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未完成伝記  作者: 一九
3/3

詮無き王

村を出て、ひたすらに目の前に見える城へと向かうアイデル。

謎の植物を抜けた昨日とは違い、目に見える目標に向かうだけでいいという安心が、進む足を軽くした。

村から城まで続いていると思われる道が、村を出てすぐの場所に設備されている。

周りには雑草や木が不並びに生えていて、整備が行き届いていないことが見て取れるが、数年前までは栄えていたという話も本当に思えるような証拠もいくつか見ることが出来た。

まず道の素材が、この前通った道と似ていることだ。

少し湿っているが、歩きずらさは感じない。

幅も広く、所々に電灯まで着いている。

今は日が出ているからか、灯りはついていないが、夜になったらつくのだろう。


そうして、歩き始めたアイデルは、辺りを見ても同じような風景が続いたことに安心しながらのんびりと道を進むことができた。

もう村が小さくなり、城の大きさが鮮明に把握出来る範囲まで来たこの時、何も無い状況に変化が見えた。

城が佇む街の周辺は壁で覆われており、その外側であるここ一帯には花が綺麗に咲いている。

逆に言うと、花以外は何も無い野原という情景だが、道を外れて少しある辺りで、人がいるのを見かけた。

また新たな人間に出会えた一瞬の喜びと共に、そこに現れた未知なるものに対する好奇心でいっぱいになった。

走れば数十秒でその場に着く位置にいたのは、2人の男性と、1匹の犬…のように見えるが、今にも若い大人と見られる男2人に襲いかかろうとしている。

牙をむき出しにし、足が人間並に太く、体長も大型犬を一回り上回っているように感じる。

「あれって、魔物ってやつか」

昔読んだ本に乗っていた動物と見た目が似ている。

黒色で、牙が鋭く、脚力を活かした狩りで、他の動物を食い殺すという、肉食動物の中でもとりわけ厄介な生物として人間が嫌っているらしい。

魔物というのは、この世にいる4体いるという自然が具現化?した存在から生じた生命として、基本的に生物なら見境なく襲うため、魔物と呼ばれているらしい。この魔物の魔は悪魔のような残虐性を持つ存在としてつけられたって話を聞いたことがある。

自然の具現化と言われても全く想像がつかないが、なんでもそいつらは人間に近い姿で存在し、4種それぞれが違った特性の自然現象を操るという超越的存在なんだそうだ。

このまま旅を続ければ、いずれ見ることが出来るかもな。

でも、そんな奴らがこの世に4体も存在するなんて恐ろしいな。

もし、敵対でもされたら、誰がどう対処するんだ?

いや、むしろ、自然の中で生命は生まれるんだから戦うことすら不味いんじゃないか?

まず、自然と戦うってなんなんだ?


というか、あの犬みたいなのが魔物なら、そこの2人はかなり危ないんじゃないか。

大丈夫かな?

あんまり、危険に近寄りたくはないんだけどなぁ…

「2人とも変に動かないでくれよ」

頭を切り替えて、走ることだけに意識を向けた彼の速さは、魔物が飛び跳ね、片方の男目掛けて口を開こうとした瞬間に間に合うことが出来た。

「危なかったぁ」

所有の武器がないから、道の傍らに生えていた木から枝の太い部分を折り離して、それを片手に魔物の顔を振り抜いた。

全力で振った木の枝は薄く裂け目が見えており、あと1、2回でダメになってしまいそうだ。

やっぱ、分かれ目を根元から取るべきだったか…

「大丈夫?」

「あ、ああ、ありがとう」

「君、どっから…」

「ちょうどそこら辺を歩いててね」

「君すごいな、ルトマギラを倒すなんて」

「ルトマギラ?あれの名前ですか?」

「知らないのかい?この辺りでかなり頻繁に現れるようになった魔物だよ。危険だからみんな壁の中からは出ないようにしてるんだけど…まさか自分が襲われるなんて思わなかった。本当に助かった、ありがとう」

