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未完成伝記  作者: 一九
再建
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第四話 エステル

「王って...」

「王は王だよ」


そのまんまの意味だとでも言いたいのか...。

でも、


「でもあの村の少女が王は死んだと言ってたぞ」

「そう捉えられても仕方がないな」

「君が王だと言うなら、この国はどうして崩れかけているんだ。王は国民を導く者なんだろ?」


そもそもこんな子供...って言っても俺と同じくらいだろうけど、王になんてなれるのか?

子供の王様に誰がついていく?


「そう...さ。俺が導かなきゃだめなんだ。この国が崩れかけてる原因を作ったのも俺さ」


正面を向いてそう述べた彼の目元には、大きな隈があり、唇はひび割れ、痩せこけた頬、そしてペルシアに見た諦めの瞳とは違う、それ以上の重みがその瞳には写っていた。


「何があったのか教えてくれないか?どうして子供の君が王の地位について、どうして国がここまで崩壊してるのか?君の父親はどうしてるんだ?」

「君、と言われるのは慣れないな」


彼は自嘲混じりに、笑いかけ、目を下に背けた。


「一応、国の機密情報だが、この状況下なら何も変わらないだろう。聞いてくれるか?俺がなんで王の立場になったのか、国の統治など出来もしないこんな俺が」




「......12年前、俺がまだ2歳の時、我が国は兵糧攻めにあっていた。」


「お前が通ってきたというあの植物、

禁忌の草──トキグサと呼ばれる当時から世界中で栽培が禁じられ、存在そのものが封じられていたはずの禁断の草だ」


「トキグサはイネ科の植物で、その成長速度は常軌を逸している。人の管理では追いつかず、数日も経たぬうちに人間の背丈を超え、やがて壁のように国を覆ってしまう」


「何より恐ろしいのは、その葉身だ。荒く、ヤスリのように鋭く、人を裂き、個体によっては毒で死に至らしめることがあると聞く」


「古き時代、この草は戦争に使われていた。街を囲い、物資を遮断し、国を干からびさせる。そのことからこの草は別名「戦草」(せんそう)とも呼ばれている」


「そして今なお、この首都を中心にタルパ村までを半径とする円周をトキグサが覆っている。

だから食料を中心とする貿易の物資が我が国に入ることはなく、必然と、国民は飢饉状態に陥った」


「充実した日々の生活が途端に厳しくなると、人は誰かに頼ろうとする。それが国民全員となると、決まって頼るのは王しかいない」


「当時の王だった我が父は国民期待に応えるためにあらゆる策を弄したが、徒労に終わった。

国内で風の適応者を集い、トキグサを超えて、中央王国アークオリジアに救援要請をしたり、火の適応者を集い、なんとかしてトキグサの燃焼を試みるも、全て失敗に終わった」


「恐らく、救援要請を妨害したものたちがいると考えられるが、隣国のカルミナーク王国だろうと推察している」


「9年の間、父は国の危機を脱しようと尽力したが、結果は変わらなかった」


「そして3年前、俺が11歳の時に父を含め親族全員が急死したんだ」


「確かな原因は分からない。なんで俺だけ生きているのかも...。

だが、その時同時に、急激な気圧変化に襲われたんだ。その影響で人々は飢饉に加える自然災害が重なり、命を落とす者や、病気で倒れ込むものが多くなった」


「父の死後、次の王に選ばれるのは、王族の中で唯一の生き残りである俺に決まっていた。

俺には兄弟がいて、次男だった俺には王になる機会など一生訪れないと悟っていた自分としては動揺して理解が追いつかなかった。」


「それまでのうのうと生きていた自分は、急な環境の変化、立場の変化に適応できず、国民からしたらこれ以上ない不安要素だったろうな」


自分だけ生きている事実、突如として王の立場に座らされた理不尽、国民からの不安の眼差し。当時11歳という若さで背負うには重すぎる重責。

しかし彼の顔には、不甲斐ない自分への怒りと失望で小さくも深いため息と共に嘲笑の笑みを浮かべていた。


「それから3年間、今の今まで、努力したさ。

自分なりにも、考えたことの無い政治についてを学び、民の不安を取り除く方法考え、国の負担を取り除くすべを模索した。

色々試したさ!

