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未完成伝記  作者: 一九
2/3

優しさ

2話


道を進み、しばらくした昼頃、1日も経たずして、早くもその時が来てしまった。

「道が、無い」

どこまで続いているのかと、わくわくしていたアイデル。ただひたすらに進めば、そのうち隣国へたどり着けると信じて疑わなかったその心は、今をもって打ち砕かれた。

「どうしよう。この道だけを頼りに、ここまで進んできたのに、まだ新しい人間にすら会ってないよ。このままじゃ、王様に会うなんて夢のような話なんじゃないか?」

整備された道はこの場所を境に、無くなってしまったのだ。

目の前には、木と見紛うほど巨大な枝葉を持つ植物が綺麗に生い茂っているだけ。

まるで境界線かのようにぴたりと変わったその風景には、不思議と惹き付けられる何かを感じてしまう。

「この先…何があんだろう」

自然的とは思えない生え揃った枝葉からは誰かの意図を感じてやまないが、止まらぬ好奇心が行く手を阻む壁を掻き分ける。

「いてっ」

素手で容易に退かせるその葉身は、よく見ると荒いやすりのような性質を持ち、通る者はただではすまない仕組みになっている。

木の枝のように硬い茎、長く細い葉が周りを覆っている。

それでも進む足を止めない彼の手には、擦り傷が生じ、血が滲みはじめていた。

数メートル進んだくらいでは、先が見えそうもない。

何かがあるという保証もなしに、ただひたすらに前へと進んでいく。


最初の地点からどのくらい経ったのか、どれだけ進んだのか、感覚的には数時間ほど経ち、状況を把握するのが難しくなってきた。

辺りも暗くなり、周りの視界も遮られて、休憩でも挟もうと考えていたその時、小さくか細いが、誰かの声が聞こえた気がした。

「人の声?誰かいるのか」

森を抜けてから、ひたすらに人を探し続けてきたが、ようやく新たな人間に出会うことが出来るのか。

月が出始め、1日も終盤に差し掛かり、残る体力も少ない状況を我慢し、声の元まで、突き進む。

「開いた」

息が上がり、手には数え切れない傷と血の跡があり、満身創痍のような様態になってしまったが、とうとう長い林を抜けることが出来た。

そして

「君は…」

声の主であろう人物が目の前にいた。

急に現れた自分に驚いているようだったが、その顔はすぐに静寂へと戻ってしまった。

体は小さく、少し伸びた髪が散り散りと乱れた少女。手や服にはまだ新しい血や傷がうっすらとついている。

食事を取っているのかと疑問に思える体つきをしていて、とても健康的な状態とは思えない。

子供は弱くて無知なため、親が見守っているものだと思っていたが、この子の近くには親どころか、他の人間すら見当たらない。

少し離れたところに家と思われる建物が立ち並んでおり、村があるのだろうか。

「君はここで何をしているんだい」

「なにも」

疲れきった表情でそう応え、ただじっと目の前の巨大な植物を屈みながら眺めている。

一日中休むことなく、動き続けた自分だが、この子からはそれとは計り合えない、深く根強い疲弊感を感じた。

目に映る植物すらも、ただの鏡のように、無機質なものとして写る。

見た目から察するに、齢6歳くらいと思われるこの少女は、既にその人生を諦めている。

そう思わせるだけの全てがここにはあった。

だが、現状を知るためには、追求をしなければいけない。

「ここがどこだかわかるかい?」

あまり期待はしていないけど、それでも聞けるだけ聞いておきたい。

「他の人はどこにいるの?」

「…」

これも、答えそうに無いか。

このまま時間を潰すのも別にいいけど、こっちの体力も厳しいので、できる限り反応して欲しい。

「じゃあ、この国について教えてくれない?」

こんな幼い子供に聞いても意味が無さそうだけど、とりあえず聞いてみることにした。

「だめかぁ」

「終わった国だよ」

「え」

思いもよらない発言に疲れた気持ちが一気に抜けていった。

終わった国。つまり、廃国ってことか?

