メロンはいらない
「それじゃ、早速メロン畑へ案内するにゃ!」
マオがそう言ってはしゃぎ回った。
すると総司令官は首を横に振った。
「いや、メロンはいらない」
「なぜだにゃんっ!?」
マオがびっくりして横に飛んだ。
「まさかメロンがお嫌い!? あんな美味しいものをお嫌いなお方がいるとは……ぼくにゃんびっくりして横に飛んでしまったではないかいな!」
後ろのほうで秦野さんとアズサちゃんが、よだれを垂らしそうな顔をしながら会話をしているのが聞こえた。
「どうせ品種改良されてないメロンでしょ」
「タネが地獄のように生え揃ってるメロンなんていらねッス」
俺は慌ててマオのフォローをした。
「いや、ちゃんと美味しいメロンなんですよ! 大体、野に生えてるメロンだって品種改良する必要もないほど美味しいでしょ?」
総司令官は俺のことばなんて無視するように、マオに言う。
「それよりも猫のことをよく知りたいのだ。色々と君たちのことを教えてくれないか」
「あ、そういうことですか!」
俺は嬉しさにぽんと手を叩き、納得した。
総司令官はメロンを目当てに来たんじゃないんだ。猫のことをよく知りたくて──それが最重要目的だったんだ。
「にゃはは! にゃはは!」とそこら中を駆け回っている松田さんのバカ笑いにつられるように、俺も笑い声をあげた。
『マオーーー!』
むこうのほうから両腕をいっぱいに広げてビキが駆けてきた。目からは涙を後ろへなびかせている。
「あっ、ビキにゃん」
総司令官の見ている前で、ビキはマオをがしっ! と抱きしめた。
なんか猫語でうにゃうにゃ言ってるけど『マオ』しか聞き取れない。
「まったくビキにゃんは心配性だにゃん」
にゃっはっは、と笑いながらマオがビキの背中をぽんぽんと叩く。
「この俺様が空の飛び方ぐらいわからなくなったぐらいで死ぬわけがないだろう。にゃん、にゃん、にゃん」
ビキの言葉はわからないけど、どうやらめちゃくちゃに空を飛んでいったマオのことが心配でたまらなかったようだ。
この友情たっぷりの場面を見て、総司令官はどう思うかな? 今までわけのわからない妖怪のようなものだと認識していた猫にもちゃんと人間のような情があるものだと、わかってくれるかな?
そう思って見ると、青江総司令官はどうでもよさそうな表情をして横を向いていた。
まぁ、基本的に表情に乏しいひとみたいだから……。
マオと会話するビキの言葉の中に『ハナユカ』という単語が聞き取れた。
そうかビキは花井ユカイと仲良くなってたもんな。
しかしユカイが来なくてよかった。今この場にいたら「絶対メロン畑に行くんだー!」とか、駄々をこねる子供みたいに野原に背中をつけて倒れて、手足をジタバタさせていたに違いない。
それにしてもよかった。
青江総司令官が猫との友好に積極的な態度を示してくれて。
「ミチタカさん」
足元のほうから名前を呼ばれて、視線を下ろすと、ユキタローが人言語翻訳機をつけて立っていた。
俺の名前を正確に呼んでくれる猫はコイツだけなので、なんだか嬉しくなってしまう。
「なんだい?」
「ちょっと向こうへ……。いいですか?」
何やらユキタローが俺に話したいことがあるらしい。
総司令官たちから離れ、ユキタローに木の陰に連れて行かれた。
ミオが近くに寝そべって、『やのやのやの』と悲しそうな声を漏らしながら子猫たちにおっぱいをあげていた。さる……山田先輩が来なかったから傷ついているのだろうか。
俺を先導していたユキタローは、振り返るなり、詰るように話しだした。
「どうしてまた来たんです? しかもあんな武器を発射するような人間まで連れて?」
松田さんのことだ。
正直とても申し訳ないと思っていたので、俺は謝った。
「……ごめん。あのひとたちはまだ猫のことを怖がってるんだ。君たち猫が、以前は人間を見るなりバカにする銃を発砲してたように。……どうかわかって許してあげてほしい」
「まぁ……それは無理矢理気味に許すとして……」
ユキタローがメガネ越しにキッ! と睨みつけてきた。
「言ったでしょう? 猫は人間と関わるつもりはないと」
「言ったっけ?」
覚えがなかった。
「それに少なくともマオは人間と仲良くしたがってるぞ?」
「……確かにマオの気持ちをボクに止めることはできません。マオが楽しそうだから、あなた方を排除するつもりはない」
ユキタローは俺の目をまっすぐに見ながら、言った。
「でも、人間は地球の害虫です。猫の科学技術をもし盗まれたりしたら、どんなことが起きるかわからない! また、猫が人間と関わることで、どんな変化が猫に起こるかもわからない……。我々二種類の知的生命体は別々に暮らしているのがいいんです。関わり合ってはろくなことにならない」
「寂しいこと言うなよ」
俺はつい、ユキタローの白い頭をナデナデしてしまった。
「俺はおまえら猫のことが大好きになっちゃったんだぞ?」




