君と夜風と花束と クモハチ編
これでようやくひとつの物語になりました。
満月の日にあいつは死んだ。
俺はあいつの夢を継ぐ。
それがあの日、満月の下で交わしたあいつとの最後の約束だから。
子供の頃から俺の体は立派だった。気付いた時にはガキ大将。悪ガキ連れてイタズラ三昧したもんだ。
そんな俺には幼馴染みがいた。気の強い女ですぐに暴力を振るう元気な女。そして、すぐにぶっ倒れる病弱な女でもあった。
俺達は……小さい頃から将来は夫婦になると思っていた。家族ぐるみの付き合いで赤ん坊の頃からずっと一緒に育ってきた。
俺も彼女の事が好きだし、彼女も俺の事が好きだった。
小さい頃はそれで良かった。
病弱な彼女が、とある才能に目覚めるまでは、それでも良かったんだ。
彼女には演劇の才能があった。それも桁違いの才能だ。
見るものを引き込み魅了する。そこに居るだけで世界が変わる。そんな才能を彼女は開花させてしまった。
天才と言っていいだろう。
しかし彼女はあまり喜ばなかった。彼女は『アイドル』になりたかったのだ。『女優』ではなくて。
でも周りは彼女の才能を放っておかなかった。それだけの物を彼女は持ち合わせていた。本人が望まぬ才能ってものを。
実際、彼女は音痴だった。それも笑ってしまうくらいの音痴だ。天は二物を与えず。よく言ったもんだと思っていた。
アイドルといえば歌。そしてダンス。彼女の見た目はそこそこだが、致命傷になるレベルの音痴だった。
でも演技の才能は誰よりもあった。誰よりも輝いていた。夜空に輝き、全てを魅了する満月のような女だった。
その眩いほどの輝きが彼女の命を代償にしてると気付いた時には、もう全てが手遅れだった。
元々彼女は病弱だった。興奮すればすぐにぶっ倒れるような貧弱な女だった。
それでも周りは彼女に望んだ。その稀有な才能を無駄にしてはならないと。みんなの為にも演技の道に入ってくれと。
彼女は『平気な振り』をした。みんなの期待に応えようと必死になって演技した。意思の力で悲鳴を上げる体をねじ伏せた。
俺は気付けなかった。
ずっと側にいたのに。
ずっと一緒に生きていくと誓ったのに。
彼女の命はどんどんと削られていた。その演技に評価が付けば付くほどに。
そして高校に入ってすぐ。
彼女は息を引き取った。
「これが理由だ」
「……」
今日はキャバレー『十六夜』の忘年会。キャスト全員が店に集まってどんちゃん騒ぎとなっていたのだが……なんか空気が重くなった。
事の発端はラビの『なんでクモハチは悪役俳優なんてやってんの?』という質問だった。
別段隠すことでもない。
なので話したら忘年会の空気が最悪になった。店内は沈黙の圧に押し潰されそうだ。
然もありなん。
みんなここまでとは思ってなかったのだろう。でも聞かれたら答えるぞ? そりゃ秘密ではないからな。
「クモハチさん? それは……冗談ではなく本当なのかしら?」
沈黙を破り、引きつる笑顔のフェロモン歌手、カグヤが聞いてきた。お酒が入って色っぽさ三倍のカグヤだ。とかくエロい。
「嘘偽りない話だ。彼女の夢は俺が継ぐ。継げる範囲になるけどな」
それが彼女と交わした約束だから。
悪役にしか成れなかったが……そこは許容範囲内ということにしてもらいたい。
「重いわよ」
美月の突っ込みに思わず苦笑がこみ上げる。
「だろうな。そうでなきゃ続けられんだろう。自分でも悪役オンリーはどうかと思うからな」
また店内の空気が一段と重くなった。忘年会の空気じゃねぇ。新年会というわけでもねぇ。お通夜か。
「ふむ。となるとクモハチ君はその彼女と一緒に演劇の道を進んでいたのか?」
三日月おじさんにしては普通の質問が来た。どうしたおっさん。酒が回ったのか?
