第三話 詮無き王②
「はぁはぁはぁ、ここまで来れば大丈夫か」
咄嗟に国の中に入っちゃったけど、ばれたらまずいよな。
絶対あんな武装した兵士に勝てないだろ。
あの魔物もほんとに瞬殺だったしな…怖い。
というか、国の門を通る時に警備兵がいなかったけど、大丈夫なのか?
それとも警備兵すら配置できない状態なのか…
廃れる国と、見放してしまっているのか。
まぁ今はとりあえず、身をできるだけ隠して食べ物でも探そうかな。
「思ったより中は普通なんだな」
街の中に入り、店が多く展開している道に来た。
そこには多くの人がいて、親子や年寄り、僕と同い年くらいの人もいた。
初めて見る人の量に圧倒されていたが、笑顔を振りまく親子の2人を見かけた時にそれは和らいだ。
平和、そう呼ぶにふさわしい光景がそこにはあった。
決して、終わりを迎える国の姿とは思えない。
「いい国じゃないか」
そう声に出して発した一言に、道中の人間が全員こちらを振り向き、誰もが笑っていた顔が一斉に敵を見るような目に変わった。ある1人の八百屋をやってる中年くらいの男が寄ってきて
「っえ?」
殴られた。
なんで…
こんなに平穏な情景の中にいる人がする行動とは思えないその衝撃に、未だ状況を理解出来ずにいる。
「小僧、二度とそんな口開くんじゃねぇぞ」
それだけ言って、男は元の位置に戻って行った。
どういうことだ?
これは国が終わることとなにか関係があるのか?
わからない。
この視線が怖い、わからない。
どうしよう、俺はここにいてはいけない気がする。
逃げよう。
「はぁはぁ、また走った。一体なんだったんだあの顔は。みんなしてこっちを怖い目で見て…さっきまでの笑顔は嘘だったのか?俺を排除するための罠だったのか?」
怖い。
ただそれだけが頭を回る。
人の怒りや憎悪が覆ったあの顔は、アイデルにとって初めての経験であった。
自分に向けられた邪魔者という名の武器で大勢の人から貫かれた気分で、心中穏やかではない。
ひとまず、落ち着こう。
まだ、よく分からないことだらけだ。
1人になりたい…どこかいい所は…。
「あそこって…」
国の真ん中にそびえ立つ巨大な城。
少し高いところに建設されているのか、国のどこにいても見えそうだ。
あそこなら国の全体を見渡せる。
人が居ないかは知らないけど、ここよりはマシだろ。
「行ってみるか」
今までの恐怖心は今や、城への侵入に対する好奇心へと完全に切り替わっていた。
近くに建っていた家の屋根に登って、家から家へと飛び進み、あっという間に城のある付近までたどり着いた。
近くで見るとさらに大きく、城は巨大な岩の上に建設されていて、てっぺんまで登るなら、なかなかに骨が折れそうだ。
「登ってみるか?」
森で培った身体能力を信じ、頂上までの道のりを予測する。
どうやらこの城の入口まで行くには、岩を削ってできた長い階段を使う必要があった。
階段付近にはしっかりと警備兵がいるようで、国の中枢くらいは守ろうしている姿に安心を得た。
いくら王のいない城だからといって、それを無下にされたら悲しいものがある。
まぁ、今まさにその城へ侵入を試みようとしている身としては、いい迷惑だが。
これでは城に触ることも出来ないじゃないか。
そう、階段を避けて進むには、目の前に聳え立つ城の土台をしている十数メートルの崖を登らなければならない。
少し傾斜があり、逆三角形が地面に差し込まれたような形をしているため、非常に登りづらい。
これは、俺のような侵入者を阻むための設計になってるってことか?
すごいな。
やれないこともない…か。
落ちた時の衝撃を想像し、若干の恐怖が漂う中、登る決心をした俺は、崖の足先に手を伸ばす。
「こういうのは勢いが大事なんだよ」
正直、こういった岩登りはやったことがないから、感覚に頼るしかないけど、岩を見た感じ、妙につかみやすそうな突起があるし、行けそうな気がする。
誰か同じように登ってたんだろうか?