「もう少しで死ぬとこだった、ありがとうな少年」

「いいけど、まだ死んでないよ。あの犬」

『えっ?』

「ほら、立った」

「君、倒せそう?」

「もう瀕死だから、大丈夫だよ」

「そ、そうか、悪いね、僕達は全然戦えないから」

「た、頼む」

瀕死と言っても、顔はなかなか元気そうだな。

近くで見るとこの魔物の姿がよくわかる。

目が青く、耳は犬と比べたら大きい方だと思う。

硬そうな尻尾も付いていて、筋肉質な体つきには似合わない細くてしなやかさがある。

さっき叩いた所からは血が出ていて、肉も裂けてるのにまだ諦めないんだな。

やっぱ、首の骨を折った方がいいのか…結構硬そうだなぁ。

この人達は使えなそうだし、今度は胴でも狙ってみるか。

考えがまとまると、すぐさま敵に近寄り、回復の暇を与えないようにと振り上げた木の枝は、魔物の体に当たる前に噛み砕かれてしまった。

危険を悟ったのか、体を捻り、俊敏な動きでかわして見せたルトマギラという魔物。

ひょっとして、思ってる以上に強いのかも…

武器がないと厳しくないか?

やっぱ、この2人を囮にして逃げるか…

「大丈夫か!」

誰かが来る音がする。

力強い声が聞こえた方向を見てみると、そこには甲冑を被り、鎧を纏った1人の兵士が、馬に乗って向かってきた。

体格はそこまで大きくないが、傷の付いた鎧を見る限り、経験を積んできた戦士なのだろうか。

まずこの人は誰なんだ。わざわざここに来たからには味方なんだろうが、この人はこの魔物を倒せるのか?

状況を察して来たなら勝機があると信じるが…負けた時に逃げる準備でもしとくか。

「君たち、怪我はないか」

「ええ、大丈夫です。この子が守ってくれましたから」

「ほう、この少年が?小さいなりして頼もしいな」

「…」

近くで見たら、かなり強そうだな。

この人なら負けることは無いだろう。

でも、勝ったあとどうする。

きっとこの人はこの国の衛兵だろ。

不法入国者ってばれたら、許してくれるだろうか?

いや、捕まったらもう遅いかもしれない…

なら隙を見て逃げた方が良さそうか…

「下がっていなさい。すぐに終わらせる」

すぐだって?

嘘だろ?

やばい、逃げよう。

この兵士の言葉を聞いた直後、アイデルは逃げることだけに全力で、かつてない程のスピードを出して姿を消した。

その間一振で、凶暴なるルトマギラの首を落とし、2人の市民を守った屈強な兵士は、勇敢な少年を讃えようと、辺りを見渡していた。

「ん?少年はどこだ」

「ほんとだ。どこに行ったんでしょう?」

「さっきまでここにいたはずですよね?」

「消えた…」


「はぁはぁはぁ、ここまで来れば大丈夫か」

咄嗟に国の中に入っちゃったけど、ばれたらまずいよな。

絶対あんな武装した兵士に勝てないだろ。

あの魔物もほんとに瞬殺だったしな…怖い。

というか、国の門を通る時に警備兵がいなかったけど、大丈夫なのか?

それとも警備兵すら配置できない状態なのか…

廃れる国と、見放してしまっているのか。

まぁ今はとりあえず、身をできるだけ隠して食べ物でも探そうかな。


「思ったより中は普通なんだな」

街の中に入り、店が多く展開している道に来た。

そこには多くの人がいて、親子や年寄り、僕と同い年くらいの人もいた。

初めて見る人間の量に圧倒されていたが、笑顔を振りまく親子の2人を見かけた時にそれは和らいだ。

平和、そう呼ぶにふさわしい光景がそこにはあった。

決して、終わりを迎える国の姿とは思えない。

「いい国じゃないか」

そう声に出して発した一言に、道中の人間が全員こちらを振り向き、ある1人の八百屋をやってる中年くらいの男が寄ってきて

「っえ?」

殴られた。

なんで…

こんなに平穏な情景の中にいる人がする行動とは思えないその衝撃に、未だ状況を理解出来ずにいる。

「小僧、二度とそんな口開くんじゃねぇぞ」

それだけ言って、男は元の位置に戻って行った。

どういうこと?

これは国が終わることとなにか関係があるのか?

