世界樹の僕は物騒の塊
二回投稿その二
「……茶が飲みたくなってきた。少し休憩しよう」
サクがそう提案してきたけどさ。
「僕、お茶とか飲んで平気かな。今の所、喉渇いたりお腹空いたとかないんだけど、埋まってるからトイレ行けないし」
「ん? ヌシが世界樹だった時、ご機嫌取りの為に食べ物をやっていた記録があるから大丈夫だと思うし、排泄している仕草は無かったそうだからお前もしないんじゃないか?」
ストレートに言うね。今の僕って埋まってる下半身の感覚ないから、食べたらどうなるか気になるんだよね。
「そういえば、僕がこの状態で目を覚ましてから結構経つけど、何にも感じないな」
「何も感じないとは、生理現象の他にも何かありますか?」
アルが小さいリュックから色々出してるけど、それリュックに入る限界超えてない!?
「アル、何で小さいリュックにそんなに物が入ってるの?! え、魔法? 魔法のリュック!?」
「ん? お前の世界にはこういうのは無いのか?」
アルには悪いけど、アルの質問よりリュックの方が気になって仕方ない。僕が興奮してると、サクが不思議そうな顔してる。
「無い無い! 魔法なんて皆んな使えないし、漫画とかアニメとかで見るくらい! あと手品とかで似た様な事やってたけど、あれは仕掛けがあるやつだから! すっごいな、他にも魔法が使われてるのある!? サク達って魔法使えたりするの!?」
「まんがとかあにめとかは、よく分からないが取り敢えず落ち着け。今はアルが使っているのしかないから落ち着け」
「あー、ごめん。小さいリュックから物がいっぱい出てきたからびっくりしちゃったよ」
「魔法は、日常的に使うものなら大体五才くらいから学びます。本格的な魔法を学ぶ時は学校に行くことが義務付けられています。独学での魔法研究などはどの国でも禁止されていますよ」
「へー! じゃあ僕はどうかな!? 世界樹になったし、魔法使える様になってる?」
僕の質問で周りの空気が凍った気がした。サク達からぴりぴりした何かが僕に向かってくる感じ。
「あれ、なんかまずいこと言った?」
「いえ、君は問題なく魔法が使える筈です。俺が基本まで教えますよ。けれどそれ以上は駄目です。本格的な魔法を学校以外で学ぶ事は禁止されていますからね」
「あ、そうか。僕はここから動けないから学校行けない」
「教えた方が厳罰になる。お前もアルが罰を受けるのは嫌だろう?」
「え、そうなの?!」
「そうです。同じ魔法でも出身校によって癖がありますし、その学校独自の魔法習得法もありますから、勝手に他人へ教える事は犯罪になります。それに、学校で学ぶのは魔法の危険性を叩き込む意味もあります。本格的に魔法を教えられる者は、学校にいる教師だけです」
「そっか、ごめん。軽い気持ちで僕も魔法使えるのか聞いちゃって」
「いいえ。では、お茶を飲みながら話の続きをしましょう」
いつの間にか僕の前に、丁度いい高さのテーブルがあった。アルがそこに、僕の分のコップを置いてくれた。
お礼を言って飲んでみると、不思議な味がした。色は麦茶を薄くしたようだけど、香ばしさより爽やかさを感じる。
「口に合わないか?」
サクが僕がどんな反応するのか気にしてる。
「美味しいよ。こういうの初めて飲んだ」
「それは良かった。味覚はあるみたいですね」
さっきの何も感じないって話、アルは結構気になってるみたいだ。
「あ、さっき言った感じないってやつ。えっと、僕は夜に目が覚めたんだけどさ、ずっと裸だったのに寒くなかったんだよね。あとさ、サク達が来た時に怖いって思わなかった」
「それは……」
「召喚された時は、凄く怖かったんだ。王太子や神様おばあちゃん、その後ろにも結構な数の人がいてさ。持ってた鞄を抱きしめて震えてた。勇者になれって要求も、僕なりに頑張って断った結果が殺されてこれだよ。ここでは裸で埋められて、何にも持ってないのに武器持ってる戦い慣れてますって人達が目の前にいてもさ、怖いって思えない。僕なんてあっさり殺せる筈の人達を前にしても平然としてるし、ため口で話してるし、殺されて世界樹になったなんて話も泣きもせずに普通に受け入れてる。おかしいよね」
「君を殺した王太子への憎しみや恨みはありますか?」
「アル!」
アルの質問に、王太子とのやり取りを思い出しながらちょっと考える。
「憎いとかは今はあんまり、いきなり刺されたから驚きの方があるかも。後から許せない気持ちが出てくるかもだけど、どうせ王太子のいる国って滅ぶんでしょ?」