「俺は歌。彼女は演劇。分かれてたんだよ。いつか二人で天辺取ってやろうぜ、そんな風に夢を見てた。俺だけがいけると勝手に思ってた」
彼女を死に追いやった責任は俺にもある。頑固な女だったが、ぶん殴ってでも止め……られはしなかっただろうな。絶対に。あれはそういう女だった。
後悔の念に囚われていると変な音がした。
「ぐっ……く、クモハチは……えっと……どうしてヒゲなのよ!」
ラビの質問に場の空気が一気に緩む。無月なんか見るからにホッとした顔してる。
でも美月さん。女の子を蹴るのは止めよう。バッチリ見えてたし、音もしてたから。ラビも若干泣いてるぞ。まぁこいつなら泣いてもいいけどな。
「髭は舞台の仕事で必要なんだよ。今の役柄が……まぁ山賊で」
俺の本業は舞台俳優。今も出演している舞台が公演中だ。公演中なんだが、出番は十秒もない。まさに『エキストラ』扱いだ。出演料も安いので夜のバイトが欠かせない。
最近ではバーテンダーで食ってる気がする。間違いなくここの稼ぎが主力だろう。つーかバイトで生きてるな、ずっと。
「クモハチ君は山賊が嵌まり役だからねぇ。舞台でも台詞がなくてすぐに切られちゃうけど」
「え、舞台でも瞬殺なの?」
ラビが驚いた顔でおやっさんを見た。おやっさんは演劇鑑賞も嗜む文化人。でも今は黙ってて欲しかった。
「ほっとけ! 長時間舞台にいると主役を食うって監督に言われてんだよ! 俺だって台詞が欲しい! 普通に喋りたい! 切られて捌けてくだけの演技は飽きてんだよ!」
「あー」
みんなが同じ反応をした。そこで納得されてもなぁ。
更に言い訳しようとしたら美月が先に動いていた。
「今まで一言も台詞は無いの? 結構長いんでしょ? 芸歴は」
ちっこいのにお酒をカパカパと飲んでる美月に聞かれた。さっきからすごい飲んでるのに酔ってる節がない。目付きはいつもと同じで鋭いまま。言動もしっかりしてる。
ジュースじゃないはずなんだが……まぁいいや。
それより質問か。
……答えたくないなぁ。でも嘘は良くないな。ちくしょう。
「……『ぐへへへへ。てめぇの金たま引き千切ってバリバリと食ってやらぁ!』が最初にして唯一の台詞だ。相手の役者が本番で腰を抜かして……スポンサーにメッチャ怒られた。それ以降俺には台詞が無い」
「……」
またしても忘年会の空気は最悪になった。だが言い訳はしても良いだろう。というか言い訳したい。
「台詞を考えたのは俺じゃないぞ。監督だ」
悪いのは監督だ。自分は指示に従っただけなんだ。すごく言い訳めいているが……言い訳だけど。監督はずっと笑っていた。他の演者も。
「……似合いすぎ」
「ええ。クモハチなら多分やりそう」
カグヤと美月が顔を見合わせた。そんなにか? そんなになのか?
「酷い評価だな……って無月もおっさんも震えるんじゃない!」
男二人が股を押さえてぷるぷるしやがって。おやっさんは笑ってるし。
「……で、引き千切ってバリバリしたの?」
「しねぇよ!?」
若い乙女がしちゃいけねぇ質問だろうに。あれ? ここに若い乙女なんて居たっけか?
