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第七話 革命の序章②一軍隊長アレス一

異様な気配を放つ存在。

その正体は一目見ただけで理解できた。


「…あれが」


視線の先に見えるのは、椅子に腰掛け、静かに、それでいて、他を寄せ付けない威圧と風格を持つ1人の男。

その様子は、単なる強者の気配ではない。

戦場そのものが、あの男を中心に呼吸しているかのようだった。


辺りを囲む炎の揺れは、荒れる戦況に応じて勢いを増している。

しかし、男の周りだけは静かに揺れる。


「…来たか」


そう小さくもどっしりとした声色で呟く敵将。それだけで、アイデルの背筋に冷たいものが走る。

男は椅子から離れ、ゆっくりと鞘から剣を抜き、それを担ぐ。


「小さくも強き、少年よ。そこから先は俺の領域、踏み込む覚悟はできているのか?」


構えでわかる格の違い、明らかに今までの騎士とは一線を画し、堂々たる立ち姿。

男の言っていることは、警告であり、確認しているのだ。「お前は、俺に挑む程の力を持っているのか」と。

わからない。だが、オルツナードさんから託された俺の役割。これは全うする。


「勝つよ」


全力で踏み込んだ地面が割れる。

アイデルは今までにない程の速度で相手に近づき、旗竿を振りかぶる。


「早い。でもそれだけか?」


その声とともに、腹部に鈍く強烈な痛みが全身に響き渡る。


「っうぇ」


殴られ…た…のか?

なんていうパワーだ。

攻撃をする前に吹き飛ばされた。

速さには自信があったけど…

それも負けるか?


「立て、我が軍が受けた損害はこの程度では晴らしきれん。もう少し遊んでもらうぞ。少年」


どうすればいい…

まだたった1発、されどこの強さ。

速さで勝ることはできるのか?

アイデルはもう一度強く地面を蹴る。


「子供相手だからと油断はしない。俺に挑んだ勇気だけは認めてやろう。私は軍隊長アレス。この軍を仕切る将である。お前の名前はなんという?」


答えてもいいものか?

敵に情報を与えるのは不利を呼ぶかもしれない。


「その質問には答えない」

「そうか、なら答えるまでは、お前との戦いに付き合ってやる」


その瞬間、アレスの姿が消えた。


「どこにっ!」


気づいた時には遅かった。

アレスはアイデルのスピードにいとも簡単に追いつき、腕もろとも横腹に強烈な蹴りを入れられた。


「っはは」


アイデルは笑うしか無かった。ここまで圧倒的な差を感じたのは初めてだったからだ。


「どうした?頭でも打ったか?」

「…強いな」

「まぁな」


相手は武器である剣を担ぐだけで、使いもしない。

俺は速さで負けている。

この旗竿も、役に立たない…か。


「せっかくリーチの長い武器を持ってるんだ。それを使えよ。戦いは才能だけではどうにもならないぞ、少年」

「…そうさせてもらうよ、おじさん」

「ふむ。そうきたか」


アイデルは旗竿を低く構える。


「今度はさ、そっちが先攻にしてよ」

「何を言っている?さっきからこっちが先攻じゃないか。君の攻撃が当たってないだけで、な。まぁいい。よかろうこちらから仕掛けてやる」


アレスが一直線にやってくる。


速い。けど、今までとは違う。


速さで圧するのは難しい。


なら目を使って相手の動きに集中する。


アレスの呼吸を見る。


重心を見る。


初動を見極める。


足の動き、腕の動き、目の動き。


一瞬。


アイデルは相手との体格差を使って上手くアレスの懐に入る。

そして大きく踏み込み、旗竿で突く。


かわされた。


でもこれはフェイント。


本命はこっちっ!


