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思い出した僕の怒り

 レンの突然の発言で二人の言い合いは終わった。レンは二人が黙ったのを見ると僕の方に顔を向けた。


「二人がすまなかった。世界樹を魔王と同一視すると言う発想が、俺達には無かったのが悪かった。世界樹を身近に感じている俺達と違って、別の大陸の人間が世界樹の存在をどう思っているかなんて考えた事もなかった。

「俺にとっての世界樹は、無くてはならない存在だ。他の大陸だろうがそれは変わる事は無い筈、この世界で生きる以上、世界樹は尊重されるべきだと俺の意識に驕りがあった。サクとアル、それに他の一族にもあるかもしれない。

「世界樹を身近で感じられるのは、俺達の一族だけだ。俺達だけがこの場所に足を踏み入れることが許されている。他の人間は、代替わりの日が分かる程度で、その感覚も知らないまま生涯を終える人間の方が多い。世界樹の存在は、本や人から伝わる話を聞くだけと言う人間ばかりだ。これでは俺達の様に世界樹を尊重する気持ちなど、持ち続けるのは難しいのだろう。

「それを考えると、確かに世界樹を目にする機会のない者達から見れば、世界樹の代替わりと言うものは不穏に感じる者達も出てくるだろう。事実、あの大陸では自業自得とは言え国力が維持できない程に落ちぶれた国が世界樹になったヌシの怒りにより滅んでいる。が、国神の衰えの原因を魔王と結び付ける発想が出てくるのは驚くしかない。

「魔王の発生原因は世界樹の成り立ちの話の中できちんとした説明がされている筈。国が荒れているからと、魔王のせいにするのは無理があると分かっていないのだろうか。一度、全大陸に向けて世界樹に対する意識調査を敢行するべきか。その時は身分別で調べる方がいいな。王太子と言う身分の者が蛮行した事実を見過ごす事はできない。となると人手がいる、どうにか国々のお偉方を納得させる議論ができるといいのだが。

「異世界人であった世界樹殿は、この世界を知る前にこんな事になってしまって、混乱されているだろう。必ずと誓える事はできないが、世界樹殿には結果に納得してもらえる様にこちらも動く。だから、少しの間、俺達を信じて待っていて欲しい」

「あ、うん、分かった」


 確かに話が長かった。ちょっと僕には関係なさそうな内容もあったけど、口が挟めない程滑らかに話されると、何も言えなくなるね。


「いや、すまなかった。レンの言う通りお前はこの世界に連れて来られた異世界人だ。しかも殺されて世界樹に転生しているのに、俺達の話をきちんと聞いてくれている事を感謝しないとな」

「そうですね。普通なら世界樹に転生したと言われてもふざけていると思われても仕方が無い筈ですよね」


 サクとアルがしみじみしてるけど、僕はただ裸で埋められているのに驚いて、他の事を考えてる時間が無かっただけなんだよな。 

 サク達がやって来た時は、サクに叫ばれてどう話しかけようか悩んでいたのを忘れるくらい驚いた。


「まあ、僕の身体に変な事されてないといいんだけどな。人体実験とかされてたら嫌だなー」

「死体とは言え異世界人の身体に、無体な事はしないとは思いますが、なるべくあちらの大陸の、どの国が君を召喚したのか調べます」


 アルの言葉に、やっぱり僕は死んでいるのかと切なくなる。僕はここにいるのに、僕の身体が別にあると言うのは奇妙な感覚になる。

 目の前に僕の身体を見せられた時、僕は正気でいられるのかな。

 

「そうだ、お前は確か鞄を持っていたと言っていたな。もしそれも保管されていたら回収した方がいいだろうな。中身は何を入れていたんだ?」

「あ、学校に行く途中で召喚されたから、中には」


 鞄の中に何が入っていたのか思い出そうとした僕は、楽しみにしていた物を思い出して固まった。

 そんな僕の様子に、サク達は心配してくれるみたいだ。


「おい、大丈夫か? 鞄の中に何が入っていたんだ? そんなに大事な物なら必ず回収するぞ」

「……無理。意味ない。もう遅い」

「君、少し落ち着いて、遅いとは一体どう言う事ですか?」

「もう駄目になってる。刺された時、鞄落としたし中は酷い事になってるよ」

「壊れ物を入れていたのか。鞄を回収した時にこちらで直せる物なら直せるか試してみよう」

「直せないよ。だって、弁当だもん。食べ物は直せないでしょ」


 サク達は弁当を知っているみたいで、緊迫していた周りの空気が少しだけゆるんだ。僕は全然ゆるめない。 


「弁当か。お前の世界の弁当は日持ちする物で作られていないのか?」

「大体その日に食べる。お昼に食べる筈だったのに、召喚されて駄目にされた」

「その、中身を教えてもらえれば、再現できる物もあるかも」


 アルの言葉は、僕の地雷を踏んだ。


「できるわけないでしょ! 母ちゃんの唐揚げは! 母ちゃんしか作れないの!」

「お、おい、落ち着いてくれ」

「母ちゃんも働いてるから揚げ物は大変だからって滅多に手作りの唐揚げ食べれないのに! 後片付けまでちゃんとするって約束して母ちゃんから教わって兄ちゃんと作っても全然同じ味じゃなくて! 揚げたても冷めても全然違って! それでも美味しいって父ちゃん母ちゃん喜んでた!」 