「クモハチ……あんた、死にたいの?」
「まだ何も言ってねぇよ!?」
小さな巨人の美月に睨まれた。勘が良すぎる。怖すぎる。
「ねぇねぇ。その腰を抜かした俳優って誰なの?」
助け船が来た。ラビなのが少し癪だが乗らせてもらう。あ、こいつは一応乙女か。まぁどうでもいい。目を爛々とさせてるから乙女ではなくゲスだろう。
「歌って踊ってをやってる男性アイドルユニットの一人だな。ほれ、全国ライブをやってるってニュースになってるだろ。あれだ、あれ。あの一番若い奴。当時はアイドルデビューをしたばかりでモヤシだったが……今もモヤシか?」
声も出ねぇ。体力も無い。通しの稽古にも着いて来れない。無論演技なんて出来やしねぇ。演劇初心者のただの子供に見えた。
それがいきなり主役として配役されたからみんなが苦労した。良い思い出……と言えるのか微妙な所だ。
「あなたと比べたら大概のアイドルはモヤシになるわね。でも……よく生き残れたのねぇ。仕返しとか無かったのかしら」
色気ムンムンカグヤさんが言い終わると同時にグラスを出してきた。空のグラスだ。グラスに付いた口紅がエッローい。とりあえず再度ワインを注ぐ。チーズもおつまみとして出しておく。カグヤは渋い楽しみ方を嗜む酒豪だ。
……歌姫両方酒豪だな。
「スポンサーの意向で舞台の方に無理矢理捩じ込んだアイドルでね。評判は最初から良くなかったんだよ。みんながクモハチ君を守ったんだろうね」
にこにこしてるおやっさんもお酒の追加だ。こっちは軽めのカクテルっと。
「そうなんだろうな。当時の俺は大学生。その後も仕事は貰えたけど悪役のみになったなぁ。一応あれだ、爽やか系のオーディションも受けたぞ。全部落ちたが」
見事に落ちた。感触は悪くなかったのに。舞台にテレビに映画にと。出れるものには全て出た。その全てで不合格。
おやっさんとは既にその頃から顔見知りだった。演劇界の大物なんだよなぁ、この人。依怙贔屓とか全くしない人で、鬼教官だった頃に演技指導を受けたこともある。
今の『穏やかな』おやっさんはそういう仮面を被っているに過ぎない。
懐かしい思い出だ。普通に泣いた。泣かされた。おやっさんも超怖かった。今穏やかに酒を飲んでるおやっさんは演技にすぎん。マジで怖い。
「なんで爽やか系なんて受けたのよ。クモハチのくせにー」
「……いや、当時の俺は髭無しだぞ? わりと爽やか系男子だったんだぞ? 本当だぞ? 髭の下は美男子……とまでは言えんがそれなりだぞ?」
大学の時は結構モテたのだ。髭を生やしたら誰も近寄らなくなったが。
仕事は増えたが女っ気は消えた。
勝ったのか負けたのか……今も悩んでいる。
「クモハチが爽やかぁ? はぁ? どこがぁ?」
ラビが管を巻くおっさんになった。
「ラビ……お前、酒を飲んでねぇのになんで酔ってるんだよ。空気に酔ったのか?」
こいつには最初からノンアルコールなジュースしか出してない。なのに焼酎を五杯飲んだ後のくたびれたおっさんに見える。
「……爽やかではない……かしら?」
「爽やかではないわ。厳つい、もしくは……ギリギリで『精悍』かしら。爽やかな演技は見たこと無いから何とも言えないけど」
「いつでもオファーが来ても大丈夫なように練習はしてるぞ? 他の演者達は『脳がバグる!』と言って稽古場から逃げるが」
人が演技の練習してるのに悲鳴を上げて逃げるのは、ちょっと。山賊の格好で爽やか系の練習するから分からなくもないんだが。自分でも吐きそうになるし。
「今度爽やか系の山賊バーテンダーでもやってみるか?」
ははっ! 僕はクモハチ! バーテンダーで山賊さ! とか? 高めの声で行くべきだな。
「どんなバーテンダーよ!」
忘年会は賑やかに過ぎていく。
今の俺は恵まれている。そういう事なんだろう。
おやっさんに拾われてなかったらどうなっていたことか。