わからない。

この視線が怖い、わからない。

どうしよう、俺はここにいてはいけない気がする。

逃げよう。


「はぁはぁ、また走った。一体なんだったんだあの顔は。みんなしてこっちを怖い目で見て…さっきまでの笑顔は嘘だったのか?俺を排除するための罠だったのか?」

怖い。

ただそれだけが頭を回る。

人の怒りや憎悪が覆ったあの顔は、アイデルにとって初めての経験であった。

自分に向けられた邪魔者という名の武器で大勢の人から貫かれた気分で、心中穏やかではない。

ひとまず、落ち着こう。

まだ、よく分からないことだらけだ。

1人になりたい…どこかいい所…

「あそこって…」

国の真ん中にそびえ立つ巨大な城。

少し高いところに建設されているのか、国のどこにいても見えそうだ。

あそこなら国の全体を見渡せる。

人が居ないかは知らないけど、ここよりはマシだろ。

「行ってみるか」

今までの恐怖心は今や、城への侵入に対する好奇心へと完全に切り替わっていた。


近くに建っていた家の屋根に登って、家から家へと飛び進み、あっという間に城のある付近までたどり着いた。

近くで見るとさらに大きく、城は巨大な岩の上に建設されていて、てっぺんまで登るなら、なかなかに骨が折れそうだ。

「登ってみるか?」

森で培った身体能力を信じ、頂上までの道のりを予測する。

どうやらこの城には扉の代わりに門があるようで、門までの道は岩を削ってできた長い階段を使う必要があった。

階段付近にはしっかりと警備兵がいるようで、国の中枢くらいは守ろうしている姿に安心を得た。

いくら王のいない城だからといって、それを無下にされたら悲しいものがある。

まぁ、今まさにその城へ侵入を試みようとしている身としては、いい迷惑だが。

これでは城に触ることも出来ないじゃないか。

そう、階段を避けて進むには、目の前に聳え立つ城の土台をしている十数メートルの崖を登らなければならない。

少し傾斜があり、逆三角形が地面に差し込まれたような形をしているため、非常に登りづらい。

これは、俺のような侵入者を阻むための設計になってるってことか?

すごいな。

やれないこともない…か。

落ちた時の衝撃を想像し、若干の恐怖が漂う中、登る決心をした俺は、崖の足先に手を伸ばす。

「こういうのは勢いが大事なんだよ」

正直、こういった岩登りはやったことがないから、感覚に頼るしかないけど、岩を見た感じ、妙につかみやすそうな突起があるし、行けそうな気がする。

誰か同じように登ってたんだろうか?

周りに人が来たら面倒だし、遠慮なく使わせてもらおう。

最初は飛んでショートカットしよう。

掴んだ手を離し、少し離れてから、岩に向かって走り出す。そして、飛ぶ、岩を蹴って更に高く。

すると、4メートル程の高さを飛び、岩に生えた突起を力強く掴んだ。

続いて足の着きやすい岩場を探し、そこに乗せる。

今のところ行けそうだけど…

手で掴める突起の大きさが上に行くにつれて小さくなっているように見える。少しでも突起があるなら掴める気はするが、最後になって裏切るのはやめて欲しいな…

次に、掴めそうな突起は、ジャンプでもしない限り届きそうにないな。

というか、今の位置に足があったら絶対に届かないだろ…

「難しい」

一旦足と手の位置を変えるか。

そう考え、手の握る力を増し、落ちないよう全力で指を引っ掛ける。左足を持ち上げ、左手の位置まで持ってくる。右足は動かさずつま先に力が入るかを確認する。左足で岩を蹴り、左腕を全力で伸ばして次の突起を掴む。