じゃあ、なんでそんなところに子供がいるのか疑問になるが、まずは事実確認をしよう。

「終わったって、どういうこと?」

「そのままの意味。もう終わったんだよ、この国は」

終わったというのは国として機能していないという意味なのか?

答えてくれたようで、あまり分からない、つまり

「王様が…いなかったりする?」

今度は口には出さず、少しの沈黙の後、弱々しい顔を動かして小さく頷いた。

王様のいない国。

この世界にある国々は、必ず1人は王様と呼べる者がいるとされているらしいから、それは国と呼べるのかは分からない。

ただ、統治するものが居ないとなると、確かに、崩壊の一途を辿りそうだ。

生物はみんな平和を求める。

危険を避け、安心したい。

全ての生物がそこまでの感情を持っているとは限らないが、人間はとりわけそれが強い生き物だと教わった。

だとしたら、きっとこの国の人達は全員、絶望の渦中にいるんだろうな。

ましてやこの子は学童期くらいだろうから、知識を身につけ、後の社会へ適応していくための過程を辿り始めるような時期だろ。

そんな子の絶望しきった目は、見ていて恐ろしい気持ちを掻き立てる。

でも、僕にできることはきっと何も無い。

繁栄が見えない小さな国を探してはいたけど、これは度が過ぎている。

初めから崩れていては意味がない。

また別を探そう。

あ、ついでにこれも聞いておこう。

「君は、死ぬ気だったの?」

「…」

「この植物からは誰かの意図を感じる。きっと、この国を陥れようとしている者がどこかで計画しているんじゃないかな。

君がここにいる理由って、この植物を越えようとしていたからじゃないの?」

体力や忍耐には自信がある僕ですら、この植物を超えるのに相当な苦労を要した。この子にはとても厳しいものだろう。

計画と言いながら、頭の中であの3人組が過ぎったが、今やあまり関係の無いことだ。

この国は終わる。

なら、少しだけ見ていこうか。国の中心に行けば、なにか見えるかもしれない。

国の崩壊は、そうある事じゃないだろう。

これも経験だ。

「あなたは…この壁を抜けて入ってきたんですよね

…外の世界は…どうなってたんですか?」

困った質問。

僕も外の世界など一日分しか知らないのに、どう答えればいいんだ。まぁ、正直に

「えっと、僕もあまり知らないんだ。この辺に来たのは最近だから」

最近という言葉すら遅い気がするが、とりあえずはこれでいい。

「そう…なんですか。じゃあ、私はこの外の世界を何も知らずに一生が終わるのかな…ははっ」

少しだけ罪悪感を感じさせられる言動だが、仕方ないだろう?

僕も知らないんだから。

話を変えよう。

「ねえ君、あっちに見える村は君の里かい?」

「村? あーあ、あの廃村ですか。はい、そうですよ」

なんでそんなネガティブな発言をするんだろうか。

僕が知らないって言ったから、開き直ったのか?

でもまぁ、返答がしっかりしてきて、こっちの方が話しやすいけど。

「あそこを案内してくれないかな?」

「やることもないですし、別にいいよ。ついてきて」

急に、口調が変わったな。

まぁいいや、とりあえずついて行くか。

ゆっくりと歩き始めた彼女の後ろを、何も言わずについて行く。

口調は変わっても、やはり弱々しい歩調だが、しっかり案内はしてくれそうだ。


歩き始めて10分もしないくらいで、村には着いた。

「思ったより大きい村だなぁ」

「そうですか?これでも、小さくなった方なんですよ」

家を撤去でもしたのか?

