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異世界警察◯◯時

「があぢゃ、んの、からあげっ、おいぢいの!」

「あー、わかるよ。俺の母様は料理とか使用人の仕事って考えてたから、母の手料理って食べた事は無いけど、乳母が作った物は特別な感じがしたなぁ」

「兄ぢゃ、んの、おいばいでっ!」

「あ、お兄さんのお祝いで、唐揚げをお母さんが作ってくれたんだぁ。誕生日だった?」

「だい、がくで、しがくじ、げんごうがくおいばい。ぞれ、なの、にぃ兄ぢゃ、からあげっ、ぐれたあ!」

「大学で受けた資格試験の合格祝いか。それは美味しい物でお祝いしないとだね。唐揚げを分けてくれるなんて、優しいお兄さんじゃないか」

「どうぢゃ、も、ぐれだ!」

「そうか、お父さんからも唐揚げを貰ったのか。美味しかった?」

「ゔん!」


 僕が、どうやってあのバカのやった事を世界中に広めるか悩んでたら、知らない人に話しかけられた。

 見た目は二十代前半だけど、異世界だから見た目で判断できない。その人は、肩まで伸ばした金髪なのに現代の警察官みたいな制服を着ていた。


「こんにちは。先程、通報を受けまして、君が異世界から召喚されたその場で死亡し、その後に世界樹へ転生した少年かな?」

「え、あ、はいそうです」

「えーと、召喚された時の状況とか詳しく話せるかな?」

「えと、どちら様ですか」

「あ、俺ね、こういう者です」


 僕の目線に合わせる為に、しゃがんで話しかけてくれた男の人が、胸ポケットから取り出した物を僕に見せてくれた。

 黒くて四角いのは縦開きの手帳みたいで、中を見ると男の人の写真とヤルガヌ・ナルバリークって言う名前、あと階級みたいなのが載ってた。


「これ、警察手帳みたい」

「そう、君に分かりやすい形になってるの。で、この通り俺は警察官しているのね」

「え、何で警察官がここに?」

「異世界人に関する被害と加害に対応する為に、警察組織を参考にして結成された所で働いてるって言ったら分かる?」

「なんで、通報されたの?」

「うーん、通報があったので君から詳しい話を聞きたいんだけどって、あ、泣いちゃった」


 警察とか言われて、僕は混乱した。何でこんな所に、警察官の格好をした人が出てくるの。この世界は、剣と魔法の世界でしょ。神様も実在してるファンタジー世界じゃないの?

 しかも、通報されてここに来たって、バカの国と世界をどうやって滅ぼそうか考えたのがいけなかったの? 

 この人に止められたら、できなくなるの? 

 僕が世界樹だよ? 

 やらなきゃいけない事があるのに、できなくなるの?

 絶対に、バカの国だけは滅ぼす。

 これも駄目なの? 

 僕、世界樹だよ?

 警察官だけど、無関係の人間に止められるの?

 もう、訳が分からなくなった僕はそのまま泣きに泣いた。

 警察官を名乗るこの人が、僕を宥める為にいろいろ話しかけてくれたから泣きながら答えたけど、ちゃんと話せたのかは自信ない。


「じゃあ、君の名前は分からないんだね」

「はい。どうしても名前が思い出せなくて。けど、鞄の中に、名前を書いたノートとかあった筈」


 少しだけ落ち着いた僕は、ヤルガヌさんにこの世界に召喚されてからヤルガヌさんに話しかけられるまでの話をした。


「んー、これはウチで扱えるか分からないな。転生異世界人として扱うにしても、人外枠は扱い方間違えちゃうとまずいんだよね」

「そうなんですか? 僕、人外になってるのか」

「うん。君は今世界樹としてここにいるからね。人型でも人外に当てはまるかな。で、こうやって話せば分かる人もいるんだけど、拗れるとこっちがやられちゃうから大変なんだよね」

「いつもこんな事しているんですか?」

「まあ、そうだね。転生の場合は、その世界で生き辛い思いをしている人の手助けをする時もあるよ。転移だと元の世界に帰せるなら帰しているけど、帰りたくないって拒否される事もあって、説得はするけど結局その人は元の世界に帰らないって時もある」

「元の世界に帰りたくないとかあるんだ」

「転移前と転移後の事情で拒否されるし、こちらも強くは言えないのでそのまま署に帰る時もあるよ」

「署って、警察署はどこにあるんですか? そうだ、通報の仕方ってどうやるんですか?」

「署の場所は、分からないな。どうも警察組織を立ち上げた署長が安全な場所に建てたらしいよ。通報の仕方はその世界によって違うから今回通報してきたサクって人に聞くといいよ」

「そっか、サクが通報したんだ」

「あ、彼を責めないでね。君と会話ができなくなって困っているって通報理由だったから」

「そういえば、ヤルガヌさんに話しかけられるまで、サク達の言葉が変になってた」

「そうそう、異世界人の殆どが、召喚された時から勝手に言葉や文字が翻訳されるんだけど、君の場合は会話の最中に起きた感情の乱れのせいで翻訳がされなかったみたいだね。もう落ち着いたみたいだし、ちゃんと翻訳される筈だよ」

「翻訳されてない時もヤルガヌさんの言葉は分かったのは?」

「それは、ほら、俺も異世界人だし、異世界を渡り歩いてる警察官としては、どんな相手だろうと言葉が分からないとかは駄目でしょ」

「確かに」

「服装とかも、異世界人が一目で俺が警察官だと分かる格好に見えるんだよ。警察官がいない世界だと似た様な役職の格好になるよ。さっき見せた警察手帳も同じだね」

「じゃあ、サク達から見たヤルガヌさんはどんな格好になるの?」

「それは分からないな。この世界に警察組織があるならその服装になると思うけど、無いのなら俺が着ている服装のままかもしれない? まあ、この世界の文明レベルなら警備隊くらいは普通にありそうだけども」

 

 異世界の警察って凄い。警察官を知っていたらその人がそれと分かる格好になるなんて、これも魔法なのかな?