「よしっ」

1メートル以上離れていた突起を掴んで登ったここは既に足がぶら下がるくらいの傾斜があり、空中に浮く足を片腕のみで支える。

「結構疲れるな」

あと、3分の2くらいか。

足を使って登れる感じじゃ無さそうだし、腕だけで登るか。

腕の筋力には自信があり、森でクマにあった時、腕力で押し勝ったことがある。

そのため、全体重を支えても疲れることは無いが、心配は突起が続いてるかどうか。

次の突起もまた、数メートルは離れており、何故わざわざ難易度を上げた設定になっているのか少しの不満がよぎるが、仕方ない。

片腕に力を入れ、体を持ち上げる勢いで飛ぶが、届かない。

瞬時に足を掴んでいた岩に乗せて、飛び上がる。

「あっぶねぇ」

蹴った突起が砕け、次の人はもう登れないだろうな。

さぁ残るは半分くらいか。

このまま進もう。

次の突起も同じように腕を使い、時に足を起用しながら残る岩壁はもう一つ突起があれば登りきれそうなギリギリの距離。

「最後は、全力で飛び上がれってことか」

結局、これまでの構造上、意地悪な設計者が仕組みそうなことをしてきた。

今の位置で自分は、地面に対する天井のような岩を掴んでおり、とても届きそうなものでは無いが、これも仕方ない。

試練の最後はより巨大な壁が待っているようだ。

掴んでいた片手を離し、もう片方を支点に、体を揺らす。顔の向きは岩のままで、後ろ向きに跳び上がるイメージだ。なんとなくこれが行ける気がする。

これまでも自分の勘で登ってきたんだ。

これも勘に頼るのが一番良い。

「失敗したら、骨は折れるだろうな」

「行くか」

そう言って、揺れた体の最高点に合わせて離した手は宙を舞い、浮いた体は勢いに任せて、跳び上がる。

視界に映る岩肌が消え、空と巨大な城の足が姿を現す。上半身が岩のてっぺんを超えた時、すぐさま地面の先を掴み、動きを抑える。

「着いたぁ」

そうして、なんとか登りきった岩壁の先にはさらに高い城の壁。

登る途中、子供3人くらいに見られたけどしょうがない。

「次は城か」

体力は十分にある。

壁は傾斜が無く直立している。

こっちの方がよっぽどましだ。

城は普通の家と比べるとかなり高く、1階1階が家一つ分くらいの高さがある。

ガラスが多く使われており、中に人がいたら気づかれる可能性が高い。

なるべく中から透けない石の壁を登ろう。

城の形は複雑で、たくさんの家が入り組んでいるように思える様だ。

「変な構造だなぁ。これが城の特徴なのか」

だが、登るのは簡単で、岩とは違い、考える必要が無い。屋根に昇ってしまえば、入り組んだ構造から、手を伸ばせば段を上がれてしまう。

─あっという間に頂上付近まで到着した。

「たしか、窓が空いていた気がするんだけど…あった」

目的の侵入口を見つけ、覗いてみると、そこは明かりのない暗い部屋だった。

「やっぱ、ただの屋根裏部屋か。誰かいるかなぁ」

部屋には物が沢山置いてあり、埃臭い。

人がいる雰囲気はなく、静かに進む。

地面を踏むと、古びた木の音がする。

「誰か、いるのか?」

「やば」

かすれた声に呼びかけられ、思わず声が出た。

人がいるなど思いもせず、老いた板材の悲鳴を大胆に響かせながらずいずいと侵入していた自分を反省する。

おそらく人数は1人、臆することは無い。

とりあえず返事でもしてみるか。

「人がいるなんて知らなかったんだ。邪魔だったらすぐに出てくよ」

「知らなかったって…俺がここにいるっていうのは皆知っているはずだが…まず、どこから入ったのだお前。扉は重りで塞いでいたはずだ」

登ってきたって言ったら怒るかなぁ…

「じょ、城壁を掃除していたもので…」

ダメかな?

「ん?そ、そうか、そうだったか。すまない、ご苦労である」

いけた。

「なら、ここはもう十分だ。下がって良い」

「は、はい」

下がれと言われてしまったので、下がろうかとも思ったが、妙にこの声の主の姿が気になり、ちょっとだけ覗いてみることにした。

「はぁ…どうすりゃいんだよ…」

なんか悩んでるみたい。

「…いや、敵国の対処は後だ。まずは自国を守るのが俺の役目だろ?」

この人も国の兵士なのか?

まだ自分には気づいてないみたいだ、普通なら気づかれそうな位置にいるんだけどな…

なかなか自分に気づかないこの男に興が湧いてしまったアイデルは、距離にして1メートルとない程の彼の背後に立つ。

これでも気づかないんだ…

よっぽど集中して何かを考えてるのかな。

「父さん…僕なんかにできるでしょうか…バカで未熟なこんな自分に…」

父さん?父親に何か言ってる。

「…仲間が…いたら…」

さっきから途切れ途切れで、話の内容が全然分からないけど、何か悩んでるのは伝わってくる。

仲間ってなんだ?

友人の事か?

友達が居なくて悩んでるのか?

僕も友達といえる人はいないけど、ここまで悩んだ覚えはないな。

人によっては深刻な問題なのかもしれない。

せっかくだし、友達を作ってみようかなぁ…

この先の人間関係を構築する練習にもなるし、今のうちに1人くらいは友達を作っておいた方がいいよな。

「ねぇ、ここで何をしてるの?」

「…」

…あれ、反応がない。

無視されてるのか?