「少なくとも数年後には滅ぶかと」
「それを聞いてもあんまり嬉しいって思えないんだよね。憎かったり、恨んでたら喜ぶものなのかな」
「……」
「でさ、僕が憎いとか恨みとか凄く怒ってたら、サク達、僕をどうしてた?」
サク達が固まった。僕が気づいてないと思ってたのかな。前の僕なら気付かなかったけど、世界樹になった今の僕は気付いちゃったんだよな。
「世界樹の僕って、殺せないんでしょ? 殺せないなら、次の世界樹が生まれるまで薬や魔法で無理矢理眠らせるとかした?」
「世界樹になったヌシに、毒や魔法による攻撃は、肉体、精神に無効でした」
「試したんだ」
「ええ、無駄に死人が出ただけだったそうです。君にも効果は無いでしょう」
「世界が荒れて滅びそうになったのって三十八回?」
「……ヌシが世界樹になった事による世界滅亡の危機だけならそうですね。とても荒れたそうですよ」
僕の質問に、アルが大きなため息をついた。サクもレンも少しがっくりしてるかな。ヌシが原因じゃない世界滅亡の危機もあった様に聞こえたけどスルーしとこ。
「世界樹が誕生して千年程経った時、初めて代替わりがありました。その時にはこの土地は、緑豊かな森林で溢れかえっていましたし、次の世界樹となる木もそれは立派なものだったそうです」
「ヌシが世界樹になるって分かったのは、だいぶ後の事?」
「そうですね。五十二代目が、初めてヌシが世界樹になった代です。その時の混乱は、語り尽くせない程です」
「驚いただろうね。木じゃなくて別の生き物が埋まってるんだもん」
「世界樹としてのヌシは、目覚めると必ず怒りで我を忘れています。殺された事に対しての怒りが続いていたのでしょう。その怒りの矛先は、自分が殺された場所、ヌシが元居た土地へに向けられます。その結果、徹底的に元居た土地が荒れます。自分の群れを持っていたヌシでも、生き残った仲間の事など忘れて怒りをぶつけています。世界が荒れるのはその余波ですね」
「物騒。余波の方が被害大きくて酷いじゃん」
「だから、お前が理性的だった事に俺達は驚いた」
「サクはただ叫んでただけじゃん。すっごいうるさかった」
「あの時は、確かに叫んだが、叫びながらもどう対策するか考えていたし、アル達と相談したり、長に状況を連絡したり結構忙しかったんだぞ」
「えー」
疑いの目でサクを見た、アルとレンも見た。
「確かに、歴史上初の異世界人が世界樹になっているのをこの目で見た時は、この世の終わりを覚悟しましたよ。遠目で木では無い事には気づきましたがまさかの異世界人ですから、速攻で長に連絡をとる事が最優先だったので、君への対応が疎かになったのは確かに良くなかったですね」
「連絡ってどうやったの? 道具とかいじってなかったけど、もしかして魔法使ったの?」
「風に思念を乗せて相手に届ける魔法ですね。長距離だと使えませんが、ここから長が居る町までは問題無く使えます。この魔法は教えても問題無いので、今度教えましょう」
「便利な魔法だね。あ、長とはどんな話をしたの?」
「長との話は、まあ、向こうも混乱している様で」
「僕としては複雑な気持ちになるけど、ヌシじゃなくて良かったじゃん。すぐに世界がどうこうなるわけじゃないし」
「異世界人も大概だぞ。ヌシが世界樹になると世界は荒れるが、異世界人は立ってるだけで災害を起こす奴もいるからな」
異世界人にも物騒な奴はいるんだな。
「ヌシが怒ってると世界が荒れるのってなんで?」
「世界樹の役目は、世界の安定です。安定させる為には、世界と繋がる事が必要。ヌシはその繋がりを無意識に利用して世界に怒りをぶつけたのです」
「ぶつけられる世界かわいそ」
「繋がりの中で、ヌシの負の感情が溜まって塊になり、外へと吐き出されたのが後に魔王と呼ばれる存在です」
「あー、だからサクは今は魔王がいないって言ったんだ」
ヌシの世界樹が魔王を作るんだから、僕の前の世界樹は魔王を作れないよね。木だし。
僕が魔王の事を聞いた時、渋い顔にもなるよね。
「ヌシの世界樹によって、魔王が出現したのは十一件だぞ」
「この世界やばすぎ、なんで世界が滅んでないの」
「毎回、滅ぶ前に食い止めているからな」
サクが胸張ってるけど、威張れる事ではなくない?
要するに、僕が怒って世界を荒らしながら負の感情を溜め込んだら魔王が誕生するのか。
世界を滅ぼせる程の負の感情を、ずっと持ち続ける事って僕にもできるのかな。やらないけどさ。
一応、勇者として召喚された僕が、魔王を作れる立場になるとか笑えないな。