遠くからの認識では、建物が5軒ほどの小さな村のように見えたけど、目に見える範囲で10軒は優に超えている縦長の村だ。

「この国も昔は栄えていたのかなぁ」

村が栄えているということは、国全体も同じということだろう。

そんな国でも廃れてしまう理由って一体なんだろう。

「そうらしいですよ。昔と言っても、ここ数10年くらいの間にこうなってしまったそうなんですが、私はまだ、6歳なので、この国の前の姿なんて全然知らないですけどね」

やっぱり、6歳だった。

確かに、10年と言うと長いように聞こえるが、国からすると短い期間なのかもしれない。

そんな短期間で、今まで国として築き上げてきた骨組みが崩れるものなのか。

「ちなみに、何があったのかは知ってる?」

産まれる前のことなんて、6歳の子に聞くことでは無いと思うが、変にしっかりとした6歳だから、聞いてみることにした。

「王族の人達が病死したと聞きました」

知ってんのか。

病死か、辛い死に方だ。

王族ということは、何人も同じ死に方なのか?

伝染病の一種か?

国のトップを救う医者が適当なはずがない。

治しようがない不治の病と言うやつか。

どれだけ、優れた人間であろうと、病には勝てないのか。

「それで、国民は無事だったのかい?」

「王族以外も大勢死にました。私の父も同様に…」

父親を無くしてるのか。

10年前までは栄えていたんだったら、その翌年とかそんくらいの時に、無くしたってことか?

「父親には会った事があるの?」

「え、ああ、ありますよ。父が無くなったのは3年前ですし、王族の人達も皆、同じ時期に急な病にかかってます」

3年前って、結構最近じゃないか。

そんなに感染力が強くて強力な病気なのか。

もしくは、風土病の可能性もあるか。

あんまり長居するべきじゃないかもしれない。

自分もそれにかかったら、同じ道をたどってしまう。

「君は平気なの?」

「私は大丈夫ですよ。体が細いのは、食事があまり取れていないので、栄養失調になってしまってるだけだと思います。あと、私の名前はペルシアです。君って言われるが嫌になってきたので、名前で呼んでください」

「ああ、ごめん」

ここまで案内させておいて、自己紹介くらいはするべきだったか。

「僕はアイデル。よろしくなペルシア」

「よろしくお願いしますアイデルさん。別に怒ったわけじゃないですよ。最初は知らない人と思って、不安だったので、言わなかっただけです」

ああ、警戒されていたのか。

知らない人は警戒する、確かに大事かもしれない。

「今日はどうします?もう遅いですし、私の家に来ますか?それとも、案内を続けましょうか?」

「泊めてくれるの?」

「はい、泊まってってください」

正直歩き疲れたから、休もうと思ってたところだ。

「じゃあ、ペルシアの家に案内してくれ」

「はい、よろこんで ! 近くに池があるので、そこで体を洗ってください。服と靴も差し上げます。アイデルさんにはちょっと大きいかもしれませんが」

やっと体を洗えるのか。

正直自分でも耐えられない臭いを放っていたため、これはありがたい、それに服に靴まで。

泊めてくれるだけでもありがたいけど、ここまでしてもらうなら、何か返すべきだろうか。

自分が持っているものなど何も無いが…

「俺は返せるものなんてないぞ」

「あれ、俺に変わったんですか。さっきまでは僕じゃなかったですか?」

「え、ああ、うん。正直、一人称が決まってないんだ。別に使い分けてるつもりは無いけど、気分が高まったりすると変わってる気がする」

「そうなんですか…じゃあ今は気分が良いってことですか?」

「うん」

正直自分でも分からない。

自分が今何をどう思っているのか。

考えようとすると、次々に感情が変化する感覚を覚える。

定まらない自分の思想に嫌気がさして、考えるのを辞めたりもするが、結局自分は、何を考えて生きているんだろう…

「良かったです、喜んでもらえて。私もこんなに話したのは久しぶりで、嬉しいです。何も返さなくていいですよ。ただ私の話し相手になってくれたことで十分ですから」

良い奴だ。こんな暗い世界を生きてるのに、他人に優しくすることが出来るのか。

僕にはできそうもない。

「ごめんね」

「そういう時は、『ありがとう』ですよアイデルさん。感謝の気持ちを大切にしなさいって、お父さんによく言われました。だから私は、このことだけは心に決めて生きています。親切にされたら言葉で伝えるって大切なことだと思いますよ」