あちこちの店でバーテンダーとして働くバイトの日々。本業は泣かず飛ばず。いや、それなりに人気があるのは知っている。でも、どこまで行ってもちょい役留まり。
それでも仕事があるのはありがたいんだが……バイトの稼ぎで食い凌ぐのが当たり前過ぎて自分でも本業を見失いかけていた。
おやっさんに拾われなかったら……多分辞めていた。そして俺はそのまま腐って行っただろう。どこまでも。
あの約束から二十年。
俺も疲れてしまった。
愛する人を失って……ずっと走ってきた。悲しむ事も俺には許されない。
約束を果たすことだけを目的に、俺は走り続けてきた。そして疲れた。朝も夜も働き続ける日々に。
もう走れない。
そんなとき、おやっさんに拾われた。
『うちで働いてみないかね?』
かつての鬼教官の勧めを断れる訳がない。
俺は『十六夜』のバーテンダーとなり、キャバレー『十六夜』は空っぽになっていった。
俺も悪いとは思うが、おやっさんの一言が全ての原因だと思う。
『彼の審美眼は本物だよ』
これに釣られた歌手や演奏家が尽く店から出ていった。
多分おやっさんは思っていたんだろう。そろそろ新しい者を入れる時期だと。長く同じ場所にいると人は淀む。成長が止まり周りに悪影響を与えるようになる。
どんな時でも新しい人、新しい風は必要になる。
そのひとつとして俺はバーテンダーにされたのだろう。まさか全員が消えるとは思わなかったが。
『おやおや、これは困ったねぇ。では新しい人の面接官も頼むね』
おやっさんの悪い笑顔はここからだった。一体どこまで読んでいたのか。
『君の判断に任せる。共に歌いたいと思える者を採用しなさい。勿論相談はいつでも受けるよ』
おやっさんは笑っていた。悪い笑みではなく優しい笑みだった。
俺はいつも一人だった。
舞台でも。
撮影でも。
バーテンダーとして働いているときでも。
そして満月の日、あいつの為に歌うときでも。
演技は……まぁ、仕方ない。切られて消える。そんな仕事ばかりの俺に群れる理由はどこにもない。脇役ですらないエキストラだ。
バーテンダーも当然だ。バーテンダーにまともな奴は居ない。むしろ願い下げだ。付き合いたくもない。
歌は……一緒に歌える相手は、ついぞ見つからなかった。
演奏させてくれと願う者は沢山いた。その全てが邪魔になるだけだった。
それもあいつとの約束だったのに。
『あんたと一緒に歌える人と幸せになってよ』
私には無理だから。
その言葉を飲み込んで彼女は逝った。
探したさ。でも居なかった。撮影で日本各地を巡り色々な人に出会った。歌の上手い人や演奏の上手い人にも出会った。
有名所のコンサートは軒並み観に行った。
でも足りない。全然足りなかったんだよ。超一流と呼ばれる連中でも足りない。絶望は深かった。
だから諦めてしまった。
約束を果たすことを。
残された約束は自分の意地のようなものだった。
必ずこの国で一番有名な役者になってやる。お前の代わりに俺が天辺取ってやる。
それだけを胸に走り続けた。
だがどれだけ稽古を積んでも成れるのは悪役。それも台詞は無く、すぐに消えるだけの端役。出演作品は多い。だがそのどれもが五秒も出ていない。
それが二十年。
二十年だ。
おやっさんは俺が社会に出たばかりの時にお世話になった人だ。俺ががむしゃらに走っていたのを見ていた人だ。
そして俺の歌をよく知る人でもあった。
おやっさんも一流の演者だ。分かるんだろう。俺の演技から。俺の歌からも。
『逃げてんじゃねぇぞ、若造』
かつての鬼教官はそう言った。
俺は逃げ続けて来た。二十年も。彼女の死からずっと逃げ続けている。
でも俺にはそうするしか無かったんだ。彼女は俺の全てだった。彼女がいるから俺は歌えた。俺は頑張れたんだ。
でも……疲れた。
約束に逃げることから。
