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作者: L.Caffe

 中と半端な林、その中を流れる小川には、丸太一本を倒しただけの橋的なものが架かっている。


 子供達は、なんの目的も無くそれを渡る。向こう側に行って何か面白いことがあるでもなく、おいしい木の実をつけた木があるわけでもない。多分そうだ。


 それでも子供達は次々にそれを渡ろうとする。


 器用に両手でバランスを取る者や勢いに任せて三歩ほどで渡ってしまう者。慎重に何度か足で蹴り、丈夫な丸太かどうか試してから渡る者。


 様々な個性は見せるが、結局は皆渡ってしまう。


「早く来いよ」


 ああ、俺もまた子供達の一人だったな、と思い出す。


 しかし、これはどう見たって不確かすぎる。靴底と丸太の接触面積は極めて少なく、一旦パランスを崩せば間違いなく落ちてしまう。二本であれば筋力で立て直すことも出来ようが、一本しかないのはどうにもならない。


「はやくーこいよー」


 そもそも、渡る理由がない。それに渡ってしまった場合、帰りにもう一回渡らなければならなくなる。その場合単純にリスクは倍になるわけで、渡るメリットが皆無である以上損しかない。


「はやクゥ、コイよぅ」


 なぜ、そこまでに俺にリスクを背負うことを要求するのかがわからん。行って奇声を上げながら走り回って疲れて帰るだけだというのに、なぜ俺をそこまで必要とするのか。お前らだけでやっとけばいいだろう。


 想像力が無いんだ。

 危ないことをしてはいけない。

 危ないことを事前に感じ取るのは想像力だ。

 面白そうだからと無茶なことをやってはいけないんだ。

 ……大切なものを失ってしまうリスクが。


「智也! はやく来いって」


「嫌だよ。落ちたら濡れるだろ。ドロドロになるし」


「ナニ言ってんだ。もう俺たちずぶ濡れじゃねえエか」


 なぜだかわからない。

 なんでそれまで俺は顔を上げなかったのか。

 和樹、沙織、勇実、宗生、どうしてそんな真っ青で、ずぶ濡れで……。


「いいじゃん。助かったんだよ。ボートから何か浮くものが流れて。それに掴まれたんだ。智也は帰ったほうがいいよ。岸には大人も居たし、助けを呼べば、きっと生き残れるよ」


 沙織は、寂しげな声で言った。宗生がそうだねと言い、皆は蒼白い顔で少し笑う。


「そっか。じゃあ、さようならだ」


「またな」


「又って。もう会えねえだろ」


「それもそうか」


 一本橋がバキリと音を立て、折れて川へと落ちる。


 四人は楽しげに笑いながら、水の入った靴の音をたて、林の奥へと走りさる。


 俺はその後ろ姿に、かける言葉を見つけられなかった。

 ただ、ほらみろ、という言葉が水が滴るように零れ落ちた。


「もう、取返しがつかないよ」

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