「おーい、ここで何してるの?」

「…」

嘘だろ…ほぼ真後ろに立って話してるのに反応されないことなんてあるのか?

聞こえてないとかは有り得るのかな…

背中に触れてみるか。

「ねぇ、聞こえてる?」

「…」

だんだん腹が立ってきた。

ここまでして反応しないのは流石におかしいだろ。

ただの清掃員とは話すことなんてないってことなのか?

この人がそんなに偉い人物なのか、ただの意地の悪い性格な人なのか、もうどっちだって構わないが、このまま無視され続けるのも癪だし、1回頬でもつねろうか…

「おーい、聞こえてますかー」

そう言って彼の頬を若干強めにつねってみた。

そうするとようやく

「いってっ…なんだよ?」

「お、やっと反応した」

「うわっ、な、なんだ?!…って、さっきの清掃員か、なんでまだここに…」

「さっきから話しかけてるのに、全然応えてくれないからさぁ」

「え、気づかなかった。すまぬ」

本当かなぁ、あの距離で気づかないことなんてあるとは思えないんだけどなぁ。

「なんでそんなに悩んでたの?」

「そんなわかりきった質問をするな、意地の悪い」

さっきこの人に思った感想と同じ言葉を自分に向けられてしまった…

分かりきった質問と言われても、何も分からないから質問しているのに。

大体、この人は何の人なんだ?

自分と同じくらいの年齢に見えるけど、なんでこんなに偉そうなんだ?

貴族の生き残りとかなのか?

「ごめん、わからないんだけど…」

「お前、この国の住民ならば誰でも知っているこのことをわからないとは嘘吐きめ。俺を苦しめたいだけならもう成しただろう、この場から消えてくれ」

「いや、別にそんなつもりはないんだけど…」

「消えろと言ったのが聞こえなかったか?それ以上話すと貴様の命は無いと思え」

えぇ、なんでこうなった。

何がそんなに怒らせた?

悩む理由がこの国と関わりがあるのなら、この国の抱えてる問題っていうのはなんだ?

既に崩壊の一途を辿っているこの国が抱えている問題なんて、国の終端と比べれば微々たるものじゃないか。

それとも、この人はまだ諦めていないのか?

王の居なくなったこの国をまだ救えるとでも思ってるのか?

たかが1人の行動で変えれるほど軽いものではないんだろ?国というものは。

「君、この国のなんなのさ。悪いけど、僕はこの国の人間じゃないからわからない。だから君がどんな人間で、どんなことに悩んでるのか知らないけど、どうしてそんなに苦しそうな顔をしているんだい?」

「…お前、この国の人間じゃないのか…なら尚更、なぜここにいるのだ。不法入国は大罪だぞ。まさか、他国からの刺客というやつか?俺の首でも狙いに来たか」

「不法入国はわかってるよ。やっぱり大罪なのか…ごめん。でも刺客っていうのは違う。僕はただ、この国を知りたかっただけなんだ。王のいないこの国を」

「王のいない?…それはどこで聞いた話だ」

「この街からちょっと離れた村で聞いたよ」

ペルシアのことは忘れない。

初めて会った僕に優しさを教えてくれた少女。

あの村で攫われた村民は自分の成せる範囲では助けたい。

「タルパ村か…あの村の住民は…そうか。確かに、王と呼べる奴はこの国にはいないのだろうな…」

王は死んだんでしょ?

なら、王と呼べる人なんているわけないだろ。

「病気による災害で国の重鎮はみんな死んだって聞いたけど、それほどの病気がこの国では流行ってるの?」

「本当に何も知らないのだな。こんな時期にこんな国に来て…お前、どうやってあの草を超えたんだ?」

「え?普通に掻き分けて進んだけど」

「あれを掻き分けただと?!そんな者がこの世にいるとは…命知らずにも程があるな」

「確かに痛かったけど、死ぬ程ではなかったよ?」

「刺傷性はもちろんだが、あれの危険性はそこだけじゃない。物によっては、毒が含まれていることにある。それに当たっていたらお前の命は無かっただろうな」

「…怖い」

「バカな奴め、何でもかんでも無鉄砲に生きておると後悔するぞ…俺のようにな」

「なにかあったの?」

「…この国への危害を加えそうなやつでもないし、応えてもいい。さっきお前は言ったな、俺はこの国の何かと、俺は…この国の王だ」

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