彼女の死から逃げる為にずっと走り続けることにも。
そんなときに拾われた。
そして探せと言われたのだ。
敵わねぇなぁと思ったよ。笑うしか無かったさ。
ずっと心配されてたんだ。おやっさんはずっと側にいた。俺が気付いていなかっただけで。
俺が細々とでもやってこれたのは、おやっさんが見ててくれたから。
それに気付いた時、俺は泣いていた。涙が止まらなかった。おやっさんは静かに笑って側に居てくれた。
それだけで俺には十分だった。
おやっさんに支えられ、俺は本気で探してみることにした。
俺が共に歌いたいと思う者。俺が隣に立ちたいと思う者を。
多くの不合格者を出したが、それは遂に現れた。……思ったよりも居てびっくりしたが。
色気に慕情を滲ませる乙女。カグヤ。
男だけど男が好き。まだ未熟だが将来性は抜群のピアニスト。無月。
なんでお前がここに来た。世界の最前線に立つプロの歌手。三日月おじさん。
分かりにくいぐらいに分かりやすい女の子。美月。
あとおまけでラビ。隣で手拍子くらいは叩いてやんよ。
探せばいるもんだ。
まだ誰も一緒のステージに立ってくれないが、すぐに立つようになるだろう。
手拍子から始めれば、すぐだ、すぐ。
今の俺は走ってない。歩いてる感じだ。そしてまだ逃げている。
『クモハチ』
まだ、この名に縛られ、この名に頼っている。
俺の芸名でもある雲八朗。
『私は太陽なのだ! お前はそんな私を隠す悪の男! そう……雲野郎なのだ!』
『……チェンジで』
『えー? じゃあ……雲八郎でいいや』
『適当か!?』
『あ、郎は朗ね』
『漢字で書かねえと分かんねぇよ!?』
そんなアホみたいな流れから決まった自分の芸名。まだ小学生の頃。一緒にオーディションを受けてその時の寸劇内で付けてもらった大切な贈り物……なのかなぁ?
この国にその名を広く轟かすまで。そう思ってすがり付いて来たこの名前。
俺だって分かっている。既にこの国で俺を知らない人は居ない。それくらいには切られてきた。
それでも俺は逃げ続けている。
俺は……幸せになっても良いのか?
お前を幸せに出来なかった俺が……誰かを幸せに出来るのか?
なんて考えていたら腹に拳がめり込むのがここ『十六夜』だ。
逃げてる隙もありゃしねぇ。
暴力じゃなくてカグヤみたいに腕を抱きしめてくれりゃあいいんだが……絶壁だしな。
俺は恵まれてる。もう一人じゃない。
俺はもう一人じゃないんだ。逃げそうになったら止めてくれる人がいる。
あまりにもアホで手が掛かるバカもいる。
油断したら尻を撫でてくるおっさんもいる。
ジト目で無言のまま責めてくるイケメンもいる。
背中にポヨンと当ててくる色気爆弾もいる。
逃げてる暇もありゃしない。
俺は……そうさ。
今の俺はキャバレー『十六夜』のバーテンダー。みんなを支える素敵なバーテンダーのお兄さんって奴さ。
そして満月の日には名を捨てる。バーテンダーであることもこの日は、おやっさんに丸投げだ。
歌うために歌う。
俺の歌を求める人の為に俺は歌う。
十六夜の『月天公子』として。
もうお前の為だけではない歌は届いているか?
お前が何より愛した俺の声が。
月まで届けと祈る俺の歌が。
見ててくれているか? あの日の約束は果たされつつあることを。
俺はここで歌う。
あの月に届くと信じて歌う。
十六夜の月天公子。その名を背負い、愛したお前に捧げる晴れ舞台。
俺はもう一人じゃない。
嫉妬深い月の女神よ。
それぐらいは許してくれ。
俺は十六夜の『月天公子』
似合わねぇとは言わせねぇ。お前の王子は俺だけだ。いつか必ず迎えに行くさ。そんときは……謝らせろ。お前を幸せに出来なくて済まなかったとな。
それまで……ちっと待っててくれ。
俺は十六夜の『月天公子』
実はそこそこの人気者なんでな。
他のメンバーのお話は短編100本ノックで検索してねー。