自然災害で苦しんでいる人達の元を訪れ、看病の手伝いをしようとも、「あなたには他にやるべきことがあるんじゃないですかと」拒絶され、父を真似て、風や火の適応者を雇用して策を弄するも、「なんであの王は失敗に終わったはずの策を何度も試すのか!頭が悪いんじゃないか」と一蹴される毎日。

街を歩くと、国民の目は、期待などとうに無くした失望の感情を乗せて向けてくる。

しまいには、トキグサをお前のようにかき分けて自分で交通の道を解放してやろうと思い。騎士の剣を借りて、あの忌々しい植物を取り除こうとした。

でも無理だった。

俺にはあの草を切り倒すほどの技術も力もない。

あのヤスリのように人肌など軽く引き裂く葉身の痛みに耐えることすら出来なかった。

でも...それでも頑張ったんだよ!自分なりに...」


自分のやってきたことへの不安、正しさとはなにか、何が自分に出来るのかと自問自答する若き王。彼の瞳には自然と涙がこぼれていた。


「...頑張ったんだよ」


弱々しく呟く彼の言葉から俺は

言ってあげたくなった。


「わかるよ」

「わかる?なんで?わかるわけないだろ?俺の気持ちが。俺のことを何も知らないお前が、今初めてあっただけのお前が、ましてや、この国の住民でもないお前に、この国の、この俺の気持ちの何がわかる?!」


荒らげる声。彼の心の奥底に積もった感情を一気に解放するかのように、精一杯の声で思いを述べる。


「ごめん。たしかにわからないよ。君の置かれた立場と一人で背負うには重すぎるその責任。俺には想像もできないほどの与えられた重責の数々。でも、君の心の叫びを聞くとわかってあげたくなっちゃうんだ。少しでも、君の重みを取り除いてあげたいと思えるほどに、君が頑張ったんだと、理解できる」


「お前は...はぁ」


また言い返されると思ったが、大きなため息をついて返答となった。


「お前、名をなんという」

「え?」

「名前が知りたいのだ。早く申せ」

「アイデル」

「そうか、アイデル。お前の言葉、少しだが、支えとなった。礼を言う。ありがとう」

「なら良かったよ王様。じゃあ、あなたの名前はなんて言うんですか?」

「エステル。ブライトーチ・エステルだ。アイデル、お前にエステルと呼ぶことを許そう」

「いいの?一国の王を呼び捨てにしても」

「許す」


そう言うと、今まで見せなかった優しい笑顔を浮かべて、エステルは照れくさそうに顔を背けた。


「ところで、エステル。さっきから言ってた風の適応者や火の適応者ってなんの事だ」


自然を司る化身がいることは知っているが、

適応者っていうのはどういうことだ。


「そんなことも知らずにどうやって生きてきたんだ?いいだろう。説明してやる。適応者とは、世にいる4体の自然災害、人によっては自然の化身と呼ぶ者もいるが、火、水、風、重力の4つの自然に適応し、その自然の力の断片を扱ったり、災害の影響を受け流すことの出来る者たちを言う。基本的には生まれながらの体質と言われているが、詳しくは俺も分からない。もっとも、火や水の適応者が多く風は少ない、重力など、中央王国の戦士長くらいのものだろう」


「じゃあ、エステルはなんの適応者なんだ?」

「気圧変化を起こすことが出来るのは、恐らく風の災害。その影響を受けない俺の体質は、きっと適応者だったからにすぎないだろう」


エステルは一瞬、ほんの僅かに悲しそうな表情を見せた。


適応者、たしかにこの世界を生きる上では知らないと困る情報だ。

でもじゃあなぜ、博士は俺にそれを教えなかった。

武術やあらゆる学問を教えたにも関わらず、この重大な情報だけ教えないなんてことがありうるのか?

