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物騒な世界の始まりは物騒

二回投稿その一

 この世界に召喚される前、夏休みが終わって秋になってもまだ暑いなと友達と愚痴ったり、将来行きたい大学を今のうちから探して受験対策しておいた方がいいらしいと聞いて驚いたり、高校一年生として馴染んでいたあの頃。

 たった一日二日で僕がこんな事になるなんて、一緒にいた友達が今頃どうしてるのか気になってきた。

 僕が突然消えた事で、皆んなは驚いてるかな。

 僕が落ち込んでいるとサク達が何故かあわあわしている。わざわざ僕から少し離れた場所で何か言い合ってる。その様子をただぼんやりと見ていたら、見られてる事に気づいたレンがサクとアルに僕が見ている事を教えていた。

 その様子をじっと見続けてると三人がそわそわしだした。今の僕、何もできないのに何かやらかす空気でも出してるのかと首を傾げてみた。


「なんでそんな所でそわそわしてるのさ」

「いやいや、そわそわなんて、別に」

「ただ君の状態がよろしくない様に思えてね」

「おい、アル」

「サク、彼にはもう世界樹として生きるしかない事は貴方も分かっている筈。下手に隠し事をするより、この世界について話をしておいた方が良いと俺は思いますよ」

「けど、流石に血生臭い話を、こいつにするのは気が引けるというか」

「確かにそれはそうですが」


 サクとアルが物騒な事を言い出した。血生臭いってどういう事さ。どうもこの世界には僕みたいに非道な事をされたのがいるみたいだ。


「あ、何個か質問していい?」

「なんだ? 分かる事ならなんでも聞くぞ」

「魔王は今はいないって事は、昔はいたんだよね? 何やったら魔王になれるの?」


 僕の質問でサクは眉間に皺を寄せている。

 別に魔王になりたいから聞いたわけじゃないよ。僕は世界樹なりたてだし純粋な興味だけで、人間が世界樹になるんだから魔王にもなる条件があると思うんだよね。


「魔王は、世界が荒れると自然発生するんだ。姿形はその時代で違う。人型や獣型、結晶体だった事もあるそうだ」

「へー、魔王ってそんな風に生まれるのか。で、魔王は自分で魔王って宣伝してるの?」

「ん? 宣伝とは?」

「えーと、我は魔王! 世界を滅ぼしちゃうぞ! みたいな宣伝」

「……そう言うのは無いな。魔王はいるだけで世界の滅亡が速まるから、決死の覚悟での討伐が必要なんだ」

「魔王が滅亡させる訳じゃなくて、滅亡しそうだから魔王が出てくるの? てか、誰が魔王って言い出したの?」

「当時この世界に居た異世界人達が、魔王だこれは絶対魔王だと騒いだのがきっかけだった筈です」

 

 お、アルも教えてくれるのか。てか昔から異世界人来すぎなのでは。この世界どうなってるのさ。


「魔王は、世界からの最終警告とも呼ばれる存在だ。その時代の人類が何もしなければそのまま世界は終わる」

「その時代の世界樹って何で世界を荒らすのさ?」

「……」

「ちゃんとした世界樹がいるから世界は大丈夫なら、だめだめな世界樹がいるから世界は荒れるんでしょ?」


 僕は今、世界樹として生きてるみたいだから結構重要な質問だよね。


「僕、世界樹としては結構だめだめな方だと思うんだよね。だって僕は異世界人で、この世界の事なんて知らない人間だから。だけど、世界をめちゃくちゃにしたいとは思ってない。僕が世界樹として生きる為に、サク達が知ってる事はなるべく隠さずに教えてほしいんだ」

 

 これが今の僕の本音。僕は今の状態から抜け出す為に、世界を滅ぼそうなんて考える様な危ない人間じゃない。いや、世界樹じゃないんだ。

 多分世界樹は、次の世界樹になれる木が育たないと死ねない様になってる。だから僕はここでサク達と話ができている。それが、役立たずは死ねの物騒な世界で、まだ僕が生きている理由だと思う。


「ちょっと待ってろ」

「うん」 


 サク達がまた少し離れて話し合ってるよ。サクとアルの右手が動き出したけど早すぎて見えない。もしかしてあれってじゃんけんしてる?

 サクが負けたのか項垂れてる。


「待たせた」

「いいよ、サクが話してくれるって事でいいんだよね」

「いや、こいつが話す」

「アルが話すの? 負けた方が話すのかと思ってた」

「勝った方が好きに話すと決めましたので、サクはあまり君の神経に障る様な話は避けたいみたいなんです」

「ああ、血生臭い話だっけ」


 アルが僕の前に座った。サクは僕の斜め前辺りに座り、レンはサクとアルの間で少し後ろに座った。

 サクが不貞腐れてるけど、僕としてはきちんと話をしてくれるらしいアルの方がありがたい。


「世界樹が世界を荒らした理由って何?」

「……まず世界樹が誕生するまでの話からしましょう」

「あ、話が長くなるやつだ」

「黙って聞いてやってくれ」

「創造神は、何もない場所にこの世界を作りました。大気に息吹の助けを、大地に植物を植え、海となる水を貯めて流れを作る。しかしそれらはただあるだけ、息吹の助けは助けとならず、植物は育たずただ枯れるだけ、水は流れてこぼれるだけ。繁殖をしない生き物は何も残さずただ生きて死ぬだけ。世界でまともに動けるのは、世界ができる前に創造神が作り出した神々だけでした」