「それって、魔法?」

「えー、秘密。と言うか俺も知らないで着てるんだ。これを着て初出勤した時は驚いたものだよ。相手がすぐに俺の事を警察官だって分かってくれたからね。俺の世界には警察組織って無かったから、俺と同じ世界の異世界人だと警備隊か憲兵に見えるのかな」


  何となくだけど、ヤルガヌさんって立ち振る舞いとか見てると、良いとこの出なのかなって思った。聞いてみよ。


「あの、もしかしてヤルガヌさんて貴族の人?」

「元がつくよ。やっぱり品が隠しきれなかったかな。……俺の場合、異世界転移してから色々あって警察官になったんだ。警察で働いているのは大体俺みたいな奴ばかりだね」

「え、異世界転移とか転生した人って沢山いる?」

「そうだね、沢山。それに人間以外も転移や転生してたりするから対応が結構大変なんだ。俺みたいに警察で働いているのは、ほんの一部だよ」

「ほんの一部」

「そう、結構癖者揃いなんだよ。俺のいる場所」

「ヤルガヌさんはどうやって警察官になったの?」

「知人からの紹介だね。当時の俺は、転移した世界に馴染めなかった。それに、元の世界に帰るのも嫌だったから、就職先として警察を紹介された時は渡りに船だったよ」

「異世界の警察って試験とか無いんだ」

「いやいや、紹介はして貰ったけれど試験はきちんとあったよ。適正を見てからどの部署に配属するか決めているんだ」

「どこにも配属されないとかは?」

「流石にそれは無いと思うよ。俺は知人の紹介だったけど、それも俺が警察官として働けると判断されたからだしね。部署によっては命懸けの所もあるんだよ」

「異世界でも警察官って大変なんですね」

「そうなんだよ。あ、向こうも話聞き終わったみたいだね」


 ヤルガヌさんが見ている方を見ると、サク達がしょんぼりしながらこっちに来た。そうだ、アルに謝らないといけなかったんだ。


「あの、アル、ごめんね。せっかく出してくれたコップとテーブル壊しちゃってた」

「いえ、まだ予備はありますから。お茶、入れ直しますね」


 僕が、アルに怒鳴った時にコップとテーブルを潰してたんだ。どうやったのか分からないけど、二つとも粉々になってた。もし、これがアルに向かっていたらと思うとゾッとする。

 今の僕は、バカの国を滅ぼしたいだけで、直接人を殺すなんて事したくない。

 アルがお茶の準備をしている横で、まだしょんぼりしてるサクに話しかけられた。


「その、すまなかった」

「え、何が?」

「俺達の、お前に関する対応の悪さだ」

「そんな、別に悪いとは思わなかったけど」

「いや、お前が異世界人で未成年だと言うのに、こちらの都合ばかり押し付けていた」

「今の僕は生後一日の新生児みたいなものだしね」

「ぐぬぅ」

「まあ、僕の魂は十五才って思っているから。でも、未成年なのは変わりないね」

「……それで、今後の事なんだが」

「今後の話なら、僕から言ってもいい?」

「何だ?」

「バカの国は滅ぼす。これは世界樹としての決定事項だから、バカの国が滅んでも警察に通報とかしないでね」

「……それは、止められないんだよな」

「うん。僕が世界中にバカのやった事をばら撒く方法を考えていた時にね。実は先代からの引き継ぎが始まったんだよね」

「引き継ぎですか?」


 アルがお茶を僕に渡しながら、好奇心丸見えの目をこっちに向けてる。粉々になったのは片付けられて、さっきと同じ形のテーブルを置いてくれた。


「そう、何となくな感じだから上手く言えないんだけど、初代から続いてるやつとか、先代がやっておきたかった事とか、今の僕に必要な情報拡散と間引きの仕方とか」

「間引きの仕方?」

「バカの国を滅ぼすのが間引きになるんだ。というより今回の間引きの対象がバカの国なだけ」

「それは、それは駄目な方法では無いのか」

「間引かないと世界は滅ぶよ。僕はそれでも良いけど、サク達は違うでしょ?」 

「確かにそうなんだが」

「大体、世界樹が間引かなかった事なんて無かったよ? 先代も何回か間引いてるし」

「その、間引きと言うのは、必ず国を滅ぼさないといけないのか?」

「国だけじゃ無くて、野生動物の群れとか、その場にいる生き物が世界の害になったら間引くみたいだから間引く対象は人間だけじゃないよ」

「その、基準は何なんだ? 害になるとは一体」

「基準とか害とか聞かれてもまだ引き継ぎ中だし困る。あ、バカの国は国神が駄目になったから先代もそろそろ間引く準備してたんだけど、代替わりしないといけなくなったから次に任せるって決めてたみたい」


 その次代が、間引く予定の人間に殺された異世界人だったのは、先代も草葉の陰であちゃーってなったろうね。……僕の方が、ヌシの世界樹よりまだまともな対応ができると思いたい。

投稿後に誤字発見。直しました。

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