あっさり殺された
勇者として魔王を倒して欲しい。
長々と小難しい台詞を一行に訳すとこうなった。言ってる本人は楽しそうだが、聞かされるこっちとしてはたまったもんじゃない。
友達と話しながら登校している時にいきなり視界が白くなって、眩しって目をつぶってしばらくして目を開けたら知らない場所、知らない人達。
あ、これ異世界召喚だ!
なんてすぐに理解できるような頭の持ち主じゃない僕。
あわあわしながら唯一持ってた鞄を抱えて知らない人達に怯えていた。
なんか全体がキラキラとした見た目金髪碧眼の王子様が、にこやかに挨拶してくれて、今の僕の状況を教えてくれた。
自分はこの国の王太子で、隣にいるおばあちゃんはこの国の神様。
国が滅亡の危機にあるから本来の神々しい姿ではなく、普通のおばあちゃんの姿になっている。
なんてこった。
滅亡の危機の理由はズバリ魔王の存在。
魔王のせいで、神様おばあちゃんの力が充分に発揮出来ずに国が荒れに荒れている。
魔王を倒す力がある勇者に助けてもらおうと、神様おばあちゃんが力を振り絞った結果僕が召喚されたそうだ。
なんで? なんで僕?
僕は普通の高校生で、実は特別な能力をもってるとか、実は代々戦闘技術を受け継いでる家系の生まれとか、全くない。本当に普通の男子高校生。
喧嘩はした事あるけど、大抵は口げんかとかだし、殴り殴られなんてしたこともない。
そんな僕を連れてきたところで、勇者として魔王討伐してこいなんて無理、あり得ない。
にこやかに笑う王太子と疲れ切った様子の神様おばあちゃんに、どもりつつもきちんと僕には無理だと伝えた。けど、王太子は聞く耳を持たないみたいで、ずっと魔王を倒しに行けとしか言わない。
「あの、召喚されたからって、僕に魔王を倒せる様な勇者の力が付与されたとかではないんですよね?」
「無いな。だが君は、我らの神が召喚した特別な存在だ。必ず魔王を倒せる」
「あの、その、僕みたいなのが国を滅ぼそとしてる魔王を倒せるとは到底思えないというか」
「君が魔王を倒せなければ、国はもうお終いだと言った筈だが?」
「けど、やっぱり、僕にはできません。お願いですから家に、僕のいた世界に帰して下さい!」
きっと分かってもらえるまで話しあえば、理解してもらえると信じていた。
僕の言葉に、王太子は頷きつつ腰にさしてた剣を抜いて、僕の腹に突き刺した。
「役立たずか。おい、処分しておけ」
王太子が、僕に刺した剣を抜きながら言った。
僕は、あまりの痛さと刺されたショックで何も言えない。血が、刺された場所から流れているのがわかる。身体から力が抜けて倒れ込む。
神様おばあちゃんが、何か叫んでるけど、なんて言ってるのか分からない。
王太子と神様おばあちゃんの後ろにいた人達が大声だしてるけど、なんて言ってるのか分からない。
誰も僕に近寄ってこない、助けてくれない。
顔を上げることも、目を動かすことも、何か話そうと口を動かすこともできない。
耳鳴りが酷くて、痛くて、寒くて、刺された場所だけ暖かいなと思った時、ふっと視界が暗くなって僕は死んだ。
ふと目が覚めた。
あり得ない。僕は確かに死んだ。
自分の事なのに、信じられないけど、あの時、僕は僕が死んだと理解しながら死んだ。
なのに生きてる、意味わかんなくて怖い。
叫んでもいいような状況なのに何もできない。息してるだけ充分偉い。
今は夜のようで、当たり前だが周りは暗い。
空に浮かぶ月っぽいのが明るいから徐々にだけど、暗闇に目が慣れてきている。
腕が動くと気づいたら思わず刺された所を触ってしまう。だって、気になる。どうなってるの僕の身体。
刺されたはずの僕の身体は、綺麗なものだった。スベスベで血も出てないし、乾いたような跡もない。
そこで気づく。僕は今裸、着ていた制服もどこにも無いし、埋まってるから分からないが、きっと身につけていた物は、全部無くなってそう。
見える範囲に持ってた鞄も無い。盗まれたか捨てられたのか、鞄だけじゃなく服もついでとばかりに剥ぎ取られたのかな。
今の僕は、下半身だけ地面に埋められている。縦にだ。地面に対して垂直。
意味が分からない。
腰から下は、がっつり土で固められてる感じがする。なんか下半身の感覚が全くないのがすごく怖い。
周りも平坦で遠目に木がたくさんあるくらい、多分森かな?