すごいなこの子。

まるで、長きを生きた先人に説かれているかのように感じてしまった…

自分よりよっぽど大人な気がするよ。

確かに、人間の持つ強みのひとつに、コミュニケーション能力があるって博士が言ってたな。

相手が何を考えているかが分からないから、怖さを感じるのと同じように、言葉で伝えたものの積み重ねが信じるということに繋がるって。

「ありがとうペルシア」

「こちらこそですよアイデルさん」


さて、あの後すぐに水場に行き、体も流して、新しい服ももらった。

そろそろ寝てしまおう。

体の臭いも、ペルシアからもらった石鹸がよく効いたおかげか、腐敗臭のようなものは消えたと言っていい。むしろ、いい匂いがする気がする。

あまりに申し訳なさを感じたので、昼間に採ったりんごがあったことを思い出し、それをあげた。

自分の空腹は我慢しよう。

躊躇いながらもそれを受け取り、もったいなそうに、食べていたが、その目には涙が浮かんでいたように見えた。

よっぽど空腹だったのか。

貸してくれた部屋は、以前、彼女の父親が使っていたという寝室らしい。

広さも十分で、あまり建物については知らない自分かだが、とてもしっかりとした家だと思う。

少し妙なのは、家に入っても、母親を見ていないことくらいかな。

話では、母親が死んだなんて言ってなかったし、どこか出かけにているのか…

そんなことを考えながら、寝具に横になっていた時、ふと、部屋の扉が開いた。

「すみません、アイデル…さん」

ペルシアだ。

「どうした、何かあったのか?」

「いや、その…」

なんだか気恥しそうにもじもじとしている。

「一緒に…寝てもいいですか?」

意外だ。てっきり、もう僕よりも大人で、十分に成長しているものだと思っていけど、そうでも無いのか?

「そんなことか、いいよ」

同衾の許可をしたら、そそくさと寝具に入り込み

「ありがとうございます」

そう言って、隣に寝そべった彼女の手が僕の着ている服を掴んでいるのを感じた。

そして、僅かに震えているのが伝わる彼女の手からは、なにかに怯えているような気がした。

「怖いんです…いつまで1人なのかなって考えると。さっき、お父さんは死んでしまったって言いましたが、お母さんもいないんです。この村に住んでいたほとんどの人は、他の国に連れていかれました。たぶん、あの植物を植えたのも、その人たちなんだと思います。元々あんな植物は生えてなかったし、ちょうどその時くらいに、王族の人達が死んだっていう話を聞きました。きっと、いずれ無くなるこの国から、できるだけ奪い取ろうと考えたんだと思います。植物を植える近くにたまたまあったこの村から、ついでのように攫っていきました。年寄りと子供だけが残されて、今じゃこの村に10人しか残っていません。お母さんは生きてるって信じてます。でも…信じてるだけじゃ、この不安な気持ちが止まらないんです」

さっきまでとは違い、とても感情的に語るペルシアという少女。

まだ6歳なのに、これほどの思いを抱えて生きているのか。

現状、両親を失ったも同然のこの子の手は、特段小さいものに感じた。

背中に伝わるじんわりと染み込む冷たい感覚。

言葉と共に現れた、溢れるような感情には、同情をしてしまう強さがあった。

「大丈夫。きっとお母さんは生きてるよ」

「すぅ…すぅ…」

寝てしまったのか?

