羨ましいですわ! (松田シホ視点)
私、3時間ぐらいバカになってましたのよ。
なかなかなんにも考えられないバカ状態というものは心地の好いものだと知りましたけど、でももう、ごめんですわ。
だってなんにもできないんですもの!
青江総司令官がかわいいそのお顔をいくらムスッとされても、それにキュンとすることさえできませんでしたの。
何より──
猫を何匹か陰で射殺しようと私、思ってたのに、その計画も実現できませんでしたのよ! 悔しいッ!
そして、その時も、私は何も出来ませんでした。
私の大切な青江総司令官ちゃまが、高い空の上から落ちてくるというのに、私のライフル銃なんて、その時は何の役にも立たず、猫の兵器でバカにされてたわけでもないのに、己の無力を感じることしかできずにいました。
ユイちゃんが、落ちてくる総司令官に向かって、ヘンテコな形の銃を取り出し、その銃口を向けました。
何をするつもり──ッ!?
でも、ユイちゃんを信じるしかありませんでした。
ユイちゃんはいつでも静かな殺気に満ちていて、助けられないものはめんどくさいから殺してしまえみたいな子ですが、その時は信じるしかありませんでした。
お願い、ユイちゃん──!
青江総司令官様を、助けてあげて──!
信じてよかった……。ユイちゃんの構えた銃口からは青と赤のスパイダ〇マンが飛び出し、青江様を抱きかかえるとおおきく膨らみ、クッションとなって代わりに炸裂してくれました。
青江総司令官様の凛々しいというか暗鬱なお姿が、無事に立ち上がったのを見て、私はキュンとしました。ええ、あまりにおかわいかったので……。
向こうの空をキッ! と睨みつけました。
私のおかわいい総司令官様を殺そうとした、あのサビ猫を撃ち殺さねばと思い、ライフル銃をそちらに向けました。
そこにはあの海崎リョウジ様がいらっしゃいました。
しゅごい……。
彼自身の発明品であろう、空飛ぶブーツをお履きになって、空中に浮いていらっしゃいます。
サラサラの長い髪、背の高いその後ろ姿に、私は見惚れました。
その海崎リョウジ様の前に、あの憎きサビ猫がいました。
なんてこと……!
羨ましいですわ!
あのサビ猫!
イケメン海崎様と、あんな近距離で何か会話を交わしている!
そこにいるべきはこの私よ! 殺してやる! きいっ!
私はライフルの銃口をサビ猫に向けました。銃弾の届かない距離ではない。
でも、海崎リョウジ様に当たってしまうかもしれない。
撃てない!
そう思っていると、後ろから私のお尻を触ってくる手がありました。
振り向くと、青江総司令官がいて、首を横に振っていました。
背が私よりも随分とお低いので、肩を叩くつもりがお尻に触れてしまったのでしょう。許します。おかわいいから。
「あのサビ猫、殺処分して差し上げますわ! そして戦争です! 立派に戦争の発端として使えます! これはまるでサラエボ事件ですわ! セルビア人の将校が、オーストリアの皇族を狙撃した──」
「いいんだ、松田」
青江様は何か企みのあるかわいいお顔で、私に言いました。
「空の上で話をしていただけだ。ゴタゴタを起こすな」




