お仕置きをしなければな…… (海崎リョウジ視点)
ブリキが青江総司令官を連れて、青空高くへ飛んでいった。
何を考えているのだ。
いくらアイツと私が同士だからといっても、許さん!
確かに私たちは人間と猫の間に戦争を起こそうと画策している同士だ。互いに内部工作をしている。
しかし人間側の総司令官を亡きものにしようとするのなら、ブリキも私の敵だ!
足裏のジェットを噴射させ、追おうとしたが、諦めた。高すぎる。あそこまで飛ぶのはいくら私の発明品でも不可能だ。
猫は身体が軽いから私よりも速く飛べるのはわかる。
しかし少年とはいえ人間の身体を押して、あそこまで速く、高く飛べるとは……。
悔しいが、遥か遠くに見ているしか出来なかった。
すると、何かが落ちてきた。
青江総司令官のお体だ!
私が飛んでいって受け止めようとするが、距離がある。ありすぎる。届かない!
無念に思っていると、下から何かが飛び上がってきた。人かと思ったが、何か赤と青の衣装をまとった人形だった。
それが総司令官を抱きかかえると、おおきく膨れあがって風船のようになり、地面に衝突する。凄まじい衝撃音が轟き、広範囲に土煙が広がる中、不機嫌そうに立ち上がる総司令官のお姿が見えた。
私はすぐに理解した。
「なるほど……。秦野さんの発明品か……」
東京本部でその名を知らぬ者はない天才マッド・サイエンティスト秦野ユイ。
その絶大なる力を目の前にして、私は己の小ささを知った。
総司令官を追うように急降下していたブリキが動きを止めた。
空中にいる私に気がついた。
こっちへやって来る。
「リョウジ……」
子どものように泣いていた。
「危なかった……! よかった、助かって……! でも、俺……、すまねェ! 人間の王子を殺しちまうとこだった!」
「お仕置きをしなければな」
私は冷たくそう言うと、ポケットから、みかんを取り出してみせた。
「やっ……! やめてくれ!」
ブリキが首を激しく横に振る。
「それだけはやめてくれ!」
そう言いながらも逃げないところを見ると、懺悔の気持ちはあるようだ。あるいは好奇心に足が動かなくなったのか──
「嗅げ」
私はブリキの鼻先に、みかんを突き出した。
「嫌だッ……! それだけは……!」
口ではそう言いながら、猫の本能か、鼻先に突き出されたものの匂いは嗅いでしまう。
ブリキの顔が歪んだ。
まるで漫画のデフォルメのように、めちゃくちゃなブサイクになった。
フレーメン反応だ。
びっくりしたように口が開き、どこを見ているのかわからない表情でおおきく目を開き、情けない顔になっている。
猫は柑橘系の匂いを嗅ぐと、こうなってしまうのだ。
どうやらかなり嫌いな匂いらしい。
とはいえ、これが理想兵器の材料となるほどのものではないが──
まぁ、とりあえず、お仕置きは済んだ。
結果論とはいえ、総司令官がご無事で何事もなしだ。
よほど嫌な匂いだったのか、ブリキは泣きながら飛んで逃げていった。
フン……。
かわいいやつめ。