 あの時は、母ちゃんの唐揚げが食べたくて、兄ちゃんと一緒に母ちゃんに頼み込んで作り方を書いたメモを見ながら作った唐揚げ。 

 母ちゃんは、見てるだけでアドバイスはなかったけど、高校生の兄ちゃんと小学生だった僕にはそこにいるだけでも心強かった。

 鶏肉切るのに手間取ったり、使う調味料の多さに驚いて、油の量とか火加減とか揚げ物が大変って言ってた母ちゃんの気持ちが分かって、慣れない料理と後片付けも兄ちゃんと二人でやり終えた時は運動してた方が楽だと思った。

 兄ちゃんと作った唐揚げ、全然母ちゃんの唐揚げじゃなかった。同じ様に作ったのに、兄ちゃんと二人で味見して違うなって首傾げて。

 それを見た母ちゃんが笑ってて、帰ってきた父ちゃんに笑いながらその話をしてて、父ちゃんも笑ってた。

 召喚される前の日に、久しぶりに母ちゃんの唐揚げが出て、僕は弁当のおかずにしたいからって自分の分から二個だけ別に残してた。そしたら兄ちゃんと父ちゃんが一個づつ唐揚げくれて。

 兄ちゃんも父ちゃんも、母ちゃんの唐揚げ好きなのに、僕に唐揚げくれたから嬉しくてありがとうって言って食べた。

 明日のお昼が楽しみだって、昼前に体育がある日だったから余計に美味しく感じるかもなんて思ってた。

 学校に行く途中で、友達と会って一緒に歩いてて、

そしたらこんな、突然、僕の人生は終わってて。

 世界樹になったなんて言われて、なんで納得してたんだろう。

 僕は誰よりも怒っていい。この世界で誰よりも。世界がどうなろうが別にいいじゃん。

 だって、僕は世界樹に転生したけど、この世界の人間では無いって気持ちがある。

 今ならあの王太子の望みを粉々にして、絶望させる事ができる。あの国を僕が滅ぼしてもいいよね。

 どうせ何もしなければ数年で滅びるって言ってたし、僕がそれを早めるだけじゃん。

 いっそ世界が消えればいい。僕も消えて、魂だけでも向こうに帰りたい。みんなに会いたい。帰る。帰ろう。


『おい、おい、お前、大丈夫か!?』

『駄目です! こちらに意識が向いてません!』

『くそっ、こんな事なら世界樹殿に仮称でもいいから名を付けるべきだったな』

『名前付けていたらどうだって言うんだ!?』

『仮の名でも、自分の名前を聞いてこちらを気にするかもしれないだろ』

『そんなんでこいつの怒りが収まるわけないだろ!』

『まさか、食べ物で怒りのスイッチが入るとは』

『恐らく、思い出深い唐揚げと言う食べ物の事を思い出した事で、向こうの世界の事も芋づる式で思い出して、自分の身に起きた理不尽にやっと気持ちが追いついたのだろう』

『レンお前よくそんな冷静でいられるな?! ……これ、一体どうすればいいんだよ。このままだと確実に世界滅亡もあるぞ』

『流石異世界人』

『お前なぁ!』


 なんか、うるさいな。

 さっきまで話してた奴らが何か言ってる。

 変な言葉、うるさい。

 まあ、いいや。早くあのバカの国をめちゃくちゃにしてやろう。

 どうせなら、バカがやった事でバカの国の滅びが早くなったって世界中に伝えたいな。

 できないかな。できそうかな。

 いや、まずはバカの国の周りを滅ぼして、生き残りにお前の国が滅んだ原因はバカの国だと教えるのも楽しそうだな。

 生き残りがどうするのか高みの見物でもしようかな。

 けどな、やっぱりバカの国を一番に滅ぼすべきって頭の中で叫んでる僕もいる。

 さあ、どうしようかな。


『仕方がない。今は世界樹だが、魂は異世界人だ。助けを呼ぼう』

『まさか、呼ぶのか?! てか、呼んだとして来るのか?!』

『……長が倒れたそうです。サク、指示を』

『……あー! やるぞ! 俺が通報する!』

名前間違えてたのを直しました。

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