いつの間にか背中に触れていた彼女の手が腹の位置にあるが、それを気にせず、この少年も眠りに落ちる。


朝の光がよく通るこの部屋は、日差しの眩しさで目を覚ます。

森を出てから初めての朝、2日目の始まりだ。

隣で寝ていたペルシアの姿はもう無い。

今が何時かは分からないが、随分と早い目覚めらしい。

顔を洗うため、池へ向かう途中、ペルシアともう1人

新しい村人に会った。

「おはよう…隣の子も、村の子?」

「…おはようございますアイデルさん。そうです、紹介します。幼馴染のアリサです」

「おはよう…ございます」

そうやって挨拶をしてくれたこの少女は大人しめの性格なのだろうか、警戒しているようで、ペルシアの2歩ほど後ろに位置している。

「おはようアリサ」

とりあえず挨拶はしておくが、俺は今日この村を離れようと考えている。

話し相手を見つけて、喜んでいたペルシアには悪い気もするが、仕方ない。

挨拶を終えたら2人とも逃げるように去っていった。

「嫌われたのか?」

そんなことを思い、少し寂しい感覚を覚えた朝となった。


顔を洗い、家まで帰ってきたところで、何やら準備している彼女の姿を見つけた。

「何してるの?」

「朝食の準備です。アイデルさん、今日、別の街に行くんでしょ?だったら、朝食は食べた方がいいですよ。一日は初めが肝心ですから。それに、昨日は何もご馳走できなくて申し訳ないですし、朝くらい食べてもらいたいなって」

気づいていたのか。

まぁ、少し言いずらかったから、ありがたいけど。

確かに、最近何も食べた記憶がないな。

お腹も減っているが、この村には食料なんかないんじゃないのか?

「朝食って、なにかあるの?国が堕ちようとしてる状況で、1村に蓄えてある食料なんて厳しいものだろ?」

「大丈夫ですよ。私達、残された村人で、食料だけは確保しようとずっと農業に励んできたので、ちょっとくらいなら大丈夫です」

そう、なのか。発案はこの子だろうか。

絶望的な状況の中、なんとか生きようとするだけでなく、他人である村人すらも救おうとしたのか。

こういった器の持ち主が王となったら、国も繁栄の道に進むんだろうな。

「ありがとう。貰ってくよ」

「はい、すぐに用意しますね」

そう言ってすぐに自分たちで育てたであろう野菜などを使って、調理をしてくれた。

そうして振る舞われた料理は、森で見た事のある食材が多かったため、とても口馴染み深いものだった。

人の手が加わると、こうも美味しくなるのか…

「すみません、味付けなどはできてないので、薄いと思いますが…」

「そうなの?」

料理なんか、したことも見たこともないので、味付けというのはなんなのか分からず便宜的に返してしまった。これで味付けをしていないのなら、俺が食べてたのはなんだったんだろう…

「食べれそうですか?」

「問題ないよ。全然食べれる」

「良かったです。でも、本当に無理しないでくださいね…」

本当に美味しく感じるけど、これは不味いのだろうか?


そうして、出された朝食をすぐに食べ終わってしまい、この村を出る時がやってきた。

時間で言えば、半日程度の滞在だが、なかなかくつろげたと思う。

これなら、この国の都市に向かうことも出来そうだ。

「行っちゃうんですね」

「王様に会いたいからね」

「…どうして王様を探してるんですか?」

「自分の育ったところで、この世界にいる王様はすごいって、言われ続けたからね。見てみたくなったんだ」

「そう…ですか」

ん?今のは失言か?

ペルシアにとってこの国の王は、自分たちを見捨てた存在として映っているのだろうか?

「ごめん、失言だった?」

「いや、違いますよ。確かに、この国の王様には自分たちを救ってくれなかったっていう思いもありますけど…」

「けど?」

「今は、ただ、もう少し、お話したかったって思ってるだけです」

「あぁ」

「わかってますよ。でも、ずっとつまんなかった日が続いて、昨日だけちょっと楽しく思えたから、寂しいだけ」

「…」

こういう時はどうすればいいのか。

何もあげられないし、何も伝えられない。

分からない。

「アイデルさん…ひとつだけ、お願いしてもいいですか?」

「うん」

「私のこと忘れないでいてくれませんか。この先の旅でも」

「忘れないよ。こんなに人に良くしてもらったのは初めてだから、首都に行ったらまたここに戻ってくるつもりだよ」

「ほんとうですか!」

「うん。必ず」

「わかりました。絶対ですよ?待ってますから」

「必ず戻るよ。昨日はありがとう行ってくる」

そうして、初めての良き出会いを経験したアイデル。

村を出て、遠くに見える大きな建物。

きっとあれが、城というものだろう。

定まった目標に向けてまた1歩、動き出す。

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