ぶっ殺すッス! (中井アズサ視点)
「空の上で話をしていただけだ。ゴタゴタを起こすな」
そんなことを言うトーマちゃんのことが信じられなかったッス。
だからウチ、松田さんの横から総司令官に言ってやったッス!
「あのへんな色のネコ、総司令官のこと殺そうとしたんッスよ!? ビシッと殺してやんねーと、示しがつかねーッス!」
こんな時、ウチの武器は使えねーッス。
間合いが2メートルしかないんッス!
離れてたら何の役にも立たねーッス!
でも近接戦闘になったらウチほど頼りになる女はいねーッスけどね。
あのネコ、地上に降りてきたら、ギッタギッタにしてやるッス!
チェーンの頭につけた分銅で、そのちっちゃいアタマ、かち割ってやるッス!
しかし総司令官はウチに言ったッス。「ゴタゴタを起こすなと言っただろう、中井。私は何もされてはいない。自分で落下してきただけだ」
「やはり、それは、わたしを信じて? ──」
ユイちゃんが目をキラキラさせてそう聞いたッス。
「もちろんだ、秦野。おまえが必ず助けるだろうと思い、策もなく落下してきたのだ」
ユイちゃんが嬉しさにビリビリしびれてるッス! 電気ショック食らったみたいッス!
「青江様!」
マコっちんが駆けてきたッス。
「よくぞご無事で! 私のアレを使うまでもなかったようですね」
「ウム……。轟の着せてくれていた飛行服を使おうとしたのだが、その前に秦野に助けられてしまった」
トーマちゃんはマコっちんに耳打ちでそう言ったッスけど、ウチにはしっかり聞こえたッス。
何しろ聴力を100倍にブーストするヘッドフォンつけてるッスからね。
聞こえてないユイちゃんは、自分が総司令官を救ったのだー、自分がいなければ総司令官はあのスパイダー〇ンのごとくバラバラになってたのだー、とか浮かれてるわ。手出さなくてもトーマちゃん、勝手にムササビみてーに助かったらしいのに、知らずに。
なんだかユイちゃんが不憫になって、ウチはフーセンガム膨らませたッス。
イライラしたッス。
「……やっぱ、さっきのへんな色のネコ、ウチが殺したるわ」
そう言ってチェーンの音をジャラリと鳴らして殺しに行こうとすると、後ろから止められたッス、トーマちゃんに。
「中井……。私たちが何のためにここへ来たか、わかってるな?」
……チッ。
言われるまでもなく、ちゃんとわかってっかんな。
ネコの生態を視察するためだって、わかってっかんな。
ネコだけを殺す物質の存在の有無を突き止め、理想兵器を完成させるためだって、ちゃんとわかってんよ!
それでもこの狂犬中井アズサ。
ムカついたらそのへん歩いてるネコぶっ殺しちまうかもしれねーッス。
誰か押さえといてほしいもんッスね。
って、思ってたら、むこうから海崎様が歩いてらっしゃった。……キャー!
「総司令官、ご無事でよかった」
その馨しいお声を出された。……フゥ~!
「ブリキのこと……あのサビ猫のこと、私がお仕置きしておきましたので、どうか報復などとはお考えにならず、平和に場を収めてはいただけませんでしょうか」
「会話をしてただけだ。私は自分で落下してきたのだ」
「……ありがとうございます」
海崎様がお笑いになったッス! キャー!
なんて爽やかでステキな笑顔! キャーキャー!
もうウチ、黒い感情とか吹っ飛んじまったッス! 髪色だけじゃなく心までピンクになっちまったッスー! もう、何もかも忘れちまうほどピンク色ッスー! キャーキャーキャ〜〜〜!