アレスの鎧がひび割れる。


炸裂したのはアイデルの全力を込めた左拳。


これにはアレスも


「っう、やるな…」


その声は置き去りに、アレスの体は強く吹き飛ばされる。


「やっと一撃…」


アイデルの左手からは血が滲みだし、赤く腫れる。

吹き飛ばされたアレスは地面を削りながら勢いを弱め、静かに立ち上がる。


「……見事だ」


低い声。しかし怒りではない。

むしろ認めているのだ。目の前の少年を。


「拳を選んだか。てっきり、俺のアドバイスを真っ直ぐに受け止めて、突きで来ると思ったのだが…油断したな」

「もう少し痛がってくれても良かったんだけどね」

「そうはいかんさ。俺にも威厳がある」


そう言うと、アレスは剣を前に突き出し


「今度は本気で行かせてもらう」

「…やっとかよ」


すると、遠方から


「軍隊長!もう限界です。我々では、オルツナードを止められません!」


その声の方向を見る2人、そこには人間から出る音とは思えない轟音とともに高く吹き飛ぶカルミナークの騎士達。


「やはり厳しいか」

「…さぁ、どうする。あっちはもうすぐ終わりそうだけど、このままなら、俺とオルツナードさん2人を相手にしなくちゃいけなくなるよ?」

「…そのようだな」


アレスは少し考えた後、構えた剣を鞘にしまった。


「撤退だ!お前達!戦況がこちらに向いていない。ここは退き、王国で体勢を立て直すぞ!」


その声を聞いた瞬間、オルツナードの猛威は止まり、撤退を許可した。


「いいんですかオルツナードさん?」

「いい。たしかにここでこいつらを落とすのもひとつの手だが、今はエステル王の身の安全が第一だ」

「あ、そういえば、エステルはどこですか?」

「おそらくどこかの隠れておいでのはずだが…」

「置いてきたんですか?!」

「王は君の安全が第一と申すのでな。私は賛成しなかったのだが、王の命令とあらば断れまい」

「じゃあ急いで探しましょう!」


カルミナークの軍は倒れた騎士達を置いて、速やかに馬に乗って王国へ帰っていった。そして最後に軍隊長アレスが


「少年、今一度問おう。君の名前は?」


アイデルは少し考えてから、アレスの真剣な表情を見て、


「アイデル」

「…そうかアイデル。今度会う時は決着をつけよう。その時は最初から本気で行かせてもらう」


今度会ったら…それは近い未来に起きるであろう。戦いの兆し。

これから俺たちが目指すのはカルミナーク王国本拠地。そこに行けば再戦は必ず果たされるだろう。

その時までに、少しでも腕を上げていなければ、おそらく本気を出したアレスには敵わない。


「やるじゃないか。あの軍隊長に認められるとは」

「認められただけです。まだ全然本気じゃなかった」

「それでもだ。さて、王を探そう」



-少し前エステルは-


「オルツナード、派手にやってるな」


今のうちに、敵国の情報を少しでもつかもう。

2人が戦ってくれている間、俺は、次の作戦を考える。これが俺にできる小さな役割。


あの小屋、何かあるかもしれない。

敵に見つからないように静かに、音を立てずに小屋へ近づくエステル。

すると、中から2人の男の声がした。


「だから!俺を倒したのは、ほんのまだ子供で!ワンパンでやられたんだ!シルバの方はもっと一瞬だった。ナイフを使って首に一突き。早くアレス隊長に伝えろ!」

「落ち着いてください。フィン中隊長。シルバ中隊長やあなたを倒したのがそんな子供だなんて、まだ記憶が戻ってないのですよ。安静にしてください」


中隊長…

しかし、治療中か…

一緒にいるのは…

下級騎士か…

それなら俺でもやれるか…


近くにあった騎士の剣を手に取り、鞘のついたまま握る。

こんなにも重かったのか。

ここで初めてエステルは認識する。戦いに出る騎士の覚悟。そしてそれを背負う王としての重み。


──俺はまだ、背負い切れていなかったのか…


剣を握る手が震える。

人を殺める恐怖。

自分が殺られる恐怖。

国を背負う恐怖。

あらゆる恐怖が集合する。

その恐怖が手に伝わり、上手く握れない。


──握れ!強く!俺は王なんだ!ここで挫けてどうする!


そして未だ不完全な覚悟を胸に、立ち上がり、扉を蹴る。


「なっ、誰だ!?」


下級騎士が振り向く。

エステルは反射的に剣を振り抜く。

吹き散らす血しぶきが顔、ローブ、マフラー、全身に染み付く。

倒れて、絶命した下級騎士。

エステルの呼吸が乱れる。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


それを見たフィンは青ざめる。

過去の少年にやられたトラウマ。

それを思い出させるかのような目の前の光景に恐怖が込み上げたのだ。


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」

「い……言え!」


エステルは怒りに身を任せ、血の付いた剣先をフィンに向ける。

その大きな少年の声に驚き、体が飛び跳ねる。


「ひぃぃぃぃぃ」

「お前らカルミナークの目的はなんだ!どうして、どうしてこんなことができる!」

「こ、こんなこと…?」


その瞬間、剣を大きく振りかぶり、まるで感情がないような顔をして、めいっぱい振り下ろす。


ッキン。金属のぶつかり合う高い音がして、エステルは我に返った。

そしてフィンは恐怖に怯えながら、また意識を失った。


「エステル。大丈夫か?そんな顔をしてまで人を殺める必要はない…落ち着けよ」

「アイ…デル?」

「エステル王!ご無事ですか?!」

「あ……ああ………ああ」

「エステル王…」


自分のしたことに動揺を隠せず、その場に崩れ落ちたエステルは、剣を離し、下を向く。

初めて人を殺した事実と。

自分の容量を超えるほどの怒り。

それによって一気に力を使い果たしてしまった。


「申し訳ありません。エステル王。私がもっと早く敵を片付けておけば…」

「いや、違う。俺には覚悟が足りなかった。国を背負う覚悟が」

「そんなことは…」


「エステル、君には覚悟はあったさ。ただ、ずっと1人だった……でも今は違うだろ?」

「アイデル君の言う通りかもしれません。どうかひとりで抱え込まずに、私を……アイデル君を頼ってください。友達とは支え合うものでございます」

「ありがとう。2人とも」


未完成な王と強さの高みを見た少年。

この小さな戦いが、王国の運命を大きく揺らす序章に過ぎなかったこと。

これはまだ、誰も知らない。

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