後ろはよく見えないけどたぶん同じような風景だと思う。
僕、どこに埋められたんだろう。王太子達といた場所は、床は石畳だったし、壁とかも立派だった気がするからお城だったのかな。
王太子、処分しろとか言ってたけど、これがあいつなりの処分の仕方だとしたら、王太子の国はおかしい。
あと、あの時、物凄く痛かったから言えなかったけど、断っただけで即殺すとか判断が早すぎるよね。
大体、普通断るよね。一般人が魔王を倒しに行けとか言われてすぐに「はい喜んで!」なんて、返事するわけないじゃん。
王太子の話に、僕が「はい」を選択していたら、多分何の準備もなく、あの場所から追い出されてた。そんな気配がしてたよ、あの王太子。
流石に周りが止めてくれたかも知れないけど、たらればってやつだよな。いまさらいまさら。
とりあえずはここから抜け出したいけど、地面の感触は手だけで掘り進められる感じではない。
地面めちゃくちゃ固い。僕を埋めて何日か経っているのではないかという感じの地面。
腕の力だけで抜け出すなんて事もできない。僕は平均的な男子高校生。
今なら分かる。ここは異世界なのだ。
異世界なら僕に刺されたと思わせる事ができるのかもしれないし、要求を通す為に処分しろとか言っておいて僕をこんな風に埋めたんだ。そして何もできずに力尽きた僕に対して脅迫してくるんだ。
魔王を討伐して来いって。
……これは詰みでは?
また拒否したら、今度は首をはねるくらい平気でしそう。
かと言って魔王討伐なんて行くとか嘘でも言いたくない。
リアルに刺された幻覚を見せられる世界だし、討伐に行く宣言をしたら、死ぬまでそれしかできないようにされそうだもんな。
どっちがマシかと考えても、どっちも嫌だとしか言えない。終わったな、僕の人生。
てか、僕みたいな奴を勇者にする異世界おかしくない?
神様おばあちゃん、力が弱まってるとか言ってたし、勇者召喚失敗してる可能性大だよな。
僕の近くにいた友達が、実は勇者だったとかあるかも。
高校から友達になったからあいつが実はすごい奴だった、とかあったかもしれない。
なんて意味ないことを考えてしまう。
……現実逃避だよ、うん。
召喚の成功失敗とか、今の僕には関係ないし。
ただ、ここで死ぬのを待つしかないんだもん。
あー、早く朝にならないかな。
それで、できれば王太子以外が来てほしい。だって、やっぱり刺された事が忘れられない。
僕の小さな願いが叶ったのか、少しだけ明るくなってきた頃に、彼らはやって来た。
森に何かいるなと気づいたら、僕の所へ一気に駆けてきた。勢いがすごい。人数は三人で、全員男。
服装はいかにも冒険者みたいな、漫画やアニメとかでみる格好。髪も全員緑色とファンタジーな色合い。髭やムダ毛も緑なのかな?
一人と目が合ったので、一応挨拶した方がいいのかなと、声をかけようとした。
けど、その人に先を越された。めちゃくちゃ叫ばれた。
「なんで! 殺してんだよ! バカヤロー!!」
「いや、僕生きてます。死んでないです」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「ちょっ、うるさっ。あの、そこの人達、この人どうにかしてくれません?」
とりあえず、今も叫んでいる人はスルーして、他の二人に声をかける。
だけど、なんかこの人達もダメっぽい?
叫んでないけど、二人もこちらの話が聞こえてない気がする。まともに動く腕を大きく振りつつ、二人が反応してくれるのを待った。
叫んでる人はまだ叫んでいる。肺活量すごいな。
今のところ、誰も僕を殺そうとはしてないみたい。腰に武器を装備してるっぽいけど、すぐに使う気はないようで安心した。
どうやら王太子とは関係なさそうなので、一先ずは安心していいっぽい。
もしかしたら、この三人なら僕をここから引っこ抜いて助けてくれるかも。だって僕がここにいるのはとてもまずい事みたいだし。
誰か正気に戻ってほしいが難しそう。そんなに、僕が埋められているのがおかしいのか。辛い。
いい加減会話したい、そして僕を助けてほしい。
ここには男しかいないと言っても、裸なのは僕だけ、いい加減服着たい。