周りに人が来たら面倒だし、遠慮なく使わせてもらおう。
最初は飛んでショートカットしよう。
掴んだ手を離し、少し離れてから、岩に向かって走り出す。そして、飛ぶ、岩を蹴って更に高く。
すると、4メートル程の高さを飛び、岩に生えた突起を力強く掴んだ。
続いて足の着きやすい岩場を探し、そこに乗せる。
今のところ行けそうだけど…
手で掴める突起の大きさが上に行くにつれて小さくなっているように見える。少しでも突起があるなら掴める気はするが、最後になって裏切るのはやめて欲しいな…
次に、掴めそうな突起は、ジャンプでもしない限り届きそうにないな。
というか、今の位置に足があったら絶対に届かないだろ…
「難しい」
一旦足と手の位置を変えるか。
そう考え、手の握る力を増し、落ちないよう全力で指を引っ掛ける。左足を持ち上げ、左手の位置まで持ってくる。右足は動かさずつま先に力が入るかを確認する。左足で岩を蹴り、左腕を全力で伸ばして次の突起を掴む。
「よしっ」
1メートル以上離れていた突起を掴んで登ったここは既に足がぶら下がるくらいの傾斜があり、空中に浮く足を片腕のみで支える。
「結構疲れるな」
あと、3分の2くらいか。
足を使って登れる感じじゃ無さそうだし、腕だけで登るか。
腕の筋力には自信があり、森でクマにあった時、腕力で押し勝ったことがある。
そのため、全体重を支えても疲れることは無いが、心配は突起が続いてるかどうか。
次の突起もまた、数メートルは離れており、何故わざわざ難易度を上げた設定になっているのか少しの不満がよぎるが、仕方ない。
片腕に力を入れ、体を持ち上げる勢いで飛ぶが、届かない。
瞬時に足を掴んでいた岩に乗せて、飛び上がる。
「あっぶねぇ」
蹴った突起が砕け、次の人はもう登れないだろうな。
さぁ残るは半分くらいか。
このまま進もう。
次の突起も同じように腕を使い、時に足を起用しながら残る岩壁はもう一つ突起があれば登りきれそうなギリギリの距離。
「最後は、全力で飛び上がれってことか」
結局、これまでの構造上、意地悪な設計者が仕組みそうなことをしてきた。
今の位置で自分は、地面に対する天井のような岩を掴んでおり、とても届きそうなものでは無いが、これも仕方ない。
試練の最後はより巨大な壁が待っているようだ。
掴んでいた片手を離し、もう片方を支点に、体を揺らす。顔の向きは岩のままで、後ろ向きに跳び上がるイメージだ。なんとなくこれが行ける気がする。
これまでも自分の勘で登ってきたんだ。
これも勘に頼るのが一番良い。
「失敗したら、骨は折れるだろうな」
…
「行くか」
そう言って、揺れた体の最高点に合わせて離した手は宙を舞い、浮いた体は勢いに任せて、跳び上がる。
視界に映る岩肌が消え、空と巨大な城の根元が姿を現す。頭が岩のてっぺんを超えた時、すぐさま地面の先を掴み、動きを抑える。
「着いたぁ」
そうして、なんとか登りきった岩壁の先にはさらに高い城壁が聳え立つ。
登る途中、子供3人くらいに見られたけどしょうがない。
「次は城か」
体力は十分にある。
壁は傾斜が無く直立している。
こっちの方がよっぽどましだ。
城は普通の家と比べるとかなり高く、1階1階が家一つ分くらいの高さがある。
ガラスが多く使われており、中に人がいたら気づかれる可能性が高い。
なるべく中から透けない石の壁を登ろう。
城の形は複雑で、たくさんの家が入り組んでいるように思える様だ。
「変な構造だなぁ。これが城の特徴なのか」
だが、登るのは簡単で、岩とは違い、考える必要が無い。屋根に昇ってしまえば、入り組んだ構造から、手を伸ばせば段を上がれてしまう。
あっという間に頂上付近まで到着した。
「たしか、窓が空いていた気がするんだけど……あった」
目的の侵入口を見つけ、覗いてみると、そこは明かりのない暗い部屋だった。