俺の育った周りには適応者などいなかった。

俺から適応者を離していたのか?意図的に。

ならその理由はなんだ。

そもそも俺の生まれた理由って...

しばらく考え込んでいると


「アイデル?どうかしたのか?」

「いや、なんでもない」


そう笑ってみせると、エステルも安心して笑顔を返す。


「あ、アイデル、俺からもお前に聞きたいことがあったんだ」


何かを思い出したかのようにして真剣な面持ちで顔を向けたエステル。


「な、何?」


思わず身構えてしまった。


「トキグサをかき分けてこの国に入ってきたと言ったな?」


そうだが...なんだ。


「うん...」

「そのかき分けて入ってきた場所は、まだ鮮明に覚えているのか?」


先程の真剣な表情からは予想しなかったことを聞かれ、呆気にとられながらもこう答える。


「もちろん」


すると、なにか閃いたかのような笑顔を向けて

「そうか!良かった。もしかしたらここから打開策が生み出せるかもしれない」

「打開策?」

「そうさ。トキグサを植え、我が国に混乱と恐怖、飢饉の全ての原因となった隣国、カルミナークに報復することが出来るかもしれない」

「待ってよ、そもそも、その隣国カルミナーク?が原因って決めつけても大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。これは推測の域を出ないが、確信に近い。それにあの国の王はかなりの暴君と聞いている。お前もタルパ村でペルシアちゃんと話したのなら聞いているだろう?子供、老人を残して、他の人たちはみな連れ去られたと」


確かに聞いたが、それがカルミナーク王国の仕業とは聞いてないぞ。


「でもそれって…」

「いや、確実にあの国の仕業だ。我が国の隣国でそのような戦争を引き起こしかねない暴力的な行動をとるのはカルミナークしかない。」

「そうなのか。っで、なんで俺が入ってきた場所が重要なんだ?」

「それは単純な理由さ。だってアイデル、お前が死なずにこの国まで来れたってことは、恐らくそのかき分けた道っていうのはトキグサの特性である毒が含まれてない場所ってことだ」

「ああ...」

「我が国にはトキグサの硬い茎を剣を使って切ることが出来るくらいの戦士はいる。だがそやつらを使ってトキグサを切り分けて進まなかったのは、どの個体が毒を持っているのか分からなかったからだ」

「そういう事か。でも、俺一人が通れる程度の幅しか分からないから、進めても、1人づつが限界だぞ」

「まぁそうだろうな。だが、これは今までに比べたら大きな一歩なんだ。どんな細い一筋の光でも、これまで見えなかったこの機会を逃したくない」

「ならすぐに行くか?軍の配備とか、なにか準備が必要なのか?」

「そこが少し問題なんだ...俺の要請で動いてくれる兵士がどれだけいるか…戦士長のオルツナードくらいな気がするが...」

なんだか不安そうに独り言を言っている。


すると、俺が入ってきた窓側からコンコンとこちらを呼ぶかのような音がした。

アイデルとエステルは同時に音のした方に目をやると


「オ、オルツナード!」


「何をまたこそこそとやっておられるのですか、エステル王。それと、そこの少年は、先程礼を言いそびれたルトマギラと応戦してくれて民を守った君じゃないか。こんなところで何をしているんだい?」


アイデルはエステルと顔を合わせ、どうすればいいのかと目で合図するも、エステルは無理だ。と言わんばかりの諦めた表情でこちらを見た。


「オルツナード、アイデルは...この子は...」

「おい、エステル、何とか説明してくれよ。じゃないと俺は...」


俺がエステルのことを呼び捨てにした途端、このオルツナードという騎士の表情はこわばり、厳しい視線で俺を見る。


「エステル王、詳しく、正確にお答えください。この少年はなんなのですか?」

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