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第11話 いつもとは色々と違う金曜日

 高校三年生の六月。一般的な高校ならいろんな行事がありそうだ。しかしこの学校はそうではない。もう夏休みの足音が聞こえるなどと称し、休み時間中にも勉強をしている奴らが少なからず見受けられる。


 よくやるよ……


 などと悠長にしていられるほど俺に余裕があるわけでは決してないのだが、今日は朝から何となく居心地の悪い思いをしていて、何もする気が起きずにいた。


「おい、コモリン」

「なんだ、マサヤ」


 顔を向けると、ぼっさぼさ頭の男が、開けてるかどうかよく分からないほどの細目を眼鏡の向こうから俺に向けている。


 そんな変なあだ名で呼ぶ野郎と言えば、コイツしかいない。山馬雅哉(やんば まさや)。同じ剣道部仲間だが、こいつはアニメの主人公がやっていたからという理由で剣道部に入ったような超絶オタク。ちなみにあまり運動神経は良くない。


「今日は、転校生はいないのか」

「あ? ああ、佳弥(かや)か。休みみたいだな」


 そうなんだよな……


 月曜から木曜まで、佳弥は何事もなかったように学校に来ていた。学校では俺に話しかけることもほとんどなく、まるで他人のようだった。

 なんだか身構えていたのに拍子抜けだ。しゃべったのは、教室移動の時の案内とか、それくらい。


 ところが今日、金曜日、佳弥が学校を休んだのだ。


「か、かや!? お、おま」


 マサヤが驚いた顔を見せる。


「なに」

「お前ら、もうそんな仲になってるのか」

「そ、そんなって、どんなだよ」


 ……なんか、バレてるんだろうか。あんなことやそんなことしたってのが?

 ど、どういうことだ。


 落ち着け、落ち着け。

 カバンからペットボトルを取り出し、お茶を口に含む。


「下の名前で呼ぶ仲だよ。だってよ、あいつ、声を掛けたらすっげー怖い顔で睨むんだぜ」


 ごくん。

 ……なんだ、それだけか。一安心。


「それはお前がオタクだからだろ」


 ……まあ、佳弥の話も相当アレだったけどな。


「違うって。みんなに対してもそうだって。なんか、もう、世の中の人類すべてが敵みたいな」

「そうなのか?」


 んー、なんだろ、人づきあいが苦手なのかな、あいつ。


「なあ、コモリン」

「なんだよ」

「月岬って、どんなやつ?」

「なんで俺に聞く」

「だって、お前くらいしかあいつとしゃべってる奴いないし」

「まあ、確かにぶっきらぼうだが、そんな感じじゃないなぁ」


 もうコイツに興味はなくなった。コイツはそうじゃなさそうだが。

 俺はもう一口、お茶を口に含む。


「学校にいるときは超ツンツンだけど、その裏では実は、一緒に異世界を冒険してくれとか頼んでくるような、めっちゃかわいいデレ属性の男の娘だった、とかそういうのとか、ないか?」


 ぶーっ!!


 口の中にあったお茶が、俺の口から霧状のものとして放たれ、窓から差し込む光を反射して、七色の虹を作った。


「き、きったねー!!」

「お前が変なこと言うからだろ! そういう妄想はアニメかゲームの中だけにしとけ!」

「お、おま、後でしばく」

「自業自得だ」


 慌てた様子でマサヤが教室を出ていく。

 マサヤが単に異常性癖を垂れ流して言った言葉だろうが、あまりにも的確過ぎて思わず茶を噴いてしまったじゃねーかよ。


 にしても恐ろしい嗅覚だ。あいつにはあまり近づかないでおこう……


 放課後に先生――剣道部の顧問にして俺のクラス担任、八木田(よねだ)、通称メリーさんに呼ばれた。何枚かのプリントを佳弥に届けてほしいという。

 俺はそれを持って、学校からの帰り道の途中に越鬼神社に寄った。


 鳥居をくぐり境内を進む。その社務所に行き、インターホンを押した。


『どなたですか』


 佳弥の声。


「ああ、俺、弘田だけど。体、大丈夫なのか?」

『こ、虎守くん!?』


 なんだろ、いきなりトーンが外れた感じ。声が裏返った、みたいな。

 そんなに驚かなくてもいいだろうに。


『ど、どうしたの、かな』

「プリント届けに来たぞ。ポストに入れとくから」


 休んだってことは風邪でも引いたのだろう。

 日曜日以降、佳弥とは『神話世界』の話はしていない。佳弥は俺に色々と説明するって言ってはいたが、なかなかにそのチャンスがなかったからだ。


『あ、あの、虎守くん』


 ……なんだろ、佳弥の声の湿度がクンと跳ねあがったような気が。


「な、なに」

『その……中に、入ってくれないかな』

「お、おお、って、具合悪いんじゃないのか」

『か、風邪とかじゃないんだ。だから、大丈夫』


 そうか……って、んじゃなんで休んだんだって話だが、ま、いっか。話ができるのなら、聞いとかないとな。


「んじゃ、入るぞ」


 そう返事をし、俺は社務所の引き戸を開けた。

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