「記録の神様の他にもいたんだ」

「神々は、創造神の補助役として作られたそうだ。記録の神は最後に作られ、この世界の様子を記録する役目を貰ったそうだ」


 サクは補足説明役になってくれる様だ。僕の独り言に反応してくれた。


「創造神は、どうしたら生き物が繁殖する世界になるのだろうと悩みに悩み、用済みになった神々を生贄にする事にしました」


 創造神が物騒だった。そりゃこの世界も物騒になるよね。


「そのおかげか、世界には繁殖する生き物が生まれる様になりました。大気は息吹として使われ、大地には命が溢れ、海にも沢山の生き物が生まれました」

「へー」


 なんか異世界に来たって感じ。


「私達の祖先になる人類もこの頃に誕生しました。徐々に豊かになっていく世界でしたが、それも長くは続きませんでした」


 物騒再びかー。


「世界の衰えに気づいた創造神は、またもや用済みになった神を生贄にしました。しかし、生贄の数が足りなかったので、長生きで力も強いヌシと呼ばれる様になった生き物達も生贄にしました」

「ここでヌシが出て来るのか」

「今の時代と違って昔は結構な数のヌシがいたらしい」

「世界はまた豊かになりました。創造神は世界の衰えを感じると、用済みになった神とヌシを生贄にする様になりました」

「物騒」

「ぐぬぅ」

「世界樹はまだ出て来ない?」

「もう少し待て」

「……創造神が世界の安定を目指していた時、見知らぬ風貌の者達が出現する様になりました。後に異世界人と呼ばれる者達です」


 ここで出て来るのが異世界人なのか。世界樹より先にいるのか異世界人。


「創造神は、何故異世界人がこの世界にやって来るのか分かりませんでした。異世界人に聞いてみても分かりませんでした」 

「異世界人って創造神が連れて来た訳じゃないんだ」

「何故、異世界人が現れ出したのかはいまだに理由が分かっていない。創造神が召喚する様な事は無かったそうだ」

「ふーん」

「創造神は、この世界に住む様になった異世界人を生贄にできないか試す事にしました。異世界人の力がとても素晴らしく、今までの生贄達より強い事に気づいたからです」

「気づかないままでいて欲しかった」

「異世界人を生贄にすると、以前より世界が安定した事に気づいた創造神は、積極的に異世界人を生贄にしました。異世界人がいない時は、以前と同じく用済みの神とヌシを生贄にしていました」

「そう言えば生贄の儀式ってどんな風にやってたの?」

「やめろ、頼むからそれは聞くな」

「儀式と言うほどではありませんが、その場で魂を抜いて残った身体は吸収し、魂を大地の奥深くに沈めていたそうですよ」

「おい、俺はやめろって言った」

「そこまで血生臭くないね」

「嘘だろお前」


 サクが信じられないって顔で僕を見ているけど、僕と違って血は流れてないし、別にこれくらいなら平気かな。


「因みにですが、創造神は心臓に魂が宿っていると信じていたそうです」

「血生臭かったや」

「だろ?」

「実際に効果はあった様なので、生贄の数は年々増えていたんですよ。異世界人まで生贄にする程ですし」


 創造神がここまでしてこの世界を守るのはなんでだろう。創造神へのインタビュー記録なんて無いだろうから、サク達に聞いても分からないって言われそう。


「ある日、創造神が異世界人を見つけたのでいつもの様に魂を抜こうとしました」

「実際は心臓抜いた後に残った身体を食べてるのか」

「やめろ」

「しかし、これが創造神の最期でした。狙っていた異世界人に返り討ちにあったのです。そして、この世界には生贄が必要だと語る創造神を、その異世界人は殺して大地に埋めました。創造神を埋めた場所に、異世界人が持っていた種を植えた後、その場から忽然と消えたそうです。この種が成長して世界樹が誕生しました」

「創造神殺されてるじゃん!? 異世界人怖い!」

「いや、お前も一応異世界人だろ」

「その異世界人って何者! しかも消えたって事は、異世界人って元の世界に帰ろうと思えば帰れるの?!」

「その異世界人の正体は分かっていません。記録の神により、この世界にはいない事が確認されていますから、元の場所に戻ったと考えられています」

「お前は無理だろうな」


 やっぱりそうだよね。僕は突然この世界に召喚されて殺されて、そして異世界人だったからこんな風に転生しただけだし。


「あ、いや違う、お前はその異世界人と違って、既に世界樹としてこの世界に根付いた存在になっている。今の状態のお前では無理だと言う意味だ」


 僕が落ち込んだ事に気づいたサクが、慌てて言い直している。なんだかサクって、僕が落ち込んでいると慌ててるよな。


「ここでやっと世界樹が登場か。僕は創造神がなんやかんやして世界樹を作ったと思ってた」

「なんやかんやって……」

「世界樹が誕生したこの土地には、何もありませんでした。世界樹のある場所は、人類が安全に暮らせる様な土地ではありませんでした」

「じゃあサク達のご先祖様達って、住んでた場所からここに移住して来たんだ」

「そうだな、創造神が殺された場所だと知って、大勢の人間達が開拓者として別の大陸から命を賭けて海を渡って来たそうだ」

「別の大陸! 何か壮大な感じだけど移住の理由がちょっと」 

「その話はまた今度にしよう」

「知りたい事がある時は、俺かサクに聞くといいですよ。レンはダメです。俺より話が長くなります」


 思わずレンの方を見るが顔を逸らされた。話すのが苦手だから話に入ってこないんだなと思ってたけど、意外と話すのが好きな人らしい。

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