんて破廉恥なことを……。

 チラリ、と殿下の様子を窺えば、微動だにせず私をじっと見ている。呆れてらっしゃるのかしら……。それとも、惹かれた理由を何とか捻りだそうとしてらっしゃるのかしら?


「ソフィー……こういうのはどうも気恥ずかしいな……ただ、君のひたむきさ、優しさ、それに楽しそうに話すところが俺は、す……気に入っている」

「殿下……」


 嘘だったとしても、嬉しい。殿下も何やら照れている様子で、それ以上何も言葉が出なかった。


「まっ、まぁ、それだけ分かっていれば良いのではないか?」

「そ、そうですねっ」

「そろそろ休もうか。移動で疲れただろう」

「ええ……そうしますね」


  私達はお互いに何やら、フワフワした気持ちのまま話はそれまでになった。


 ***


 それから一週間、シルフィス支援の為のチャリティーパーティーに出たり、目のあるところでマルバシアスと関係の深い人と会ったり、出来る限り、マルバシアスの為に二人でいる様子を見せるように務めた。その中で同じ読書クラブのだった友人達と会えたことは嬉しい出来事だった。そこで聞いた情報には意外なものもあって国王の生誕祭を次の日にひかえた夜、話題に出た。


「それにしてもセルジュ王子と君の妹のポレットの話は少し気になるな」


 あてがわれた客室でソファーに座りながら、ファウロス様のがボソっと呟いた。


「ええ。二人はうまくいっていないとか·······」


 あれほど激的に婚約破棄を演出し、自分達に有利になるように仕向けたというのに。教えてくれた学園時代の友人も、あくまで噂で出回っているに過ぎない、と口を濁していたけど。そんな噂が出回るということは、傍目に見ても何かおかしなことがある、ということだわ。妹のポレットが今学園には行っていないのは事実みたいだし。

 学園に居づらくなったのか、それとも王宮で次期王妃になるべく勉強しているのか。私には今セルジュ様とポレットがどんな状態なのか想像も付かないわ。

「もしかすると、君がセルジュ殿とポレットの仲を繋いでいたのかもしれないな」

 

 ファウロス殿下がしみじみと言った。

「どういうことですか?」

「二人にとって、君という障害があったから燃えた、ということさ。ソフィーの目を盗んで逢引きするのが刺激的で楽しかっただけ、ではないか……そういう側面もあったんじゃないかと思ってな」

「そんな、まさか……」


 私は殿下の言葉が俄かには同意出来ず、困惑する。


「もしかすると、本当に妹さんは君のものが欲しかっただけかもしれない」

「そう言えば以前、下の弟は上のものを欲しがるものとおっしゃっていましたね」

「ああ。君は長姉として経験はないか? 妹さんに人形や本をとられたりしたことは?」 


 そう問われて私は幼い頃を思い出す。たしかに小さい時分には、妹は私が持っているぬいぐるみや読んでいる絵本を私にも貸して、とせがんできたことが何回もあったわ。それでちょっとした姉妹ゲンカになることもあったけど、結局は私が譲ってあげていた。今となっては姉妹の懐かしい思い出だわ。


「確かにそんなこともありました」

「それでその後どうした? 少し触ったら興味を失くしたんじゃないか?」

「言われててみれば確かに。私が別の本を読んでいるとそっちが読みたいって言いだしましたし」


 私の言葉にファウロス殿下が苦笑いする。


「俺も弟だから分かるんだが、兄姉が持っているものが欲しいんだ。自分が持っているものは子どもっぽいと思えて。別にそのものが欲しいわけじゃないんだ」

「つまり、ポレットはセルジュ王子が私の婚約者だから欲しかった、と……」

「真偽のほどは分からないが……君の妹は自分の中に確固たる物が無かったのかもしれない。だから、君が持っているものが無条件に良いもので欲しくなる。そういうことかもしない、ということだ。普通は大きくなれば、自分の好みと兄姉の好みとは違ってくるものだし、他人の物を欲しがるなんてことはなくなるものだが」


 そこでファウロス殿下はふぅっとため息を吐いた。


「まあ、二人の間かどうあれ、今の我々には関係がない。今は自分たちのことを心配しよう」

「そうですね。いよいよ明日ですものね」


 そう。セルジュ王子とポレットのことは二人とそれぞれの家かどうにかすることだわ。それに噂と違って仲良くしているかもしれないし。どの道、私が関わり合いになることのない問題だわ。王子も王家も私ではなくポレットを選んだ。

 それを覆してまた私を婚約者に据えるなんてことは、幾らギルレーヌの王家でも面目が立たない話だもの。ただ聖公家は私を手元に置こうとしている。今も、手紙や人を使って、私に家に来るように言ってきている。それを私は多忙を理由に断っていた。


「問題は明日の舞踏会での振る舞い方ですね」

「我々の本番はそれというわけだな」

「はい。王子と妹のことは私達にはどうすることも出来ませんもの」

「ギルレーヌと聖公家が君をすんなり帰してくれると良いが。そうなることを願おう」


 殿下は、口で言うほど簡単ではない、と思っているように見受けられた。


「そろそろ寝ようか。ソフィー。明日はいよいよ生誕祭だからな」

「そうですね。お休みなさい、殿下」


 そう言って、私は自分の寝室に入る。眠ろうと目を閉じてたけれど、緊張し神経が昂っているのが分かる。それでも無理矢理寝ようと私は何度か寝返りを打った。


 明日は一体どうなるのかしら……。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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